義兄が溺愛してきます

ゆう

文字の大きさ
2 / 25

好意

しおりを挟む
俺は、義弟である恋が好きだ。

12歳、父さんから再婚の話を聞いたときには、ああ、またかと思ってしまった。
父さんの選ぶ人は、容姿にひかれてだとか、地位やお金に目がくらんでだとか下心が見え見えな人ばかりだった。
根拠もなくこんなことは言わない。

今まで、再婚してきた人は、お金遣いが荒かったり、父さんを束縛したり……。
これならまだいい。
俺に被害がないのだったらの話。

父さんと似ている俺に好かれようとしている女がいた。
12歳ながらも不気味に感じた。
その女は母親の目をしていなかったから。
小学校で「将来結婚しようねー」などと好意を寄せてくる女達と同じ目。
父さんがいくら冷たいからってそれはない。

実害がなくても気持ち悪いから避けていると、夜這いしてきた女がいた。
肌をさらした女が馬乗りしてきて、「こういうこと、興味あるでしょ。お父さんには秘密ね……」
そう言って下半身に手を伸ばす。
気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。

けど、声が出なかった。
女を力の限り突き飛ばし(一応サッカーチームでレギュラーをやっていたから、体力はあった)靴も履かず外へ逃げた。
どうしようかと真っ白になった頭で、ふらふらと歩く。
父さんは出張中で家を空けている。

そこへ通りかかったジョギング中のおじさんに事情を話して、警察に電話してもらった。
女は警察に事情聴取で、年は離れていたけれど、相思相愛だったや合意の上だっただの意味の分からないことを話していた、らしい。

これをきっかけに女性不信、人間不信になった。
父さんはなんのためか知らないが、さほど好きでもなさそうな顔をして、嫌な女と再婚してくるし。

小学校では、恋愛沙汰に巻き込まれて、家も居心地が悪くて。

そんな折だった。
あの父さんが頬を染めて、地味……いや、素朴な女性とその隣で母親のそでを掴んでいる男の子を紹介する。
その男の子を見た瞬間可愛いなと思ってしまった。
顔立ちや雰囲気が柔らかい。
愛されて育ってきたんだろうということがわかる。
何よりも汚いものを何も知らないような純粋な目にひかれた。
こちらをちらちら見ている。可愛い。

「織田咲さんと恋くんだ」

手短な挨拶を済ませる。
よかった。
咲というこの女は、変な目で俺を見ない。

それからというもの、多少時間はかかったが、咲さんや義弟の恋と打ち解けることできた。
父さんのことは今も嫌いだけど、この二人は好きだ。
温かい。
今まで家は冷たいものだと思っていたけれど、この二人がいる家はとても居心地がいい。

中学二年生のとき、恋の義兄離れがあって、自分が思うより落ち込んだ。
こんなに恋が好きになっていたんだと気づく。
義弟として、恋のことが好きなのだ。

高校に上がって、俺は高校二年生、恋は高校一年生になったときだ。
恋が事故に遭った。
信号無視のトラックがなんとかと言っていたが、そんなことはどうでもよかった。
電話を受けて、帰ってきた両親と病院へ向かう。
はやく、はやく。
恋が無事な姿を見たい。

病院につくと、恋がいつもの気の抜けたような顔で出迎える。
頭にはガーゼが張ってあったが、元気そうでほっとした。

もし、死んでいたら。
もし、恋が死んでいたら、もう一緒に過ごせない。
恋のいるところが俺の帰るところ。
それがなくなる。
俺の幸せが崩れていくのを想像して、絶望した。

そんなことを考えていると、恋が俺を見て不思議そうな顔をしていることに気づいた。
ベットの隣に備え付けられている洗面台、近くにあったのでなんとなく自分の顔をみる。
そこには、ひどく青ざめた、おびえたような青年の顔があった。
そうか、俺は恋を失うことが怖いのか。

それから、家に帰って何故恋にだけ、異常な執着を見せてしまうのか考えた。
実の父が死ぬところを想像しても、何も感じないのに。
仲の良いクラスメイトも同様。
ただ、恋の母親の咲さんが死ぬことを想像したら、少し胸がズキンと痛んだ。
咲さんが死ぬと恋が悲しむから。
無垢で純粋なあの笑顔が失われるかもしれないから。

そこで、恋を中心に俺は考えているんだと思い至る。
恋は俺の特別なんだ。
世界でたった一人の俺の大切で宝物。

「もう一生放してあげない」

そうつぶやいた俺の笑顔は歪んでいただろう。きっと。

俺が部屋で引きこもっていたから、咲さんは心配してくれていたみたいだ。
もう大丈夫。
心の底からそう言えた気がする。
恋に対する気持ちを理解できたから。
これは愛。
恋が事故に遭って、死ぬほど心配したし、胸が痛んだ。
もうそんな思いはしたくない。
俺が可愛い恋の隣にいて、一生をかけて愛すのだ。
なんて素敵なんだろう。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

僕の王子様

くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。 無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。 そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。 見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。 元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。 ※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

若頭と小鳥

真木
BL
極悪人といわれる若頭、けれど義弟にだけは優しい。小さくて弱い義弟を構いたくて仕方ない義兄と、自信がなくて病弱な義弟の甘々な日々。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜

星寝むぎ
BL
お気に入りやハートを押してくださって本当にありがとうございます! 心から嬉しいです( ; ; ) ――ただ幸せを願うことが美しい愛なら、これはみっともない恋だ―― “隠しごとありの年下イケメン攻め×双子の兄に劣等感を持つ年上受け” 音楽が好きで、SNSにひっそりと歌ってみた動画を投稿している桃輔。ある日、新入生から唐突な告白を受ける。学校説明会の時に一目惚れされたらしいが、出席した覚えはない。なるほど双子の兄のことか。人違いだと一蹴したが、その新入生・瀬名はめげずに毎日桃輔の元へやってくる。 イタズラ心で兄のことを隠した桃輔は、次第に瀬名と過ごす時間が楽しくなっていく――

処理中です...