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2.エンカウントの村

冒険のルール

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 「ここは涼しいなぁ~。夏の猛暑は苦手だからありがたいや。」

 神太は草原を一人歩きながら呟いた。まるで5月半ばくらいの体感温度だ。

 村や街など、とりあえず人気のある場所を求め歩いているが、この風の心地よさならいくらでも歩けそうな気がしてしまう…。

 だが30分ほど直進した段階で何かに気づいた。

 「あれ…!村じゃないか!?」

 嬉しかった。

 やはりいくら快適な環境とはいえ不安はある。

 自分が望み、想定していた光景を目前にして、自然と走り出していた。

 「家がある。井戸のようなものもある。人間の文明だ!!」

 外に出ている人は誰もいないようだ。

 早く人と会話したい!色々と聞きたいこともある。

 そんな気持ちを抑えきれず、神太は井戸がある家のドアをノックした。

 「すみませーん!!誰かいませんかー?」

 

 …


 応答はないようだ。

 「あれ?もしかして村人全員で狩りに出てるとかなのかな。」

 他の家もノックしてまわるが、人の気配はない。

 「誰もいないのか。」

 少し待てば戻ってくるかもしれない。

 その間ちょっと探索させてもらおう…。

 「お邪魔しまーす。」

 家には鍵がかかっていないことは、ドアを軽く押したときにわかっていたので、ゆっくりと中の様子を覗いてみることにした。

 闇。

 中は真っ暗で、少しモヤがかかっていた。

 あれ、これって…?

 「クーラーボックスの中身と同じじゃないか?」

 そんな事を呟いた瞬間、闇から握り拳くらいのカマキリのような影が飛び出してきた。

 「えっ…おわぁっ!!」

 慌てて後ろに飛び退いた。

 敵だ…!先ほど襲われたばかりだったので、直感的に理解した。

 今のところこちらに気づいてないようだ。

 「!!」

 いいことを思い付いた。

 正体不明な敵に怯えるくらいなら、いっそ捕獲して観察してしまおう!!

 「そのまま…動くなよ?」

 神太は抜き足で家の影に隠れながら影カマキリに接近しつつ、クーラーボックスをこっそり置いた。

 ゆっくり蓋を開けると

 「フィギュアケース、そのままのサイズで」

 小声で呟くとクーラーボックスからガラスケースを取り出した。

 「ほっ!」

 影カマキリをガラスケースに捕獲成功!
 すぐ底板を固定して、大勝利!!

 のように、見えた。

 影カマキリは中で暴れてガラスケースを引っ掻き始めた。

 ぎぃいいいいいいいいいいい

 黒板を引っ掻くような音が響く。

 「ギャッ!!うるさっ!ゾワゾワする!!」

 家の中から同サイズの影カマキリが3体飛び出してきた。

 「うわぁ!!増えたっ!!!」

 ぎぃいいいいいいいいいいい

 「ひぃいいいいいいいいい」

 神太は慌てて影カマキリを捕獲したガラスケースを胸に抱えると、不快音とともに逃げ出した。

 「はぁはぁ…」

 50メートルほど逃げ出して、村の外で振り返ると影カマキリは追ってきてはいなかった。

 見れば家のドアからさらに4、5匹飛び出してきており、村内でワサワサ動いているようだ。

 そこまで見て神太は気づいた。

 「あっ!!クーラーボックス置き忘れた!!」

 所持品の中で唯一無二のチートアイテム、クーラーボックスを村に忘れてしまったのだ。

 さすがに取りに行かないとまずいよなぁ…。

 けど、7…8匹いる…あ、1匹また増えた。

 「これって、もしかして……」

 ドア空けてたら無限に増えるのでは!!?

 や、やばい…!!これは非常にまずい!!
 もしゲームだったら、”詰み”に近い。

 「タ、タイム!!」

 ゲームではないので、そんな機能はない。

 2匹また増えた。

 急いで行かなくては…!!

 ガラスケースを床に置いて、腰に固定したカッターナイフをゆっくり取り外した。

 そこで気づく。

 「捕獲した影カマキリが…いなくなってる!?」

 →5話につづく
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