Cowardly hero

６

（なんで起こしてくんなかったんだよ!!母さんのバカやろう!!）
    リビングに行って母さんに文句を言おうとしたがすでに仕事で居らず、変わりに紙切れが机に置いてあった。

『声は掛けました』

（なんだこれ!!言い訳か!?）
俺は紙切れの隣にあった弁当と鞄を掴んで家を出た。


   どうやら今は２時間目の体育が始まったばかりみたいだ。
   授業中のため、静かな廊下をバタバタと走って教室に向かう。
（早く着替えなくちゃ！）
勢いよく誰も居ないはずの教室に飛び込み、着替えに取りかかろうとした。
…が、１度は体操服に向けた視線を教室全体に向け直して、俺の体は固まった。
「オイオイ、空気読めよ」
「マジないんだけど。萎えるわ」
   教室の奥にはガラの悪い先輩が３人立っていた。この３人は学校の中で誰もが知ってる不良だ。
（…なんでこんな所に居るんだ？）
「…っ」
   ３人の立つ間から微かに吐息の漏れる音がした。誰か居る。俺は見えるように少し体をずらした。
「……美嘉…っ!!」
   ３人のその奥、教室の角に操服を着た美嘉が、震えながら立っていた。
「…ミヨシ？お前美嘉ってゆーの？」
    美嘉の名前に反応した１人が俺に向けていた視線を後ろの美嘉に戻した。
「どーした？」
「…もしかして、○×公園でレイプされた美男子ってお前の事？」
「!!」
    震えていた美嘉だが先輩の言葉にビクッと肩が飛び跳ねて、先ほどとは比べものにならないほどガタガタと震えだした。
「あ！俺もそれ聞いた事あるー！結構前に母ちゃんがどっかのオバサンと話してた」
「すげーな！まあ、こんだけ綺麗だったら犯っちまうわなあ！つーか犯りに来たんだけどな」
あははと笑い始めた３人。
…○×公園…。
俺と美嘉がすれ違った公園だ…。
「はぁっ、はぁ、はぁ」
    途切れ途切れになって居る呼吸が聞こえて視線を美嘉に戻すと、美嘉は自分の体を抱きしめて息苦しそうにうずくまっていた。
過呼吸だ。
「はっ、はっ、はっ、はっ」
まずい。段々呼吸が短くなって回数が増えている。
美嘉は苦しくてもがき始めた。
「は？何??まだ俺ら何もしてねーんだけど」
    俺は鞄の中に入っていたビニール袋を取り出して、うろたえ始めた３人を掻き分けて美嘉に駆け寄った。