Cowardly hero

れお

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    今の震える美嘉に与えてはいけない物は男の手だと思う。
華奢な美嘉を押さえつけて、自由を奪い、傷付ける手。
でもそれと同時に傷付いて今にもボロボロと崩れそうな美嘉を優しく包む手が必要だと思う。
    俺の手は男の手だ。
でもそれは美嘉を傷つける男の手じゃない。
俺は自分の手で美嘉を力強く、優しく抱きしめたい。崩れないように、消えないように。
   俺は手を伸ばして震える美嘉をゆっくり抱きしめた。
やっぱり触れた瞬間、美嘉の体はビクッと飛び跳ねた。
「美嘉…。俺、臆病だし…ビビりだけど、俺に君を守らせて…ほしい、です」
    なんだか自分の言ってる事が恥ずかしくて語尾があやふやになってしまった。
    顔が熱いし胸がドキドキ鳴ってる。
うるさすぎて絶対美嘉に聞こえてるよ。
「………」
美嘉は黙ったまま俺に抱きしめられていた。
    反応がなさすぎて不安になった俺の顔からはサーっと熱が冷めていく。
(…も、もしかして…引いた?)
   俺は美嘉からどんな言葉が出るか不安になり、びくびくしながらゆっくりと回した腕を離そうとした。
しかし、離れようとする俺のYシャツを美嘉が掴んで小さな声で話し出した。
「…名前、聞こうと思って、朝から待ってた…。傘、ありがとって…」
    その声は相変わらずの鈴の音のような透き通った綺麗な声で、俺の胸に浸透してゆく。
「お、俺…渡辺大祐」
「…大祐…」
「う、うん」
美嘉に対しての緊張が今更戻ってきて、やたら咬んでしまう。
朝から待ってた…?
傘ありがとう…?
嬉しすぎて意識が吹っ飛びそうだ。
    美嘉が俺のYシャツから手を離したので俺も美嘉から離れ、痛む背中を庇いながら体勢を元に戻した。
    美嘉は膝を抱えるのを辞めて、両膝に握り締めた手を置いて大人しく座っている。
    美嘉の頬は少しピンクに染まっていた。
(…可愛い。)
    俺の顔は真っ赤で手汗がヤバい。隠したくて俯いた。

    沈黙が暫く続いたあと、助けてくれた先生が保健室に様子を見に来てくれて病院に連れて行くと言ってくれた。
「美嘉は…どうする?」
    静かな廊下を美嘉の少し斜め前を歩きながら顔だけ向けて控えめに聞いた。
「…俺も着いてく…」
「授業、受けなくて良いの?」
    遠慮がちに言うと美嘉は俺のYシャツを掴んで、俯いたまま口を開いた。
「…俺のせいだし…、それに、せっかく大祐と仲良くなれたから」
    小さな声で最後の方は余計に小さくて聞こえなかったけど俺には充分すぎる言葉だった。
    今までで一番顔が熱くてみっともないくらい真っ赤だ。体に電気が走って上手く歩けない。胸をぎゅっと締め付けられて苦しい。
    俺は俯いてぎくしゃくしながら、美嘉を連れて歩き出した。





end




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