17 / 50
淡雪と侍従達の勘違い
しおりを挟む
夏の強い陽射しに庭の遣水の水面をキラキラと反射させる昼下がり。
低く掛けられた石橋の向こうから家人らが声高に忙しく立ち動いていた。
「おい、この品はどこに置くんだ?」
「ああ、それは新居の方だ」
「絹のリネンがこんなにも」
「まぁ、この衣装、見事な刺繍ですわね」
「こちらのレースも繊細で、まるで透き通る糸でできているようですわ。それにこの宝石類の数々。まるで御降下される皇女様並のお支度ですわ」
屋敷中がすっかりはしゃいでいる様子を見れば見るほど頭痛が激しくなった。
都筑も苦虫を五匹位噛み潰したような苦い表情をしてむっつりと黙り込んでいる。
「陛下からの下賜された婚礼品聞いているだけでも凄そうです~陛下もすっごい力のいれようですね~」
ひとり場の空気を読まない晴が感心したように言う。
そうなのだ。
今日、前触れもなく王都より婚礼祝いが届いた。しかも、皇族並みに馬車8台分も!
直々に画策したからか?何、税金の無駄遣いしてるんだよ。
西園寺家家人が押せ押せの態勢のこの時期にタイミングを見計らったように届けるんだよ。
僕はとりあえず、大公家に来たというだけで、正式な婚礼も挙げていないどころか、どうにかして逃げ出す算段をしているとこだぞ。
それなのに外堀どころか内堀まで埋めてくるな~っ。
一体、僕が何の悪行三昧をしたというのだ。
頭痛でいまにも引きつけを起こして倒れそうな僕に晴が
「これはもう、天命ですかね~」
「天命・・・」
晴の空気を読まない性格を心底恨んだ。
フラグたてるな~っとばかりに、じとりと晴を見やる。
「なんですか~淡雪様~」
「あちらの様子を見てきてっ!」
ノーテンキな晴を見ていたら、むらむりと怒りが込み上げてきて、カッとなった僕は思わず怒鳴っていたのだった。
清楚な中に上品さを加えた部屋の中を僕は足音も荒くドスドスと動き回っていた。
いつもなら落ち着かせてくれる微かな白檀の薫香もうっとおしい。
目の前の都筑は微動だにせず、無の表情で空を見据えている様子も腹立たしく映る。
偵察に行かせた晴がまだ帰って来ない。
あれからもう二刻も過ぎている。
どうせ、晴のことだ。
あちらの女性達と
“やはり~婚礼衣装は力入ります~”
”結婚は女性の集大成です~華やかに豪華にしたいですよね~“
“着るときより~衣装並べて選んでいるときの方が気合い入りまくると思います~”
”この衣装なら~こっちの宝飾品で~髪飾りは~“
なんていいながら、盛り上がっているに違いないんだ。
大体、男の僕が婚礼衣装で盛り上がるはずない。どっちかというと、好き好んで嫁ぐわけじゃないから気分はだだ下がり、超低空飛行だよ。
一歩間違えば、死と隣合わせ。
そんな中でキャッキャウフフとしてられますかっての。
荒々しく椅子に腰を下ろすと無意識にため息ともつかない音を立てた。
幾分かは落ち着いたとき、
「陛下からのお品が届いたとなれば、早晩、婚礼が行われます。というか、行わなければなりません」
レイムダックだった都筑がぽつりという。
「早ければ、明日にでもともなりかねない状況と見ます」
「そんな急に。絶対、嫌だ」
「イヤでもイカでも避けられません」
なら、タコなら避けられるんかいと反論しかけようとしたとき、
「最早、ここに至っては成すすべもなく・・・淡雪様、ここは断腸の思いで婚礼を挙げましょう」
と爆弾を落としてきた。
「な、何を・・・都筑、本気で言ってる!?」
素っ頓狂な声が思わずでた。
「徒や疎かではいいません。けれど、淡雪様、ご心配には及びません。形式的に挙げるだけです」
「どういうことよ」
「四面楚歌のこの状況を打開するために、一先ずは婚礼を挙げ、態勢を建て直す時間を稼ぐのです。婚礼を挙げたとなると向こうも気が緩み、何かしらの好機が掴めるはず」
「都筑、流石は我が来栖家一の腹黒執事だよ」
「腹黒?」
都筑の眉間にシワが寄る。
あっ、つい、本音が・・・マズい誤魔化さないと。
「それなら、婚礼の一つや二つ、連チャンでどど~んと挙げてやろうじゃないか!」
僕は力を込めできっぱりと宣言した。
「連チャンで挙げる物ではありませんがね。ところで淡雪様、婚礼の後のことですが」
「婚礼の後?・・・ああ、祝宴のことなら大丈夫。猫を総動員して直江の横でにこやかに座ってるから」
「いえ、そちらではなく・・・」
都筑が若干、言い辛そうに口籠る。
そちらじゃなきゃどちらだよ?
「・・・あーっ、夜の方です」
「夜?夜は寝るに決まってるじゃん」
「わかっていらっしゃるんですね?」
「そりゃ、わかってるよ」
都筑は何となくホッとした様子をみせた。
ぼそっと、
「何も知らないわけではないらしいな」と呟き
「では、少し踏み込みますが、夜のことですが・・・コツといいますか、心構えといいますか・・・」
「都筑、何を心配してるのかしらないけど、僕だって子供じゃないんだからさ」
「そこまで覚悟を決めていらっしゃったのですね」
なぜか都筑が感動してるみたいだ。
大袈裟だな。
「まぁ、当日は祝宴があるからいつもよりは寝るのが遅くなるだろうけど、祝宴の最中に居眠りはしない位の分別はあるよ」
「えっ?!」
都筑が豆鉄砲を食らったような表情を浮かべた。
なにやら額に汗を掻いているように見える。
都筑が震える声で
「あ、淡雪様、そうではなく・・・床入りといいますか、初夜といいますか・・・子づくりといいますか・・・」
「都筑、主従関係とはいえ、そういうこはあからさま聞くべきじゃないよ」
「ですよね」
都筑に安堵の色が浮かぶ。
「子どもは神殿から頂いた子の実を体に入れて、婚礼を挙げたふたりが一緒に寝たら程よい時に生まれてくるんじゃないか」
「そ、そうです。実を体に入れて、一緒に寝たら・・・って、まさか、淡雪様、おやすみなさい、睡眠を取るの寝るですか?!」
「寝るといったらそれしかないだろう。他になにがあるんだよ」
僕の返しに都筑はがばりっと立ち上がるとドアを開け放ち、喉も裂けよとばかりに叫んだ
「晴ーっ!」
低く掛けられた石橋の向こうから家人らが声高に忙しく立ち動いていた。
「おい、この品はどこに置くんだ?」
「ああ、それは新居の方だ」
「絹のリネンがこんなにも」
「まぁ、この衣装、見事な刺繍ですわね」
「こちらのレースも繊細で、まるで透き通る糸でできているようですわ。それにこの宝石類の数々。まるで御降下される皇女様並のお支度ですわ」
屋敷中がすっかりはしゃいでいる様子を見れば見るほど頭痛が激しくなった。
都筑も苦虫を五匹位噛み潰したような苦い表情をしてむっつりと黙り込んでいる。
「陛下からの下賜された婚礼品聞いているだけでも凄そうです~陛下もすっごい力のいれようですね~」
ひとり場の空気を読まない晴が感心したように言う。
そうなのだ。
今日、前触れもなく王都より婚礼祝いが届いた。しかも、皇族並みに馬車8台分も!
直々に画策したからか?何、税金の無駄遣いしてるんだよ。
西園寺家家人が押せ押せの態勢のこの時期にタイミングを見計らったように届けるんだよ。
僕はとりあえず、大公家に来たというだけで、正式な婚礼も挙げていないどころか、どうにかして逃げ出す算段をしているとこだぞ。
それなのに外堀どころか内堀まで埋めてくるな~っ。
一体、僕が何の悪行三昧をしたというのだ。
頭痛でいまにも引きつけを起こして倒れそうな僕に晴が
「これはもう、天命ですかね~」
「天命・・・」
晴の空気を読まない性格を心底恨んだ。
フラグたてるな~っとばかりに、じとりと晴を見やる。
「なんですか~淡雪様~」
「あちらの様子を見てきてっ!」
ノーテンキな晴を見ていたら、むらむりと怒りが込み上げてきて、カッとなった僕は思わず怒鳴っていたのだった。
清楚な中に上品さを加えた部屋の中を僕は足音も荒くドスドスと動き回っていた。
いつもなら落ち着かせてくれる微かな白檀の薫香もうっとおしい。
目の前の都筑は微動だにせず、無の表情で空を見据えている様子も腹立たしく映る。
偵察に行かせた晴がまだ帰って来ない。
あれからもう二刻も過ぎている。
どうせ、晴のことだ。
あちらの女性達と
“やはり~婚礼衣装は力入ります~”
”結婚は女性の集大成です~華やかに豪華にしたいですよね~“
“着るときより~衣装並べて選んでいるときの方が気合い入りまくると思います~”
”この衣装なら~こっちの宝飾品で~髪飾りは~“
なんていいながら、盛り上がっているに違いないんだ。
大体、男の僕が婚礼衣装で盛り上がるはずない。どっちかというと、好き好んで嫁ぐわけじゃないから気分はだだ下がり、超低空飛行だよ。
一歩間違えば、死と隣合わせ。
そんな中でキャッキャウフフとしてられますかっての。
荒々しく椅子に腰を下ろすと無意識にため息ともつかない音を立てた。
幾分かは落ち着いたとき、
「陛下からのお品が届いたとなれば、早晩、婚礼が行われます。というか、行わなければなりません」
レイムダックだった都筑がぽつりという。
「早ければ、明日にでもともなりかねない状況と見ます」
「そんな急に。絶対、嫌だ」
「イヤでもイカでも避けられません」
なら、タコなら避けられるんかいと反論しかけようとしたとき、
「最早、ここに至っては成すすべもなく・・・淡雪様、ここは断腸の思いで婚礼を挙げましょう」
と爆弾を落としてきた。
「な、何を・・・都筑、本気で言ってる!?」
素っ頓狂な声が思わずでた。
「徒や疎かではいいません。けれど、淡雪様、ご心配には及びません。形式的に挙げるだけです」
「どういうことよ」
「四面楚歌のこの状況を打開するために、一先ずは婚礼を挙げ、態勢を建て直す時間を稼ぐのです。婚礼を挙げたとなると向こうも気が緩み、何かしらの好機が掴めるはず」
「都筑、流石は我が来栖家一の腹黒執事だよ」
「腹黒?」
都筑の眉間にシワが寄る。
あっ、つい、本音が・・・マズい誤魔化さないと。
「それなら、婚礼の一つや二つ、連チャンでどど~んと挙げてやろうじゃないか!」
僕は力を込めできっぱりと宣言した。
「連チャンで挙げる物ではありませんがね。ところで淡雪様、婚礼の後のことですが」
「婚礼の後?・・・ああ、祝宴のことなら大丈夫。猫を総動員して直江の横でにこやかに座ってるから」
「いえ、そちらではなく・・・」
都筑が若干、言い辛そうに口籠る。
そちらじゃなきゃどちらだよ?
「・・・あーっ、夜の方です」
「夜?夜は寝るに決まってるじゃん」
「わかっていらっしゃるんですね?」
「そりゃ、わかってるよ」
都筑は何となくホッとした様子をみせた。
ぼそっと、
「何も知らないわけではないらしいな」と呟き
「では、少し踏み込みますが、夜のことですが・・・コツといいますか、心構えといいますか・・・」
「都筑、何を心配してるのかしらないけど、僕だって子供じゃないんだからさ」
「そこまで覚悟を決めていらっしゃったのですね」
なぜか都筑が感動してるみたいだ。
大袈裟だな。
「まぁ、当日は祝宴があるからいつもよりは寝るのが遅くなるだろうけど、祝宴の最中に居眠りはしない位の分別はあるよ」
「えっ?!」
都筑が豆鉄砲を食らったような表情を浮かべた。
なにやら額に汗を掻いているように見える。
都筑が震える声で
「あ、淡雪様、そうではなく・・・床入りといいますか、初夜といいますか・・・子づくりといいますか・・・」
「都筑、主従関係とはいえ、そういうこはあからさま聞くべきじゃないよ」
「ですよね」
都筑に安堵の色が浮かぶ。
「子どもは神殿から頂いた子の実を体に入れて、婚礼を挙げたふたりが一緒に寝たら程よい時に生まれてくるんじゃないか」
「そ、そうです。実を体に入れて、一緒に寝たら・・・って、まさか、淡雪様、おやすみなさい、睡眠を取るの寝るですか?!」
「寝るといったらそれしかないだろう。他になにがあるんだよ」
僕の返しに都筑はがばりっと立ち上がるとドアを開け放ち、喉も裂けよとばかりに叫んだ
「晴ーっ!」
22
あなたにおすすめの小説
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
冷徹勇猛な竜将アルファは純粋無垢な王子オメガに甘えたいのだ! ~だけど殿下は僕に、癒ししか求めてくれないのかな……~
大波小波
BL
フェリックス・エディン・ラヴィゲールは、ネイトステフ王国の第三王子だ。
端正だが、どこか猛禽類の鋭さを思わせる面立ち。
鋭い長剣を振るう、引き締まった体。
第二性がアルファだからというだけではない、自らを鍛え抜いた武人だった。
彼は『竜将』と呼ばれる称号と共に、内戦に苦しむ隣国へと派遣されていた。
軍閥のクーデターにより内戦の起きた、テミスアーリン王国。
そこでは、国王の第二夫人が亡命の準備を急いでいた。
王は戦闘で命を落とし、彼の正妻である王妃は早々と我が子を連れて逃げている。
仮王として指揮をとる第二夫人の長男は、近隣諸国へ支援を求めて欲しいと、彼女に亡命を勧めた。
仮王の弟である、アルネ・エドゥアルド・クラルは、兄の力になれない歯がゆさを感じていた。
瑞々しい、均整の取れた体。
絹のような栗色の髪に、白い肌。
美しい面立ちだが、茶目っ気も覗くつぶらな瞳。
第二性はオメガだが、彼は利発で優しい少年だった。
そんなアルネは兄から聞いた、隣国の支援部隊を指揮する『竜将』の名を呟く。
「フェリックス・エディン・ラヴィゲール殿下……」
不思議と、勇気が湧いてくる。
「長い、お名前。まるで、呪文みたい」
その名が、恋の呪文となる日が近いことを、アルネはまだ知らなかった。
中年冒険者、年下美青年騎士に番認定されたことで全てを告白するはめになったこと
mayo
BL
王宮騎士(24)×Cランク冒険者(36)
低ランク冒険者であるカイは18年前この世界にやって来た異邦人だ。
諸々あって、現在は雑用専門冒険者として貧乏ながら穏やかな生活を送っている。
冒険者ランクがDからCにあがり、隣国の公女様が街にやってきた日、突然現れた美青年騎士に声をかけられて、攫われた。
その後、カイを〝番〟だと主張する美青年騎士のせいで今まで何をしていたのかを文官の前で語ることを強要される。
語らなければ罪に問われると言われ、カイは渋々語ることにしたのだった、生まれてから36年間の出来事を。
助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!
夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。 ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました
あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。
完結済みです。
7回BL大賞エントリーします。
表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる