僕は家畜

らわ

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関係

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「モーちゃんおはよう!」
今日もご主人様の腹巻ゆずちゃんが僕に餌をやりにきてくれる。
「モーちゃん!美味しい?」
そう言って白い歯をみせニコッと笑う。僕はゆずちゃんのこの笑顔が大好きだ。できることならずっと見ていたいくらいに。
でも今日はゆずちゃんの笑顔にまたいつもと違う違和感を感じた…。
「モーちゃん………ついにお前ともお別れだね。」

ついにこの時がきたか…
僕はオスだから当然ミルクは出ない。だからいつか肉となって出荷されることは前々から分かっていたことだった。
「モーちゃんも随分美味しそうになったね。」
ゆずちゃんは心なしかニヤニヤとしている。

そうだ…もう一つ分かっていたことがある…。
それは、ゆずちゃんの僕に対してへの優しさは全て、僕を美味しく育てるための演技でしかないということだ.
だが、それを分かっていても僕はご主人様が大大大好きだった。


僕は3日後に殺されるらしい。ゆずちゃんがそう話しているのが聞こえた。
ついにゆずちゃんの役にたてる!僕はその嬉しさに胸が高鳴った。切り裂かれるような切ない感情に蓋をして…………




明日はついにお別れの日だ、今になって胸が苦しくなってくる
ーーーどうして…?ご主人様の役にたてるのが一番の喜びのはずなのに…
でも…

「死んでしまったら、もう二度とあの笑顔を見ることはできないんだ…」


僕の目から涙が溢れだした。牛でも悲しくなると涙が出るのだと残り短い生涯の中でまた新しい発見をできたことに感謝した。

優しく体を磨いてくれたゆずちゃん、いつも僕に話しかけてくれたゆずちゃん、笑顔が可愛いゆずちゃん、それが僕に対しての本当の優しさでは無かったことを知ったのは三年前のことだった。


     ー三年前ー

「ゆずちゃん…今日こないな…何かあったのかな…?ちょっと見に行って見よう。」

「おいゆず、お前今日自分の牛にまだ餌やってないだろ。」
「うるっさいなお父さんは……………」
「お前が一匹自分の手で育ててみたいと言ったんだろうが」
「それは…お父さんと喧嘩したから、お父さんの牛より良いのを育てて見返してやろうと思ったからだよ。」
「そんなこと言ったってお前あの牛あんなに大事に育ててるじゃないか。」
「それはお父さんが動物にストレスを与えると美味しく育たないって言ってるの聞いたから……でもそれももう疲れた。」
「ゆずちゃん…。」
「私はね………」


「あんな小汚い家畜、もういらないの!!」



「え…………」
僕の思考が一時停止して何がおきたのか分からなくなった。



「ゆず……………もしお前があの牛を一人前にして、結構な値段で売り出すことができたら、お前がずっと言っている留学の件、許してやってもいいぞ。」
「えっ……………ほんと…?」
「ああ」
「………分かった。あの汚い牛を利用してやるわ。」


はっ………ゆずちゃんが外に出てくる。元の場所に…戻らなくちゃ。


「ふふっ…モーちゃん……私を留学させてよね…?」
初めてだった。君の笑顔を怖いと思ったのは。僕が君の役に立てたら…またあのくったくのない笑顔が見られるのだろうか……………





「モーちゃん!最後のご飯!!」
ゆずちゃんだ。顔を見たいけれど今まともにゆずちゃんの顔を見たらきっと涙が止まらなくなってしまう。
それに……
「美味しい!?」
ゆずちゃんの笑顔は三年前のあの時のままだから…。

 



ついに今日……全然実感がわかない。



「モーちゃん…!」
ゆずちゃん……………………ゆずちゃん、ゆずちゃん…!ゆずちゃん!!
「ゆずちゃん!!!!」
「え…?」
「えっ!?」
どういうことだ…?今僕…
「喋った…?」
「モーちゃん!?今の…モーちゃんなの!?」
「う、ん何か…そうみたい…」
「嘘……」
 
ピーっピーっ

「トラック……」
「ゆずちゃん。せっかく話せるようになったんだ。最後にお願いがある。」
「え…?」
「笑って!」
「昔みたく!五年前!最初に会ったときみたいに!」
「笑う……」
ああそうだ…最近の私は自分の欲望のことばかり…きっと今の自分は最高に可愛くない…。
「うん…!ありがとう!」
そうだ。この笑顔がずっと見たかったんだ。僕はもう何も悔いはない。
「じゃあね。可愛いゆずちゃん。」
「モーちゃん……!だ…いずぎッ」
あぁ…ゆずちゃんの笑顔を見れたのに…そんな顔されたら…
「まだ死にたくないって思っちゃうじゃん……」


トラックが走り出す。ゆずは涙が止まらなかった。なぜ…?あんなに疎ましく思っていたのに…。
だがゆずはその答えをを分かっていた。
「こんな私をあんなに愛してくれて…た…んだね…。」






これで良かったのだ。僕はご主人様の役にたつことが………………


  『バンッ!!!』



ゆずは新しい道を歩きだした。
モーちゃん…ありがとう…

「行ってきます!!」
ゆずはそのくったくのない笑顔をみせて一歩を踏み出したのだった。
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