精神破壊少女

夜桜恋舞

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十九話、真実を知らぬ時の感情。涙が止まらぬ幸福の差

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空間は出来上がった。過去に受け入れて来なかった感情達を少し受け入れることによって操縦権?が与えられた。だから、あと残った感情と他人の感情を無理やり入れ込んだ。
案外メーヴィルドの奥底から佐々木百合子のメーヴィルドまで戻ってくるのは簡単だった。戻って来ると少女は、怒りを纏って私を見ていた。〝あっちで何をしていたのか〟と尋ねてきたのを私は曖昧にはぐらかしたので激怒を浮かべた。作り出した空間【感情書庫】には文庫本サイズで400ページ前後の私の感情が一冊既に置いてある。
だから、もう【佐々木百合子】の感情本が発行出来るようになっていた。だからもう助けられるのだけど……

<ねぇ。なんでそんなものに感傷されちゃうの?そんな痛みは誰だってあるんだよ?君だって感じてる。けど、君はその感じた痛みを受け付けないもんね。だから、君は心が揺らぎやすいんだ。まぁ、それを強いとも弱いとも言えるけどね。君が受け付けずにいる痛みはずっと君の側で受け付けるのを待ってるけどね>

疑問点ばかりのある少年?の言葉が次の行動をしようとする私の足を掴み胸を痛ませる。
・どうやって私を見ているのか。
・私が痛いと感じる感傷を何故受け付けていないと知っているのか。
あの後の言葉から
・何故メーヴィルドの仕組み等を知っているのか。
・何処から私に話しかけていたのか。

三つの疑問点は今の私にはきっとわからない。足にある重りをそのままにするしかないのも良くわかっている。結構な道草を食ったかもしれない。だから、心の片隅に置いておくしかないのだと改めて思った。夜が明ける前に佐々木百合子の人格を形成し直さなければならない。ボーッと見ていた欠片の散らばった世界に目を凝らす。そのあと目蓋を落とし、耳で何かを頼りにラスピルを見つけられるかもしれない…といういつの間にか生まれた希望に身を宿して。以外にもそれは合っていた。佐々木百合子の過去に聞いたと思われる台詞(セリフ)が破片の一つ一つから流れて雑音になっている中…《ンニャァァァ》と子猫のような鳴き声?が聞こえパッと目を開け瞳孔を獣のように開いた。だって、それはその音は一番大切なことだと感じたから。
『お前、やっと見つけたのかよ。おせぇーよ。けど、次が大事だかんな!先に教えといてやる。まず、精神破片は踏むなよ?ラスピルを核を見つけたら、要らねぇ精神破片とフィティムはおめぇが喰っちまったからラスピルを掴んだよ。糸状のやつは精神破壊で吹き飛んだフィティムだ。そのフィティムの片方の端を全てまとめて巻きつけろ!そしたらフィティムが勝手に精神破片を綺麗に組み立ててくれっから…いいな?』
「わかった」

少女の言った通り真っ黒い感情はひとつもなかった。グレーと言える物は少しあったが、黒に近いものさえもなかったら、人とはきっと言えないんだ。破片を避けて歩いても、佐々木百合子の感情は過去は私の中に入り込んで来た。その全ては、【感情書庫】の真っ白の冊子に著された。見つけたラスピルはあまりにも幸せと尊敬それから憧れで詰まっていた。

《ンニャァァァ》
ねこちゃん?どこ?ベンチ…のした!?ダンボールの中に何でだろ?何これ?〝誰か貰ってください。11月04日に生まれたメス猫です。〟わたしんちきっと許してもらえないしな。ママ直接は言わないけど私のことキライだから。
《可愛い子猫なのに捨てちゃうなんて酷いよね》
《わっ!?おねえさん、だれ?》
《おねえさんはね、いろんな人を癒すメイドかふぇのメイドさんなのだよ♪》
《かわいい、おようふくだね》
《そーだよ!メイドかふぇのお洋服なのだよ》
《ふーん》
《その猫ちゃん、貴女が飼うの?》
《飼えないよ…お母さん手のかかることスキじゃないんだ》
《そっか…それじゃあ、おねぇーさんが飼っちゃおうかな♪》
《うん》
《そしたらさ、おいでよ!おねえさんとこ!子猫ちゃん見にさ》
《なんで?私?》
《だって好きでしょ?この子猫ちゃん》
《そうだけど…イヤじゃないの?手がかかるよ?》
《…おねぇーさんはね、手のかかること大好きなのだよ!だから来ていいよ。待ってるから…》
《ちょっと、待っててね。確かここに紙入れたんだよなぁぁ……あったあった。えっ~と公園から、こういってーあそこ曲がって、渡ってーよし!オッケー。ハイ!》
手書きの公園からの地図?
《お星様の所ね!平日は三時半からいるし、休日は大体いるから、来たくなったらおいで。お菓子買って待ってるから…》
ステキな人だな。やさしくて、カワイくて………
なりたいなおねぇーさんみたいなステキな人に。

可愛らしい素敵な佐々木百合子の過去。きっとこの過去からメイドカフェに働いたんだ。けど、周りはそんなバイトを嫌うから…恥ずかしがって隠してた。
細い糸、太い糸、二本以上の糸が組み合って綱のように捩れた糸、350本近い糸を束ねて一周、二週、三週して糸が淡く光輝きうねり出す。手を離し空中に浮かぶラスピル。糸に誘われラスピルのように浮かび出す精神破片。破片とラスピルを繋げ編む。空間の中心部に形成されたのは、ユリ6輪。私のラスピルと同じように1つの色に成り立たない色。ユリの花の大きなひとつには青色の猫が小さく丸まって眠っていた。

『成功、さっ!さっさと帰んねぇと佐々木が起きちまうし、レイカさんも起きちまうぞ!(笑笑)』
「うん!」

美しく凛と咲く6輪のユリ結晶は光を受けてキラキラと教室の時の彼女よりも可愛らしく明るく笑っていた。

私の再生可能なラスピルは、どんな過去をあらわすんだろうか。私の中心結晶の中心には何があるのか。また、疑問が増えてしまった。

少女は私のメーヴィルドに戻るとにっこり微笑んで、頭を撫でて『よかったな』と一言いって。消えてしまった。
少女は気づいたのだろうか、空間が新しく出来ていることに…いや、多分気づかない。見えないようにした。南京錠もかけた。きっと大丈夫。
それにしても今日は、起きているときも寝ているときもとても長かった。まるで、映画のストーリーのようだった。
そして、これで良くわかった、全然違う人種だと思っていた人も近い存在の可能性があるということ。
そして、はじめて知った。偽りの愛と知らぬ時の本物の愛だと思っているものはこんなにも、こんなにも心地よく暖かくて涙が出るほどのものだったなんて。今日のレイカさんとの一時のはそれには到底届きもしないんだと。
けど、これが私が感じることの出来た私の過去の中の一番の時。
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