元部下が男に転生したので女として迫ってみた

在江

文字の大きさ
20 / 36

20 闘技大会

しおりを挟む
 予選はもう一回行われた。出場者をおよそ四分の一に減らし、本選に入った。

 トーナメント制である。その場でくじ引きをして決めた相手と戦う。残ったのは十四人。エイリークもそのうちの一人だ。

 本戦も、第一戦は一斉に行われた。どの組み合わせも見応えのある戦いで、ともすればエイリークから目を離してしまう。今回は魔法合戦の組がなく、それぞれ武器をたずさえての戦いだ。

 エイリークの相手は、小柄でほっそりとした美少女剣士である。やたらひらひらとした衣装に身を包み、びた剣も、身の丈に合った細身の物だ。遠目に見てもわかる美貌もあって、アイドルのコスプレみたいだった。
 あの荒くれ者集団から、どうやって勝ち残ってきたものか。

 「ねえ、あそこの黒っぽい髪の人のところ、面白そうね」

 「おう。あそこの女の子がどう戦うか、見ものだな」

 男女二人連れも注目する。エイリークたちの組を見てしまうのは、その組み合わせもさることながら、戦い方が妙に間延びして目立つせいだ。ひらひらした衣装も、ズレたテンポに輪をかける。
 俺でさえも、つい他へ目移りしてしまう。もっと、集中して観察したい。

 気を引き締めて見続けるうち、奇妙な点に気がついた。
 美少女剣士が攻撃を休む時、必ずエイリークに何か話しかけている。エイリークの方は、全く応じる様子がない。もしかして、魔法をかけている?

 魔法防御をかけておいて、本当に良かった。

 見た目は何の変化もないが、段々と美少女剣士が疲れて苛立った様子をあらわにし出したことで、俺の対抗策が効いていると確信した。

 純粋に体力勝負ならエイリークが有利だ。最後は剣ごとねじ伏せて、勝利を確定した。
 その頃には、観客の多くが美少女を応援する感じだったから、俺は殊更ことさらエイリークに声援を送った。

 前世を考えても、彼は、か弱く見せかけた女に、ほだされて負けるようなタイプでは、なかった。


 七人残った。ここでまたくじ引きをして、組み合わせを決め直した。
 不戦勝と喜んだ男が、ガックリしている。運も実力のうちとはいえ、厳しい戦いである。

 ここからは、ひと組ずつ対戦する。
 エイリークは不戦勝に当たらず、またもゴツめの相手と対することになった。彼自身も背が高く筋肉質だが、相対すると細身に見えてしまう。

 この対戦相手は、変わった武器を持っていた。長い棒の先に、刺々とげとげしい飾りのついた鎖が垂れ下がっている。

 「始め!」

 号令係を兼ねた司会が、合図した。
 鎖棒くさりぼうを持った男は、棒の先を振り回して、エイリークを近寄せない。位置を入れ替えながら、互いに円を描くように向かい合ったまま、なかなか組み合わない。

 「早くやれ!」

 「後が詰まっているぞ!」

 とうとう野次が飛び出した。睨みつけて牽制けんせいしたいが、数が多い。
 魔法を通さない防御壁は、観客席の声を通すのだろうか。彼らの声が届いたように、エイリークの歩運びが乱れた。
 男は、その瞬間を見逃さなかった。

 「でえやああっ!」

 雄叫びを上げ、ブンブン回転する鎖棒を、エイリークへ突き出した。防ごうとした剣が鎖に絡め取られる。
 観客から、あっと声が上がった。

 エイリークは剣を取られたまま、棒の下へ潜り込み、強烈な足払いで男を地面へ倒し、その上に乗って取り押さえた。

 「終了!」

 すかさず号令がかかる。

 「わあああっ」

 「すげえ」

 歓声が上がった。係員たちが出てきて二人を引き離し、それぞれに武器を返す。しかしそこで、少し偉そうな係員が端からやってきて、元いた係員たちを集めて相談し始めた。距離おいて見守る出場者の二人。

 「えっ、何揉めてんだよ?」

 「揉める要素あったか?」

 観客たちがざわめく。間もなく係員の一人が猛ダッシュで端へ去り、残りの係員はエイリークと男を呼び寄せて、何やら説明を始めた。
 うんうんと頷くエイリーク。ごつい男も、抗議する様子はない。

 「えー。只今の対戦結果を発表します」

 司会が口を開いた。観客席が、静かになった。

 「えー。先にご説明しました通り、武器を落としたら負けとなります。したがって、先に武器を失って落としたエイリークが負け、勝者はアルビンとなります」

 「やったー」

 「何それ~」

 観客席は、賛否両論の声で騒々しく満たされた。そういえば、賭けも行われているのだった。
 勝ったアルビンは、両手を突き上げ、観客席へ自らの勝利を示す。

 エイリークは貴賓席に一礼して、さっさと退場した。
 俺も席を立った。


 会場では、試合が続いている。外にも喧騒けんそうが漏れ出ていた。入りきれなかった人が、音を聞いて雰囲気を味わっている。
 賭けは会場外でもできる。勝った、負けた、と騒ぐ人もいた。

 出場者の出入り口で待っていると、エイリークの姿が見えた。俺は、飛びついてキスした。遠慮がちに腕を回し、キスを返してくれるエイリークの唇に、少しずつ熱が戻ってきた。

 「終わりました」

 ひとしきりキスを交わした後、エイリークが俺を見て微笑む。土埃つちぼこりで汚れた他は、ほぼ無傷だ。

 「上位に入っちゃうかと思って、ヒヤヒヤしたわ」

 上位陣に食い込めば、貴族に目をつけられる、とファツィオが警告していた。

 「わざと負けたのではありませんよ。剣技は元々苦手なんです」

 「そうは見えなかったよ」

 「本当です。前世では、武器を持って戦う機会が、あまりありませんでしたからね」

 確かに、前世で刀を持ち歩けば、職務質問を受ける。

 「ところで、食事、うちへ来て食べる? その方がゆっくりできるよ」

 あわよくばそのまま同棲に持ち込みたい、という下心があった。エイリークは首を振る。

 「いえ。近くで食事をしたら、また部屋を借ります。大会が終われば、襲撃もないでしょう」

 そうだろうか。俺には確信できなかったが、下心ゆえに反論もできなかった。
 久々に一人で過ごす家は、やたら広く感じられた。特にベッド。
 魔法で綺麗に洗ってしまったせいで、残りもない。洗わなきゃ良かった。

 「エイリーク。寂しいよ」

 ベッドに寝転がり、目を閉じると、エイリークの顔が思い出される。俺の上で腰を振るエイリークの真剣な顔。

 くちゅっ。

 無意識に、あそこをいじっていた。自分の指なのに、エイリークを想っただけで、もうこんなに濡れている。

 「好き。エイリークが好き」

 目を閉じたまま、クリトリスと膣を同時に触る。

 ぐちょ。ぐちょっ。

 愛液が漏れ出る。エイリークのじゃないのに、感じちゃっている。

 「だめっ」

 指が言うことを聞かない。弄り回すうちに、いいところを突いてしまった。

 「あんっ。エイリークっ」

 脳内では、エイリークとの情事が再現される。そのまま、俺は疲れ果てるまでイキ続けた。


 翌々日。俺は、騎士団の詰め所へ呼び出された。

 朝、馬車が迎えに来たのだ。
 途中で停まると、エイリークが乗り込んできて、二度驚いた。

 一人エッチのおかずにした記憶が生々しく蘇り、気恥ずかしさに顔が熱くなる。それでも、会えた嬉しさが勝った。

 「口を閉じていろ」

 話しかけようとすると、同乗の騎士に止められた。
 エイリークにも、心当たりはなさそうだ。相手は騎士団である。問答無用で即日処刑は、ない、と信じたい。
 それに騎士団には、ファツィオもいる。

 到着すると、俺とエイリークは引き離された。シンプルな机を挟んで、椅子が向かい合う小部屋に通される。部屋の隅には小机と椅子に、筆記具を用意した人が座る。
 取調室だ。足が勝手に止まる。

 「奥の椅子に座って待て」

 付き添ってきた騎士が、扉を閉めて立ち去った。隅にいる人を見る。露骨ろこつに目を逸らされた。騎士でなく、事務官かもしれない。
 俺は、言われた通りの椅子に腰掛けた。

 「こんにちは」

 扉が開いて入ってきたのは、女性だった。騎士団の制服を着ている。彼女は机の向こう側にある椅子へ腰を下ろした。

 「早速だけど、何で呼ばれたかわかる?」

 名前、居住地、職業、年齢と人定質問をされた後、ざっくばらんに尋ねられた。容疑者として呼ばれたのではなさそうである。それでも心当たりはない。

 「わかりません」

 引き離されたエイリークが気になる。ファツィオは不在なのか。

 「ええっとね。六日前だったかな。南西チルバカ通りの乱闘に関わっていると思うんだけど」

 俺は女騎士を見た。フレンドリーな笑顔である。通りの名前は知らないが、六日前の乱闘というか、襲撃には覚えがある。

 「場所はよくわからないのですが、広場からあまり離れていない裏通りで、集団に襲われたことはあります」

 「相手の人数と、人相風体は覚えている?」

 「ええと、五人、いや、後ろからもう一人だから六人かな」

 俺は求められるままに、その時の状況を説明した。女騎士は、明るく頷きながら自分でもメモを取っている。部屋の隅から、カリカリカリ、と凄い勢いでペンを走らせる音が聞こえる。

 「ふんふん。なるほど。ちなみに以前その人たちと会ったことは?」

 「ありません。襲われる覚えもありません」

 「そうよね。証言とも矛盾しない。あ、調書出来た?」

 「はい」

 「ありがと。ふんふん、これでよし、と。ユリアさん、ここに署名してくれる? 字を書けなかったら、○でもいいわ」

 俺はきっちり署名した。女騎士は署名入り調書を掴んで立ち上がり、背後の扉を開け放った。

 「じゃ、帰っていいわ。ご苦労様」

 俺は席を立ったが、動かなかった。

 「状況を教えていただけますか?」

 「ん?」

 「何故、被害者の私が理由も告げられずに呼び出され、取調室で聴取を受けなければならなかったのか。事情を知らなければ、不安で帰宅できません」

 女騎士は、困った様子を見せた。

 「んー。実を言うと、私も臨時で調べに入ったから、細かいことはわからないのよね。闘技大会に警備に入った団員が、昨日今日に分けて休暇を取るから人手が足りなくて」

 あんたらの事情は関係ない、と言いたいのを我慢する。相手は騎士団でこちとら平民である。意趣返しで後日、乱闘罪をでっち上げられないとも限らない。

 「あ、そうだ。隊長も調べに入っているから、説明をお願いしてみようか。一緒にいた人、お友達でしょ?」

 「隊長って、ファ‥‥ベタウン領主の?」

 「そう。カールソン隊長。有名だよね。家柄良し、財産持ち、見た目も良くて実力あるのに、色恋沙汰が全然ないのが、また人気みたい」

 女騎士は、他人事のようにファツィオを評した。彼女自身は恋慕の情と無縁で、目の前にセフレがいることにも気付きそうにない。
 ファツィオも貴族らしく、上手に猫を被っているのだ。

 「では、ご案内を、お願いします」

 俺は、エイリークとファツィオが取調室のような密閉された狭い空間で一緒にいることが気になった。俺と同様、書記役がいるから完全に二人きりではない筈だが。

 「ついてきて。あ、あなたは次の仕事へ行っていいよ。ご苦労さん」

 女騎士は、書記を解放した。彼は、あたふたと去った。人手が足りないのは、本当のようだ。

 ええと、どこを使っているのかな、と呑気な独り言を呟きつつ、女騎士が廊下を進む。一番奥に、使用中の札が下がる扉があった。周囲に配置された小部屋は、全て空室のようだ。

 俺は、嫌な予感がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...