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第四章 セリアンスロップ共和国
1 骨ならびに腐肉
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このモリトナという町でも、護衛の仕事を探したが、見つからなかった。
ギルドもないし、港町と違って、ここへ行けば仕事にありつける、という場所もなかった。
野菜を出荷している農家にしても、ここを通過点にする商人にしても、個別に雇い入れている。
俺たちの出る幕がない。
かくして徒歩の旅は続く。しかも目指す方角には、山が見えた。
町を囲む柵を出て、しばらくは、背の低い草が生い茂る平原が続いた。
人や馬が踏みしだいて出来た道がいく筋かあって、それぞれ別の方角へ導いていた。
俺たちが選ぶのは、山へ続く道である。その道は徐々に両側の草丈が伸びて行き、気付けば空と山しか見えなくなっていた。
森を占めていた植物とは相が違う。何というか、たくさん生えているのにまばら、という正反対な印象を与える。
葉や茎の色がくすんでいるせいだろうか。観察すればもっと分かることもあろうが、日暮れまでに安全な場所へ逃げ込みたい。
早足で歩いているのと、道幅が存外に広く、通りすがりに目に飛び込むこともないので、漠然とした印象しか掴めない。
時折、草むらの向こうにチラリと影が動くのも気に掛かり、更に足を早めることとなった。
首都へ続く筈の道からは、たまに人を詰め込んだ馬車がやってきて、すれ違って行く。心の中で、乗せて欲しいと呟くが、もちろん、答えはない。
荷馬車の護衛をしたくば、夜明け前から仕事を探した方が、いいかもしれない。
「今日中に山を越えるのは、無理ね」
昼食を取りながら、マイアが宣告した。道が広いのと、人通りがまばらなのをいいことに、道端に座って休んでいた。五人一列である。
「今夜は野宿だな」
エサムが相槌を打つ。モリトナで買ったナンと、宰相の屋敷で貰った干し果物を交互に齧っている。
大体皆似たような物を食べている。グリリだけ、唐揚げにした何かの昆虫を、バリバリ食べていた。安くて美味いそうだ。
俺はまだ、昆虫を食べる気にはなれない。前にいた世界では、イナゴの佃煮だって、食べられなかった。
「山に入ったら、ゾンビ来ないといいでs」
とクレア。敬語がなかなか抜けない。
「山まで行けるかな」
俺は無理と踏んでいた。ゾンビの襲撃も気になるが、夜盗も警戒せねばならない。バリアを張ったからといって、全員寝るのは危険すぎる。
山に辿り着けなかったら、この草を掻き分けて、少しでも安全な場所を見つける必要がある。
俺の予想に反して、山には日が落ちる前に入ることができた。昼食後、クレアが必死で歩いたお陰である。五人のうち、彼女が最も体力がなく、歩みも遅い。
皆が彼女に合わせているのを、本人は気にしていた。
山に入ったからといって、安心できる要素が増えたかというと、そんなことはなかった。
植生は平原と同じような感じで、むしろ疎な感じが増していた。それでいて、樹上は葉が生い茂り、山の中は昼でも暗そうな雰囲気であった。
何よりも、遠くから聞こえる奇妙な音。
「夜通し歩くべきか、野営すべきか、だな」
とエサム。
日が落ちて辺りが全く見通せなくなったので、とりあえず、夕食を詰め込むことにした。
人気がないのを幸い、山道の真ん中で輪になって焚き火までしている。
ゾンビに、火を怖がって近寄らないだけの、知性が残っているかは分からないが、野生動物の襲撃は防げる。
しかし夜盗の目標にはなってしまう。あちら立たせばこちらが立たず、といったところだ。
夜になって、急に気温が下がったこともあって、魔法の灯りではなく火を用意した。
本物の火があると、何となく安心感があった。
「私なら大丈夫」
「徹夜で歩いても、倒れる前に、宿が見つかる保証はないわよ」
気を遣ったクレアの発言は、マイアに瞬殺された。
グリリは、薪を集めるついでに掘り出したという、カブトムシの幼虫に似た芋虫を二股の枝に挟んで炙っている。
女性二人が、それを視界に入れないようにしている。敢えて触れないところから、日本人は全員奇食と思われているのが、分かる。
俺が、生卵の話をしたせいだ。あれと一緒にされるのは、不本意だった。
「少し向こうへ行くと、多分谷川がある。そこまで下りられれば、山道から見られずに、休むことができると思う」
グリリが言い終わると同時に芋虫を口にした。つい発言者を注視したクレアが
「ひゃっ」
と悲鳴を上げた。しかもグリリは茶色い頭を口からはみ出させ、胴体の白い部分だけを齧り取ろうとしている。俺が見ても、食欲が失せる光景だ。
「旨いか、それ?」
エサムが尋ねる。答えによっては、食べる気でいる顔だ。
「皮が硬いけど、思ったより美味かった」
グリリは残った頭を枝ごと焚き火に突っ込んだ。まだ口を動かしているところを見ると、皮が噛み切れないようだ。
ぱちぱちとはぜる音に混じり、カラカラと乾いた筒同士が、ぶつかるような音が聞こえた。
そして聞き覚えのある唸り声も。
「ライト」
マイアが手を上げた。光の玉が上昇し、四方を照らし出す。同時に、焚き火へ何かが突っ込み、火の粉が舞い上がった。
他にも二発、地面に着弾の音。弾丸ではなく、矢だった。
「スケさんだ」
緊張感のない言葉と裏腹に、素早く抜剣して構えるグリリ。向かい合った先には、ゾンビ共がいる。
俺はクレアを庇ってバリアを張った。
目の前にいるゾンビどもは、それぞれ斧と鍬を持っている。こちらは短剣しか出していないのに、卑怯である。
「クレア! この骨、剣効くのか?」
衝突音に負けない大声で、エサムが訊く。
彼の相手はスケルトン、骨だけで動く存在である。
効くのか分からぬまま、果敢にも攻め込んでいる。奴らも剣を振り回している。
「わかりません! すみません!」
叫び返すクレアの声は、裏返っている。答える間にも、ゾンビが斧と鍬を振り下ろしてくる。
俺のバリアにはね返された。よかった。効果があった。
後ろからは、矢がビュンビュン飛んでくる。矢だけでなく、骨まで飛んできた。また焚き火が、火の粉を上げた。
マイアがスケルトンに炎を飛ばす。全く効かない。
燃えるものがないのだ。
矢が当たった箇所の服が破け、煌めく鱗が浮き出ている。
グリリはゾンビ三体に襲われて、なかなか致命傷を与えられない。
「グリリ、眠らせろ」
「ゾンビ、寝ませんから!」
そうか。奴らは既に、死んでいた。
すると戦意喪失のような、精神打撃系の魔法は使えない。スケルトンに至っては、燃やすこともできない。
俺は弓矢も持っているが、取り出している間に襲われそうである。
焚き火に骨が飛び込み、ついに火が消えた。
エサムがスケルトンに剣を打ち込み、奴をバラバラにした。
グリリも、何とかゾンビを一体なぎ倒した。
同時にマイアが、斧持ちゾンビに手を伸ばす。
ゾンビは爆発した。
俺も真似して、鍬使いのゾンビに爆殺を使う。
重たく湿った音と共に、バリアへ張り付く肉片。辺りが暗くなる。
クレアが照明を打ち上げた。
魔法の灯りで、再び見通しが良くなった。
馬鹿の一つ覚えみたいに、スケルトンは矢を射ったり骨を投げたりしてくる。あまり命中率はよくない。
骨の一本がグリリの頭を直撃した。バランスを崩している。
マイアが、グリリを襲うゾンビを爆殺した。俺も、残りの一体に爆殺をかけた。
グリリは踏み止まって、エサムの加勢に行った。エサムはスケルトンと剣を交えて、これも倒した。
俺のバリアが消えた。ゾンビの肉片が地面に落下する。
すぐさまクレアが張り直す。彼女は、地道にエサムやマイアを回復しているようだ。
グリリは忘れられているみたいだが。昆虫食の記憶から、無意識に避けているのかもしれない。
実戦は恐らく初めてだろうに、よくやっている。
スケルトンたちも手持ちの矢が切れたのか、骨を射ってきた。当然外れる。
投げてくる骨も、自分の体から外しているのか、段々小さくなっている。
そのうち自壊すればいいのに、と思う間に、マイアが稲妻を落とした。
スケルトンが一撃で骨の山になった。
俺も真似して、弓矢を持つ奴に稲妻を落とす。グリリもエサムも一体倒した。残り四体。
エサムとグリリが、骨を剣代わりに構えたスケルトンと、打ち合う。
骨が砕ける音がする。
俺とマイアは、残るスケルトンどもに稲妻を落とした。
やっと静かになった山の中を、蝙蝠が音もなく舞っていた。
「ここで寝るのは嫌だわ」
マイアの意見は、もっともだった。
骨の残骸はともかく、俺たちがゾンビを爆殺したせいで、生々しくも腐臭を放つ肉や内臓だった破片が、辺り一面に散らばっているのだ。
うっかり踏めば、ねちゃねちゃと不快な感触。
至近距離でバリアもなしにゾンビ爆破に直面したグリリは、さっきから地道にへばりついた肉片を取っている。
鎧ごと丸洗いしない限り、全部は落ちないだろう。
それで川がありそうな方へ移動したいグリリと、マイアが対立した。
ゾンビどもがまさにグリリの行きたい方向から来たのだから、反対するのも無理はない。
しかし対案は、適度な寝場所が見つかるまで山道を進むというもので、ほぼ夜通し歩き詰め、その先寝られる保証はない。
奇しくも、先程マイアが却下した案だった。皆、疲れていることは確かだ。
決を採ってみる。マイア側はクレア、グリリ側はエサム。二対二である。
「クレアは、もう歩く体力ないだろう。それに、この辺にいる奴らは全部倒したじゃないか。後から来ないもの」
四人の目が、俺に集まる。ちょっと緊張するが、意見を変える気はない。
「エサムの言う通りだと思う。グリリに賛成」
俺の一票で三対二になり、道を外れて斜面を下ることにした。道がないから、実際には上ったり下ったり、草や低木を掻き分けて進む。
傍から見れば、まばらな草むらも、当たってみれば、手足に重い。
歩くにつれ、疲労が溜まる。
山道を進んだ方がよかったかも、と思い始めた時、谷川に突き当たった。
山の中を流れる川だから、河原というほどのスペースはない。むしろ、ゴツゴツした岩が剥き出しで、その間を水が流れている感じである。
「わたくしはゾンビ臭いから、あっちの方で寝る。四人なら、この辺で寝られるだろう」
責任を感じたグリリが、寝る場所を探してくれた。
俺たちは、遠慮なく、そこへバリアを張って横たわった。
流石に眠い。今日は、俺とエサムが外側で、クレアとマイアが内側になった。
ギルドもないし、港町と違って、ここへ行けば仕事にありつける、という場所もなかった。
野菜を出荷している農家にしても、ここを通過点にする商人にしても、個別に雇い入れている。
俺たちの出る幕がない。
かくして徒歩の旅は続く。しかも目指す方角には、山が見えた。
町を囲む柵を出て、しばらくは、背の低い草が生い茂る平原が続いた。
人や馬が踏みしだいて出来た道がいく筋かあって、それぞれ別の方角へ導いていた。
俺たちが選ぶのは、山へ続く道である。その道は徐々に両側の草丈が伸びて行き、気付けば空と山しか見えなくなっていた。
森を占めていた植物とは相が違う。何というか、たくさん生えているのにまばら、という正反対な印象を与える。
葉や茎の色がくすんでいるせいだろうか。観察すればもっと分かることもあろうが、日暮れまでに安全な場所へ逃げ込みたい。
早足で歩いているのと、道幅が存外に広く、通りすがりに目に飛び込むこともないので、漠然とした印象しか掴めない。
時折、草むらの向こうにチラリと影が動くのも気に掛かり、更に足を早めることとなった。
首都へ続く筈の道からは、たまに人を詰め込んだ馬車がやってきて、すれ違って行く。心の中で、乗せて欲しいと呟くが、もちろん、答えはない。
荷馬車の護衛をしたくば、夜明け前から仕事を探した方が、いいかもしれない。
「今日中に山を越えるのは、無理ね」
昼食を取りながら、マイアが宣告した。道が広いのと、人通りがまばらなのをいいことに、道端に座って休んでいた。五人一列である。
「今夜は野宿だな」
エサムが相槌を打つ。モリトナで買ったナンと、宰相の屋敷で貰った干し果物を交互に齧っている。
大体皆似たような物を食べている。グリリだけ、唐揚げにした何かの昆虫を、バリバリ食べていた。安くて美味いそうだ。
俺はまだ、昆虫を食べる気にはなれない。前にいた世界では、イナゴの佃煮だって、食べられなかった。
「山に入ったら、ゾンビ来ないといいでs」
とクレア。敬語がなかなか抜けない。
「山まで行けるかな」
俺は無理と踏んでいた。ゾンビの襲撃も気になるが、夜盗も警戒せねばならない。バリアを張ったからといって、全員寝るのは危険すぎる。
山に辿り着けなかったら、この草を掻き分けて、少しでも安全な場所を見つける必要がある。
俺の予想に反して、山には日が落ちる前に入ることができた。昼食後、クレアが必死で歩いたお陰である。五人のうち、彼女が最も体力がなく、歩みも遅い。
皆が彼女に合わせているのを、本人は気にしていた。
山に入ったからといって、安心できる要素が増えたかというと、そんなことはなかった。
植生は平原と同じような感じで、むしろ疎な感じが増していた。それでいて、樹上は葉が生い茂り、山の中は昼でも暗そうな雰囲気であった。
何よりも、遠くから聞こえる奇妙な音。
「夜通し歩くべきか、野営すべきか、だな」
とエサム。
日が落ちて辺りが全く見通せなくなったので、とりあえず、夕食を詰め込むことにした。
人気がないのを幸い、山道の真ん中で輪になって焚き火までしている。
ゾンビに、火を怖がって近寄らないだけの、知性が残っているかは分からないが、野生動物の襲撃は防げる。
しかし夜盗の目標にはなってしまう。あちら立たせばこちらが立たず、といったところだ。
夜になって、急に気温が下がったこともあって、魔法の灯りではなく火を用意した。
本物の火があると、何となく安心感があった。
「私なら大丈夫」
「徹夜で歩いても、倒れる前に、宿が見つかる保証はないわよ」
気を遣ったクレアの発言は、マイアに瞬殺された。
グリリは、薪を集めるついでに掘り出したという、カブトムシの幼虫に似た芋虫を二股の枝に挟んで炙っている。
女性二人が、それを視界に入れないようにしている。敢えて触れないところから、日本人は全員奇食と思われているのが、分かる。
俺が、生卵の話をしたせいだ。あれと一緒にされるのは、不本意だった。
「少し向こうへ行くと、多分谷川がある。そこまで下りられれば、山道から見られずに、休むことができると思う」
グリリが言い終わると同時に芋虫を口にした。つい発言者を注視したクレアが
「ひゃっ」
と悲鳴を上げた。しかもグリリは茶色い頭を口からはみ出させ、胴体の白い部分だけを齧り取ろうとしている。俺が見ても、食欲が失せる光景だ。
「旨いか、それ?」
エサムが尋ねる。答えによっては、食べる気でいる顔だ。
「皮が硬いけど、思ったより美味かった」
グリリは残った頭を枝ごと焚き火に突っ込んだ。まだ口を動かしているところを見ると、皮が噛み切れないようだ。
ぱちぱちとはぜる音に混じり、カラカラと乾いた筒同士が、ぶつかるような音が聞こえた。
そして聞き覚えのある唸り声も。
「ライト」
マイアが手を上げた。光の玉が上昇し、四方を照らし出す。同時に、焚き火へ何かが突っ込み、火の粉が舞い上がった。
他にも二発、地面に着弾の音。弾丸ではなく、矢だった。
「スケさんだ」
緊張感のない言葉と裏腹に、素早く抜剣して構えるグリリ。向かい合った先には、ゾンビ共がいる。
俺はクレアを庇ってバリアを張った。
目の前にいるゾンビどもは、それぞれ斧と鍬を持っている。こちらは短剣しか出していないのに、卑怯である。
「クレア! この骨、剣効くのか?」
衝突音に負けない大声で、エサムが訊く。
彼の相手はスケルトン、骨だけで動く存在である。
効くのか分からぬまま、果敢にも攻め込んでいる。奴らも剣を振り回している。
「わかりません! すみません!」
叫び返すクレアの声は、裏返っている。答える間にも、ゾンビが斧と鍬を振り下ろしてくる。
俺のバリアにはね返された。よかった。効果があった。
後ろからは、矢がビュンビュン飛んでくる。矢だけでなく、骨まで飛んできた。また焚き火が、火の粉を上げた。
マイアがスケルトンに炎を飛ばす。全く効かない。
燃えるものがないのだ。
矢が当たった箇所の服が破け、煌めく鱗が浮き出ている。
グリリはゾンビ三体に襲われて、なかなか致命傷を与えられない。
「グリリ、眠らせろ」
「ゾンビ、寝ませんから!」
そうか。奴らは既に、死んでいた。
すると戦意喪失のような、精神打撃系の魔法は使えない。スケルトンに至っては、燃やすこともできない。
俺は弓矢も持っているが、取り出している間に襲われそうである。
焚き火に骨が飛び込み、ついに火が消えた。
エサムがスケルトンに剣を打ち込み、奴をバラバラにした。
グリリも、何とかゾンビを一体なぎ倒した。
同時にマイアが、斧持ちゾンビに手を伸ばす。
ゾンビは爆発した。
俺も真似して、鍬使いのゾンビに爆殺を使う。
重たく湿った音と共に、バリアへ張り付く肉片。辺りが暗くなる。
クレアが照明を打ち上げた。
魔法の灯りで、再び見通しが良くなった。
馬鹿の一つ覚えみたいに、スケルトンは矢を射ったり骨を投げたりしてくる。あまり命中率はよくない。
骨の一本がグリリの頭を直撃した。バランスを崩している。
マイアが、グリリを襲うゾンビを爆殺した。俺も、残りの一体に爆殺をかけた。
グリリは踏み止まって、エサムの加勢に行った。エサムはスケルトンと剣を交えて、これも倒した。
俺のバリアが消えた。ゾンビの肉片が地面に落下する。
すぐさまクレアが張り直す。彼女は、地道にエサムやマイアを回復しているようだ。
グリリは忘れられているみたいだが。昆虫食の記憶から、無意識に避けているのかもしれない。
実戦は恐らく初めてだろうに、よくやっている。
スケルトンたちも手持ちの矢が切れたのか、骨を射ってきた。当然外れる。
投げてくる骨も、自分の体から外しているのか、段々小さくなっている。
そのうち自壊すればいいのに、と思う間に、マイアが稲妻を落とした。
スケルトンが一撃で骨の山になった。
俺も真似して、弓矢を持つ奴に稲妻を落とす。グリリもエサムも一体倒した。残り四体。
エサムとグリリが、骨を剣代わりに構えたスケルトンと、打ち合う。
骨が砕ける音がする。
俺とマイアは、残るスケルトンどもに稲妻を落とした。
やっと静かになった山の中を、蝙蝠が音もなく舞っていた。
「ここで寝るのは嫌だわ」
マイアの意見は、もっともだった。
骨の残骸はともかく、俺たちがゾンビを爆殺したせいで、生々しくも腐臭を放つ肉や内臓だった破片が、辺り一面に散らばっているのだ。
うっかり踏めば、ねちゃねちゃと不快な感触。
至近距離でバリアもなしにゾンビ爆破に直面したグリリは、さっきから地道にへばりついた肉片を取っている。
鎧ごと丸洗いしない限り、全部は落ちないだろう。
それで川がありそうな方へ移動したいグリリと、マイアが対立した。
ゾンビどもがまさにグリリの行きたい方向から来たのだから、反対するのも無理はない。
しかし対案は、適度な寝場所が見つかるまで山道を進むというもので、ほぼ夜通し歩き詰め、その先寝られる保証はない。
奇しくも、先程マイアが却下した案だった。皆、疲れていることは確かだ。
決を採ってみる。マイア側はクレア、グリリ側はエサム。二対二である。
「クレアは、もう歩く体力ないだろう。それに、この辺にいる奴らは全部倒したじゃないか。後から来ないもの」
四人の目が、俺に集まる。ちょっと緊張するが、意見を変える気はない。
「エサムの言う通りだと思う。グリリに賛成」
俺の一票で三対二になり、道を外れて斜面を下ることにした。道がないから、実際には上ったり下ったり、草や低木を掻き分けて進む。
傍から見れば、まばらな草むらも、当たってみれば、手足に重い。
歩くにつれ、疲労が溜まる。
山道を進んだ方がよかったかも、と思い始めた時、谷川に突き当たった。
山の中を流れる川だから、河原というほどのスペースはない。むしろ、ゴツゴツした岩が剥き出しで、その間を水が流れている感じである。
「わたくしはゾンビ臭いから、あっちの方で寝る。四人なら、この辺で寝られるだろう」
責任を感じたグリリが、寝る場所を探してくれた。
俺たちは、遠慮なく、そこへバリアを張って横たわった。
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