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第四章 セリアンスロップ共和国
3 ガインの娘
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「喋っていない」
「眼帯の兄ちゃんの言う通りだ。俺は、鎧を見れば、どこの物だか大抵わかる」
今度は、クレアに視線が移る。クレアは迷っている。
山中に引き籠もって暮らすこの一家が、ただの凄腕鎧職人なのか、他の何者なのか、といったところだろう。
「私は、レクルキス公使です。この度、セリアンスロップ共和国と国交を結ぶため、まず国情を調べに参りました」
「じゃあ、鎧は王宮支給品だな。なるほど」
ガインは、魚の開きを器用にフォーク一本で持ち上げ、自分の器へ入れて、かぶりついた。
俺たちは、すぐには動けない。
「それだけ‥‥?」
漸くマイアが呟く。徐々に緊張がほぐれてきた。
「ごめんね~。うちの人、ちょっと言葉が乱暴なの。悪気はないのよ」
メイシァンが何故か謝る。シャオピーは、大人たちの雰囲気に呑まれず、一心に魚を攻略していた。
「ガインさんは、二十五年くらい前に、ドワーフの里に住んでいたそうですが」
グリリが口を開いた。既に魚の開きに手をつけていて、骨をどこへ捨てたらいいかわからず困っている。
おかわりして、食べる気なのだろうか。
ガインは口に魚を詰めたまま、うぐ、と一応の返事をした。俺の脳内がまたチカチカする。
「娘さんのお名前は、ワイラさんですか」
「俺も、ドワーフの里出身だぞ。もう三十年以上、帰っていないけどな」
エサムが懐かしそうに言う。
俺は思い出した。学院へ入る前、一緒に旅をしたドワーフミックスの娘がワイラだ。父親を探していた。
そういえば、ワイラの父はガインという名前で、鎧職人だった。当のガインは、怪訝そうな顔である。
「ワンダが産んだ子か? そう言えば、女だった気もするな」
「お母さんの名前は存じ上げません。ワイラはお父さんを探していて、わたくしたちが最後に別れた時は、アルクルーキスで金属加工の職人を目指していました」
「そうか。レクルキスへ帰ったら、よろしく伝えてくれ。俺は仕事に戻る」
ガインは食べ終えた器をメイシァンに渡すと、仕事場へ去った。彼女は骨を、小さな壺に落としている。
それを見たグリリが、自分の食べかすを捨てに、そちらへ寄っていった。
「ねえ。ワンダさんって、どんな女性だったのかしら」
「会ったことがないので、何とも。エサムは知っているか?」
急に振られて慌てるかと思いきや、ずっと記憶を辿っていたようである。
エサムも骨だけになった器を手に、メイシァンの元へ来た。
「俺、五歳で里出ているからなあ。金髪で逞しい人が、そんな名前だった気がする。ドワーフで金髪って、珍しいだろ?」
そう、ワイラは金髪だった。ミックスだから、父譲りかと思っていた。
「逞しいんだぁ」
メイシァンは、魚骨の入った壺を覗き込むようにして、動かない。マイアがやってきた。
「今は、あなたと一緒に暮らしているでしょ。昔のことなんて、聞かれるまで忘れていたじゃない。気にする必要ない」
「そうよね。ふふ」
やっと、メイシァンが笑った。
俺は、ワイラとメイシァンの年がさほど変わらないことに気付いて、声を上げそうになった。確かに、ガインは昔のことなど、忘れていたに違いない。
次にワイラと会った時、どう説明したものか。
午後は、片付けが主な仕事になった。
シャオピーと遊びつつ、バーベキューの後始末、洗濯物の取り込み、干物の引き上げ、を手伝った。
干物は一旦仕舞ってから、また明日に干すのである。今食べても美味しいが、保存食にするには、もっと乾燥させた方がいい。
メイシァンによると、首都へ行く道はいくつかあって、俺たちが辿った山道は、現在あまり使われていないという。
「距離はあっても、平らで広い道の方が、荷物を運ぶには便利でしょ」
その通りである。道理で人気がなかった訳だ。
俺たちが退治したゾンビは、数ヶ月前に山道を通った商隊が、転落事故に遭って発生したらしい。道を急いで命を落としたのである。急がば回れ、という諺が頭に浮かぶ。
スケルトンのことは、ほねほね、と呼んでいた。商隊とは別の集団で、発生源は、不明である。
「蝙蝠人に吸血され過ぎて死んだ人以外でも、ゾンビになりますか」
クレアが尋ねた。職業柄か、アンデッドには関心が高い。
「えーとね。両親から聞いた話だと、元々、死んでゾンビになる確率が高い人が、いるのね。そういう人でも、普通に病気とかで死んだら、ゾンビにはならない。この人が生きている間に、蝙蝠人に吸血されたら、その後別の原因で死んでもゾンビになるって、教わった」
「そうなんですね」
それだと、死んでみなければ、ゾンビになるかどうか、わからないではないか。そういえば、この世界で墓場をまだ見た覚えがない。
少なくとも、暗黒大陸では、墓は街の囲いの外にあるに違いない。
山では、日が暮れるのが早い。その早い日が傾き始めても、エサムの鎧は返ってこなかった。
「夕食、一緒に食べましょうよ」
メイシァンが、屈託なく誘う。
姿を消していた、エサムとマイアが戻ってきた。またも土ゴーレムが、何か担いでいる。エサムのぶら下げている頭を見て、鹿と知れた。
「内臓だけ抜いてきたの。よかったら、一緒に食べる?」
「美味しそう! とりあえず血抜きね。夕食には間に合わないかも。今日うちに泊まっていけば? 夜の山道は危ないわ」
「俺の鎧、どうなった?」
「まだ来ない」
と俺。メイシァンに言われるまま、鹿を下ろし、昼に使った即席かまどを組み直し、火を入れ直す。鎧が戻って来ない以上、出発できない。なし崩しに、夕食を共にすることになった。
シャオピーは遊び疲れたのか、メイシァンやグリリと一緒に小屋へ行ったきり、戻らない。
戻ってきた大人たちは、水を張った大鍋を運んできた。中に切った野菜が沈む。後ろからクレアが、食器を入れた籠を持ってついてくる。
かまどに、大鍋がぴったりはまった。
「うーん。やっぱり今日は無理かな。うちにある肉、持ってくるね」
気がつけば、辺りは暗く、木々の間から見える空も、日が沈んだ後の残りの色合いである。川は真っ黒で、せせらぎの音だけが、存在を知らせていた。明かりは、鍋の下に燃えるかまどの炎である。
「ゾンビとか、ほねほねとかに、襲われないの?」
マイアが、戻って来たメイシァンに尋ねた。
彼女は、肉片の山盛りと、うどんに似た、やや平らな麺を持っていた。
眠るシャオピーを抱いたガインも、一緒だった。
「うちの周りは大丈夫。だって」
「おまじないをしてあるからな」
ガインが被せるように説明した。メイシァンが、あっと言うように口を開ける。手をその口に当てたいところ、あいにく塞がっていた格好だ。
グリリが手伝って、肉と麺を鍋に入れる。それから、またまた秘伝の調味料が投入された。味噌にすごく似ている。
俺は、口中によだれが溢れてきた。エサムとクレア、マイアは、ぎょっとした顔で調味料を見ていた。
つまり、味噌に似ているということは、人の排泄物にも似ているからだ。卵の生食を聞いて以来の表情である。
レクルキス人は、日本人を奇食民族と思っているに違いない。
「俺の鎧」
鍋から意識を逸らそうとするエサム。
「遅くなってすまん。直ったんだが、もう遅いから、今日は泊まっていってくれ」
「ちょうどよかったぁ。さっき、そう勧めたところだったのよ」
「ところで、何の肉ですか」
俺は気になっていたことを訊いた。
「猪」
「いのししだいすき!」
突然シャオピーが、目を開けて叫んだ。寝起きから元気全開である。
それを潮に、食事を始めることにした。クレアが籠から器を出して、メイシァンが鍋の中身を盛る。
マイアがガインに渡す。シャオピーは、ガインから分けてもらう形だ。
エサムが器を受け取って複雑な顔をしたのを見て、クレアとマイアが手伝った訳を察した。なるべく後から食べようという魂胆だ。
グリリと俺は普通に受け取って、すぐ食べ始めた。熱い、だがしかし美味い。出汁が野菜と肉に頼っているので少々物足りないが、ほぼ豚汁である。
五年も和食から遠ざかっていた身には、懐かしさで涙が出そうな味だった。
また、麺がパスタ風ではなく、うどん風なのもよかった。正確に言えば、肉入りけんちんうどんか。
猪肉は薄切りで、硬い肉でも食べやすかった。シャオピーでも噛み切れるようにしたのだろう。
俺たちが食べる顔を見ていたエサムが、意を決し、恐る恐る器に口をつけて汁を飲んだ。
「旨い」
麺も口に入れた。スパゲティのように巻いている。
「旨い。初めて食べた」
それから、がつがつと食べ始めた。クレアとマイアが匂いを嗅いで、器に口をつけた。
レクルキスのマナーだと、器に直接口をつけることはないから、それだけでも彼女たちには冒険だろう。エサムは軍の野営を経験して、見慣れない食材に耐性があるかもしれない。
「美味しいです」
濃い碧眼を見開くクレア。マイアも意外そうな顔である。
「ありがとう、嬉しい。お代わりいかが?」
聞かれたのは、グリリである。
「いただきます。自分で盛ってもいいですか」
「私もお願いします」
「俺も」
俺とエサムもお代わりした。血抜きした鹿の解体を挟みつつ、鍋は最終的に空になった。
「眼帯の兄ちゃんの言う通りだ。俺は、鎧を見れば、どこの物だか大抵わかる」
今度は、クレアに視線が移る。クレアは迷っている。
山中に引き籠もって暮らすこの一家が、ただの凄腕鎧職人なのか、他の何者なのか、といったところだろう。
「私は、レクルキス公使です。この度、セリアンスロップ共和国と国交を結ぶため、まず国情を調べに参りました」
「じゃあ、鎧は王宮支給品だな。なるほど」
ガインは、魚の開きを器用にフォーク一本で持ち上げ、自分の器へ入れて、かぶりついた。
俺たちは、すぐには動けない。
「それだけ‥‥?」
漸くマイアが呟く。徐々に緊張がほぐれてきた。
「ごめんね~。うちの人、ちょっと言葉が乱暴なの。悪気はないのよ」
メイシァンが何故か謝る。シャオピーは、大人たちの雰囲気に呑まれず、一心に魚を攻略していた。
「ガインさんは、二十五年くらい前に、ドワーフの里に住んでいたそうですが」
グリリが口を開いた。既に魚の開きに手をつけていて、骨をどこへ捨てたらいいかわからず困っている。
おかわりして、食べる気なのだろうか。
ガインは口に魚を詰めたまま、うぐ、と一応の返事をした。俺の脳内がまたチカチカする。
「娘さんのお名前は、ワイラさんですか」
「俺も、ドワーフの里出身だぞ。もう三十年以上、帰っていないけどな」
エサムが懐かしそうに言う。
俺は思い出した。学院へ入る前、一緒に旅をしたドワーフミックスの娘がワイラだ。父親を探していた。
そういえば、ワイラの父はガインという名前で、鎧職人だった。当のガインは、怪訝そうな顔である。
「ワンダが産んだ子か? そう言えば、女だった気もするな」
「お母さんの名前は存じ上げません。ワイラはお父さんを探していて、わたくしたちが最後に別れた時は、アルクルーキスで金属加工の職人を目指していました」
「そうか。レクルキスへ帰ったら、よろしく伝えてくれ。俺は仕事に戻る」
ガインは食べ終えた器をメイシァンに渡すと、仕事場へ去った。彼女は骨を、小さな壺に落としている。
それを見たグリリが、自分の食べかすを捨てに、そちらへ寄っていった。
「ねえ。ワンダさんって、どんな女性だったのかしら」
「会ったことがないので、何とも。エサムは知っているか?」
急に振られて慌てるかと思いきや、ずっと記憶を辿っていたようである。
エサムも骨だけになった器を手に、メイシァンの元へ来た。
「俺、五歳で里出ているからなあ。金髪で逞しい人が、そんな名前だった気がする。ドワーフで金髪って、珍しいだろ?」
そう、ワイラは金髪だった。ミックスだから、父譲りかと思っていた。
「逞しいんだぁ」
メイシァンは、魚骨の入った壺を覗き込むようにして、動かない。マイアがやってきた。
「今は、あなたと一緒に暮らしているでしょ。昔のことなんて、聞かれるまで忘れていたじゃない。気にする必要ない」
「そうよね。ふふ」
やっと、メイシァンが笑った。
俺は、ワイラとメイシァンの年がさほど変わらないことに気付いて、声を上げそうになった。確かに、ガインは昔のことなど、忘れていたに違いない。
次にワイラと会った時、どう説明したものか。
午後は、片付けが主な仕事になった。
シャオピーと遊びつつ、バーベキューの後始末、洗濯物の取り込み、干物の引き上げ、を手伝った。
干物は一旦仕舞ってから、また明日に干すのである。今食べても美味しいが、保存食にするには、もっと乾燥させた方がいい。
メイシァンによると、首都へ行く道はいくつかあって、俺たちが辿った山道は、現在あまり使われていないという。
「距離はあっても、平らで広い道の方が、荷物を運ぶには便利でしょ」
その通りである。道理で人気がなかった訳だ。
俺たちが退治したゾンビは、数ヶ月前に山道を通った商隊が、転落事故に遭って発生したらしい。道を急いで命を落としたのである。急がば回れ、という諺が頭に浮かぶ。
スケルトンのことは、ほねほね、と呼んでいた。商隊とは別の集団で、発生源は、不明である。
「蝙蝠人に吸血され過ぎて死んだ人以外でも、ゾンビになりますか」
クレアが尋ねた。職業柄か、アンデッドには関心が高い。
「えーとね。両親から聞いた話だと、元々、死んでゾンビになる確率が高い人が、いるのね。そういう人でも、普通に病気とかで死んだら、ゾンビにはならない。この人が生きている間に、蝙蝠人に吸血されたら、その後別の原因で死んでもゾンビになるって、教わった」
「そうなんですね」
それだと、死んでみなければ、ゾンビになるかどうか、わからないではないか。そういえば、この世界で墓場をまだ見た覚えがない。
少なくとも、暗黒大陸では、墓は街の囲いの外にあるに違いない。
山では、日が暮れるのが早い。その早い日が傾き始めても、エサムの鎧は返ってこなかった。
「夕食、一緒に食べましょうよ」
メイシァンが、屈託なく誘う。
姿を消していた、エサムとマイアが戻ってきた。またも土ゴーレムが、何か担いでいる。エサムのぶら下げている頭を見て、鹿と知れた。
「内臓だけ抜いてきたの。よかったら、一緒に食べる?」
「美味しそう! とりあえず血抜きね。夕食には間に合わないかも。今日うちに泊まっていけば? 夜の山道は危ないわ」
「俺の鎧、どうなった?」
「まだ来ない」
と俺。メイシァンに言われるまま、鹿を下ろし、昼に使った即席かまどを組み直し、火を入れ直す。鎧が戻って来ない以上、出発できない。なし崩しに、夕食を共にすることになった。
シャオピーは遊び疲れたのか、メイシァンやグリリと一緒に小屋へ行ったきり、戻らない。
戻ってきた大人たちは、水を張った大鍋を運んできた。中に切った野菜が沈む。後ろからクレアが、食器を入れた籠を持ってついてくる。
かまどに、大鍋がぴったりはまった。
「うーん。やっぱり今日は無理かな。うちにある肉、持ってくるね」
気がつけば、辺りは暗く、木々の間から見える空も、日が沈んだ後の残りの色合いである。川は真っ黒で、せせらぎの音だけが、存在を知らせていた。明かりは、鍋の下に燃えるかまどの炎である。
「ゾンビとか、ほねほねとかに、襲われないの?」
マイアが、戻って来たメイシァンに尋ねた。
彼女は、肉片の山盛りと、うどんに似た、やや平らな麺を持っていた。
眠るシャオピーを抱いたガインも、一緒だった。
「うちの周りは大丈夫。だって」
「おまじないをしてあるからな」
ガインが被せるように説明した。メイシァンが、あっと言うように口を開ける。手をその口に当てたいところ、あいにく塞がっていた格好だ。
グリリが手伝って、肉と麺を鍋に入れる。それから、またまた秘伝の調味料が投入された。味噌にすごく似ている。
俺は、口中によだれが溢れてきた。エサムとクレア、マイアは、ぎょっとした顔で調味料を見ていた。
つまり、味噌に似ているということは、人の排泄物にも似ているからだ。卵の生食を聞いて以来の表情である。
レクルキス人は、日本人を奇食民族と思っているに違いない。
「俺の鎧」
鍋から意識を逸らそうとするエサム。
「遅くなってすまん。直ったんだが、もう遅いから、今日は泊まっていってくれ」
「ちょうどよかったぁ。さっき、そう勧めたところだったのよ」
「ところで、何の肉ですか」
俺は気になっていたことを訊いた。
「猪」
「いのししだいすき!」
突然シャオピーが、目を開けて叫んだ。寝起きから元気全開である。
それを潮に、食事を始めることにした。クレアが籠から器を出して、メイシァンが鍋の中身を盛る。
マイアがガインに渡す。シャオピーは、ガインから分けてもらう形だ。
エサムが器を受け取って複雑な顔をしたのを見て、クレアとマイアが手伝った訳を察した。なるべく後から食べようという魂胆だ。
グリリと俺は普通に受け取って、すぐ食べ始めた。熱い、だがしかし美味い。出汁が野菜と肉に頼っているので少々物足りないが、ほぼ豚汁である。
五年も和食から遠ざかっていた身には、懐かしさで涙が出そうな味だった。
また、麺がパスタ風ではなく、うどん風なのもよかった。正確に言えば、肉入りけんちんうどんか。
猪肉は薄切りで、硬い肉でも食べやすかった。シャオピーでも噛み切れるようにしたのだろう。
俺たちが食べる顔を見ていたエサムが、意を決し、恐る恐る器に口をつけて汁を飲んだ。
「旨い」
麺も口に入れた。スパゲティのように巻いている。
「旨い。初めて食べた」
それから、がつがつと食べ始めた。クレアとマイアが匂いを嗅いで、器に口をつけた。
レクルキスのマナーだと、器に直接口をつけることはないから、それだけでも彼女たちには冒険だろう。エサムは軍の野営を経験して、見慣れない食材に耐性があるかもしれない。
「美味しいです」
濃い碧眼を見開くクレア。マイアも意外そうな顔である。
「ありがとう、嬉しい。お代わりいかが?」
聞かれたのは、グリリである。
「いただきます。自分で盛ってもいいですか」
「私もお願いします」
「俺も」
俺とエサムもお代わりした。血抜きした鹿の解体を挟みつつ、鍋は最終的に空になった。
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