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攫われてしまった 2 *
そこには、先ほど別れた御者と馬車が‥‥見当たらない。
「逃げた?」
マノロスに止まってもらおうと、前を向くと、彼も消えていた。
最初に後ろを見た時、視界の端にキリロスとパノレアは居ただろうか。
思い出そうとする側から、記憶がどんどん薄れていく。
一瞬にして、わたしは一人荒野に佇んでいた。
落ち着け。
『みつつぼ』のシナリオに、似た場面はなかったか。
違う。思い出すべきは、今世アイナの記憶だ。参考になる状況が、あったかもしれない。
焦ると余計に、考えが回らなくなる。
困った時は、女神頼みだ。ゲームでも、危ない時には女神頼りの選択肢があった。
わたしは、跪いた。
「おおっと危ない。俺は女神なぞ信じないが、用心に越したことはない」
「痛い!」
手首を掴まれ、強引に立たされた勢いで、よろけたところを抱き止められた。
「少し眠ってもらうぞ」
相手を確かめる前に、わたしは意識を失った。
気がついたら、馬に載せられていた。
馬の背に二つ折りで、荷物みたいに掛けられていたのだ。
地面が目まぐるしく横に流れる。吐きそうだ。
「もう起きたか。動くと落ちて、頭を打つぞ」
頭上から声が降る。意識を失う前に聞いた声と、同じ男である。
動くも何も、わたしは手足を縛られ、猿轡まで噛まされていた。
そして、馬の背に腹から二つ折りである。
吐き気はするし、馬が駆ける振動でずり落ちる恐怖を訴えたくとも、顔を上げることすら出来ない。
再び目を閉じた。悔しいけど、声の言う通りだった。
流れる地面から場所の特定ができるほど、わたしは動体視力に自信がない。
まず、吐き気を止める方が先だ。下手すると、落馬より前にゲロで死ぬ。
攫われた。
確実なことは、そこだけだ。
マノロス達が一緒に運ばれる気配はない。殺されていなければ良いが。
そして、少なくとも依頼主の元までは、わたしの命も保証される。暗殺目的なら、とうに死んでいる。
ただそれも、用済みとなるまでの間である。攫った聖女を生きたまま、隠し続けるのは難しいだろう。
証拠は隠滅するに限る。
わたしが生き延びるには、用済み前までに逃げるか、寿命の終わりまで用が済まないよう交渉するか、敵を全滅させるか、のいずれかを選ぶしかない。
敵の殲滅は無理だ。
機会があったら、女神イナリアに願う程度である。
『みつつぼ』シナリオ外では、神頼みなど、てんで当てにならない。
聖女を攫う相手との交渉が、一筋縄でいかないのは予想できる。
最善手は、逃げる一択である。
この先移動中に、必ず馬を止める場面が来る。ゴドアからどこへ向かうにしても、馬に縛られた神殿関係者を積んだままでは、人目に立つ。
変装させるにも、袋詰めするにも、馬の上では出来まい。
逃げるチャンスは、そこにある。
わたしは目を閉じたまま、馬が止まるのを待った。
「着いたぞ‥‥降りられないんだったな」
揺れが止まったと思った途端、体を抱え上げられた。
目を開けると、森の中である。一緒に来た馬の他、切り拓かれた狭い空間に、幌馬車と御者がいた。
今なら、森に紛れて逃げられるかもしれない。
地面に足がついた途端、わたしは走り出した。
ズデン。
「立っていられないか。ひ弱なものだ」
すっかり忘れていた。手足を縛られていたのだった。
幸い、逃げようとしたとはバレていない。縛めを解かれた時が、次のチャンスだ。
「動くな。体まで切れてしまう」
言葉の意味を理解する前に、背中が風を感じた。
「むぐ!」
警告を忘れて後ろを向いた勢いで、体が回転したところを、正面から切り付けられた。
わたしの服が、縦真っ二つに割れた。
でも、そんなことより、わたしは目の前の男に釘付けとなった。
長身痩躯の体を黒い服に包み、背後の森に溶け込みそうな暗緑色の髪と瞳を持つその男の顔が、わたし好みだったのだ。
その手にこちらへ向けた黒打ち短刀を握っていなければ、なお良かった。
彼自身がわたしを欲して攫ったのなら、喜んで監禁される。
「理解が早くて助かる。用意した服に着替えさせて、あんたのその髪にも細工する」
急に大人しくなったわたしの心情を勘違いした男が、今後の手順を説明してくれた。
新しい服とは、穴あき袋のことだった。穴に頭を通して引っ張ると、全身隠れるような長さである。
これでは、手足を解く必要が全くない。見込みが甘かった。
そこから手早く髪に何か刷り込まれ、顔も汚されて、たちまち小汚い平民に仕上がった。
色々と手慣れている。
聖女の巡行経路を把握し、マノロス達の警戒を突破するだけの計画には、それなりの人数が関わると思っていたけど、案外この男が多くを担い、少人数で実行されているのかもしれなかった。
関係者が少ないほど、秘密は守られる。
だとしても、依頼者が貴族以上で、金か権力を握っているのは間違いない。
「いいか。余計な口を利くなよ」
どうせ猿轡されているのに、男は念を押した。
剥ぎ取られた服は、御者が穴に埋めていた。
乗ってきた馬にも汚れ化粧を施して、幌馬車に繋ぐ。この御者も小器用である。
「旦那。口の布は外しておかないと」
「わかっている」
男に緊張が走った。
「行くぞ。急げ」
男はわたしを担ぎ上げると、幌馬車の荷台へ乗り込んだ。
雑多な大きさの箱が、これみよがしに積まれている。積荷で囲むように空けられた隙間に、二人ちょうど収まった。
すぐさま馬車が出発した。
わかっている、と言ったのに、男は猿轡を外さなかった。
聖女の力を警戒しているのだ。
彼は誤解している。
詠唱や動作が重要なのは通常魔法であり、神官や聖女のそれは、正確には祈りである。
一応作法は定められているものの、最終的には女神の一存だ。何ならシナリオ中には、念じただけで発動したことすらある。
だから攫われた時みたいに、精神的に混乱させられると弱いのだ。
じゃあ今、何でわたしがそれをしないのかと言えば、打つ手がないからである。
基本的に聖女の力は、回復だ。そして自分には使えない。
男も御者も、女神イナリアの信者ではなく、魔術師でもなさそうだ。
ゴドアでキリロス達を撒けた最大要因である。
思い返せば、わたしも気付かないうちに、女神の怒りから影響を受けていた。
そして、わたしを攫うよう命じた者は、国外にいる。
幌馬車は、密閉タイプの幌を使っている。状況にもよるけど、都市間の移動で、検問はほとんど形式的だ。逐一本式に実行したら、流通が詰まる。
厳しいのは、国境の検問である。
‥‥と、考えたのが、男にバレたと思う。
単に、大声を出されたくないだけかもしれない。
いずれにせよ、警戒されていた。
このままでは、外して、と言うこともできない。いい加減、手足も痺れている。
聖女でも、腐れ落ちた四肢の再生はしたことがない。
どうしたものか。
「思い出した。これを付けよう」
男が取り出した物を見て、噴きそうになった。
穴がたくさん開いたゴルフボール大の球の両側に、紐が繋がれている。
前世喪女だったわたしでも、知っている。
SM用の口枷だ。『みつつぼ』でも見た覚えがある。
猿轡と何の違いが?
男は、わたしの後ろへ回り込み、猿轡と口枷の交換にかかる。
「手足が痛い」
やっと、言えた。
最短で、無抵抗の意思表示と要望の伝達に選んだ言葉。
男の手が止まる。わたしは、敢えて動かず、黙っていた。
聞きたい事も、言いたい事も、いっぱいある。
名前とか、馬車の乗り心地が悪いとか。
もちろん、誰の差し金かも気になるけど、現場の人間は黒幕を知らないのが普通である。
「一旦緩めないと手足がもげる」
彼が手を止めたままなので、もう一言付け加えた。
「わかった」
口枷を装着した後、男は手足のロープを緩めてくれた。
ほっとした。自力で外す力はない。
それにしても、幌馬車の乗り心地は悪い。揺れがひどい上に、音もうるさい。
吐き気を除けば、馬の背の方がマシだった。
本来、荷運び用である。平民は移動にも使うし、わたしも魔王討伐の旅では散々利用した。
でも、両手足縛られたまま転がされたら、底板から直に響く振動で、全身痛い。
せめてクッションになるものがあれば、と思ったところで、男と目が合った。
抱き止められた時の感触を思い出す。あんなに細いのに、強くてしなやかな弾力があった。
「涎が凄いな」
口枷しているのだから、当たり前である。猿轡みたいに、吸収してくれない。
もっと困るのは、縛りが緩んで体も緩んだのか、下半身からも涎が出ていることである。
SM道具を付けられて、興奮した?
この男の外見が好みだから、と言うのも理由の一つだ。
口枷越しに、キスしてみたいとか、あの細長い指を根元まで咥え込みたい、とか次々妄想が湧き起こる。
R18乙女ゲームの主人公は、ゲーム終了後もエロに敏感な体質から逃れられない。
男はわたしを抱き起こし、布で口の周りを拭いてくれた。抱き止める男の体が心地よく、本能的に体をすり寄せた。下半身の涎が、つうっと垂れるのを感じて、身じろぎした。
「そろそろ縛り直すか」
色んな意味で、忘れていて欲しかった。
せめてもの抵抗で、手足を縮めたけど、男は容赦なく布を大きく捲り上げた。
布の下は、すっぽんぽんだ。わたしの粗相が露わになった。
「怖くてちびったか。臭くないな。むしろ‥‥」
垂れた愛液を、男が指でなぞる。長い指が太ももを這う動きだけで、ぞくぞくした。
「良い匂いだ」
ペロリと指を舐めた男が、口角を上げる。わたしは不自由な足で、膝を開いた。
「縛られて感じるとは、とんだ淫乱だ。本当に聖女か?」
こくこく、と頭を上下する。『みつつぼ』のバッドエンドで、国外追放の後、野盗に強姦されるパターンがあった。
その場合、女神の祝福は当然発動しない。
今のわたしは聖女で、この男に欲情している。
相手が信者でなくとも、祝福されるのだろうか?
好みの男に淫乱と呼ばれて、はしたなく新たな蜜が迸る。
「こっちも綺麗にしてやる。うつ伏せになって、尻を上げろ」
そう言いつつも、男がわたしをうつ伏せにした。
捲り上げられた服を、そのまま裏返しに頭まで被せられた。これが本当の、頭隠して尻隠さず、だ。
猛烈に恥ずかしい。
「また出てきた。キリがない。もう、拭く方もびしょびしょだ」
真面目に太ももを拭き上げる男の声が、くぐもった。
ぴとっ。
覚えのある感触に、あそこがキュンとする。
ぺろり、ぺろり。
そんなに舐めたら、もっと濡れてしまう。
「ゔゔっ」
「余計な声を出すな」
男の吐く息まで気持ち良くて、更に蜜が滴り落ちる。
声を我慢する代わりに、腰を突き出した。
舌が、ずずっと入ってきた。
鼻がお尻の間に当たり、新たな刺激が加わる。
腰を振ろうとするわたしを床に押し付け、男はわたしがイクまで膣を舐め回した。
「ふうっ。これで止まるだろ」
男は、まだ余韻でびくびく痙攣するわたしから顔を離した。
もう終わりか。彼の固くなった淫棒を、この身で味わいたかった。あの長い指でも良い。
わたしは、幌馬車の振動を利用し、少しずつ後ろへ下がった。
男に尻を突き出したら、今度は挿れてもらえるかもしれない。
「止まれ!」
兵士のようなキビキビとした掛け声と共に、馬車が止まった。
検問だ。
「逃げた?」
マノロスに止まってもらおうと、前を向くと、彼も消えていた。
最初に後ろを見た時、視界の端にキリロスとパノレアは居ただろうか。
思い出そうとする側から、記憶がどんどん薄れていく。
一瞬にして、わたしは一人荒野に佇んでいた。
落ち着け。
『みつつぼ』のシナリオに、似た場面はなかったか。
違う。思い出すべきは、今世アイナの記憶だ。参考になる状況が、あったかもしれない。
焦ると余計に、考えが回らなくなる。
困った時は、女神頼みだ。ゲームでも、危ない時には女神頼りの選択肢があった。
わたしは、跪いた。
「おおっと危ない。俺は女神なぞ信じないが、用心に越したことはない」
「痛い!」
手首を掴まれ、強引に立たされた勢いで、よろけたところを抱き止められた。
「少し眠ってもらうぞ」
相手を確かめる前に、わたしは意識を失った。
気がついたら、馬に載せられていた。
馬の背に二つ折りで、荷物みたいに掛けられていたのだ。
地面が目まぐるしく横に流れる。吐きそうだ。
「もう起きたか。動くと落ちて、頭を打つぞ」
頭上から声が降る。意識を失う前に聞いた声と、同じ男である。
動くも何も、わたしは手足を縛られ、猿轡まで噛まされていた。
そして、馬の背に腹から二つ折りである。
吐き気はするし、馬が駆ける振動でずり落ちる恐怖を訴えたくとも、顔を上げることすら出来ない。
再び目を閉じた。悔しいけど、声の言う通りだった。
流れる地面から場所の特定ができるほど、わたしは動体視力に自信がない。
まず、吐き気を止める方が先だ。下手すると、落馬より前にゲロで死ぬ。
攫われた。
確実なことは、そこだけだ。
マノロス達が一緒に運ばれる気配はない。殺されていなければ良いが。
そして、少なくとも依頼主の元までは、わたしの命も保証される。暗殺目的なら、とうに死んでいる。
ただそれも、用済みとなるまでの間である。攫った聖女を生きたまま、隠し続けるのは難しいだろう。
証拠は隠滅するに限る。
わたしが生き延びるには、用済み前までに逃げるか、寿命の終わりまで用が済まないよう交渉するか、敵を全滅させるか、のいずれかを選ぶしかない。
敵の殲滅は無理だ。
機会があったら、女神イナリアに願う程度である。
『みつつぼ』シナリオ外では、神頼みなど、てんで当てにならない。
聖女を攫う相手との交渉が、一筋縄でいかないのは予想できる。
最善手は、逃げる一択である。
この先移動中に、必ず馬を止める場面が来る。ゴドアからどこへ向かうにしても、馬に縛られた神殿関係者を積んだままでは、人目に立つ。
変装させるにも、袋詰めするにも、馬の上では出来まい。
逃げるチャンスは、そこにある。
わたしは目を閉じたまま、馬が止まるのを待った。
「着いたぞ‥‥降りられないんだったな」
揺れが止まったと思った途端、体を抱え上げられた。
目を開けると、森の中である。一緒に来た馬の他、切り拓かれた狭い空間に、幌馬車と御者がいた。
今なら、森に紛れて逃げられるかもしれない。
地面に足がついた途端、わたしは走り出した。
ズデン。
「立っていられないか。ひ弱なものだ」
すっかり忘れていた。手足を縛られていたのだった。
幸い、逃げようとしたとはバレていない。縛めを解かれた時が、次のチャンスだ。
「動くな。体まで切れてしまう」
言葉の意味を理解する前に、背中が風を感じた。
「むぐ!」
警告を忘れて後ろを向いた勢いで、体が回転したところを、正面から切り付けられた。
わたしの服が、縦真っ二つに割れた。
でも、そんなことより、わたしは目の前の男に釘付けとなった。
長身痩躯の体を黒い服に包み、背後の森に溶け込みそうな暗緑色の髪と瞳を持つその男の顔が、わたし好みだったのだ。
その手にこちらへ向けた黒打ち短刀を握っていなければ、なお良かった。
彼自身がわたしを欲して攫ったのなら、喜んで監禁される。
「理解が早くて助かる。用意した服に着替えさせて、あんたのその髪にも細工する」
急に大人しくなったわたしの心情を勘違いした男が、今後の手順を説明してくれた。
新しい服とは、穴あき袋のことだった。穴に頭を通して引っ張ると、全身隠れるような長さである。
これでは、手足を解く必要が全くない。見込みが甘かった。
そこから手早く髪に何か刷り込まれ、顔も汚されて、たちまち小汚い平民に仕上がった。
色々と手慣れている。
聖女の巡行経路を把握し、マノロス達の警戒を突破するだけの計画には、それなりの人数が関わると思っていたけど、案外この男が多くを担い、少人数で実行されているのかもしれなかった。
関係者が少ないほど、秘密は守られる。
だとしても、依頼者が貴族以上で、金か権力を握っているのは間違いない。
「いいか。余計な口を利くなよ」
どうせ猿轡されているのに、男は念を押した。
剥ぎ取られた服は、御者が穴に埋めていた。
乗ってきた馬にも汚れ化粧を施して、幌馬車に繋ぐ。この御者も小器用である。
「旦那。口の布は外しておかないと」
「わかっている」
男に緊張が走った。
「行くぞ。急げ」
男はわたしを担ぎ上げると、幌馬車の荷台へ乗り込んだ。
雑多な大きさの箱が、これみよがしに積まれている。積荷で囲むように空けられた隙間に、二人ちょうど収まった。
すぐさま馬車が出発した。
わかっている、と言ったのに、男は猿轡を外さなかった。
聖女の力を警戒しているのだ。
彼は誤解している。
詠唱や動作が重要なのは通常魔法であり、神官や聖女のそれは、正確には祈りである。
一応作法は定められているものの、最終的には女神の一存だ。何ならシナリオ中には、念じただけで発動したことすらある。
だから攫われた時みたいに、精神的に混乱させられると弱いのだ。
じゃあ今、何でわたしがそれをしないのかと言えば、打つ手がないからである。
基本的に聖女の力は、回復だ。そして自分には使えない。
男も御者も、女神イナリアの信者ではなく、魔術師でもなさそうだ。
ゴドアでキリロス達を撒けた最大要因である。
思い返せば、わたしも気付かないうちに、女神の怒りから影響を受けていた。
そして、わたしを攫うよう命じた者は、国外にいる。
幌馬車は、密閉タイプの幌を使っている。状況にもよるけど、都市間の移動で、検問はほとんど形式的だ。逐一本式に実行したら、流通が詰まる。
厳しいのは、国境の検問である。
‥‥と、考えたのが、男にバレたと思う。
単に、大声を出されたくないだけかもしれない。
いずれにせよ、警戒されていた。
このままでは、外して、と言うこともできない。いい加減、手足も痺れている。
聖女でも、腐れ落ちた四肢の再生はしたことがない。
どうしたものか。
「思い出した。これを付けよう」
男が取り出した物を見て、噴きそうになった。
穴がたくさん開いたゴルフボール大の球の両側に、紐が繋がれている。
前世喪女だったわたしでも、知っている。
SM用の口枷だ。『みつつぼ』でも見た覚えがある。
猿轡と何の違いが?
男は、わたしの後ろへ回り込み、猿轡と口枷の交換にかかる。
「手足が痛い」
やっと、言えた。
最短で、無抵抗の意思表示と要望の伝達に選んだ言葉。
男の手が止まる。わたしは、敢えて動かず、黙っていた。
聞きたい事も、言いたい事も、いっぱいある。
名前とか、馬車の乗り心地が悪いとか。
もちろん、誰の差し金かも気になるけど、現場の人間は黒幕を知らないのが普通である。
「一旦緩めないと手足がもげる」
彼が手を止めたままなので、もう一言付け加えた。
「わかった」
口枷を装着した後、男は手足のロープを緩めてくれた。
ほっとした。自力で外す力はない。
それにしても、幌馬車の乗り心地は悪い。揺れがひどい上に、音もうるさい。
吐き気を除けば、馬の背の方がマシだった。
本来、荷運び用である。平民は移動にも使うし、わたしも魔王討伐の旅では散々利用した。
でも、両手足縛られたまま転がされたら、底板から直に響く振動で、全身痛い。
せめてクッションになるものがあれば、と思ったところで、男と目が合った。
抱き止められた時の感触を思い出す。あんなに細いのに、強くてしなやかな弾力があった。
「涎が凄いな」
口枷しているのだから、当たり前である。猿轡みたいに、吸収してくれない。
もっと困るのは、縛りが緩んで体も緩んだのか、下半身からも涎が出ていることである。
SM道具を付けられて、興奮した?
この男の外見が好みだから、と言うのも理由の一つだ。
口枷越しに、キスしてみたいとか、あの細長い指を根元まで咥え込みたい、とか次々妄想が湧き起こる。
R18乙女ゲームの主人公は、ゲーム終了後もエロに敏感な体質から逃れられない。
男はわたしを抱き起こし、布で口の周りを拭いてくれた。抱き止める男の体が心地よく、本能的に体をすり寄せた。下半身の涎が、つうっと垂れるのを感じて、身じろぎした。
「そろそろ縛り直すか」
色んな意味で、忘れていて欲しかった。
せめてもの抵抗で、手足を縮めたけど、男は容赦なく布を大きく捲り上げた。
布の下は、すっぽんぽんだ。わたしの粗相が露わになった。
「怖くてちびったか。臭くないな。むしろ‥‥」
垂れた愛液を、男が指でなぞる。長い指が太ももを這う動きだけで、ぞくぞくした。
「良い匂いだ」
ペロリと指を舐めた男が、口角を上げる。わたしは不自由な足で、膝を開いた。
「縛られて感じるとは、とんだ淫乱だ。本当に聖女か?」
こくこく、と頭を上下する。『みつつぼ』のバッドエンドで、国外追放の後、野盗に強姦されるパターンがあった。
その場合、女神の祝福は当然発動しない。
今のわたしは聖女で、この男に欲情している。
相手が信者でなくとも、祝福されるのだろうか?
好みの男に淫乱と呼ばれて、はしたなく新たな蜜が迸る。
「こっちも綺麗にしてやる。うつ伏せになって、尻を上げろ」
そう言いつつも、男がわたしをうつ伏せにした。
捲り上げられた服を、そのまま裏返しに頭まで被せられた。これが本当の、頭隠して尻隠さず、だ。
猛烈に恥ずかしい。
「また出てきた。キリがない。もう、拭く方もびしょびしょだ」
真面目に太ももを拭き上げる男の声が、くぐもった。
ぴとっ。
覚えのある感触に、あそこがキュンとする。
ぺろり、ぺろり。
そんなに舐めたら、もっと濡れてしまう。
「ゔゔっ」
「余計な声を出すな」
男の吐く息まで気持ち良くて、更に蜜が滴り落ちる。
声を我慢する代わりに、腰を突き出した。
舌が、ずずっと入ってきた。
鼻がお尻の間に当たり、新たな刺激が加わる。
腰を振ろうとするわたしを床に押し付け、男はわたしがイクまで膣を舐め回した。
「ふうっ。これで止まるだろ」
男は、まだ余韻でびくびく痙攣するわたしから顔を離した。
もう終わりか。彼の固くなった淫棒を、この身で味わいたかった。あの長い指でも良い。
わたしは、幌馬車の振動を利用し、少しずつ後ろへ下がった。
男に尻を突き出したら、今度は挿れてもらえるかもしれない。
「止まれ!」
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検問だ。
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