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悪役令嬢達の事後 2 *
「よう、マッテオ。良い女を連れているじゃねえか」
「いいだろ? 俺の彼女」
検問所の兵士とマッテオは、顔馴染みのようだ。
私もまた、ここを通るのは初めてでもないのに、兵士は全く気付かなかった。
国外追放された女が、まだ皆の記憶も新しいうちに舞い戻るなど、思いもよらないのか。それとも、よほど別人に見えたか。
私は泥のような髪色の、地味な女に変装していた。
堂々と振る舞えば、案外と見抜かれないものだ。
私と騎士のレッドは幼馴染だ。家族ぐるみの付き合いで、いずれ結婚するものと思っていた。
彼が魔王討伐のメンバーに選抜された時、両家の間で正式な婚約の話が出た。
「お気持ちはありがたいですが、無事に戻る保証もないのに、ミレイア嬢の人生を縛りたくありません」
正式な婚約こそ結ばなかったものの、レッドが討伐から戻ったら、私は彼と結婚するつもりでいた。
けれども、レッドが巫女に惚れ込んだ噂は、否応なしに耳に入った。
巫女に選ばれたアイナは、孤児だった。
レッドは騎士らしく、弱い者に優しい。そして残念ながら、単純な性格だ。
あの女狐は、彼の懐にやすやすと潜り込んだのだ。
魔王の討伐が長引くにつれ、両親からの結婚催促が煩わしくなった。
両親は、とっくにレッドとの婚約に見切りをつけ、縁談を持ち込んできたのだ。
私は伝手を辿って、当時侯爵家のご令嬢であったレオンティーナ様に仕える職を得た。
後の王妃である。
レオンティーナ様もまた、アイナの被害者だ。
平民出身の巫女が図々しくも、レオンティーナ様という正規の婚約者をお持ちのセイヤ王子を絡めとったのだ。
高貴なお方ほど、内心の煩悶を表に出されない。
私は、お仕えする主の望みを察して、しばしばアイナの失脚を謀った。主の望みは私の望みでもあった。
だから、アイナが魔王討伐の成功を引っ提げて王宮へ戻った後、私を断罪したのは、ある意味当然の帰結であった。
私は権力闘争に敗れたのだ。
免職され、国外追放と決まった私に、レッドとの婚約は、もはや望むべくもない。
両親は家を守るため、私を除籍した。
王妃となられたレオンティーナ様は今でも、私の実家を密かに援助してくださっているそうだ。
私は国を出た後、隣国のバルトロメウの商会で、平民として働き始めた。
マッテオとは、ここで知り合った。
「ミリちゃんって、品があるよね。貴族のお嬢様みたい」
深緑色の髪が珍しい細身の男は、若いのに商売上手と評判だった。
奥向きの仕事を担当する私は、出入りの商人と顔を突き合わせる機会がほとんどないのに、彼だけは早くから見知っていた。
「マッテオさんは、お世辞がお上手ですね」
国を出て以来、私は平民らしく、ミリと名乗っていた。絶縁された身で家名は名乗れない。
「ほら、そう言うところ」
あれよという間に、私とマッテオは恋人関係になった。平民の恋愛は進行が早い。
「あうっ、ううっ、イイッ」
「イって、ミリ」
「あああっ」
互いにイった後も、ベッドで体を寄せ合って、心地良い気怠さに浸る。
初めてキスされた時、反射的に平手打ちをした私から、随分遠くへ来てしまった。
「ミリに頼みたい仕事があるんだけど」
マッテオの乳首を触るともなしに触っていると、唐突に真剣な声音で切り出された。
「あるお貴族様のお屋敷へ、臨時メイドとして入って欲しい。ミリなら見た目も完璧だ。絶対上手く行く」
「貴族のメイドなんて、私に務まらないわ」
恋人同士の甘い時間にそぐわない話題に、すっと手が引っ込む。
メイドの仕事が出来ないのも本当だ。私は元侍女なのだ。
「今日は帰るわね」
ベッドから抜け出そうとしたら、後ろから抱き止められた。尻に当たった硬いモノは、マッテオが軽く腰を引いた後、すぐに両脚の隙間に差し込まれた。
「急な話で、びっくりしたよね。それより、ミリが刺激するから、また欲しくなっちゃったんだ。責任取ってくれる?」
囁く間も、小刻みに腰を揺らし、早くも私の体が呼応し始める。
「刺激って、そ、んな」
顔を後ろへ向けさせられ、唇を塞がれた。舌を絡めて吸い付く一方、空いた手が仕返しとばかりに乳首を弄る。
ニチャニチャといやらしい音を立てる下半身がもどかしく、私はマッテオの硬い棒を掴み、飢えた穴へあてがった。
「んんっ?」
マッテオが一瞬、驚いたように体を強張らせた。何故だか私は胸のすく思いがした。
ぐじょっ、ぐじょっ、ぐじょっ。
「ありがとう! ミリは優しいね。助かるよ」
「はあっ、はああっ、はあん」
自分から挿れたのに、いつの間にか私は責められる側にいた。
両脚の間にある穴が、ヒクヒクと震えながら、黒光りする淫猥な棒を求めて、マッテオに擦り寄る。
「見た目を変えれば、誰も気付かない。俺に任せて」
ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ。
「あっ、あっ」
体位が入れ替わったと同様、いつの間にか私は追放された祖国へ潜入することになっていた。
メノスに知り合いはいない。領主のベニゼロス伯爵の顔もあいまいだ。彼は、王都の社交界にほとんど顔を出さなかった。
マッテオには、とある事情で国外追放されたことや、実家と絶縁したことまで話したが、意に介されなかった。
「あっ、凄い」
「上手くいけば、俺たち一緒に幸せになれるよ。頑張ろうな」
子種を注ぎ込まれた後、耳元で囁かれキスを受けた。
どう考えても、危ない橋だ。イカされた頭でもわかる。
けれどもマッテオに激しく突かれ、唇や舌で愛撫を受けると、つい言われるがまま頷いてしまうのだ。
危険を冒してまで私と生涯を共にしたいマッテオに、私も応えたい。
ベニゼロス伯爵家には、あっさり採用された。
「内緒なんだけど、近々重要なお客様がいらっしゃるから、人手が足りないんだよ。あたしは聖女様だと睨んでるけどね」
先輩メイドが嬉々として耳打ちする。彼女は賓客のために用意されたドレスを、こっそり見せてくれた。
王都の名だたる店で作られた、と一目でわかる。うち一着は、聖女を象徴する色合いだった。
アイナがこの館へ来る。
彼女は私を覚えているだろうか。
大丈夫。メイドが客と話す場面はないし、私は別人に変装している。
私の役割は、マッテオから預かった宝飾品を、その賓客の手持ちと入れ替えることだった。
その相手が聖女だとは、今初めて知った。
これは商売のミスではなく、政治工作だ。知ったところで、いまさら引けない。
工作の意味は知らないが、私が失敗したら、マッテオ共々破滅することだけは確実だった。
私は新たに気を引き締め、メイドの仕事に精を出した。どこに出入りしても怪しまれないための下準備だ。
先輩メイドの予想違わず、アイナが聖女としてやってきた。
意外にも、お供には、既婚者にしか見えない安定感のある騎士と、美形でも聖女と距離感のある神官、とどめに見た目だけブルー魔術師長に寄せた女魔術師を連れていた。
巡行中に聖女が結婚相手を決める、という噂を聞いたことがある。
ベニゼロス伯爵も、愛人持ちだが一応は独身だ。
男を侍らせイチャつく様を見た夫候補に逃げられないよう、誰かが事前に手を打ったのだ。
相手が決まらないまま王都へ戻ったら、レッドと結婚するかもしれない。
それは許せない。
もう私にはマッテオがいて、彼に未練はないけれども、アイナが妻になるのは別の問題だ。
アイナ一行が伯爵と晩餐中、先輩メイドが私を人気のない場所へ連れ込んだ。
「これ、聖女様の気を高める特別なお薬だと預かったんだけど、さっき急にご主人様直々に、侍女の方にしろって言われて‥‥意味がわからないわ。どうしたらいいと思う?」
私にも意味がわからない。
話を整理すると、先輩が誰かから預かった聖女に仕込む薬の件をベニゼロス伯爵が聞きつけ、仕込み先をお供の女魔術師に変えろと命じたらしい。
恐らく媚薬だろう。気を高めるとは、よく言ったものだ。
伯爵は中身を知っていたに違いない。
女魔術師が侍女を兼ねていて、恐ろしく胸が盛り上がっていることは、入浴時に気付いた。
世話を断られたが、呼ばれてすぐ応じられるよう、近くで控えていたのだ。
聖女の結婚相手は、一般には女神イナリアが決めるとされている。
どうせなら、手に入れやすい侍女に薬を使おうと思い直したか。
私は、露ほども疑わない顔を作って頷いた。
「わかりました。ちょうど、お客様方のお部屋を再確認するので、ついでに適当なところへ入れておきますね」
「ありがとう。頼んだわよ」
先輩メイドは、ほっとした顔になった。
私はアイナの部屋へ直行した。真っ先に、荷物を漁る。
宝石類を収めた箱には鍵がかかり、更には鎖で部屋の柱と繋がれていたが、鎖は無視し、マッテオに教わった方法で蓋を開けた。
ふと、人の気配を感じた。私は隠し持った宝石を箱へ放り込み、蓋を元通りにして、急いで薬瓶の中身を水差しへ流し込んだ。
薬をアイナに仕込むことは、最初から決めていた。
聖気を高めるにせよ、媚薬にせよ、ここで伴侶を決める役に立つなら、臨時雇い主の気まぐれに従うつもりはない。
部屋を出ると、視界の端に人の姿を捉えた。
メイドらしく、顔を伏せて遠ざかる。確かめるまでもなく、アイナが部屋へ戻る時分だった。
危ないところだった。
真夜中を過ぎて、私は館を抜け出した。
灯りのない中、馴染みのない場所を人目につかぬよう移動するのは、ひどく緊張した。
「どうだった?」
暗闇からマッテオの声が聞こえた時、危うく声を上げるところだった。
「入れることはできたのだけれど」
私は、交換できなかった顛末を話した。薬のことも話すと、マッテオはひどく面白がった。
「聖女は大変だな。そんな貴族の元に長居はしないだろう。ミリ‥‥今はエマだっけ。エマの仕事は、それでいいよ。足りないよりはバレにくい」
私はベニゼロス伯爵家に雇われる際、エマと名乗っていた。書類はマッテオが揃えてくれたものを、そのまま提出した。
「私たち、消されない?」
「大袈裟な。エマは聖女が旅立ったら仕事を辞めてドリットランで俺の迎えを待つんだ。その頃には変装も解けて、ミリに戻っている。誰も気付かないよ」
マッテオは私を抱きしめ、ふふっと笑った。
ドリットランは、私達が出会ったバルトロメウとはまた別の国である。
やはり、これは相当に危ない仕事なのだ。
「一緒に‥‥私が行くのはダメなの? 足手まといにはならないから」
「ダメだ。あんたはイナリア教の信徒だから」
「まさか、ゴドアに? 危険すぎる」
かつて、女神イナリアの怒りに触れ、住民ごと滅ぼされた街は、現在でも女神に許されず、死に絶えた土地のままだ。
偶然通りかかっただけで、不幸が降りかかると噂される。
「俺は平気。発信器もある」
「発信器?」
話が噛み合わない。
「あんたが俺を心配してくれるのは、嬉しいよ」
マッテオが、唇を重ねてきた。優しく押しつけられた柔らかい塊が上下に割れて、隙間から強靭なしなやかさが私の舌を絡めとる。
しばらく舌と唇でやり取りするうちに、スッと下の割れ目を指がなぞる。
「外、なのに」
「暗闇だ。声を我慢すれば気付かれない。それに、こっちは欲しそうだ」
すりすりと敏感な箇所を刺激する指を、咥え込んで離さないのは私の方だ。
マッテオは早くも砕けた私の腰を抱え上げ、ずぶりと挿し入れた。
そのまま荷物のように抱え、腰を突き入れる。
私は声を抑えるため、彼の肩に顔を押しつけた。
聖女一行は翌朝出立した。
こちらの予想より早かったせいもあり、主人であるベニゼロス伯爵の見送りは省略して良い、とお達しがあったという。
伯爵が昨夜侍女を狙ったことと、無関係ではあるまい。
侍女と関係を持つ目論見が成功したかどうか、一メイドの立場からは窺い知れなかった。
私は余計な疑いを招く前に、先輩メイドの引き留めを固辞して、伯爵家を去った。
国境を跨ぎ、ドリットランへ入ったところで、人目を盗み外見と名前をエマからミリへ戻した。
検問は思ったより厳しかった。何でも最近、バルトロメウとの国境付近で盗賊騒ぎがあったという。
元勇者の辺境伯が直々に解決したそうだ。
私は出国すると、あらかじめ指示された通り、ドリットランに居を構えた。
マッテオは来ない。
実のところ、私はあまり期待していなかった。
彼が実在しない、と言われても驚かない。
あのような仕事は、下請けでも素人に任せるものではない。彼自身がその筋の専門家と考えるのが自然だ。
彼は初めから経歴を知った上で、私に近付いたと思っている。
逃げ道を用意してくれただけでも、十分ありがたかった。
私が生き延びれば、たとえ別人になって気付けなくとも、再会の芽はある。
「いいだろ? 俺の彼女」
検問所の兵士とマッテオは、顔馴染みのようだ。
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堂々と振る舞えば、案外と見抜かれないものだ。
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「お気持ちはありがたいですが、無事に戻る保証もないのに、ミレイア嬢の人生を縛りたくありません」
正式な婚約こそ結ばなかったものの、レッドが討伐から戻ったら、私は彼と結婚するつもりでいた。
けれども、レッドが巫女に惚れ込んだ噂は、否応なしに耳に入った。
巫女に選ばれたアイナは、孤児だった。
レッドは騎士らしく、弱い者に優しい。そして残念ながら、単純な性格だ。
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両親は、とっくにレッドとの婚約に見切りをつけ、縁談を持ち込んできたのだ。
私は伝手を辿って、当時侯爵家のご令嬢であったレオンティーナ様に仕える職を得た。
後の王妃である。
レオンティーナ様もまた、アイナの被害者だ。
平民出身の巫女が図々しくも、レオンティーナ様という正規の婚約者をお持ちのセイヤ王子を絡めとったのだ。
高貴なお方ほど、内心の煩悶を表に出されない。
私は、お仕えする主の望みを察して、しばしばアイナの失脚を謀った。主の望みは私の望みでもあった。
だから、アイナが魔王討伐の成功を引っ提げて王宮へ戻った後、私を断罪したのは、ある意味当然の帰結であった。
私は権力闘争に敗れたのだ。
免職され、国外追放と決まった私に、レッドとの婚約は、もはや望むべくもない。
両親は家を守るため、私を除籍した。
王妃となられたレオンティーナ様は今でも、私の実家を密かに援助してくださっているそうだ。
私は国を出た後、隣国のバルトロメウの商会で、平民として働き始めた。
マッテオとは、ここで知り合った。
「ミリちゃんって、品があるよね。貴族のお嬢様みたい」
深緑色の髪が珍しい細身の男は、若いのに商売上手と評判だった。
奥向きの仕事を担当する私は、出入りの商人と顔を突き合わせる機会がほとんどないのに、彼だけは早くから見知っていた。
「マッテオさんは、お世辞がお上手ですね」
国を出て以来、私は平民らしく、ミリと名乗っていた。絶縁された身で家名は名乗れない。
「ほら、そう言うところ」
あれよという間に、私とマッテオは恋人関係になった。平民の恋愛は進行が早い。
「あうっ、ううっ、イイッ」
「イって、ミリ」
「あああっ」
互いにイった後も、ベッドで体を寄せ合って、心地良い気怠さに浸る。
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「ミリに頼みたい仕事があるんだけど」
マッテオの乳首を触るともなしに触っていると、唐突に真剣な声音で切り出された。
「あるお貴族様のお屋敷へ、臨時メイドとして入って欲しい。ミリなら見た目も完璧だ。絶対上手く行く」
「貴族のメイドなんて、私に務まらないわ」
恋人同士の甘い時間にそぐわない話題に、すっと手が引っ込む。
メイドの仕事が出来ないのも本当だ。私は元侍女なのだ。
「今日は帰るわね」
ベッドから抜け出そうとしたら、後ろから抱き止められた。尻に当たった硬いモノは、マッテオが軽く腰を引いた後、すぐに両脚の隙間に差し込まれた。
「急な話で、びっくりしたよね。それより、ミリが刺激するから、また欲しくなっちゃったんだ。責任取ってくれる?」
囁く間も、小刻みに腰を揺らし、早くも私の体が呼応し始める。
「刺激って、そ、んな」
顔を後ろへ向けさせられ、唇を塞がれた。舌を絡めて吸い付く一方、空いた手が仕返しとばかりに乳首を弄る。
ニチャニチャといやらしい音を立てる下半身がもどかしく、私はマッテオの硬い棒を掴み、飢えた穴へあてがった。
「んんっ?」
マッテオが一瞬、驚いたように体を強張らせた。何故だか私は胸のすく思いがした。
ぐじょっ、ぐじょっ、ぐじょっ。
「ありがとう! ミリは優しいね。助かるよ」
「はあっ、はああっ、はあん」
自分から挿れたのに、いつの間にか私は責められる側にいた。
両脚の間にある穴が、ヒクヒクと震えながら、黒光りする淫猥な棒を求めて、マッテオに擦り寄る。
「見た目を変えれば、誰も気付かない。俺に任せて」
ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ。
「あっ、あっ」
体位が入れ替わったと同様、いつの間にか私は追放された祖国へ潜入することになっていた。
メノスに知り合いはいない。領主のベニゼロス伯爵の顔もあいまいだ。彼は、王都の社交界にほとんど顔を出さなかった。
マッテオには、とある事情で国外追放されたことや、実家と絶縁したことまで話したが、意に介されなかった。
「あっ、凄い」
「上手くいけば、俺たち一緒に幸せになれるよ。頑張ろうな」
子種を注ぎ込まれた後、耳元で囁かれキスを受けた。
どう考えても、危ない橋だ。イカされた頭でもわかる。
けれどもマッテオに激しく突かれ、唇や舌で愛撫を受けると、つい言われるがまま頷いてしまうのだ。
危険を冒してまで私と生涯を共にしたいマッテオに、私も応えたい。
ベニゼロス伯爵家には、あっさり採用された。
「内緒なんだけど、近々重要なお客様がいらっしゃるから、人手が足りないんだよ。あたしは聖女様だと睨んでるけどね」
先輩メイドが嬉々として耳打ちする。彼女は賓客のために用意されたドレスを、こっそり見せてくれた。
王都の名だたる店で作られた、と一目でわかる。うち一着は、聖女を象徴する色合いだった。
アイナがこの館へ来る。
彼女は私を覚えているだろうか。
大丈夫。メイドが客と話す場面はないし、私は別人に変装している。
私の役割は、マッテオから預かった宝飾品を、その賓客の手持ちと入れ替えることだった。
その相手が聖女だとは、今初めて知った。
これは商売のミスではなく、政治工作だ。知ったところで、いまさら引けない。
工作の意味は知らないが、私が失敗したら、マッテオ共々破滅することだけは確実だった。
私は新たに気を引き締め、メイドの仕事に精を出した。どこに出入りしても怪しまれないための下準備だ。
先輩メイドの予想違わず、アイナが聖女としてやってきた。
意外にも、お供には、既婚者にしか見えない安定感のある騎士と、美形でも聖女と距離感のある神官、とどめに見た目だけブルー魔術師長に寄せた女魔術師を連れていた。
巡行中に聖女が結婚相手を決める、という噂を聞いたことがある。
ベニゼロス伯爵も、愛人持ちだが一応は独身だ。
男を侍らせイチャつく様を見た夫候補に逃げられないよう、誰かが事前に手を打ったのだ。
相手が決まらないまま王都へ戻ったら、レッドと結婚するかもしれない。
それは許せない。
もう私にはマッテオがいて、彼に未練はないけれども、アイナが妻になるのは別の問題だ。
アイナ一行が伯爵と晩餐中、先輩メイドが私を人気のない場所へ連れ込んだ。
「これ、聖女様の気を高める特別なお薬だと預かったんだけど、さっき急にご主人様直々に、侍女の方にしろって言われて‥‥意味がわからないわ。どうしたらいいと思う?」
私にも意味がわからない。
話を整理すると、先輩が誰かから預かった聖女に仕込む薬の件をベニゼロス伯爵が聞きつけ、仕込み先をお供の女魔術師に変えろと命じたらしい。
恐らく媚薬だろう。気を高めるとは、よく言ったものだ。
伯爵は中身を知っていたに違いない。
女魔術師が侍女を兼ねていて、恐ろしく胸が盛り上がっていることは、入浴時に気付いた。
世話を断られたが、呼ばれてすぐ応じられるよう、近くで控えていたのだ。
聖女の結婚相手は、一般には女神イナリアが決めるとされている。
どうせなら、手に入れやすい侍女に薬を使おうと思い直したか。
私は、露ほども疑わない顔を作って頷いた。
「わかりました。ちょうど、お客様方のお部屋を再確認するので、ついでに適当なところへ入れておきますね」
「ありがとう。頼んだわよ」
先輩メイドは、ほっとした顔になった。
私はアイナの部屋へ直行した。真っ先に、荷物を漁る。
宝石類を収めた箱には鍵がかかり、更には鎖で部屋の柱と繋がれていたが、鎖は無視し、マッテオに教わった方法で蓋を開けた。
ふと、人の気配を感じた。私は隠し持った宝石を箱へ放り込み、蓋を元通りにして、急いで薬瓶の中身を水差しへ流し込んだ。
薬をアイナに仕込むことは、最初から決めていた。
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危ないところだった。
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私は、交換できなかった顛末を話した。薬のことも話すと、マッテオはひどく面白がった。
「聖女は大変だな。そんな貴族の元に長居はしないだろう。ミリ‥‥今はエマだっけ。エマの仕事は、それでいいよ。足りないよりはバレにくい」
私はベニゼロス伯爵家に雇われる際、エマと名乗っていた。書類はマッテオが揃えてくれたものを、そのまま提出した。
「私たち、消されない?」
「大袈裟な。エマは聖女が旅立ったら仕事を辞めてドリットランで俺の迎えを待つんだ。その頃には変装も解けて、ミリに戻っている。誰も気付かないよ」
マッテオは私を抱きしめ、ふふっと笑った。
ドリットランは、私達が出会ったバルトロメウとはまた別の国である。
やはり、これは相当に危ない仕事なのだ。
「一緒に‥‥私が行くのはダメなの? 足手まといにはならないから」
「ダメだ。あんたはイナリア教の信徒だから」
「まさか、ゴドアに? 危険すぎる」
かつて、女神イナリアの怒りに触れ、住民ごと滅ぼされた街は、現在でも女神に許されず、死に絶えた土地のままだ。
偶然通りかかっただけで、不幸が降りかかると噂される。
「俺は平気。発信器もある」
「発信器?」
話が噛み合わない。
「あんたが俺を心配してくれるのは、嬉しいよ」
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「外、なのに」
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そのまま荷物のように抱え、腰を突き入れる。
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私は出国すると、あらかじめ指示された通り、ドリットランに居を構えた。
マッテオは来ない。
実のところ、私はあまり期待していなかった。
彼が実在しない、と言われても驚かない。
あのような仕事は、下請けでも素人に任せるものではない。彼自身がその筋の専門家と考えるのが自然だ。
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