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記憶になくて悪かった 2 *
思い出した。
わたしは、汗びっしょりで目を覚ました。
前世を思い出す前のわたしの記憶で、これほど鮮明なものは、初めてだ。
我ながら、酷い所業であった。
言い訳させてもらうと、当時のわたしは、すっかり一日一セックスが習慣となっていた。
しないと体は疼き、正気も危うくなる。
ハルトくんの下半身を扱くのも、習慣というか、無意識に始めていた。
呼び方については、『みつつぼ』は主要キャラの名前を自由に設定出来るのが売りだった。
推しアイドルから名付けた王子と騎士と魔術師は呼び捨て出来たけど、身近にいて、ほぼ接点なしの人物を呼び捨てにするのは、ゲーム画面上でも躊躇われた。
絶対あり得ないけど、もし彼に話しかける機会があって、うっかり本人を呼び捨ててしまったら、社会的に死ぬ。
それで勇者の名を『ハルトくん』と設定したのだった。
ただ、セリフに『ハルトくん様』とか、『ハルトくん兄ちゃん』とか表示されることがあって、渋々修正した記憶がある。
修正前の状態に転生した、ということだろうか。
ちなみに、『みつつぼ』のハルトくんは、現実のハルトくんとは似ても似つかない。
一致するのは、黒髪黒目の外見だけだ。
言われてみれば、他の攻略キャラよりも造形の完成度が低い気もするけど、前世なら、モデルとして即通用するほど見目が良い。
目覚めたことに気付いた世話係に、体を拭いてもらったり着替えさせてもらったりした後、入れ替えで元勇者が食事を運んできた。
「ハルト=アリクフロント伯爵様。これまで数々の無礼を働き、大変申し訳ございませんでした」
体力も大分回復してきたわたしは、ベッドから降りると、土下座して謝った。
「何その姿勢。処刑前の罪人みたい」
元勇者は、すぐさまわたしを立たせ、ベッドへ座らせた。
土下座を知らないということは、少なくとも同時代の日本人ではない。
がっかりした自分に、謝罪の気持ちも不十分と気付き、更に落ち込む。
「それで、許すかどうかは別として、まず何について謝ったのか、具体的に教えてくれないかな」
無論、簡単に許してはもらえないだろう。
だから、王宮への集まりにも、辺境を口実にして顔を出さなかったのだ。
「異世界召喚されたことを打ち明けてくださったのに、話を聞こうとしなかったこと、呼び方を改めるよう求められたのに、応じなかったことを思い出しました。今後は、アリクフロント卿とお呼びします。改めて、この度の救出に感謝します」
いきなり他人行儀すぎるだろうか。
でも、前世の記憶を取り戻してから初めて会う元勇者は、わたしにとってほぼ他人である。
貴族扱いとは言え、元平民聖女と、正式に叙爵された元勇者とでは、立ち位置が違う。
はあああっ、と大仰に元勇者がため息を吐いた。
「お前が記憶を掘り起こして反省したのは、わかった。その様子だと、前世は全然違う人間だったようだな。食べながら、話してみろ。それから、回りくどい話し方は止めろ。中身が何であれ、お前は魔王を倒した俺達の仲間だ。呼び方も、ハルトでいい」
「ありがとうござ‥‥ありがとう」
そこでわたしは、前世で日本人の学生だったことや、ここが『みつつぼ』の設定にそっくりであることを話した。
ゲームについて説明するのが大変で、R18指定辺りの話は省略した。
「つまり、ここはお前に馴染みの世界だったが、この先起こる事はわからない、と言いたいんだな。それは、ただ前世の記憶があるだけの人でいいんじゃないか。聖女だから前世の記憶がある、と言い換えてもいい」
そういう事ではないのだけど、事実だけ並べたら、ハルトの解釈は筋が通っていた。
女神イナリアは、魔王討伐のために、『みつつぼ』プレイヤーを巫女に転生させた、と考えることもできる。
わたしはエンディングまで記憶が戻らなかったけど、前世のゲーム経験が無意識のうちに討伐の役に立ったかもしれない。
「良い考えだと思う」
わたしは食器をワゴンへ戻した。
先ほど急速に土下座をしても、ふらつかなかった。
明日から聖女の巡行を再開出来そうだ。
マノロス達が到着するまでに、アリクフロント領内を回れば、遅れを少し取り戻せる。護衛はハルトに部下を出してもらおう。
「色々お世話になった。明日から仕事に戻れそう。まずは、神殿へ挨拶かな」
「それより、俺と結婚する気はないのか?」
「へ?」
間抜けな声が出た。『みつつぼ』でも、勇者ルートは攻略のメインだった。
でも、わたしの軽薄な態度のせいでハルトとは距離があったし、今一応和解した感じだけど、求婚する雰囲気までには至っていなかったと思う。
咳払いして、頭を切り替える。
「決めるのは女神イナリア様というのは大前提で、話すよ。わたしが産んだ子は、神殿に預けられて、一生を祈りに捧げる。ハルトは伯爵として、後継者を作る義務があるでしょ。召喚されて親戚もいないし、貴族の娘さんと結婚するしかないんじゃない?」
「養子を取ればいい。俺は血筋には拘らない」
ハルトは即答した。結婚するかどうかはともかく、彼が召喚までに辿った人生も聞いてみたいところだ。
「ある日突然、元の世界へ戻ってしまうことは、ないの?」
ないだろう、と思いつつ、訊いてみた。『みつつぼ』でも、勇者の召喚には触れていなかった。
「戻す魔法は存在しない、と聞いた。もしあったとしても、高位の魔術師が足りないとか」
必要な大量の魔力を補うために、前回の召喚では多数の魔術師が生贄として命を捧げたと言う。
「ハルト‥‥の時は、どうだったの?」
「俺も混乱していたから見落としたかもしれないけど、死体はなかったと思う」
生贄が大袈裟でも、召喚が大変なのは本当だろう。戻す余力がないのも理解できる。
そこから、ハルト自身の話になった。
ハルトの本名は、レオンハルトというそうだ。
将来の王妃レオンティーナと同じ名前は不敬だ、と因縁をつけられ、ハルトと呼ばれることになった。
勝手に召喚しておいて、酷い言い草である。
黒髪黒目は母方の影響だけど、母親が既にハーフだかクオーターだかで、父親も同様で、もはや何系と断定しにくいほど、多くのルーツを持つ。
ついでながら当時住んでいた国がまた、出自のルーツと無関係だった。
彼のいた時代は、わたしの前世より数十年ほど前に当たるらしかった。
現代史の知識が浅くて、よくわからない。
並行世界の可能性もあるけど、今となってはどうでも良いことだった。
「そういう訳で、勝手に帰ったりしないから、安心して結婚できる。辺境は魔物が発生しやすい。魔王が拠点にしたダンジョンも、領内にあったものだ。聖女と勇者がこの地に留まれば、国民も安心するし、周辺国への牽制にもなる」
「ビジネス契約の提案みたいね」
「結婚も契約だ。お前と俺の間には恋愛感情がないから、利点を挙げた。二人とも、女神イナリア様の導きでこの世界に来た共通点がある。女神様にも認められやすいと思う。だがお前が惚れた相手と添い遂げたいなら、引き下がる」
ハルトが断言した通り、今世のわたしは彼に恋愛感情を持っていなかった。
セイヤやレッドやブルーにも同様である。
同時に複数の人を愛せるタイプでもない。だからこそ、逆ハーレムを達成できた、とも言える。
「恋する人はいないけど、他からも、魅力的な提案があったんだよね」
「セイヤ‥‥陛下か? 王宮なんて窮屈だ。それに王妃陛下が危険過ぎる。暗殺まっしぐらだぞ」
レオンティーナが危険なのは、『みつつぼ』で経験済みだ。
攻略が甘いと、すぐさま状況をひっくり返す。彼女自身の手を汚さないので、断罪も難しい。
ゲーム上では意外にも、王子ルートが攻略の最難関だった。
「違うよ。神官長から。ハルトは、領地を治める利点を挙げたけど、神官長は個人的なメリットを示してくれたの」
「神官長だって! 女神様にお仕えする身で、求婚?」
完全に盲点だったと見えて、ハルトが固まる。
「外の人は、あまり知らないんだけど、神官長は還俗すれば、子供作れるよ」
「それで、お前にとっての利点って?」
「ひと言で表すなら、グータラ生活の保証かな」
ハルトは、更にショックを受けたようだった。
「そんな。仮にも世界を救う巫女として呼ばれた身。今は聖女にまでなったんだから、皆のためになるような方向を目指すと思ったのに。神官長が率先して堕落に誘うとは」
本気で言っている。彼は名前や容姿の一致よりも、勇者向きの性格だから、女神に選ばれたに違いない。
「ハルトの言うのも正論だね。聖女が神殿関係者と結婚する政治的メリットも、もちろんあるよ。わかるでしょ」
師匠は社交免除と言っていたけど、断れない相手も存在する。
利用しようと思えば、聖女ほど強力な広告塔もないのである。
「お前は、もう決めたのか?」
自信を失ったハルトが、恐る恐る尋ねる。
これまでのアイナの性格から導かれる答えは、決まっている。
師匠も、そこを踏まえて提案した訳である。
「ううん。まだ巡行の仕事終わっていないし、この先素敵な伴侶を女神様が紹介してくださるかもしれないし」
「怠惰な生活の保証なら、神官長以上の条件は難しいと思う。悔しいが」
「公平だね。ハルトもわたしが飛びつくような条件を考えてみたら? まず、体の相性とか」
わたしは、ハルトの体に手を伸ばした。
「そ、そうか。それは俺が有利か。これ、片付けてくる」
勇者が僅かに復活した。空の食器が載るワゴンを、そそくさと部屋の外へ押していく。
神官長が何故わたしの師匠なのか、彼は知らない。
「さっき、わたしに恋愛感情ないって言ったけど、本当にないの?」
一戦終わったところで、訊いてみる。
いわゆる賢者タイムである。
何せハルトは、キスも前戯も丁寧で、愛情たっぷりと錯覚しそうな腕前なのだ。
好きでもない相手に、これだけ出来るのも大した事なのだが。
「好きだよ。出来れば、他の男に渡したくない。でも恋愛感情とは言い切れない。辺境領が聖女を手にする益は、よくわかっている」
意外にも、ハルトは好意を認めた。嫌われていないと知って、ほっとする。
「あなたとの結婚に、一点不安があって」
「なになに?」
近寄る彼の体を、そっと手で止めると、戸惑い顔をされた。
以前だったら、淫棒握って扱き出すところだ。
「実は、一日一回だと、物足りなくて。でも、無理にさせるのは違うから」
ハルトの目が、クワッと開いた。黒い瞳が、ブラックホール並みの吸引力を発揮する。
「無理じゃない。我慢しているんだ」
にじり寄る体の真っ先に触れたのは、硬く熱を帯びた棒だった。攻略キャラは、全員絶倫設定である。
「じゃあ、とりあえずもう一回シようか。いい?」
「うん」
今度こそ、わたしは勇者の剣に触れ、その身を中へ導いた。
ぐい、とひと突きで根元まで挿入したハルトが、早くも満足そうな息を吐く。
「いい。すごくいい。ずっと挿れていたい」
「わたしは、それでも良いのよ」
「いや。明日も仕事がある。そういう訳には‥‥と、無粋だったな」
胸に顔を埋め、腰を小刻みに動かす。吐く息と、触れる唇が腰の動きと連動し、快感を増幅する。
「くすぐったい」
「そうか? これはどうだ?」
「ひゃっ」
胸の谷間を舐められた。皮膚の薄いところは、刺激に敏感だ。
「気持ちいいみたいだな。きゅっと締まった」
「言わなくて良いよ。恥ずかしい」
自分でもわかる。ハルトが動くたびに聞こえる愛液の音、立ち上る匂いが渾然一体となって、わたしを覆う。
「愛している、アイナ」
「ありがとう。射精したら、もう一回言ってくれる?」
「余裕だな」
ぐん、とハルトのモノが、わたしの中で大きくなった。彼はわたしをしっかり掴むと、勢いよく腰を前後し始めた。
ずちょ、ずちょ、ずちょっ。
「あうっ、あんっ」
突きの衝撃で漏れた息が、図らずも色っぽい声になる。ハルトは、ますます激しく深く突き入れた。
誰が伴侶になるか、答えはまだ見えないけど、仕事に打ち込む生活も楽しそうに思えてきた。
終わり
わたしは、汗びっしょりで目を覚ました。
前世を思い出す前のわたしの記憶で、これほど鮮明なものは、初めてだ。
我ながら、酷い所業であった。
言い訳させてもらうと、当時のわたしは、すっかり一日一セックスが習慣となっていた。
しないと体は疼き、正気も危うくなる。
ハルトくんの下半身を扱くのも、習慣というか、無意識に始めていた。
呼び方については、『みつつぼ』は主要キャラの名前を自由に設定出来るのが売りだった。
推しアイドルから名付けた王子と騎士と魔術師は呼び捨て出来たけど、身近にいて、ほぼ接点なしの人物を呼び捨てにするのは、ゲーム画面上でも躊躇われた。
絶対あり得ないけど、もし彼に話しかける機会があって、うっかり本人を呼び捨ててしまったら、社会的に死ぬ。
それで勇者の名を『ハルトくん』と設定したのだった。
ただ、セリフに『ハルトくん様』とか、『ハルトくん兄ちゃん』とか表示されることがあって、渋々修正した記憶がある。
修正前の状態に転生した、ということだろうか。
ちなみに、『みつつぼ』のハルトくんは、現実のハルトくんとは似ても似つかない。
一致するのは、黒髪黒目の外見だけだ。
言われてみれば、他の攻略キャラよりも造形の完成度が低い気もするけど、前世なら、モデルとして即通用するほど見目が良い。
目覚めたことに気付いた世話係に、体を拭いてもらったり着替えさせてもらったりした後、入れ替えで元勇者が食事を運んできた。
「ハルト=アリクフロント伯爵様。これまで数々の無礼を働き、大変申し訳ございませんでした」
体力も大分回復してきたわたしは、ベッドから降りると、土下座して謝った。
「何その姿勢。処刑前の罪人みたい」
元勇者は、すぐさまわたしを立たせ、ベッドへ座らせた。
土下座を知らないということは、少なくとも同時代の日本人ではない。
がっかりした自分に、謝罪の気持ちも不十分と気付き、更に落ち込む。
「それで、許すかどうかは別として、まず何について謝ったのか、具体的に教えてくれないかな」
無論、簡単に許してはもらえないだろう。
だから、王宮への集まりにも、辺境を口実にして顔を出さなかったのだ。
「異世界召喚されたことを打ち明けてくださったのに、話を聞こうとしなかったこと、呼び方を改めるよう求められたのに、応じなかったことを思い出しました。今後は、アリクフロント卿とお呼びします。改めて、この度の救出に感謝します」
いきなり他人行儀すぎるだろうか。
でも、前世の記憶を取り戻してから初めて会う元勇者は、わたしにとってほぼ他人である。
貴族扱いとは言え、元平民聖女と、正式に叙爵された元勇者とでは、立ち位置が違う。
はあああっ、と大仰に元勇者がため息を吐いた。
「お前が記憶を掘り起こして反省したのは、わかった。その様子だと、前世は全然違う人間だったようだな。食べながら、話してみろ。それから、回りくどい話し方は止めろ。中身が何であれ、お前は魔王を倒した俺達の仲間だ。呼び方も、ハルトでいい」
「ありがとうござ‥‥ありがとう」
そこでわたしは、前世で日本人の学生だったことや、ここが『みつつぼ』の設定にそっくりであることを話した。
ゲームについて説明するのが大変で、R18指定辺りの話は省略した。
「つまり、ここはお前に馴染みの世界だったが、この先起こる事はわからない、と言いたいんだな。それは、ただ前世の記憶があるだけの人でいいんじゃないか。聖女だから前世の記憶がある、と言い換えてもいい」
そういう事ではないのだけど、事実だけ並べたら、ハルトの解釈は筋が通っていた。
女神イナリアは、魔王討伐のために、『みつつぼ』プレイヤーを巫女に転生させた、と考えることもできる。
わたしはエンディングまで記憶が戻らなかったけど、前世のゲーム経験が無意識のうちに討伐の役に立ったかもしれない。
「良い考えだと思う」
わたしは食器をワゴンへ戻した。
先ほど急速に土下座をしても、ふらつかなかった。
明日から聖女の巡行を再開出来そうだ。
マノロス達が到着するまでに、アリクフロント領内を回れば、遅れを少し取り戻せる。護衛はハルトに部下を出してもらおう。
「色々お世話になった。明日から仕事に戻れそう。まずは、神殿へ挨拶かな」
「それより、俺と結婚する気はないのか?」
「へ?」
間抜けな声が出た。『みつつぼ』でも、勇者ルートは攻略のメインだった。
でも、わたしの軽薄な態度のせいでハルトとは距離があったし、今一応和解した感じだけど、求婚する雰囲気までには至っていなかったと思う。
咳払いして、頭を切り替える。
「決めるのは女神イナリア様というのは大前提で、話すよ。わたしが産んだ子は、神殿に預けられて、一生を祈りに捧げる。ハルトは伯爵として、後継者を作る義務があるでしょ。召喚されて親戚もいないし、貴族の娘さんと結婚するしかないんじゃない?」
「養子を取ればいい。俺は血筋には拘らない」
ハルトは即答した。結婚するかどうかはともかく、彼が召喚までに辿った人生も聞いてみたいところだ。
「ある日突然、元の世界へ戻ってしまうことは、ないの?」
ないだろう、と思いつつ、訊いてみた。『みつつぼ』でも、勇者の召喚には触れていなかった。
「戻す魔法は存在しない、と聞いた。もしあったとしても、高位の魔術師が足りないとか」
必要な大量の魔力を補うために、前回の召喚では多数の魔術師が生贄として命を捧げたと言う。
「ハルト‥‥の時は、どうだったの?」
「俺も混乱していたから見落としたかもしれないけど、死体はなかったと思う」
生贄が大袈裟でも、召喚が大変なのは本当だろう。戻す余力がないのも理解できる。
そこから、ハルト自身の話になった。
ハルトの本名は、レオンハルトというそうだ。
将来の王妃レオンティーナと同じ名前は不敬だ、と因縁をつけられ、ハルトと呼ばれることになった。
勝手に召喚しておいて、酷い言い草である。
黒髪黒目は母方の影響だけど、母親が既にハーフだかクオーターだかで、父親も同様で、もはや何系と断定しにくいほど、多くのルーツを持つ。
ついでながら当時住んでいた国がまた、出自のルーツと無関係だった。
彼のいた時代は、わたしの前世より数十年ほど前に当たるらしかった。
現代史の知識が浅くて、よくわからない。
並行世界の可能性もあるけど、今となってはどうでも良いことだった。
「そういう訳で、勝手に帰ったりしないから、安心して結婚できる。辺境は魔物が発生しやすい。魔王が拠点にしたダンジョンも、領内にあったものだ。聖女と勇者がこの地に留まれば、国民も安心するし、周辺国への牽制にもなる」
「ビジネス契約の提案みたいね」
「結婚も契約だ。お前と俺の間には恋愛感情がないから、利点を挙げた。二人とも、女神イナリア様の導きでこの世界に来た共通点がある。女神様にも認められやすいと思う。だがお前が惚れた相手と添い遂げたいなら、引き下がる」
ハルトが断言した通り、今世のわたしは彼に恋愛感情を持っていなかった。
セイヤやレッドやブルーにも同様である。
同時に複数の人を愛せるタイプでもない。だからこそ、逆ハーレムを達成できた、とも言える。
「恋する人はいないけど、他からも、魅力的な提案があったんだよね」
「セイヤ‥‥陛下か? 王宮なんて窮屈だ。それに王妃陛下が危険過ぎる。暗殺まっしぐらだぞ」
レオンティーナが危険なのは、『みつつぼ』で経験済みだ。
攻略が甘いと、すぐさま状況をひっくり返す。彼女自身の手を汚さないので、断罪も難しい。
ゲーム上では意外にも、王子ルートが攻略の最難関だった。
「違うよ。神官長から。ハルトは、領地を治める利点を挙げたけど、神官長は個人的なメリットを示してくれたの」
「神官長だって! 女神様にお仕えする身で、求婚?」
完全に盲点だったと見えて、ハルトが固まる。
「外の人は、あまり知らないんだけど、神官長は還俗すれば、子供作れるよ」
「それで、お前にとっての利点って?」
「ひと言で表すなら、グータラ生活の保証かな」
ハルトは、更にショックを受けたようだった。
「そんな。仮にも世界を救う巫女として呼ばれた身。今は聖女にまでなったんだから、皆のためになるような方向を目指すと思ったのに。神官長が率先して堕落に誘うとは」
本気で言っている。彼は名前や容姿の一致よりも、勇者向きの性格だから、女神に選ばれたに違いない。
「ハルトの言うのも正論だね。聖女が神殿関係者と結婚する政治的メリットも、もちろんあるよ。わかるでしょ」
師匠は社交免除と言っていたけど、断れない相手も存在する。
利用しようと思えば、聖女ほど強力な広告塔もないのである。
「お前は、もう決めたのか?」
自信を失ったハルトが、恐る恐る尋ねる。
これまでのアイナの性格から導かれる答えは、決まっている。
師匠も、そこを踏まえて提案した訳である。
「ううん。まだ巡行の仕事終わっていないし、この先素敵な伴侶を女神様が紹介してくださるかもしれないし」
「怠惰な生活の保証なら、神官長以上の条件は難しいと思う。悔しいが」
「公平だね。ハルトもわたしが飛びつくような条件を考えてみたら? まず、体の相性とか」
わたしは、ハルトの体に手を伸ばした。
「そ、そうか。それは俺が有利か。これ、片付けてくる」
勇者が僅かに復活した。空の食器が載るワゴンを、そそくさと部屋の外へ押していく。
神官長が何故わたしの師匠なのか、彼は知らない。
「さっき、わたしに恋愛感情ないって言ったけど、本当にないの?」
一戦終わったところで、訊いてみる。
いわゆる賢者タイムである。
何せハルトは、キスも前戯も丁寧で、愛情たっぷりと錯覚しそうな腕前なのだ。
好きでもない相手に、これだけ出来るのも大した事なのだが。
「好きだよ。出来れば、他の男に渡したくない。でも恋愛感情とは言い切れない。辺境領が聖女を手にする益は、よくわかっている」
意外にも、ハルトは好意を認めた。嫌われていないと知って、ほっとする。
「あなたとの結婚に、一点不安があって」
「なになに?」
近寄る彼の体を、そっと手で止めると、戸惑い顔をされた。
以前だったら、淫棒握って扱き出すところだ。
「実は、一日一回だと、物足りなくて。でも、無理にさせるのは違うから」
ハルトの目が、クワッと開いた。黒い瞳が、ブラックホール並みの吸引力を発揮する。
「無理じゃない。我慢しているんだ」
にじり寄る体の真っ先に触れたのは、硬く熱を帯びた棒だった。攻略キャラは、全員絶倫設定である。
「じゃあ、とりあえずもう一回シようか。いい?」
「うん」
今度こそ、わたしは勇者の剣に触れ、その身を中へ導いた。
ぐい、とひと突きで根元まで挿入したハルトが、早くも満足そうな息を吐く。
「いい。すごくいい。ずっと挿れていたい」
「わたしは、それでも良いのよ」
「いや。明日も仕事がある。そういう訳には‥‥と、無粋だったな」
胸に顔を埋め、腰を小刻みに動かす。吐く息と、触れる唇が腰の動きと連動し、快感を増幅する。
「くすぐったい」
「そうか? これはどうだ?」
「ひゃっ」
胸の谷間を舐められた。皮膚の薄いところは、刺激に敏感だ。
「気持ちいいみたいだな。きゅっと締まった」
「言わなくて良いよ。恥ずかしい」
自分でもわかる。ハルトが動くたびに聞こえる愛液の音、立ち上る匂いが渾然一体となって、わたしを覆う。
「愛している、アイナ」
「ありがとう。射精したら、もう一回言ってくれる?」
「余裕だな」
ぐん、とハルトのモノが、わたしの中で大きくなった。彼はわたしをしっかり掴むと、勢いよく腰を前後し始めた。
ずちょ、ずちょ、ずちょっ。
「あうっ、あんっ」
突きの衝撃で漏れた息が、図らずも色っぽい声になる。ハルトは、ますます激しく深く突き入れた。
誰が伴侶になるか、答えはまだ見えないけど、仕事に打ち込む生活も楽しそうに思えてきた。
終わり
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