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第一部 序 章 エウドクシスの慨歎
異変の兆し
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昔々 神々が人々の間に住まわれた頃
世界は二つしかなかった
眠い。
「世界はこの世とあの世に分かれており、あの世を治める神を冥王という。死の神は冥王の子である」
こんな講義はつまらない。何の役にも立たない。
「この世を治めるのは日の御子であり、日の御子は天の子である」
昨夜の女はよかった。何という名だったか。
「その他の神は全部で七柱あり、火神・風神・水神・地神と鳥神・獣神・魚神と呼ばれる。前四柱は精霊を、残りはそれぞれの生物を統括している」
まあいい。とにかく柔らかい体だった。特に胸がふかふかして、気持ち良かった。女はふくよかに限る。若ければよいというものでもない。
「これらの神を日の御子や死の神と区別して、霊神と呼ぶ場合も……エウドクシス」
あの白くてふかふかした豊満な。ああ、考えただけで幸せな気分になる。
「エウ・ドク・シス!聞いているのか!」
「はい? 聞いています」
親父の鬚面が目の前にあった。クスクスと弟どもの忍び笑いが聞こえる。勝手に笑うがいい。だが、親父の渋面からは逃れられそうにない。
「お前もいずれ、わしの後を継いで人々を導かねばならない立場なのだぞ。こうして知識を教える機会も滅多にないのだから、少しは身を入れて聞け。全く、母親に似たのは顔だけだな。体ばかり大きくなりおって。あれはもっと勤勉だったぞ」
「すみません」
後が煩いので、取り敢えず謝っておく。死んだ母親のことまで引き合いに出さなくてもいいのに。母はここシュラボス島の出身ではない。
どこから来たのか、太陽の光のような髪を持ち、雪花石膏のような肌をしていたという。
母の顔は覚えていない。親父は俺を母似だと言うが、俺の髪は茶色がかった黒色で、肌の色も中途半端な小麦色だ。とても似ているとは思えない。
理想的なシュラボス島人の外見を持つ弟どもが何かにつけて俺を笑い者にしようとするのも理屈では納得できた。
だが、理屈と感情は別物だ。腹違いの弟どもの笑いはもう聞こえてこないが、心の中では未だ笑っているに違いない。あいつらが何と言おうと、親父の後継ぎは俺だ。
いずれ俺の代になったら、今まで馬鹿にされた分、たっぷりとお返ししてやる。
最初、それは空の汚れのようにも見えた。
明るく晴れ渡った空、ところどころに浮ぶ真っ白な雲とは相容れない色が漠然と空の一角に存在していた。
汚れは移動もせず、形を変えるでもなく、その場に留まっていた。鳥が羽ばたきながら上昇して汚れに突っ込んだ。
途端に鳥は失速して墜落した。
汚れは暫く鳥のいた空間の周りで蟠っていた。
それから徐々に高度を下げながら凝集し、いくつかの塊に分かれた。汚れは煤が舞い上がったような形をしていた。明確な輪郭はないものの、意思を持っているかのように、徐々に何かの形を取りつつあった。
別の鳥が、空を横切って塊にぶつかった。塊は鳥を撥ね返し、鳥は失速して落下した。塊は或いは山へ、或いは海へ移動し、沈んだ。
山から、海から、黒ずんだ灰色の塊が隆起した。手足が二本ずつ生えていた。
「おおう、おう」
怪物は哭した。
「おおう、おう」
山から、海から木霊のように同じ音が返ってきた。
世界は二つしかなかった
眠い。
「世界はこの世とあの世に分かれており、あの世を治める神を冥王という。死の神は冥王の子である」
こんな講義はつまらない。何の役にも立たない。
「この世を治めるのは日の御子であり、日の御子は天の子である」
昨夜の女はよかった。何という名だったか。
「その他の神は全部で七柱あり、火神・風神・水神・地神と鳥神・獣神・魚神と呼ばれる。前四柱は精霊を、残りはそれぞれの生物を統括している」
まあいい。とにかく柔らかい体だった。特に胸がふかふかして、気持ち良かった。女はふくよかに限る。若ければよいというものでもない。
「これらの神を日の御子や死の神と区別して、霊神と呼ぶ場合も……エウドクシス」
あの白くてふかふかした豊満な。ああ、考えただけで幸せな気分になる。
「エウ・ドク・シス!聞いているのか!」
「はい? 聞いています」
親父の鬚面が目の前にあった。クスクスと弟どもの忍び笑いが聞こえる。勝手に笑うがいい。だが、親父の渋面からは逃れられそうにない。
「お前もいずれ、わしの後を継いで人々を導かねばならない立場なのだぞ。こうして知識を教える機会も滅多にないのだから、少しは身を入れて聞け。全く、母親に似たのは顔だけだな。体ばかり大きくなりおって。あれはもっと勤勉だったぞ」
「すみません」
後が煩いので、取り敢えず謝っておく。死んだ母親のことまで引き合いに出さなくてもいいのに。母はここシュラボス島の出身ではない。
どこから来たのか、太陽の光のような髪を持ち、雪花石膏のような肌をしていたという。
母の顔は覚えていない。親父は俺を母似だと言うが、俺の髪は茶色がかった黒色で、肌の色も中途半端な小麦色だ。とても似ているとは思えない。
理想的なシュラボス島人の外見を持つ弟どもが何かにつけて俺を笑い者にしようとするのも理屈では納得できた。
だが、理屈と感情は別物だ。腹違いの弟どもの笑いはもう聞こえてこないが、心の中では未だ笑っているに違いない。あいつらが何と言おうと、親父の後継ぎは俺だ。
いずれ俺の代になったら、今まで馬鹿にされた分、たっぷりとお返ししてやる。
最初、それは空の汚れのようにも見えた。
明るく晴れ渡った空、ところどころに浮ぶ真っ白な雲とは相容れない色が漠然と空の一角に存在していた。
汚れは移動もせず、形を変えるでもなく、その場に留まっていた。鳥が羽ばたきながら上昇して汚れに突っ込んだ。
途端に鳥は失速して墜落した。
汚れは暫く鳥のいた空間の周りで蟠っていた。
それから徐々に高度を下げながら凝集し、いくつかの塊に分かれた。汚れは煤が舞い上がったような形をしていた。明確な輪郭はないものの、意思を持っているかのように、徐々に何かの形を取りつつあった。
別の鳥が、空を横切って塊にぶつかった。塊は鳥を撥ね返し、鳥は失速して落下した。塊は或いは山へ、或いは海へ移動し、沈んだ。
山から、海から、黒ずんだ灰色の塊が隆起した。手足が二本ずつ生えていた。
「おおう、おう」
怪物は哭した。
「おおう、おう」
山から、海から木霊のように同じ音が返ってきた。
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