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第一部 第一章 エウドクシスの哀歓
3 魚神と鳥神
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ソリス王の元を去ったデリムは、レグナエラ王国から南へ広がる半島を西回りに調べることにして、半島の西岸へ到着した。
背後に連なる低い丘陵地帯から、朝の最初の光が海を微かに照らし始めていた。港から遠く、ごつごつとした岩肌が続く夜明けの海辺には誰もいない。
穏やかに打ち寄せる波の向こうには、ハルニラ群島の島影が黒く浮んでいた。
「ピスキスを呼ぶにはまだ早いか」
「誰です、私の名を呼ぶのは?」
振り向いたデリムの前に、イルカの頭をした魚神が現れた。衣装からはみ出す手足は、人間のものである。魚神は、デリムを上から下までじろじろ眺めて首を傾げた。丸く滑らかな頭が、丁度海岸まで差し込んできた朝日を受けて、きらりと光った。
「私の名を知るのは、神々だけの筈ですが、あなたは私の知る神々のどなたにも似ていませんね。ひょっとして人間ですか?」
「デリムと言う。日の御子の命を受けて調べ事をしている。協力してもらえまいか」
デリムは正体を明かさなかったが、魚神は納得したようだった。黒いつぶらな瞳を誠実そうに煌かせ、承諾の印に何度か丸い頭を上下させた。
「日の御子のご命令とあれば従います。どのようなお調べでしょうか」
「このところ地上に現れるという怪物の噂を聞いた事はあるか」
魚神は突き出した口の下に片手を当て、記憶を辿っているようだった。やがて何か思いついたらしく、口の下に当てていた手で滑らかな頭をぽんと叩いた。
「デリムさんがおっしゃるのは、多分黒っぽい大きな塊のことですね。ええ、海の魚たちが何度か見ているようです。あんまり動かないので、最初は新しい島かと思ったようです。確か、ここよりも南方の海でした」
「ユノス辺りだろうか」
「さて、人間のつけた地名は我々には判り辛いので」
魚神は困ったように首を傾げた。
「ありがとう。また呼び出すことがあるかもしれぬが、その時は協力してくれ」
「お役に立てれば嬉しゅうございます」
魚神はデリムの目の前で掻き消えた。一際大きな波が、岩に当って砕け散り、飛沫がデリムのいる場所まで撥ねた。
ユノスへ行く前に、デリムは近くにある人気のない大きな山へ登り、もう一度風神を呼び出してみた。
「空にいるもの、風を司るものよ。汝の存在を知るデリムが命じる。風の勾玉を持つアウラエよ、我が元へ来れ」
まだ冬の足跡を残している草木もまばらな山頂には、風が吹くばかりで風神は一向に現れなかった。風の精霊は、デリムの風神への呼びかけを気にせず、好き勝手に飛び回っている。デリムは一旦腕を下ろした。風の精霊に紛れて鳥神が、小鳥の群れを引き連れて忙しげに横切って行った。
「おい、ヴォルクリス」
びっくりしたように鳥神は空中で止まり、辺りを見回した。小鳥の群れはそのまま飛び去った。山の戴きでデリムが手招きしているのに気付き、警戒しながらも近寄ってきた。鳥神は白鳩の頭と羽根を持ち、その他に人間の手足を持っていた。いつでも逃げられるように空中で羽ばたきながら、デリムを上から下までじろじろ観察し、嘴を開けた。
「今、私の名前を呼んだな。私の姿が見えるのか、私の声が聞こえるのか」
「姿も見えるし、声も聞こえる。私はデリム。日の御子の命で調べ事をしている。協力してもらえまいか」
鳥神は高度を少しだけ下げたが、まだ空中で羽ばたくのを止めない。小首を傾げてクックッと喉を鳴らした。
「先ほど風神を呼んでいたのもお前か。もし、そうなら風神の名前を言え。名前を言えれば信用してもよい。人間は嘘をつくから、簡単には信用できない」
「風神の名はアウラエだ。忙しい神々を呼び止めて申し訳ないが、一つ協力してもらいたい」
鳥神は漸く山頂に降り立ち、羽根を畳んだ。デリムが下手に出たせいか、気をよくした様子であった。
「風神や火神と違って、私はきっちり仕事をするからな。まして日の御子の命とあらば、協力しない訳にもいくまい。それで、どのような事をすればよいのだ」
「近頃、正体不明の怪物が地上に出現しているという噂がある。ヴォルクリス殿は耳にしたことがあるか」
同意の印か、小さな白い頭が激しく前後した。鳥神は何度もまばたきをし、喉を鳴らした挙句に漸く口を開いた。
「まさに、その為に私が忙しいのだ。あの黒っぽい怪物は、ほとんど動かないから鳥たちは岩と間違えて警戒しないのだ。避けるならば岩と思い込んでいても構わないが、止まろうとして食われた奴らが相当いる。開いた口を岩穴と勘違いするのだな。鳥が入ったところで口を閉じれば一巻の終わりだ。一旦入ったら出てこないのだから、あれは食われたとしか言いようがない」
「どの辺りにいる? 何体もいるのか?」
鳥神は小首を傾げた。小さな眼をぱちぱちさせ、腕組をしながら少しだけ考えていたが、やがて首を元の位置に戻した。
「海上に島のように突っ立っているのもいるが、もっと南方にある大きな島の内陸でも見たという話を聞いたことがある。一体ではないだろう。私の見たところ、少しずつこちらへ近付いてきているようだ。こんなところでよいか。私は忙しいのだ」
鳥神は今にも飛び立たんばかりに白い羽根を広げた。
「ついでに、風神と火神がヴォルクリス殿のように仕事をしないというのは、どういうことなのか聞きたい」
「ああ、そんな事は簡単だ。風神と火神は夫婦の真似事をして楽しんでいるのだ。神々が下々の真似をして何が面白いのか。お蔭で近頃、風向きが変ってきているのに気付かないか? トリニ島では山の火が見張りを失って、不満を溜め込んでいるそうだ。雨もないのにいたずらに稲妻が走るのも、火神が風神に己の力を誇示しているからだ。お前が風神をいくら呼んでも来ない訳だ。日の御子にきつくお叱りいただかなくては収まるまい。だが私から聞いたとは言うな。さて、忙しい私は去るぞ」
白い羽根が力強く羽ばたいたかと思うと、鳥神はあっという間に大空へ飛び立った。デリムは引き止めなかった。
波の音がする。船が揺れる。櫂が波を掻き分ける音が聞こえる。船が揺れる度に、俺の入った木箱が船底を擦る。
俺の他に二、三人乗っている筈だが、誰も口を利かなかった。
空気穴をイニティカに蜜ろうで塞がれたので、外の様子を隙見することもできない。尤も夜明け前らしいから、穴が開いていたところで見られなかっただろう。
屋敷から出る時、意外にも親父が見送りに出てきた。
「可哀想なエウドクシス、許せ」
謝るぐらいなら、ここから出せ、と言いたかったが、抗議の身動き一つ出来なかった。親父が一声かけなければ、誰も俺を助けないというのに。
親父はイニティカに惚れて尻に敷かれているのだ。俺が死んでも他に親父の血を引いた息子が残っていることを考えれば、イニティカを失うより俺を失った方がまし、と判断したのだろう。
俺は荷車に積まれて海辺まで運ばれ、小舟に積み替えられて海上に漕ぎ出された。
「あれ、あんなところに島なんてあったかな」
どの位時間が経ったのかわからない。船に乗っている親父の手下の誰かが言った。
「イア島じゃないのか」
「それはもう、過ぎた」
「ハシレ島に着くにはまだ早いよな」
「俺の目論見では、そっちの方向には進んでいない」
船は急に騒がしくなった。話の様子では、俺の他には二人しか乗っていないらしい。俺は身動き出来ないのだから、まずそんなところであろう。
そのうち、船の動きが止まった。ごんごんと船の縁が固い物にぶつかる音がする。何処かの島の岸壁にでも漕ぎ寄せたらしい。
いよいよ海へ放り出されるのか。二人は相変わらず話を止めない。
「こんな島は、見た事ないぞ。すべすべしている」
「旦那様は、何処か適当な島へ流れ着くようにとおっしゃっていたが、奥方様は西の大きな海へ流すようにおっしゃって、俺達にこっそり銀をくださった。俺達、旦那様は裏切りたくないが、先に礼を受け取った以上、奥方様の願いも無下にできない。ここが何処だかわからないのなら、それが冥王様の思し召しというものだろう。ここで流せば、どちらも裏切ったことにならない」
「それもそうだな」
相談がまとまって、櫂を船の中に置く音がした。
「やけに船が揺れる。ひっくり返らないように気をつけろ」
「よいしょ。結構重いな」
頭と足の両端に手がかかり、木箱がゆっくりと持ち上げられた。片方がよろめいて、木箱がぐらりと傾いた。
「おい、危ないじゃないか」
「ちょっと一旦下ろせ」
木箱はどしんと船底に下ろされた。
「何だよ、さっさと片付けちまおうぜ」
「この岩、動いている」
「ええっ? あ、本当だ。わあっ!」
ぐうっと、空中に浮き上がったような感覚があった。
と、すぐに木箱は傾き、急激に落下して波に沈んだ。他にも二、三何かが海面を叩く音が聞こえた。俺は木箱の中で蓋に叩き付けられた。頑丈な蓋はそんなことでは開かなかった。
「助けてくれえ! 俺は泳げないんだああ!」
「何かに掴まれ! あぷっ」
どうやら船ごと何かに持ち上げられ、海に落ちたようであった。
助けてやってもよかったが、木箱に収まっていて外の様子もわからなかった。そもそも俺は睫毛一本動かせない。
一旦波に沈んだ木箱は、その後浮上して波間を漂っているらしく、耳元でちゃぷちゃぷと波の音がはっきりと聞こえるようになった。
海に投げ出された親父の手下達は、暫くてんでに叫んでいたが、そのうち静かになった。
船によじ登ったのか、それとも海中に溺れたのか、俺にはわからなかった。
もう、彼らのことはどうでもよかった。
背後に連なる低い丘陵地帯から、朝の最初の光が海を微かに照らし始めていた。港から遠く、ごつごつとした岩肌が続く夜明けの海辺には誰もいない。
穏やかに打ち寄せる波の向こうには、ハルニラ群島の島影が黒く浮んでいた。
「ピスキスを呼ぶにはまだ早いか」
「誰です、私の名を呼ぶのは?」
振り向いたデリムの前に、イルカの頭をした魚神が現れた。衣装からはみ出す手足は、人間のものである。魚神は、デリムを上から下までじろじろ眺めて首を傾げた。丸く滑らかな頭が、丁度海岸まで差し込んできた朝日を受けて、きらりと光った。
「私の名を知るのは、神々だけの筈ですが、あなたは私の知る神々のどなたにも似ていませんね。ひょっとして人間ですか?」
「デリムと言う。日の御子の命を受けて調べ事をしている。協力してもらえまいか」
デリムは正体を明かさなかったが、魚神は納得したようだった。黒いつぶらな瞳を誠実そうに煌かせ、承諾の印に何度か丸い頭を上下させた。
「日の御子のご命令とあれば従います。どのようなお調べでしょうか」
「このところ地上に現れるという怪物の噂を聞いた事はあるか」
魚神は突き出した口の下に片手を当て、記憶を辿っているようだった。やがて何か思いついたらしく、口の下に当てていた手で滑らかな頭をぽんと叩いた。
「デリムさんがおっしゃるのは、多分黒っぽい大きな塊のことですね。ええ、海の魚たちが何度か見ているようです。あんまり動かないので、最初は新しい島かと思ったようです。確か、ここよりも南方の海でした」
「ユノス辺りだろうか」
「さて、人間のつけた地名は我々には判り辛いので」
魚神は困ったように首を傾げた。
「ありがとう。また呼び出すことがあるかもしれぬが、その時は協力してくれ」
「お役に立てれば嬉しゅうございます」
魚神はデリムの目の前で掻き消えた。一際大きな波が、岩に当って砕け散り、飛沫がデリムのいる場所まで撥ねた。
ユノスへ行く前に、デリムは近くにある人気のない大きな山へ登り、もう一度風神を呼び出してみた。
「空にいるもの、風を司るものよ。汝の存在を知るデリムが命じる。風の勾玉を持つアウラエよ、我が元へ来れ」
まだ冬の足跡を残している草木もまばらな山頂には、風が吹くばかりで風神は一向に現れなかった。風の精霊は、デリムの風神への呼びかけを気にせず、好き勝手に飛び回っている。デリムは一旦腕を下ろした。風の精霊に紛れて鳥神が、小鳥の群れを引き連れて忙しげに横切って行った。
「おい、ヴォルクリス」
びっくりしたように鳥神は空中で止まり、辺りを見回した。小鳥の群れはそのまま飛び去った。山の戴きでデリムが手招きしているのに気付き、警戒しながらも近寄ってきた。鳥神は白鳩の頭と羽根を持ち、その他に人間の手足を持っていた。いつでも逃げられるように空中で羽ばたきながら、デリムを上から下までじろじろ観察し、嘴を開けた。
「今、私の名前を呼んだな。私の姿が見えるのか、私の声が聞こえるのか」
「姿も見えるし、声も聞こえる。私はデリム。日の御子の命で調べ事をしている。協力してもらえまいか」
鳥神は高度を少しだけ下げたが、まだ空中で羽ばたくのを止めない。小首を傾げてクックッと喉を鳴らした。
「先ほど風神を呼んでいたのもお前か。もし、そうなら風神の名前を言え。名前を言えれば信用してもよい。人間は嘘をつくから、簡単には信用できない」
「風神の名はアウラエだ。忙しい神々を呼び止めて申し訳ないが、一つ協力してもらいたい」
鳥神は漸く山頂に降り立ち、羽根を畳んだ。デリムが下手に出たせいか、気をよくした様子であった。
「風神や火神と違って、私はきっちり仕事をするからな。まして日の御子の命とあらば、協力しない訳にもいくまい。それで、どのような事をすればよいのだ」
「近頃、正体不明の怪物が地上に出現しているという噂がある。ヴォルクリス殿は耳にしたことがあるか」
同意の印か、小さな白い頭が激しく前後した。鳥神は何度もまばたきをし、喉を鳴らした挙句に漸く口を開いた。
「まさに、その為に私が忙しいのだ。あの黒っぽい怪物は、ほとんど動かないから鳥たちは岩と間違えて警戒しないのだ。避けるならば岩と思い込んでいても構わないが、止まろうとして食われた奴らが相当いる。開いた口を岩穴と勘違いするのだな。鳥が入ったところで口を閉じれば一巻の終わりだ。一旦入ったら出てこないのだから、あれは食われたとしか言いようがない」
「どの辺りにいる? 何体もいるのか?」
鳥神は小首を傾げた。小さな眼をぱちぱちさせ、腕組をしながら少しだけ考えていたが、やがて首を元の位置に戻した。
「海上に島のように突っ立っているのもいるが、もっと南方にある大きな島の内陸でも見たという話を聞いたことがある。一体ではないだろう。私の見たところ、少しずつこちらへ近付いてきているようだ。こんなところでよいか。私は忙しいのだ」
鳥神は今にも飛び立たんばかりに白い羽根を広げた。
「ついでに、風神と火神がヴォルクリス殿のように仕事をしないというのは、どういうことなのか聞きたい」
「ああ、そんな事は簡単だ。風神と火神は夫婦の真似事をして楽しんでいるのだ。神々が下々の真似をして何が面白いのか。お蔭で近頃、風向きが変ってきているのに気付かないか? トリニ島では山の火が見張りを失って、不満を溜め込んでいるそうだ。雨もないのにいたずらに稲妻が走るのも、火神が風神に己の力を誇示しているからだ。お前が風神をいくら呼んでも来ない訳だ。日の御子にきつくお叱りいただかなくては収まるまい。だが私から聞いたとは言うな。さて、忙しい私は去るぞ」
白い羽根が力強く羽ばたいたかと思うと、鳥神はあっという間に大空へ飛び立った。デリムは引き止めなかった。
波の音がする。船が揺れる。櫂が波を掻き分ける音が聞こえる。船が揺れる度に、俺の入った木箱が船底を擦る。
俺の他に二、三人乗っている筈だが、誰も口を利かなかった。
空気穴をイニティカに蜜ろうで塞がれたので、外の様子を隙見することもできない。尤も夜明け前らしいから、穴が開いていたところで見られなかっただろう。
屋敷から出る時、意外にも親父が見送りに出てきた。
「可哀想なエウドクシス、許せ」
謝るぐらいなら、ここから出せ、と言いたかったが、抗議の身動き一つ出来なかった。親父が一声かけなければ、誰も俺を助けないというのに。
親父はイニティカに惚れて尻に敷かれているのだ。俺が死んでも他に親父の血を引いた息子が残っていることを考えれば、イニティカを失うより俺を失った方がまし、と判断したのだろう。
俺は荷車に積まれて海辺まで運ばれ、小舟に積み替えられて海上に漕ぎ出された。
「あれ、あんなところに島なんてあったかな」
どの位時間が経ったのかわからない。船に乗っている親父の手下の誰かが言った。
「イア島じゃないのか」
「それはもう、過ぎた」
「ハシレ島に着くにはまだ早いよな」
「俺の目論見では、そっちの方向には進んでいない」
船は急に騒がしくなった。話の様子では、俺の他には二人しか乗っていないらしい。俺は身動き出来ないのだから、まずそんなところであろう。
そのうち、船の動きが止まった。ごんごんと船の縁が固い物にぶつかる音がする。何処かの島の岸壁にでも漕ぎ寄せたらしい。
いよいよ海へ放り出されるのか。二人は相変わらず話を止めない。
「こんな島は、見た事ないぞ。すべすべしている」
「旦那様は、何処か適当な島へ流れ着くようにとおっしゃっていたが、奥方様は西の大きな海へ流すようにおっしゃって、俺達にこっそり銀をくださった。俺達、旦那様は裏切りたくないが、先に礼を受け取った以上、奥方様の願いも無下にできない。ここが何処だかわからないのなら、それが冥王様の思し召しというものだろう。ここで流せば、どちらも裏切ったことにならない」
「それもそうだな」
相談がまとまって、櫂を船の中に置く音がした。
「やけに船が揺れる。ひっくり返らないように気をつけろ」
「よいしょ。結構重いな」
頭と足の両端に手がかかり、木箱がゆっくりと持ち上げられた。片方がよろめいて、木箱がぐらりと傾いた。
「おい、危ないじゃないか」
「ちょっと一旦下ろせ」
木箱はどしんと船底に下ろされた。
「何だよ、さっさと片付けちまおうぜ」
「この岩、動いている」
「ええっ? あ、本当だ。わあっ!」
ぐうっと、空中に浮き上がったような感覚があった。
と、すぐに木箱は傾き、急激に落下して波に沈んだ。他にも二、三何かが海面を叩く音が聞こえた。俺は木箱の中で蓋に叩き付けられた。頑丈な蓋はそんなことでは開かなかった。
「助けてくれえ! 俺は泳げないんだああ!」
「何かに掴まれ! あぷっ」
どうやら船ごと何かに持ち上げられ、海に落ちたようであった。
助けてやってもよかったが、木箱に収まっていて外の様子もわからなかった。そもそも俺は睫毛一本動かせない。
一旦波に沈んだ木箱は、その後浮上して波間を漂っているらしく、耳元でちゃぷちゃぷと波の音がはっきりと聞こえるようになった。
海に投げ出された親父の手下達は、暫くてんでに叫んでいたが、そのうち静かになった。
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もう、彼らのことはどうでもよかった。
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