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第二部 第二章 地峡カーンサス
4 デルフィニウスの判断
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「ここで殺すのか。それとも、王子の前で断罪するのか」
「お前は殿下のお気に入りで、しかも弁が立つからなあ」
わざとらしくのんびりした口調で、表情は勝ち誇るデルフィニウスが目を細める。エウドクシスは静かに息を吸い込み、遮られないよう口早に言葉を吐き出した。
「手っ取り早く言うが、メリディオンが攻めてくるのは今夜だ。あんたに俺は殺せないし、俺は優秀な隊長であるあんたを殺したくない。でも、どうしても俺と戦いたいのなら、アゲに戻ってから試合をしよう。なんなら王子には内緒にして、バラエナス隊長を加えてもいい。どうする?」
明らかに予想と異なる反応に、デルフィニウスは混乱したようだった。もごもごと口の中で意味不明の言葉を転がし、呆然と目を見開いたまま、エウドクシスを見る。
指揮官が動かないので、部下も互いに顔を見合わせ戸惑うばかりである。部下の視線に気付いたのか、デルフィニウスが頬を撫で、表情を引き締めた。ようやく正気に戻ったようだ。
「メリディオンが今夜攻めてくるって? 確かか」
「そう」
「何をしているんだ、さっさと服を着ろ」
今度はエウドクシスが呆然とする番だった。その様子を見て、デルフィニウスは幾分か溜飲を下げたようである。にやりとして付け加える。
「素っ裸じゃ他の連中が不審に思うだろう? お前の言う事が万が一本当なら、仲間割れしている場合じゃない。詮議は後からでも間に合うからな」
デルフィニウスが、連れてきた部下達にも今見た事を口外しないよう命じる間に、エウドクシスはそそくさと服を身に着けた。
彼らは鎧を纏っており、エウドクシスが服を脱いでいた理由には気付いていないようであった。
支度が終わると、彼らはエウドクシスを囲み、もと来た藪の中を戻って行った。前後を人に囲まれていたせいか、道へ出た時にも、彼の衣服はまずまず無事だった。
一同無言で行進を続け、アゲの町が眼前に見えたところで、エウドクシスが見えない何かに耳を傾けるような、奇妙な素振りを見せた。
「どうした?」
「気付かれた、かもしれねえ」
「何を言っているんだこいつ」
後ろについていた兵士がエウドクシスを小突いた。彼はされるがままによろけつつ、巧みに囲みから離れた。そして真っ直ぐに腕を伸ばし、真横を指差した。一同つられて彼の指す方向に頭を巡らせる。
アゲの西側は、東側と異なり未開の平原が広がる荒地だった。その向こうには、険しい山が聳え立っている。
平原には、羊や山羊にも食み切れなかった硬い草木が乾燥に耐えて残り、あるいは負けて立ち枯れていた。
山の麓と平原の境目辺り、風もないのに、平原の草木が微妙に揺れている。焦点を合わせるのが難しいほど遠い距離である。野生の動物かもしれない。気の迷いかもしれない。
「斥候を出してみよう。いずれにしても、一旦町へ戻るんだ。ここでは敵軍から丸見えだ」
デルフィニウスはエウドクシスを囲みに戻し、一同を急がせた。誰も口を利かない。そして今や誰も、エウドクシスを罪人扱いしなかった。
「お前は殿下のお気に入りで、しかも弁が立つからなあ」
わざとらしくのんびりした口調で、表情は勝ち誇るデルフィニウスが目を細める。エウドクシスは静かに息を吸い込み、遮られないよう口早に言葉を吐き出した。
「手っ取り早く言うが、メリディオンが攻めてくるのは今夜だ。あんたに俺は殺せないし、俺は優秀な隊長であるあんたを殺したくない。でも、どうしても俺と戦いたいのなら、アゲに戻ってから試合をしよう。なんなら王子には内緒にして、バラエナス隊長を加えてもいい。どうする?」
明らかに予想と異なる反応に、デルフィニウスは混乱したようだった。もごもごと口の中で意味不明の言葉を転がし、呆然と目を見開いたまま、エウドクシスを見る。
指揮官が動かないので、部下も互いに顔を見合わせ戸惑うばかりである。部下の視線に気付いたのか、デルフィニウスが頬を撫で、表情を引き締めた。ようやく正気に戻ったようだ。
「メリディオンが今夜攻めてくるって? 確かか」
「そう」
「何をしているんだ、さっさと服を着ろ」
今度はエウドクシスが呆然とする番だった。その様子を見て、デルフィニウスは幾分か溜飲を下げたようである。にやりとして付け加える。
「素っ裸じゃ他の連中が不審に思うだろう? お前の言う事が万が一本当なら、仲間割れしている場合じゃない。詮議は後からでも間に合うからな」
デルフィニウスが、連れてきた部下達にも今見た事を口外しないよう命じる間に、エウドクシスはそそくさと服を身に着けた。
彼らは鎧を纏っており、エウドクシスが服を脱いでいた理由には気付いていないようであった。
支度が終わると、彼らはエウドクシスを囲み、もと来た藪の中を戻って行った。前後を人に囲まれていたせいか、道へ出た時にも、彼の衣服はまずまず無事だった。
一同無言で行進を続け、アゲの町が眼前に見えたところで、エウドクシスが見えない何かに耳を傾けるような、奇妙な素振りを見せた。
「どうした?」
「気付かれた、かもしれねえ」
「何を言っているんだこいつ」
後ろについていた兵士がエウドクシスを小突いた。彼はされるがままによろけつつ、巧みに囲みから離れた。そして真っ直ぐに腕を伸ばし、真横を指差した。一同つられて彼の指す方向に頭を巡らせる。
アゲの西側は、東側と異なり未開の平原が広がる荒地だった。その向こうには、険しい山が聳え立っている。
平原には、羊や山羊にも食み切れなかった硬い草木が乾燥に耐えて残り、あるいは負けて立ち枯れていた。
山の麓と平原の境目辺り、風もないのに、平原の草木が微妙に揺れている。焦点を合わせるのが難しいほど遠い距離である。野生の動物かもしれない。気の迷いかもしれない。
「斥候を出してみよう。いずれにしても、一旦町へ戻るんだ。ここでは敵軍から丸見えだ」
デルフィニウスはエウドクシスを囲みに戻し、一同を急がせた。誰も口を利かない。そして今や誰も、エウドクシスを罪人扱いしなかった。
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