歩いたの!?

バルバルージュ

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したいが消えた!? 前編

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 沖田と北野と里田と河江はクズだ。

 四人とも中学生なのにタバコを吸うし暴力にまみれる。盗みも平気でするし食い逃げも常習犯。だけど唯一、殺人罪はしていない。しかし逆に言えば殺人罪以外はやっているのだ。

「はら減ったなおい」
「おめえは一昔前の少年漫画主人公かこのやろ~」
「お前もなんかそういう口調の少年漫画の主人公の真似してねえか? てかそれ女子の間で流行ってるよな。なんのアニメかは知らねえけど」
「こん中で女子にビビってる奴いる~? いねぇよなあ!?」
「最強キャラじゃん。僕、最強だからわかるんだ」
「白髪身長百八十センチ超えてからいえや里田くんよ~」
「ンハハハハ!! あ~分かっちゃいます~?」

 三人は里田のその笑い声が嫌いだった。なんなら世界の中で一番何が嫌いかと言われたら里田の笑い声だと言うほど嫌いであった。中には殺したいとか考えている人もいる。

「あ、だれか来たんじゃね?」

 北野の言葉に全員反応した。

 四人は車の中にいた。

 ドライブということで北野がレンタカーを借りて運転して山の中にいた。

 どこの山か分からない。

 北野は中学生にも関わらず百八十を悠に超していた。フィクションかもしれないがそんな中学生もいる。北野の場合は小学四年生からそんな感じで大人に見えたのだ。そして性根が腐っている。そうなるのは時間の問題だった。
 因みにパチンコにも行っている。

 ついでにレンタカーに乗る時、北野は親戚のお兄さんだというようにしようということで、みんな北野にい、とか慕っているフリをして、車の中で大爆笑していた。

 そんな彼らの車の前に誰かが来た。

 正確には、何人かの男たちがやってきた。

「ん? あいつらって……」

 その男たちのことを四人は知っていた。一人は山下といういじめられっ子でその他の奴は全員いじめっ子だった。
 鈴木という横暴な生徒を中心に六人でやっていた。

「お? あいつらここに何しにきたんだ?」
「いじめだろどーせ」
「ていうさ俺らここまできたのに、どうやって来たんだ?」
「まあいつもどーりだな。ご愁傷さま」
「え~? 見捨てるんですか~? かわいそ~」
「だったらてめ~が行けや」
「「そ~だそ~だぁ、いけいけよ」」
「う~ん、遠慮しときま~す!!」

 ギャハハハハハハ!!!
 沖田と北野と里田と河江はクズだ。
 当然の如く笑う。

「あ、まてまてまてまて、これ楽しい……良いこと思いついた」

 すると河江は何かゴソゴソし始めた。
 三人が何だと思っていると、河江はスマホの脚立を用意して、そこにスマホを乗せた。
 三人は手を叩いて笑った。
 お主も悪よの~、などと揶揄ったりもしていた。

 河江はなんといじめを動画として撮影しようとしたのだ。

 四人はうまくやれば俺たち英雄じゃね? みたいなことを言い合い嗤う。
 クズがクズを笑っている悪しき社会だ。

 そのまま動画を開始。

 するともういじめは始まっていた。

 まさにリンチだ。

 山下を囲み足蹴りをしていた。
 山下は手で顔を抑えて耐えて、周りの男たちは嗤い声を上げながら蹴っている。こちらに嗤い声が聞こえて来た。

 しばらく四人もそれを見て馬鹿にして嗤っていたがその内飽きて来た。
 しかし、四人はクズである。
 助けには行かずそのまま眠りそうになっていた。

 その時、男たちが山下から去っていった。

「ん? あいつらどっか行ったな」

「あ~? 帰ったんじゃね?」

「どうでも良いよ、うんどうでも」

「あれ? なんか見たことある奴が」

 その時、四人は眠気が一気に覚めて身を乗り出して目を見開いた。
 
 そこに来たのは、女子からは絶大な人気を誇る、すこし怪しいイケメン教師の 成井桜典 秀なりいさくらのり ひで先生であった。

「あのクソイケメンがなんでここに!?」

「し、バレるバレる」

「まあまあ、見てみようぜ、面白そうだしよ~」

「見応えありそう」

 この時、四人は本当は頭にあったはずの考えを敢えて見ないフリをしていた。
 存外、この型のクズは本質的には普通である。見てはいけないモノ、見たくないものは、見て見ぬフリして外野から嘲笑いネタにする。

 万事醜悪と言えることだが、残念ながらこれが普通の学生であり人間だ。

 そんなことはない、と言う人もいるかもしれないが、そういう人は周りの人間をよく見て欲しい。そして口に出す言葉や表情、声のイントネーション、笑い方、なんてのを目の当たりにすればこの時点でだれだってこれが普通だとわかる。それと自分の行動を振り返ってみよう。すると必ず自分も彼らと同じ行動をしていることに気づく。
 だが、普通は誰もしない。
 みんなそれに蓋をして、見て見ぬフリして友だちと手を取り笑い合う。
 そこから外れている人は初めから、いないことにすれば良い。

 彼らのように。

 道徳を学んできたはずなのに、普通はそんな道徳と真逆のことをする。
 そしてそれを良しとする。

 但し、自分たちの都合が悪い時は徹底的にその言葉に頼り相手を潰す。
 そう言うモノである。

 彼らは本当はそんな気がしていた。

 あの怪しいイケメン教師には何かあると。先生は山下に顔を近づけた。
 
 その時点で四人はギョッとした。
 嫌な予感がした次の瞬間、

 いじめ男の魔の手が山下を抑える。
 そしてその後は……。

 嬌声にも似た絶叫が四人の耳に入ってくる。目を逸らしたいのに目を逸らすことができない。目を逸らしたらヤバいんじゃないか、と思ったからだ。

 そのまま教室の凄惨な淫行を見ていた。

 一時間後、事態が変わった。

 山下が動かなくなったのだ。
 全ての体の機能を失ったように動かない。
 男と教師たちが一気に慌てふためいた。
 あたりをキョロキョロ見ている。
 本当はそこで頭を下げなければいけないが四人は頭を下げなかった。

 運が良く四人は見つからなかった。
 そのうち男たちはどこかへ行った。
 山下を置いて。

「おい、やべえよ……これやべえよ」

「なあ、やべえよ」

「まずいですよね」

「死体、持ち帰ろうぜ」

 三人は一瞬、河江の言葉を、疑った。

「な、何言ってんだよお前」

「行く」

 三人が止めようとする前に河江は車から飛び出す。

 そしてあっという間に、冷たくなった山下を乗せる。

 三人はヤバいヤバい言いながら抗議するも河江はそれを聞き入れない。
 そのまま車の後ろに回す。

 三人はあまりの冷たさに気が滅入る。

「出発するぞ早く行け!!」

 誰のせいだと思いながら北野は発車した。

「死体あるよな、動いてねえよな」

「ああ、動いてねえけどこれどうすんだよ」

「あ? 知らねえ」

「はぁ?! お前何も考えねえでこんなもん持って帰ったのかよ!! てかレンタカーだぞどうすんだ!!」

「馬鹿野郎!! 俺は俺がクズだと分かっているけど、こんなの許しちゃいけねえんだそれだけはわかってる!!!」

(((だったらお前だけ立ち向かってくれよ)))

 三人はそう思った。

 そのまま暗澹たる思いをそれぞれ四人は抱きながらレンタカーに返すことにする。

 しかし途中どうすれば良いか分からなくなり、とりあえず誰もいなさそうな所だということでなぜか廃病院に車を止め、四人は出て河江の提案で廃病院を回ることにした。三人は河江がとんでもない提案をしたことから河江が怖くなり従うことしかできなかった。
 河江がらなにかやって来たら三人でなんとかすれば良いのだがそれでも嫌だった。

 なぜなら河江を殺してしまう場合もあるからだ。この四人には、全員で楽しく過ごすという硬い友情がある。
 楽しくなくなったらそれで終わりである。今はほぼ楽しくない。故にほぼ終わっていた。
 河江を殺したら自分が犯罪者になるのではないかと思っていたが、もしも河江を殺すことになれば三人で後腐れなく殺そう、と思っていた。

 四人はどうすんだどうすんだと、全く内容がない、ある意味いつもの会話をしているだけでこの場は終わった。

 本当にどうしよう、ということで車に戻り、河江が車の後ろの鍵を開けた時だ。

「あ? なんだこりゃ」

 また厄介なことが起きたのかと思い三人が覗き込むと、信じられない事実が映る。

 そこにさっきまであった死体はなかった。




 
 

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