読書部の日常〜ポンコツ系美少女な部長とただ駄弁るだけの不毛なる学園生活〜

ジェロニモ

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クラス異世界召喚物に備えて鞄に入れる物について(実践編)合宿ニ日目 ②

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「ふぅ。最近雨が降ってなくてよかったですね。濡れた木を燃やすのって大変って聞きますし。」

「それにしても結構木ってチクチクするわね。これは準備の項目に軍手を付け加えるべきかしら。」

 部長が手を顎に添えてブツブツと呟いている。
 全身ジャージに軍手を着用した部長と隅田さんの姿を想像するとちょっと笑える。ジャージ軍手とか、むしろ女子力高い。農業系女子って萌えるし。

『昨日は繊維っぽいふわふわした毛みたいのがあったけど、今日はありませんでしたね。』

「そうだね。でも、大きい枝なんかでも、ナイフで削って薄い木屑を作れば火種になるってサバイバル術の本に書いてあった気がする。」

 僕は懸命にかつて読んだ本を思い出すも、どうもおぼろげだ。読んだのは確か中学2年の頃だったか。

「あら、意外にも役に立ちそうな本を読んでたのね。てっきり萌え萌えした本しか読まないのかと思ってたのに。」
部長が目を丸めていた。

「なんで僕への印象が萌え豚固定なんですか。部長の前でそういう類の本そんなに読んでないでしょうに。」

 いつもの部長の偏見が始まったと思っていると、部長が勝ち誇ったように口角を上げた。

「今後輩君は私の前では読んでないと言った。つまり私の前以外では読んでいると言うことよ!はい論破~。」

 部長は顎をしゃくれさせて僕を煽ってくる。うざっ。けど本当のことなので反論もできない。
 部長ごときに完全敗北して項垂れていると、隅田さんがちょんちょんと肩を指で突いてきた。

振り向くと、

『萌えは良い文明です。』

という文面がスマホの画面に入力されている。
彼女の顔を見ると、サムズアップも共に力強く頷いた。

 僕は彼女とガシッと握手を交わす。そうだ。萌えがまるで恥ずかしいもののように言ってくる部長も、隠そうとする僕も間違っていた。そう、萌えは日本が世界に誇る良い文明である。
 隅田さん、僕の間違った認識を正してくれてありがとう。

「んん。そうです。僕は萌え萌えしてる本も好きですよ。だからこれからは萌え萌えした本も部長の前で読むことにします。」

「え? あ、うん。別にいいけれど。」

 唐突な僕の告白に、部長は戸惑ったようにそう答えた。

「僕がサバイバルの本を読んでたのは中二だったからですよ。やっぱり思春期になるとサバイバルだとか格闘技だとか、そこら辺への興味が湧くものなんですよ。まぁ実際に行動に移したことは一度もないですけど。」

 こんなこと出来たらなーって想像を膨らせるだけだった。
 
 まぁみんな思春期なんてそんなもんだよ。特に夏休みの初めの方なんかは「この休みの間に何か成し遂げてやる!」なんてやる気満々に思うけど、結局思うだけで気づいたら何もなし得ないまま学校が始まってたし。

 なんか思い出したら悲しくなってきた。僕は沈む心を浮き上がらせる為、現実世界に意識を集中する。

『私も体を鍛えよう勉強を頑張ろうとリア充共を越そうとし始めたのは中2の夏休みくらいからでした!』

 隅田さんが同志を見つけたとでも思ったのか、ニパッと笑顔になってスマホの画面をこちらに向けてきている。
 隅田さんは想像するだけじゃなくて、実行に移してきた人なんだろうなぁ。僕は今の彼女の高学歴高筋肉を思い返した。多分、それが努力というもの。動機とか方向性とか色々と迷子になっている気はしなくもないけど。

 そう考えると、1年生ながらこんな部を作り、2年時には必死で部員を勧誘していた部長も、想像を実行に移せる努力家なのかもしれない。その行動力だけは、僕も尊敬せざるを得ない。
 ただ、彼女らを見ていると、何もしてこなかった自分を見せつけられるようで正直複雑な心境だけど。

「じゃあはいナイフ。」

 部長から手のひらサイズのナイフが渡された。僕はそれでちまちまと枝を削る。
 しゅるるるると薄く剥がされた膜のような木屑が、くるくると巻かれていく。ある程度の量が集まったので、それをむしり取った。よく燃えそうな感じはする。

「着火方法は、きりもみ式と、ゆみきり式ってやつしか知りませんね。きりもみ式は、木の板に棒を立てて、手のひらで棒を挟む。それで、ひたすら棒をコマみたいに回して、木の板との摩擦で火種を作るやり方らしいです。ゆみきり式はきりもみ式の進化系みたいなので、ツル?みたいなのがあればできるらしいんですけど、もう忘れましたね。」

ということで、必然的に僕たちが取れる火種作りはきりもみ式ということになった。

「ようするに体育館みたいなツルツルした床で滑ると摩擦でめちゃくちゃ熱くなる、みたいなのの更にその先にいけばいいわけね。やってやろうじゃない。」

 部長は腕まくりをした。隅田さんも鼻息を噴出して前髪を浮かすと、同じように腕まくりをする。

1番手、部長。

 板っぽい木を下に敷くと木の棒を手のひらで挟んでスタンバイ。
隅田さんがパンッ!とよく響く拍手をして、部長は動いた。
 同時に、隅田さんのスマホがカウントダウンを始める。
 一人持ち時間5分毎でローテーションしながら火を起こすというルールを設定したのである。

「オラァァッシャァァ!」

と部長が到底女子の口から出していいものではない叫び声をあげながら、棒をくるくると回す。が、度々棒の位置がずれて、その度に部長のイライラゲージが溜まっていく。
 火種はおろか煙も出やしない。

 そういや凹みを作ってそこに棒をはめて固定するんだったか。僕は今更ながらにそんなことが本に書いてあったと思い出していた。

「手、きっつー。なんなの?棒はズレるし、そもそもちゃんとまっすぐな棒じゃないから上手く回らないし。木の皮とか地味に痛いし、こんなの無理ゲーよ無理ゲー。」

 5分後、部長は汗だくになりながら砂浜に座り込んだ。ゼーゼーと息を弾ませている。

 隅田さんが部長に近寄って、『ナイスファイトです!』とスマホの画面を向けながら、水の入ったペットボトルを手渡した。

「じゃあもうちょっとちゃんと円柱になるようにナイフで削ってみましょうか。あと、ちゃんと木の板の方に凹みも作りましょう。」

ということで、部長が休んでいる間に木の板をナイフでほじり凹みを作り、黙々と木の棒を円柱に削っていく。この時点でもうすでにきついのだが。

『1時間経ちましたよ。』

 隅田さんが時間の経過を教えてくれた。楽しくはないけど、地味な単純作業って中毒生があると思う。完璧とまではいかなくとも、だいぶ木の棒も良い感じに円柱になっているのではないだろうか。

 僕は棒の満足出来る仕上がり具合に、ちょっとした達成感を覚えた。
太陽さんはだいぶ高度を上げ、時刻も昼前といったところ。
 暑いといえば暑いが、強めの海風が吹いているのでまだ耐えられる。

 陸は温まりやすく冷めやすい。海は温まりにくく冷めにくいらしい。
 その影響で、陸は昼になると太陽で暖められる。
 温まった空気は上昇気流を生んで、地上付近では気圧が下がるらしい。で、風というのは気圧が高い方から低い方へと流れるから、海から陸へと風が吹く。
 これが海風というやつらしい。

 逆に夜になると陸は太陽の光がないのですぐに冷め、海の方が暖かくなる。すると、今度は陸から海へと風が吹く。
 これが陸風。

 何が言いたいかといえば、海はやっぱり最高だということ。これはもう自然の扇風機みたいなもんだろう。
 野外で合宿など暑くてたまったもんじゃないと思ったが、海のお陰でなんとか暑さ問題はクリアだ。

「じゃあ、やりますよ。」

 部長は砂浜に寝転んだままひらひらと力なく手を揺らした。せめて見ろよ。ふつふつと怒りご湧いてくるが、この怒りを棒を回す動力にしてみせようじゃないか。
 隅田さんの拍手で、僕は手のひらで棒を思いっきり回す。

「うぉぉぉぉぉぉ!!」

 部長の時と違い、凹みで棒の位置はズレず、回転速度もそこそこ。キュルキュルと摩擦で耳がくすぐったい音が鳴るが、御構い無しに回す回す回す、そして……。

「いや。無理でしょ……。どうなってんですか。原始人とかはこれで火起こししてたとか、絶対無理でしょ。とんでもないクレイジー野郎共ですよご先祖さんたちは。」

 僕は大の字に倒れていた。

 いや待ってほしい。最初の1分は良かったのだ。うっすらと木の板と棒の摩擦点から煙が立ってきて、アレ?これいけるじゃん!と期待と共にさらに力を込めて棒を回し続けるが、一向に火種が出来る気配が出ず。
 そして、3分ほど経つと腕が限界に達して棒の回転速度はみるみる減少し、そのまま五分が経った。

「ぷふっザマァないわねぶはははははっ。」

 部長は腹を抱えて砂浜をのたうち回っている。

「ぶはははげぺぇ。ペッペッ! 口に砂入った!ぺっ!」

部長は立ち上がって海へと向かって走り出し、顔面から砂浜にヘッドスライディング。ザマァみやがれ。

 今なら普段少食で常時エコノミーモードである僕でも、砂に頭を突っ込んでいる部長の姿でご飯が3杯は食える自信があった。

「目が、目が見えないし、痛い。おえっ、口の中も砂だらけだし……うぐっ……ぐずっ。」

 立ち上がった部長がフラフラと動きながら、泣き出した。砂で目も見えないらしい。海を求めているはずが、こちらに逆戻りしてきている。
 怪しい足取りで、このままだとまたヘッドスライディングを決めそうである。

 僕は部長の手を取って、海まで誘導した。
 部長はバシャバシャと顔を洗って、口をゆすぐ。

「がららららっぺっ。しょっぱっ!」

「いや、そりゃ海水ですから。」

 正直飲み水はこんなことで使いたくないし。

「ふぅ、ご苦労だったわね後輩君」

 部長は僕の肩をぽんぽんっと叩いた。お疲れ様ならまだ許せた。
 目下の人間に使うその労い方に、もう一度ヘッドスライディングを決めれば良いと思ってしまった僕は悪くないはずだ。

「ん?なんかラップ音が……あっ、隅田さんか。」

 パンパンと何か弾けるような音がしたので、オカルト現象でも起きているのかと思ったが、なんのことはない。奇怪な音の正体は隅田さんの良く響く拍手だった。

「呼んでるみたいね。行きましょう。」

 部長ももう問題はないようなので、隅田さんの方へと駆ける。
 そこでは、近づいてきた僕らに手招きをしながら「フー! フー!」と地面の木屑に息を吹きかける隅田さんの姿があった。

 何やってるんだろう。と首を傾げたが、僕の目が木屑の中からうっすらと立ち上る煙を視認した。
 そして、目を凝らすと、その中に赤く光っている部分が見られる。

「うわ火種!火種できてるじゃない!」

 部長も気づいたのか木屑を指してはしゃぐ。
 いやマジか。いくら棒を回しても火種が出来る気配は皆無だったというのに、隅田さんはそれを成し遂げたらしい。

 しかし、ふーふーと息を吐き続ける彼女の顔は真っ赤だった。どうやら限界を感じて僕らを呼んだらしい。
 隅田さんが酸欠やら、煙の吸いすぎで一酸化炭素中毒になる前に交代しなくては。

 そう思って、僕は隅田さんの肩を叩いて、場所をチェンジ。煙を極力吸い込まないようにして火種に空気を送り込む。が、火種から木屑に火が移ることはなく。
 僕が酸欠気味で頭をクラクラさせていると、

「どうやら私の出番のようね。」

と背後で部長の声が。

 僕はようやく交代かと立ち上がると、後ろの方でスーハースーハーと海の匂いを目一杯吸い込みながら、深呼吸をした。あー、頭がスッキリしてきた。

 部長はフー! フー!と息を送り込み、すぐに顔を真っ赤にする。まぁ、3人でローテーションでやればそこまでキツくもないかもしれない。そう楽観視した瞬間――火種が消えた。

「……え?」

 部長が信じられないといったような声を出す。

「ちょっとなに消えてんの戻ってきなさいよぉ! フー! フー!」 

 涙目の部長がまるで心肺停止状態の恋人に人工呼吸をするぐらいの鬼気迫った声を出して、息を送り込むも、火種は帰って来ず。

「そんなぁ嘘、嘘よ……。せめて後輩君が息を送ってる時に消えればよかったのに……。」

 部長は四つん這いになって最低なことを呟いた。しかし、自分の時に消えるとかたしかに罪悪感がやばすぎる。
 せっかく隅田さんが苦労して火をつけ、息を吹き込み続けてくれていたというのに。

 そう思って、隅田さんは今どんな気持ちなのかが気になって横を見ると、彼女は手をだらんと下ろして、その手からスマホが地面へと落ちる。
 彼女の生命線とも言える言語ツールを落としたことから相当なショックを受けていることが伺えた。

「もしもーし。」

と声をかけて、目の前で手を振っても、口をぽかんと開けたまま不動。

「部長、隅田さんはだいぶダメージ大きかったみたいなんで、僕らだけでもう一回火起こししましょう。」

「そうね。私たちが来てすぐに火種を消すって、罪悪感がやばいというか、特に私って明らかに戦犯だし。やりましょう。」

 まぁ二回目だし、少しは効率的に出来るだろう。僕たちはそう思っていた。そして、手に取った棒を回した。

「うぉぉぁぉ!」


「ア、ユウヒガキレイネー」

 そして時は夕刻、部長が焚火の近くに体育座りをしながら、海に沈んでいく夕日を眺めていた。……死んだ瞳で。
  一体あれから何度失敗したのだろうか?そして何時間無駄にしたのだろうか。

 途中から隅田さんも火種作りに参加したものの、木屑に火が広がるのにここまで時間がかかってしまった。

『火起こしについては異世界ってことなので炎系のチート能力が目覚めることにワンチャンかけた方が良さそうですね。』

 隅田さんも頭が麻痺してよくわからないことをスマホに打ち込み始める始末だ。

「もう夕方よ?ふざけんじゃないわよ昼ご飯だって食べるの忘れてたわよ。」

 部長が砂浜に拳を叩きつけた。

「必死でしたからね。異世界ものやサバイバルモノだと、動物や魔物を狩る、解体する、火を起こす、焼く。なんて火おこしの大変さを知った後だと無理ゲーくさいことをしなきゃならないわけですし。」

『冷静に考えると、うさぎや小動物を狩るのって初めにありがちですけど、自分で殺生しなくたってスーパーにいけばお肉が並んでいる。なんて環境にいる私たちじゃ動物なんて殺せませんよね。』

 たしかに。動物ですらやばそいなのに、良くファンタジーで登場するオークさんやゴブリンさんなんかと戦った日には動けなくなりそう。
 本気の殺気ってやばそうだし。もしかしたらお漏らしするかもしれない。
 よしんば殺せたとしても人型の生物を殺すなどトラウマ確定だ。

「そもそもうさぎとかって割と狩るの大変らしいしね。」

 僕は隅田さんの考察に補足を入れた。

「そう考えると異世界転生、転移ものの主人公って超人過ぎるわよね。しかも大体主人公になるのってニートだったり普通の会社員じゃない?にしてはスペックが高いわ、ニートや引きこもりだったはずなのにコミュ力が異様に高かったりして納得行かないのよね……。」

 部長が手で砂をつまみあげてはサラサラと手の間から落として弄ぶ。

「まぁそこは物語ですし。主人公が他者と関わらない物語ってなんか嫌じゃないですか。やっぱり仲間を作って、異性とイチャコラしないと。」

「そうなのかしらねぇ~。」

 部長は納得いかなそうに眉をひそめた。

『現実世界で青春できなかった人が青春ものの物語を読むように、現実世界でうまくいかない人が異世界で主人公が人と仲良くしたり、冒険したりする物語を読むように、自分ができないことをしてくれる主人公を読者が求めてるから、非現実的なご都合主義があったりするんじゃないでしょうか。』

 隅田さんの長文に、なるほどなぁと思ってしまった。恋愛ができないから、主人公がモテモテの話に自己投影するとか、そんな感じだろうか。

『まぁ私は青春している話を読むとこのリア充度もがっ!って心がムカムカするので嫌いですけどね。』

 隅田さんは主人公に自己投影する派ではなく、誰かがどこかで行った物語を第三者の視点で読む派らしい。

「物語を自己投影して読むから鬱展開に耐えられないのよ後輩君は。」

 部長は呆れたようにヤレヤレと肩を落とした。ぐぅの音も出ないが、読み方なんてそう変えられるもんじゃない。
 冒険物やら推理物は自分が実際に広い大陸を駆け回る疾走感や、事件を解き明かしていく緊張感を楽しめるのだから、自己投影も悪いことばかりじゃないだろう。

「それにしてもまさか日暮れまでかかるとはねぇ。ホンット予想外だったわ……。」

 部長は疲れたように首をくるりんと回す。
『ホントですよね。文明ってすごいです。』

 隅田さんも首をぐんぐんと縦に振って肯定の意を示した。

「逆に言えば、火が必要になる夜には間に合ったんですから良しとしましょうよ。」
 じゃないとやってられん。

 文章にすれば、棒を回す、摩擦で熱が発生する。火種が出来る。という至極簡単そうなものだというのに。
 中学生の頃、格闘技についての本を読んでも、強くなった気がしただけで、実際はケンカでへっぽこなままだったように、何事も本に書いてある通りにはいかないということかもしれない。

 結果を出すのに必要なのは知識オンリーではなく、知識+経験ということなのだろう。更に才能をプラスしても良いかもしれない。つまりはそういうことだ。

 部長のレトルトのクリームシチューを焚火で作って食べた後、あーでもないこーでもないと取り留めのない話をしていたら、みんながウトウトしてきて、寝袋を準備する。
 おやすみとみんなが就寝の挨拶をすると、僕は苦労して起こした火に、名残惜しくも砂をかけた。パッとあたりは真っ暗になる。

合宿2日目、終了
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