読書部の日常〜ポンコツ系美少女な部長とただ駄弁るだけの不毛なる学園生活〜

ジェロニモ

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クラス異世界召喚物に備えて鞄に入れる物について(実践編)合宿三日目 ④

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「見てちょうだい見てちょうだい!これが私の真の実力ってやつよ!」

 3時間ほど後、満面の笑みを浮かべる部長が手に提げたスーパーの袋の中には手のひらサイズの魚が八匹入っていた。隅田さんの袋には二匹。

「あ、隅田さんも釣れたんだ。」

 僕がそう聴くと、隅田さんは嬉しそうに勢いよく何度も頷いた。
「ちょっとなんで無視するのよ!まずは五匹も釣った私を褒めるべきでしょう!」

 ギャーギャーと喚く部長が袋を僕の顔に押し付けてきた。薄い袋越しに海水の冷たさと泳ぐ魚の感触が伝わってきて背筋がゾワっとした。

「はいはい凄いですから袋退けて下さいよ。」

 僕は体を逸らして袋を手で押しのけた。

「なんだか適当なんですけども?本日1番の功労者に対して礼がなってないんじゃないの?」

 部長は腕を組んで不服そうにブツブツと愚痴をこぼし始めた。
 
 隅田さんは魚が釣れたことがよほど嬉しかったのか袋の中の魚をずっと眺めている。まるで金魚すくいをした後の子供みたいだ。

「本当に凄いと思ってますって。何せ僕は1時間やって一匹も釣れませんでしたからね。今度釣り方教えて下さいよ。」

「そうよねー。やっぱ私ってすごいわよねぇ!まぁ私にかかれば?後輩くんを立派な釣りマスターに教育してあげるのもやぶさかではないわ。」

 部長は口元をにやけさせて、鼻の穴をヒクヒクと膨張させた。
 教えを請うということは、自分はあなたの下にいる、あなたを尊敬しているという意思表示でもあるわけだから、部長の承認欲求も満たされたらしい。

「ところで全部おんなじ魚に見えますけど、何の魚何ですか?」

「あー。全部アジね。アジ祭りだったわ。ちょうど群が来たみたいで、一時入れ食い状態だったわよ。」

『陸からでも見えるくらいにいっぱいいました。』

 なら僕ももう少し辛抱強く竿を垂らしていたらアジを釣れたのかもしれない。    
 どうだろ、ハイテンションで楽しげな二人を見ていると、僕も釣ってみたくなってくる。

 部長に至っては同じ竿で釣ったはずなのにこんなにも差が出ると流石に悔しなってくる。部長なんかに負けるとは、この上ない屈辱である。

「アジですか。僕あれやってみたいんですよ。あの木の枝で串刺しにして焚き火で焼くやつ。」

「珍しく後輩君から有意義な意見が出たわね。いいじゃないの!まさにサバイバルって感じよね。」

 部長はパチンと指を鳴らした。

 珍しくは余計だ。それを言うなら部長が活躍するのだって珍しいじゃないか。
 それにしてもサバイバルかぁ。持ち込みなんかが多すぎてどちらかというとサバイバルというよりも現状キャンプみたいになっているけども。

『夕飯か楽しみですね!』

 隅田さんも串焼きが楽しみらしい。

「で、海水の蒸留の方はどんな感じなのかしら。鍋が焚き火から退けられているようだけども、もう取り出したの?」

 部長は空になった鍋に視線を向けて聞いてきた。

 あー。聞かれちゃったなーと思いながらも、僕は背後からコップを取り出した。中が見えないように手で多いながら。

「ここに4時間以上海水を蒸発させ続けた成果が入っています。」

「そういうのはいいから早く見せなさいよ。」

 部長がペシペシとコップを覆う手を叩いてきた。ちょっとぐらい茶番に付き合ってくれても良いのではないか。僕はその行為に口を尖らせた。

「何よその反抗的な顔は。」

「いえ別に。」

 僕は部長のじとりとした睨みを受け流して、コップから手を退けた。

「さぁさぁどれどれ?……へ?」

 部長がコップの中を覗き込んで、首を傾げた。
 コップの中に溜まっていた水は、コップの半分にも満たない、5センチ程度だった。

「え、嘘よね。あ、わかったわ。もう一回溜まった水をペットボトルか何かに移し変えてるんでしょうそうでしょう?もー脅かさないでよね。」

 部長は「このこのー」と笑って頭を小突いてきた。

「いえ部長、残念ながら生成された水はこれだけです。」
 
 心苦しいが、僕が真実を告げると、部長は僕に掴みかかってきた。

「そんなわけないでしょ4時間よ4時間!それだけやって成果がこれっぽっちなわけ無いじゃないの!後輩君が飲んだんでしょう!そうに違いないわ。」

 事実を受け止められない部長に言いがかりをつけられた。

 これだけ揺さぶられてもコップの中の水は水かさが足りなくて外に溢れない。  
 悲しいなぁ。僕は一体なんの為に火の番をしていたのか。

「うぅ~……。私は一体なんの為にぃ……。」

 部長も同じ思いのようで、僕を掴んでいた手が力なく解け、地面に崩れ落ちた。

『これは絶望ですね。何が悪かったんでしょうか。』

「僕も色々考えたんだけど、鍋の蓋ってドーム状で緩やかなカーブを描いてるじゃないか。それで、鍋の蓋で蒸気が冷やされて水滴になったものが、そのカーブに従ってコップある中心じゃなく、鍋の端の方に落ちちゃってたんじゃないかな。」

『ありそうですね。』

 僕もこれに気づいた時には今までの徒労感に思わず叫びたくなった。

「……そういえば、湿った土から水を得る方法で、穴を掘って、穴の真ん中にコップをセットしてビニールシートで穴を覆うっていうのがネットであったのだけど、その時にビニールシートの上に、石を載っけるって書いてあったの。多分それって石を重しにしコップに向けて窪みを作るって意味だったのね。完全に忘れてたわ……あー死にたい。」

 部長の目からハイライトが消え失せた。

「まあほら、練習で失敗してよかったじゃないですか。異世界で失敗してたら最悪死にますし。次に活かす為の合宿なんでしょう。」

「うん……そう、そうよね。」

「ほら、自力で得た初めての水なんですし、みんなで飲みましょうよ。」

「ええ、そうしましょう。」

 ぐすりと部長は鼻をすすりながら涙を拭って笑った。

「じゃあ部長から。」

 コップを部長に渡す。部長はゆっくりと少ない水を口に含んだ。そして、ゴクリと喉を鳴らした。

 そして今度は隅田さんに渡される。そして、隅田さんもゴクリと飲む。

 そして僕も、コップのなかの水を飲む。

「味的には水でしかないのだけども、自力で確保したと思うとなんだか感じるものがあるわよね。」

『私の血となって体内を流れてるって感じがします。体に染み渡ふってやつですね。』

 二人が笑って感想を述べた。
 僕は、水の味というよりも、部長と隅田さんが飲んだ後ということが、この水をこれまでに飲んだどんな水よりも貴重なものに感じさせたていた。だって間接キッスな訳でして。

 二人はそんなこと意識している素振りは皆無で、僕だけ気にしているみたいでなんだか恥ずかしくなった。

「あれ?後輩君顔が真っ赤じゃない。やっぱり日焼けが酷いのかしら。ほら、日焼け止め塗っときなさいな。」

「どぅどぅどぅ、どうも。」

「ん?どうしたの?後輩君。」

「いえなんでもありませんデスよ。」

「なんか明らかに口調とかおかしくなってるじゃないの!日差しで頭がバカになったんじゃないの?」

 部長が気の毒なものを見る目で僕を見ていた。隅田さんも首を傾げている。

 ……うん。まぁ、この勘違いはそのままにしておこう。そう、日焼けだ。日焼けで顔が赤くなっているのだ。そういうことにしておこう。

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