閻魔ちゃんと数えるぼくの罪 ~過去に戻って生前の罪をすべて精算しないと、ぼくは地獄に落ちるらしい~

ジェロニモ

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クソガキ閻魔ちゃんと子守の青鬼さん

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 「……どこだ、ここ」

 気づくと、ぼくは裁判所の、被告人がいる場所に立っていた。

「夢か……?」

 しかし、自分のつぶやきに納得がいかない。なぜならぼくは夢の中で、今が夢だと気づいた試しがないからだ。それに、夢にしてはどうにも五感に伝わる感覚がリアル過ぎる気もした。

「ここはあの世だ、佐藤敬太よ」

 名前を呼ばれて、声がした方を見上げる。やたらと高さのある裁判官席に誰か座っているようだ。目を細めてよく見ると、額の真ん中から小ぶりな角の生えた、小さな黒髪の女の子が腕を組んでこちらを見下ろしていた。

「なんでぼくの名前を知ってるんだ?」
「それはおまえがわたしの担当になったからだ」

 そう答えて、角を生やした少女は得意げに胸をそらした。

「名前だけでなく、おまえのことならなんでも知っているぞ。被告人佐藤敬太、三十歳。実家ぐらしのフリーター。妻子、彼女なし。で、死因は餅を喉につまらせたことによる窒息死か。まったく最初から最後まで平々凡々のダッサい人生だ。いや?これは平凡以下か?」

 見知らぬ角生え少女にディスられながら、そういえばここにくる前の最後の記憶は、正月だからとおしるこを作って、食う直前までだったなあと思い出した。

「ようこそ。ここはあの世に行く前に罪の重さを決め、どこに行くにふさわしいかを判断する裁判所といったところだ」

 角の生えた少女はそんなことを言い放った。つまり、ぼくは死んだということになるのだろうか。まるで実感がわかなかった。

「そして私が、今回おまえを裁く閻魔大王である!」
「正確には代理ですけどね」

 ぬるっとぼくの横から、肌が青みがかった女の人が出てきて、裁判官席に座る少女の名乗りに口を挟んだ。この人も額から角が突き出ている。ここではこういうのがデフォなのだろうか。こちらはあの少女の体と比べて、それはもうグラマラスな体つきだった。

「どうも、佐藤さん。裁判官補佐とは名ばかりの閻魔代理の子守役です。このたびはご愁傷さまでした。」

 グラマラスな女性が、ぼくに向けて優雅に頭を下げた。

「いやあ、そう言われても、まだ死んだっていう実感が全然わかないっていうか」

 手のひらをつねってるけど、ちゃんと痛いんだよなあ。

「いえ、死んだこともですが、わたしが言っているのは閻魔大王様代理であるあの子の担当になってしまったことに対してですよ」

そう言って、女性は閻魔大王と名乗った少女のことを指差した。

「閻魔大王様って名乗ってる子供のこと代理って言ってますけど、どういうことですか?」
「ただいま第24代閻魔大王がぎっくり腰で只今休養中でして、治るまでその孫であるあちらの少女が代理を努めているんですよ。ですから、彼女はまだ正式な閻魔大王ではないんです」

 閻魔大王でもぎっくり腰になるのかとか、代替わり制なんだとか、色んな疑問が脳裏を駆け巡った。

「代理をつけるな。閻魔大王様と呼べって言っただろうが」

 青鬼さんの説明に、少女は機嫌が悪そうに口を尖らせた。

「ご覧の通り、代理ってつけると怒るんですよあの子。ほんとうに子供なんです。嘘はいけませんよ。閻魔大王代理が人間に対して虚偽を言ったとき、それを正すのが私の役目なんですから」
「うるさい!それになにがご愁傷さまだ。むしろおまえは幸運なんだぞ人間。なんていっても、おまえは私に裁かれる記念すべき一人目の人間となったのだから!」

 そう言って、少女は腕を組んで、ふふんと得意げに胸を張る。不安と不満しか無い。

「まあ実際には裁くのではなく、生前の罪の重さに応じて地獄に行くかどうかとか、生まれ変わったら何に転生するかとか、そういう死後の行き先を決めるってだけなんですけどね」
「だからいちいちわたしの発言に口を挟むな青鬼!裁くって言ったほうがなんかかっこいいだろうが」
「まあ、こんな具合に、閻魔大王代理様は思考回路もおこちゃまなわけですよ。ですからご愁傷さまですと申し上げたわけです」

 ガミガミと喚き散らす少女のことなど全く意に介した様子もなく、青鬼と呼ばれた女性はぼくに向き直ってそう言った。

「あのー、百歩譲ってここが死後の世界っていうのはまだわかるんですけど、あんなクソガキにぼくの死後が決められるんですか?外見だけじゃなくて精神年齢の方もガキっぽくて不安しかないんですが」

 ぼくは閻魔ちゃんにそう尋ねた。なんとなくとか、なにかの手違いで地獄行きとか言われたらたまったもんじゃない。

「あんなクソガキでも閻魔大王のお孫さんですからね。」
「おまえら聴こえてるんだからな!私は耳が良いんだ。本人の前で悪口をいうな。陰で言え陰で!」

 閻魔大王代理の少女は、今にも泣き出しそうな震えた声で叫ぶ。陰でならいいのか。

「あーはいはい。閻魔様は地獄耳でございますね」
「そうだ。閻魔大王の耳は地獄耳!」

 青鬼さんのいかにもな皮肉に、少女はなぜか嬉しそうに答える。

「いいか、佐藤敬太よ。今おまえの前にいるのは閻魔大王なんだぞ。あの!かの有名な!偉大な!閻魔大王様だぞ。すこしはこっちを向いて話に耳を傾けようだとか、その偉大なるお姿を目に焼き付けようだとか思わないのか」
「閻魔ちゃんのいる裁判官席が無駄に高すぎて見上げると首が痛いんだよ」

しかも代理らしいしさ。

「偉いんだから高いところに登っててなにが悪い!あとちゃん付けするな。様付けしろ。不敬罪で地獄行きにするぞ」

 閻魔ちゃんはすねたようにぷいっと横を向いた。やはり、その仕草はどうみても子供にしか見えず、威厳もなにもあったものではない。
 
それにしても裁判官にあるまじき、良心をかけらも持ち合わせていなさそうな脅し文句である。

 ぼくはこれから、こんなのに裁かれることになるらしい。そう考えると、やはりどうにもこのガキを様付けする気にはなれなかった。むしろ呼び捨てじゃないだけありがたく思えと言いたい。

「あの子、小さいことがコンプレックスですので裁判官席をあのような高台に……。落ちたら危ないのでやめてほしいんですけどね……」

 隣の青鬼さんが頬に手を添えて悩ましげなため息をついた。

「まあ昔から煙とバカは高いところが好きと言いますからね」
「それにちょっと痛いことがあるとすぐ泣くんですよ。そのくせこっちが心配したらしたで子供扱いするなとかもう本当にめんどくさくて」

 青鬼さんがため息をついた。もうボロカスである。その閻魔様はといえばグスングスンと涙目になって鼻をすすっていた。

 なるほど、地獄耳というのは本当のようだ。このささやき声と言ってもいいボリュームの会話も聞こえるらしい。

「おまえら、それは、それはさあ、ちょっと言いすぎだろう」

 声がプルプルと震えていた。今にも泣き出しそうだ。

「ほら、おまけに物理的にだけじゃ飽き足りず、精神的にも打たれ弱いんです」

 青鬼さんは容赦なく追撃をかけた。それ以上言ったら本当に泣いちゃいそうだからやめてあげて。

「で、ではこれより裁判を始めるぞ!」

 閻魔ちゃんは袖でごしごしと涙を拭って、ごまかすように声を張り上げた。

 ぼくは裁判がまだ始まってすらいなかったのだと今しがた気づいた。

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