閻魔ちゃんと数えるぼくの罪 ~過去に戻って生前の罪をすべて精算しないと、ぼくは地獄に落ちるらしい~

ジェロニモ

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面接で聞かれる、「学生生活でなにか頑張ったことはありますか?」という帰宅部殺しの質問

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 そして翌日の五限目、大助の言う通り、文化実行委員ふたりが黒板の前に出て、そのうちの一人がそう言い放って手を挙げるよう促した。

 しかし誰一人として手を挙げる気配はなかった。まあ、リーダー決めなんてだいたいこんなもんだよな。

「えー、それって島田と林がやるんじゃねーの」

 髪型がツンツンとファイナルにファンタジーしてそうな金髪男子が挙手するでもなく、司会をしているやつに話しかけた。

「いや、俺らは文化祭実行委員の方が割と忙しくなるから、クラスにはあんまり顔出せないかもしれないんだよ。だから、俺ら以外にリーダー決めなきゃなんねーの」

 たしなめるように言う男は、ぼくが大助に教えてもらう前から覚えていた数少ないクラスメイトだった。

 理由は簡単で、当時すごく目立っていたからだ。いつもクラスの中心というか、集団があったら、必ずその中心になるような存在だった。当時のぼくは理由もなくすごく毛嫌いしていたのをよく覚えている。あれは嫉妬してたんだろうなあ、と今ならわかる。

「えーだるー。どうせ誰も手挙げないから推薦とかアミダくじでちゃっちゃと決めようぜー」

 別にやるわけでもないのにだるいもなにもないだろうと思うが、少し悪い流れだ。なにが悪いかというと、さっきから腕が疲れるくらい手をピーンと天井に向けて伸ばしてるのに、誰も気づいてくれないところがとてつもなく悪い。

 おかげでさっきから目の前の閻魔ちゃんがぼくを指差して笑い転げているのが不快でしょうがないのだ。早く誰か気づいてくれ。

「そうだよなあ。俺も挙げねーもんなあ。せんせー、鈴木の言う通りにしてもいいですか」
「決まればなんでもいいよー」

 担任はスマホを横にしてポチポチとタッチしながら、おざなりに答えた。なにかしらゲームをプレイしているのが一目瞭然だった。

 その時ばかりはクラス全員が自分のことを棚に上げて、「うわ、この担任やる気ねえなあ」って顔してた。

 ぼくも学生当時、この担任に「なんでこんな人が教師やってるんだろう?」って頻繁に疑問を持っていた記憶がある。

「ねー、島田くん、なんか手、あげてる人いるけど」

 ぼくの切実な思いが通じたのか、司会役のもうひとりの茶髪の女子がそう言ってぼくの方を指さした。

 さっきの金髪といい、この子といい、高校生なのにどいつもこいつも髪を染めやがって。こちとら一切髪を染めたことなんてないのに三十歳のころにはすっかり髪が薄くなったんだぞ。

 こんな若いうちから髪を染めてるおまえらなんてあっという間なんだからな。さっさとハゲてしまえ。ただハゲるだけじゃないく汚らしい感じにハゲ散らかしてしまえ!

 立ち上がるとき、ふと大助の方を確認すると、正気か?とでも言いたげな表情でこっちを見ていた。他人顔をしてられるのも今のうちだ。

「お?まじで?えーと……じゃあどうぞ!推薦?それとも立候補?」

 多分名前が浮かばなかったんだなあってのが伝わってくる間だった。

「はい!ぼくは演劇がいいと思います!」
「えーっと、今はリーダー決めでなにやるかはこの後決めるんだけど……」

 ぼくの発言に金髪イケメンは困惑したような反応をした。

「演劇になるならリーダーという名の人柱になるのもやぶさかじゃないです!」
「人柱っておまえ……いやまあそうだけどさあ」
「でも、なんで演劇なの?結構たいへんそうじゃん」

 苦笑いしている金髪イケメンの隣で文化祭委員の茶髪女子、確か林さん……が首をかしげた。よくぞ聞いてくれました。

「なぜなら、このクラスは演劇をやるために生まれてきたクラスといっても過言じゃないからだ!」
「えー、そう?」

 林さんは納得いかないようである。では理由を説明していこう。

「まず校内で唯一の演劇部、春風さんがいる!」
「え!?私?」
「たしかに」「一理ある」

 驚く春風さんを尻目に、クラスの一部がぼくの意見に肯定を示した。

「え、でも私……」
「渚が演劇部入ったのにさ、来年も一年入ってこなかったらずっと活動できないままじゃん。だからさ、私はいいと思うなあ」
「そうだよ!将来女優になりたいって言ってたじゃん。やりなよ!」
「う、うん……」

 よし、うまい具合に周りに流されてくれそうである。春風さんクリア。

「そして、演劇をやるのに大事な衣装、それを作れる被服部の七瀬さんもいる!」

 そう言って、ぼくは前髪で目が隠れている黒髪の女子を指差した。うつむいていた七瀬さんが顔をあげてこっちを見るが、やはり前髪で目は見えなかった。大助いわく、すごくおとなしい人、らしい。

「おお」「そういえばそうだった」「七瀬さんが作ったらしい服が展示されてるの見たことあるけどすっごいうまかったよ」「マジでいけんじゃん」

 そう。クラスの声の通り、衣装作り適正が二重丸らしいのだ。

 演劇、という提案を賛同するような声が大きくなる。よしよしいい感じだ。

「じゃあ、えっと七瀬さん大丈夫そう?」
「……はい。大丈夫です」

 林さんにそう聞かれて、七瀬さんはロボットみたいに無機質でボソボソとした声でそう答えた。前髪で顔が半分隠れているのも合わさって、その様はさながら幽霊のようだった。

「でも、大変そうじゃね?演劇とか。なんか適当に展示とかした方がさー」

 しかし、良い空気をそんなだるそうな声が一閃した。そう発言したのは、さきほどアミダくじで決めようと提案した男子生徒だった。

「あーたしかに」「めんどそう」「べつにただの文化祭だし本気にならなくてもいいよなあ」

 その一言がきっかけとなり、演劇についてネガティブな意見が飛び交い出す。

 今発言をしたやつは帰宅部だったはずだ。めんどくさい、家に早く帰りてえ、ゲームしてえというタイプだろう。ぼくも当時はそっち側だったのでよく分かる。

 いわゆる意識低い系がいることは想定内である。当然手は考えてある。ぼくは口を開いた。

「確かに大変だと思う。でもぼくらはもう二年だ。来年は三年、つまり受験や就活が始まって、文化祭に限らず、勉強や就職以外のことに力を入れることはたぶんできなくなる。今年が最後のチャンスなんだ」
「だからがんばろうって話?熱血的な?俺そういうのちょっとムリなんだよねー」

 ぼくの訴えに対して、クラスの反応は芳しくなかった。高校二年生ともなれば、本気出すのだりー、だぜー、と言いたくなりがちなお年頃。

 ぼくもこんな薄っぺらい言葉でどうにかできるだなんて思ってははいない。

「ちょっと違う。きみ、帰宅部だったよね」
「え、そうだけど……?なんかあんの?」
「ぼくも帰宅部だ。」
「へ、へー」

 彼は戸惑ったように相槌した。まあ男に「お揃いだね!」と言わたらそりゃ困惑もするだろう。というかキモい。

「で、遮られた話の続きなんだけどさ。就活や受験って、一般的に面接が付きものだと思うんだよ。で、自己PRとかがあるわけだろ?そこでぼくらはやっと気づくんだ。あれ、自分って学園生活でなにも成し遂げてなくね?と。でもさ、面接官のやつらはそんなのお構いなしに聞いてくるんだ。頑張ったことや、力を入れたこと、思い出はありますか?ってな。ねーよそんなもん!」

 ぼくは机に手のひらを叩きつけて、クラスメイトたちがびくんと肩をはねさせた。

「随分な力説ですね」
「就活のとき、面接で落とされまくって、就活浪人を二年経験。結局正社員には成れず終いだったようだからな。熱も入って然るべきだろう」

 いつのまにか現れた鬼たちが、ぼくの発言について考察していた。唐突に出てきて人の忘れたい黒歴史をえぐってくるな。ぼくは深呼吸して、乱れた心を落ち着ける。

「だからもしぼくの話を聞いて、自分もこのままじゃ就活で話せるネタがねーなって思った人は、面接のときに話すネタとして今回の文化祭を力入れてやってもいいんじゃないかって話。たぶんそれが本気でできるのは二年までだと思うし」

 ぼくがクラスを見渡すと、数名の生徒が目をそらした。彼らはみんな、帰宅部、実績のないエンジョイな部活、そして活動の得体が知れない部活に所属してる人達のはずだ。

「……たしかにそれならやってもいいかも。いざ面接の時に頑張ったこととか聞かれて嘘つくのもなんかアレだし」

 質問をぶつけてきた帰宅部の男子も、やぶさかではない反応を示す。

「そうだぞー。先生も佐藤の意見に賛成だぞ。自分の学力によほどの自信があるならまだしも、自分の頭のできの悪さを自覚してるやつは面接のネタは用意して損はないからなー。あと参考までに言っとくと、このクラスにはほとんどバカしかいないぞー。」

「バカ呼ばわりされたことでムカつくとは思うけど、担任もこう言ってる」

 言い方はクソだが、思わぬところからのフォローである。

「なんか、色々考えるのもめんどくさいし、それでいいんじゃね?」
 という風に話は順調に進み、ついに採決が始まった。
「じゃ、多数決で過半数が賛成なら演劇で決まりってことにするか。賛成のやつー」

 イケメンがそう促すと、リーダー決めのときと違ってバーっと手が上がった。そしてそれを確認して、また追従するようにぴょこぴょこと遠慮がちに手が伸びる。

「あー数えなくても半分より多いよな。じゃ、演劇ということでリーダーお願いね。えーっと……」
「この佐藤敬太、心して引き受けさせてもらいます!」

 言いよどむイケメンに配慮して名前をこれでもかとアピールしてやった。

「おう。よろしくな、敬太」

 そして名乗った次の瞬間には下の名前呼びである。その距離の縮め方はもはや瞬歩だった。
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