閻魔ちゃんと数えるぼくの罪 ~過去に戻って生前の罪をすべて精算しないと、ぼくは地獄に落ちるらしい~

ジェロニモ

文字の大きさ
32 / 46

悪いことというのは坂道を転がる球みたいで、一度転がり出すと勢いを増していく

しおりを挟む
 次の日、春風さんは松葉杖をつきながら学校にきた。昼休みになったというのにクラスの雰囲気は重く、息が詰まりそうだ。

 授業中や休み時間も、劇をどうするかの不安がそこかしこから聞こえてきて、そのたびに春風さんは顔を歪めて、唇を噛んでいた。

「ぼくが、ぼくが階段を降りようとしてる春風さんに声をかけたりしたから……」
「それを言うなら、声をかけるよう促したぼくだって同罪だ。だから、おまえのせいなんかじゃない」

 思いつめたような顔をしている大助の馬鹿げた考えを、ぼくは即座に否定した。それは別に気を遣ったわけではなく、単なる事実だった。

 普通に考えて、代役を用意しておくべきだった。でもぼくにとって文化祭は大助と春風さんを近づけるためのイベントに過ぎず、そんなことはまったく頭になかったのだ。

 これは誰のせいというわけじゃない。ましてや、被害者である春風さんのせいでもない。

 そんなことは誰もがわかっているからこそ、みんなやり場のないやるせなさを抱えていた。

 七瀬がガっと勢いよく立ち上がる音が、いつもより物静かな教室によく響いた。そして、七瀬はそのまま、春風さんの席まで歩いて行く。学校じゃあ話さないようにしていると言っていたくせに、なんのつもりだろうか。

「あんたさ、ぼーっとしてたって言ったでしょ?なんでぼーっとしてたわけ?」

 七瀬の春風さんへと向けられたその声には、確かな怒りが感じられた。

「なんでぼーっとしてたわけ?」

 あっけに取られた様子の春風さんに、七瀬は同じ言葉を投げかけた。

「それは、その……ていうかぼたん、学校じゃ話しかけないって」「質問の答えになってない」

 七瀬の剣幕に、春風さんはしどろもどろだった。

「当ててあげようか?どうせ、自分は主役なんてやる資格なんてないのにとかアホみたいた理由で悩んでたんでしょ?だってあんた本当は「ぼたん、やめて」
「……女優、目指してないもんね」
「……え?」

 七瀬のその言葉に、大助が間抜けな声をもらした。それを輪切りに、クラス中がざわざわと騒ぎ出す。

「なのに文化祭で劇やることになって。演劇部の活動をさせてあげたいって主役に選ばれて。みんなを騙してるのみたいで辛かったんでしょ?」
「やめて……」

 春風さんは、そう訴えるだけで女優を目指してないということを否定しなかった。

「それで悩んで、ぼーっとして、挙句の果てにこの様?いろんな人に迷惑かけて。これじゃあ、劇を成功させようって練習してた奴らの気持ちはどうなんのよ」
「ぼたんにはわからないよ!家族が本当の夢を理解してくれない気持ちも、この怖さも!」

 ついに言い返した春風さんの手が振りかぶられて、七瀬の側頭部あたりをペシンと叩いた。

 音からして、たいした力はこもっていなかったと思う。きっと、当たりどころが悪かったのだろう。七瀬がいつもつけている学校用のウィッグが宙に舞い上がった。そして、二人の言い合いを見てどよめいていたクラスから、音が消えた。ウィッグの下から現れたのは、地肌だった。夏休み中に会ったシトラスさんと同じ。髪の一本も見当たらない、ツルツルとした肌色の頭皮。

「ぼ、ぼたん。ご、ごめ……」

 ハッとした春風さんの顔から、さーっと血の気が引いていく。ごめんと続けたかったのだろうか。しかし、その言葉が彼女の口から発されることはなかった。

「ええ、わらんないけど、それがなに?あんただって、わたしの気持ちなんてわからないじゃない」

 七瀬はウィッグを拾い上げると、春風さんの喉元でつっかえた言葉を待つことなく、荷物を持って教室を出て行った。

 ふたりの喧嘩を見ていたクラスメイト達はみんな、呆然としていた。

 特に小川さんは、あっけに取られて口をまん丸に開いたまま固まっていて、すぐには再起動しそうにない。

 林さんが「大丈夫?」と、袖を引きながら、彼女の顔を下から覗き込む様に声をかけた。

「……大、丈夫。ちょっと、びっくりしただけだから」

 と、なんとかそう答えていたが、明らかに大丈夫そうではない。

 そしてこっちも、大丈夫そうではない。ぼくは大助の方を向く。案の定、手を目の前でひらひら振っても反応しないんじゃないかってくらいぽかんとしていた。

 以前大助が、春風さんの夢を堂々と公言できるところに憧れたという話を思い出す。でも、それを今否定されたわけで……。この有様も、仕方ないことかもしれない。

 その後、七瀬が体調不良で早退したと神楽坂先生から連絡がきた。でもそれが本当の理由ではないことを、あの時クラスに居た人みんながわかっていた。

 そのまた次の日も七瀬は学校に来なかった。そして同時に春風さんも、学校を休んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!  杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」   「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」 この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。 半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。 別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。 そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。 学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー ⭐︎第3部より毎週月・木・土曜日の朝7時に最新話を投稿します。 ⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。 ※表紙絵、挿絵はAI作成です。 ※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

処理中です...