閻魔ちゃんと数えるぼくの罪 ~過去に戻って生前の罪をすべて精算しないと、ぼくは地獄に落ちるらしい~

ジェロニモ

文字の大きさ
34 / 46

たらればは人を過去に執着させる

しおりを挟む
 ぼくは学校で、大助になんと声をかければいいかわからず、なにもできずに帰ってきた。学生服のままベットにダイブして、電気もついてない薄暗い天井を見上げる。

「なあ、閻魔ちゃん達」
「なんだ」

 虚空に声をかけると、すぐに鬼たちは姿を現した。

「鬼って未来予知ができるって前言ってただろ。てことはさ、こうなることも閻魔ちゃんたちはわかってたのか?」
「まあ、おまえが西宮大助を春風渚に話しかけに行かせようと発破をかけた時からではあるがな」

 予想どおり、閻魔ちゃんは肯定した。あの時、いつもだったらぼくをボロクソに言うようなタイミングで鬼達が妙に静かだったのは、そのせいだったのかもしれない。

「もし……もし俺が春風さんのところに行くよう大助をけしかけなかったら、どうなってた?」

 恐る恐る、ぼくはそんな意味のないとこを尋ねた。

「未来のことは教えられない。が、もうやり直すこともできないのだ。もしかしたらあったかもしれない可能性くらいは教えてもいいだろう」「閻魔様、それは……」「その場合、春風渚は入院することになっていたな」

 青鬼さんが険しい顔で止めに入るのを無視して、閻魔ちゃんは話を続けた。

「階段から足を踏み外すというのは、西宮大助が声をかけるのと関係なく起こったことだ。むしろ一人で階段から落ちた分庇われることもなく、今回よりもよほど重症になっていたな」
「そうか。それを聞いて、すこしは救われたよ……」

 自分のせいで事態が悪化したわけじゃないとわかってほっとするぼくを、なぜか青鬼さんが泣きそうな顔で見ていた。

「佐藤さん、その……。その、とても言いづらいのですが……今のはすべて閻魔様の作り話です」
「え……?」

 一瞬、青鬼さんがなにを言っているのかがわからなくて、頭が真っ白になった。

「もし……もし佐藤さんが西宮大助さんに発破をかけなければ、春風渚さんが階段から落ちることはありませんでした」
「青鬼さんが言っていることは本当……なのか?」

 ぼくはすがるように閻魔ちゃんに尋ねた。

「……まったく、おまえは本当に優秀なお目付け役だな」

 閻魔ちゃんはぼくの質問には答えてくれなかったけど、深い溜息ののち青鬼さんにそう言い放った。閻魔ちゃんの嘘を指摘した青鬼さんを優秀と評すということは、つまりそういうことなのだろう。

「閻魔様が担当者に虚偽の情報を伝えた場合、真実を伝えるのが私の役目ですので……」

 いつもズバズバと物を言う青鬼さんとは思えないほど、弱々しい震えた声だった。そういえば初めて会った時、そんなことを言っていた気がする。

 春風さんの怪我は事故で誰のせいでもないと思っていた。でもそうじゃなかった。

 春風さんが怪我をしたのも、それが引き金で七瀬と喧嘩してしまったのも、劇が台無しになるかもしれないのも、全部ぼくのせいだった。

「……どれだけ悩んだところで、たらればに意味はないぞ」

 閻魔ちゃんは心を読んだかのように、思考の沼に沈みそうになっていたぼくにそう言った。いや、誰が見てもなにを考えているかわかってしまうくらい、今のぼくはわかりやすい顔をしているのかもしれない。

「でもぼくはやり直しができたんだ。だから今回のことだって……」「人生というのは本来やり直しが利かないもの。ついこの間そう言ったのはおまえだろう?」
「それは……」

 確かに言ったけど、まさかこんなことになるとは思わないじゃないか。

「どうしようもないことはある。今回がまさにそうだ。だがどうしようもないことを引きずって、まだどうにかできる大事なことから目を逸らすほど愚かなことはない。」

 閻魔ちゃんのセリフは、きっと正しいのだろう。でもやり直しというアドバンテージも失ったぼくにこれから一体なにができるというのだろうか。今日大助に声をかけることすらできなかったのは、そんな考えが頭を延々とぐるぐるしていたせいもあった。

「……佐藤さん。これは私の個人的な意見として聞いてください。佐藤さんは愚かかもしれませんが、大事なものがしっかりと見えている人だと、私はそう思っています。ですので変に悩まないでください。もう少し自分に自信を持ってください。佐藤さんは、やり直しなんて無くても、自分が思っているよりもずっと魅力的な人間ですよ。もう……私なんかにこんなことを言われても不快なだけかもしれませんが……」

 そう言って青鬼さんは目を伏せた。

「そんなこと……ないですよ」

 その否定は思わず口からこぼれたものだったけど、本心だった。

「確かに閻魔ちゃんの嘘を信じたままでいられれば、ぼくの気持ちは楽だったかもしれない。でもそれは、自分のしでかした罪を見なかったことにしてるだけなんですよ。そんなのはきっと、間違ってる。だから真実を教えてくれたことに、ぼくは感謝しなきゃいけないんです。青鬼さん、ぼくに自分の罪と向き合う機会をくれてありがとうございました」

 ぼくはベットから体を起こして、青鬼さんに頭を下げた。

「いえっ。私は規則を守っただけなんです。佐藤さんのためになにもできないのに、お礼なんて、言わないでください」

 青鬼さんは涙ぐんでいた。きっと、残酷な真実を本人に告げるというのは、ぼくが想像できないくらい辛かったのだろう。それがわかるから余計に、青鬼さんを責めるような気持ちにはなれなかった。

「閻魔ちゃんも、俺を傷つけないようにって嘘ついてくれたっていうのはわかるからさ。ありがとな。だから、あんま気にすんなよ」「ふん、気にしてなんかないわっ。それにおまえからの感謝なんて、ピーマンよりいらないんだからな!」「いやピーマンは食えよ」

 ぼくより倍以上年上らしいのに、そんな子どもみたいな好き嫌いするなよ。そう指摘すると、閻魔ちゃんはむすっとした顔をしてそっぽ向いた。

「閻魔様は素直じゃないですから。佐藤さんの言葉、ちゃんと嬉しかったと思いますよ」
「そうですか……」

 そんな青鬼さんとのやりとりが、閻魔ちゃんにも聞こえてるはずだけど、彼女は知らんぷりを決め込んでいた。

「閻魔ちゃん」

 ぼくはそんな閻魔ちゃんに呼びかけるも、やっぱり反応はなかった。けど、ぼくはかまわず語りかけ続けた。

「ぼくに今なにができて、現状をどうにかできるかはわからないけどさ……とりあえず、なにかはやってみるよ」
「……せいぜいみっともなくあがくんだな」
「その……頑張ってください」

 閻魔ちゃんは最後までこっちを見ないまま、そう言い残してパッと姿を消した。青鬼さんも、それに続くように姿を消す。

 ぼくの軽率な行動で状況が悪化してしまうかもしれない。春風さんが階段から落ちて怪我をしてしまったことを引きずって、そんなことばかり考えていた。

 でも考えてみれば、今はすでに最悪な状況だ。もう盛大に失敗したというのに、一体これ以上なにを恐れることがあるというのだろうかと、今はそう思うのだ。

 アドバイザーというのは、自称ではなかったらしい。背中を押してくれた鬼達のことを思い浮かべて。ぼくはそう思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!  杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」   「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」 この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。 半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。 別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。 そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。 学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー ⭐︎第3部より毎週月・木・土曜日の朝7時に最新話を投稿します。 ⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。 ※表紙絵、挿絵はAI作成です。 ※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

処理中です...