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二人羽織と謝罪のいらない仲直り
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「春風さんに、声を当ててほしいんだ」
すこし時間を巻き戻して、春風さんを説得に行ったあの日、大助は春風さんにそうお願いした。
「でも、演技をする人が……」
「ぼくがやる。ぼくはセリフも振り付けも、全員分覚えてるから」
「でも西宮くんは男でしょ?主役は女で、話の展開的にもそれを変えるなんて無理なんじゃ……」
それはさすがに無理があるだろうと思ったのか、春風さんは言いづらそうに、苦言を呈した。
「うん、今から話を変えるのは無理だと思う。だから、そもままで行く。だから女役を演じる僕に、春風さんの声を当ててほしいんだ」
「女装するってこと?でもそんなの……」「そこは、七瀬に女の子より可愛い女の子にしてくれって頼んである」
ぼくがそう補足すると、春風さんは「ああ、ぼたんなら、それくらいできてもおかしくないかも」と納得したように頷いた。
「あっ。それと春風さんに声を当ててもらうっていう提案は声優になりたいって話を聴いたからとっさに言ったわけじゃなくて、初めからそのつもりで来てたんだ!あの、春風さんはとっても綺麗な声をしてるなって前から思ってて!だから気を遣ったとかじゃなくて……その」
「うん。大丈夫だよ。ちゃんと、知ってるから」
あたふた弁解する大助に、春風さんはどこか含みのある言い方をして、優しく微笑む。
「わかった」とかならまだわかるが、「知ってる」というのは、どうにも違和感を感じるワードチョイスだった。
「ありがとね、西宮くん。わたしにチャンスをくれて。どうなるかはわからないけど、わたし頑張るから!」
「……うん。絶対成功させようよ!」
そう言って、春風さんと大助は劇への意気込みを強めた。
……といった具合に、昨日声を当ててほしいと春風さんにお願いしたのである。
「二人羽織みたいな感じってことか?」
金髪イケメンがわかりやすいような、そうでもないような例えをした。だけどそれを聴いたクラスのみんなは「あー」とか「なるほど」とか、納得している様子だったので、ぼくも「そうそうそんな感じ」とその想像で合ってることを後押しする。
そんな中、椅子をギギギと後ろにはねのけて、春風さんが勢いよく立ち上がった。ひどく緊張しているように呼吸が浅い。
「えっと、その。こんなこと、嘘の理由で主役になって、怪我しちゃった張本人がいうことじゃないっていうことはわかってるんだけど……。でも、わたしもみんなと一緒に劇を成功させたい。だからお願い。二人羽織、やらせてください」
春風さんがみんなに、深く頭を下げた。
多分、春風さんなりのケジメというやつなんだと思う。みんながなんとも思っていないからと言って、そのまま何食わぬ顔で戻ってくるというのは、自分で自分が許せなかったのかもしれない。
「……みんな、いろんな事情があるんだと思う。春風さんも、理由があるんでしょ?秘密がない人なんていないよ。だから、その人のことをよく知らないくせに責めることなんてできないし、しちゃ、いけないんだと思う」
最初にそう反応したのは、以前焦りから小川さんを責め立ててしまった経験のある実行委員の林さんだった。今でこそ小川さんとよく一緒にいるところを見るけれど、金髪イケメンによれば最初の頃は罪悪感から小川さんに話しかけることすらできなかったらしい。あの件に関しては彼女なりに思うところがあったのだろう。
「そもそも反対する気とかないし」「そうだよ」「春風さん一人で気にしすぎだよ!」「みんなで頑張ってこうよ」
林さんのその発言を輪切りにして、流れはクラス全体へと伝播した。
「うん!みんな、ありがとう。劇、絶対成功させようね!西宮くんも、よろしく」
瞳と声を震わせながら、春風さんは笑った。それにクラスのみんなが「当たり前じゃん」「まだ舞える」と続いていく。
区切りよくチャイムが鳴って話し合いは終了した。
「ぼたん、あの……」
その日の休憩時間、トイレか、喉が乾いたのか、廊下に出た七瀬を春風さんが呼び止めた。気まずそうに言い淀む。おそらく、謝りたいのだろう。
「……わたしはあんたの夢をばらしたこと、謝らないから」
最初にはっきりとした言葉を紡いだのは、七瀬の方だった。
そう言われた春風さんは、泣きそうな顔で、胸に置いた手にぎゅっと力を込めた。握りしめられたワイシャツがしわくちゃになる。
「だから、あんたもウィッグを落としちゃったことは謝らなくていい。それで帳消し。お互い様ってことでいいでしょ?」
「うん。その提案、乗った。……ぼたん、ありがとね」
続く言葉で笑顔になった春風を見て、七瀬はふんと不機嫌そうに鼻を鳴らしたが、その口角がわずかに上がっていたのを、物陰に隠れて見物しているぼくは見逃さなかった。
「ねえ、ぼたん。わたしやっぱり学校でもぼたんと話したいよ。もう頭のことを隠す必要もなくなったんだしさ。ダメ……?」
春風さんが、上目遣いで覗き込むようにして、うるうるした目を七瀬に向ける。
「……考えとく」
七瀬は口を尖らせて、恥ずかしそうにそう答えた。一部始終を見ていたぼくの後ろに、いつのまにかぬるっと小川さんがいて、「よかったですね、仲直りできて」と涙ぐんでいて、ぼくは少し怯えた。ぼくら二人に気づかれぬようそっとその場から立ち去った。
次の日、七瀬が学校用のボサボサウィッグではなく、校外で使用しているオシャレなウィックを被ってきたことでクラス内外から話題の的となった。この分だと学校で春風さんと話すようになるのも、クラスで口が悪くなるのも案外早そうだ。
すこし時間を巻き戻して、春風さんを説得に行ったあの日、大助は春風さんにそうお願いした。
「でも、演技をする人が……」
「ぼくがやる。ぼくはセリフも振り付けも、全員分覚えてるから」
「でも西宮くんは男でしょ?主役は女で、話の展開的にもそれを変えるなんて無理なんじゃ……」
それはさすがに無理があるだろうと思ったのか、春風さんは言いづらそうに、苦言を呈した。
「うん、今から話を変えるのは無理だと思う。だから、そもままで行く。だから女役を演じる僕に、春風さんの声を当ててほしいんだ」
「女装するってこと?でもそんなの……」「そこは、七瀬に女の子より可愛い女の子にしてくれって頼んである」
ぼくがそう補足すると、春風さんは「ああ、ぼたんなら、それくらいできてもおかしくないかも」と納得したように頷いた。
「あっ。それと春風さんに声を当ててもらうっていう提案は声優になりたいって話を聴いたからとっさに言ったわけじゃなくて、初めからそのつもりで来てたんだ!あの、春風さんはとっても綺麗な声をしてるなって前から思ってて!だから気を遣ったとかじゃなくて……その」
「うん。大丈夫だよ。ちゃんと、知ってるから」
あたふた弁解する大助に、春風さんはどこか含みのある言い方をして、優しく微笑む。
「わかった」とかならまだわかるが、「知ってる」というのは、どうにも違和感を感じるワードチョイスだった。
「ありがとね、西宮くん。わたしにチャンスをくれて。どうなるかはわからないけど、わたし頑張るから!」
「……うん。絶対成功させようよ!」
そう言って、春風さんと大助は劇への意気込みを強めた。
……といった具合に、昨日声を当ててほしいと春風さんにお願いしたのである。
「二人羽織みたいな感じってことか?」
金髪イケメンがわかりやすいような、そうでもないような例えをした。だけどそれを聴いたクラスのみんなは「あー」とか「なるほど」とか、納得している様子だったので、ぼくも「そうそうそんな感じ」とその想像で合ってることを後押しする。
そんな中、椅子をギギギと後ろにはねのけて、春風さんが勢いよく立ち上がった。ひどく緊張しているように呼吸が浅い。
「えっと、その。こんなこと、嘘の理由で主役になって、怪我しちゃった張本人がいうことじゃないっていうことはわかってるんだけど……。でも、わたしもみんなと一緒に劇を成功させたい。だからお願い。二人羽織、やらせてください」
春風さんがみんなに、深く頭を下げた。
多分、春風さんなりのケジメというやつなんだと思う。みんながなんとも思っていないからと言って、そのまま何食わぬ顔で戻ってくるというのは、自分で自分が許せなかったのかもしれない。
「……みんな、いろんな事情があるんだと思う。春風さんも、理由があるんでしょ?秘密がない人なんていないよ。だから、その人のことをよく知らないくせに責めることなんてできないし、しちゃ、いけないんだと思う」
最初にそう反応したのは、以前焦りから小川さんを責め立ててしまった経験のある実行委員の林さんだった。今でこそ小川さんとよく一緒にいるところを見るけれど、金髪イケメンによれば最初の頃は罪悪感から小川さんに話しかけることすらできなかったらしい。あの件に関しては彼女なりに思うところがあったのだろう。
「そもそも反対する気とかないし」「そうだよ」「春風さん一人で気にしすぎだよ!」「みんなで頑張ってこうよ」
林さんのその発言を輪切りにして、流れはクラス全体へと伝播した。
「うん!みんな、ありがとう。劇、絶対成功させようね!西宮くんも、よろしく」
瞳と声を震わせながら、春風さんは笑った。それにクラスのみんなが「当たり前じゃん」「まだ舞える」と続いていく。
区切りよくチャイムが鳴って話し合いは終了した。
「ぼたん、あの……」
その日の休憩時間、トイレか、喉が乾いたのか、廊下に出た七瀬を春風さんが呼び止めた。気まずそうに言い淀む。おそらく、謝りたいのだろう。
「……わたしはあんたの夢をばらしたこと、謝らないから」
最初にはっきりとした言葉を紡いだのは、七瀬の方だった。
そう言われた春風さんは、泣きそうな顔で、胸に置いた手にぎゅっと力を込めた。握りしめられたワイシャツがしわくちゃになる。
「だから、あんたもウィッグを落としちゃったことは謝らなくていい。それで帳消し。お互い様ってことでいいでしょ?」
「うん。その提案、乗った。……ぼたん、ありがとね」
続く言葉で笑顔になった春風を見て、七瀬はふんと不機嫌そうに鼻を鳴らしたが、その口角がわずかに上がっていたのを、物陰に隠れて見物しているぼくは見逃さなかった。
「ねえ、ぼたん。わたしやっぱり学校でもぼたんと話したいよ。もう頭のことを隠す必要もなくなったんだしさ。ダメ……?」
春風さんが、上目遣いで覗き込むようにして、うるうるした目を七瀬に向ける。
「……考えとく」
七瀬は口を尖らせて、恥ずかしそうにそう答えた。一部始終を見ていたぼくの後ろに、いつのまにかぬるっと小川さんがいて、「よかったですね、仲直りできて」と涙ぐんでいて、ぼくは少し怯えた。ぼくら二人に気づかれぬようそっとその場から立ち去った。
次の日、七瀬が学校用のボサボサウィッグではなく、校外で使用しているオシャレなウィックを被ってきたことでクラス内外から話題の的となった。この分だと学校で春風さんと話すようになるのも、クラスで口が悪くなるのも案外早そうだ。
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