閻魔ちゃんと数えるぼくの罪 ~過去に戻って生前の罪をすべて精算しないと、ぼくは地獄に落ちるらしい~

ジェロニモ

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閻魔ちゃんと数えるぼくの罪

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「なあ、あのふたりってマジで別になにもしなくてもくっついてたんじゃねえの?普通に両思いだったわけだし」

 さっきまで泣いている姿を見られていたと思うと、何も言わないのがなんだか恥ずかしくて、ぼくは話題を絞り出した。

「いや、それがそうでもない」
「両想いなのに報われない恋愛というのは案外珍しくないんですよ」
「考えてもみろ。今回おまえがきっかけを作らなかったとして、あの二人が自分からアプローチなんてできる性格に思えるのか?」

 ふたりの言い分に、「あー」とぼくは納得した。七瀬が言っていたけど、春風さんにも隠し事があって、最初は大助も小説のこととか、オタクなこととか隠してたわけだし。そう簡単にアプローチはできなかったか。

「それで、これからぼくは地獄に落ちるのか?」

 深呼吸をして、本題に入る。言ってから気づいたが、案外心は穏やかだった。あれだけ泣いたのが良かったのかもしれない。

「なにを言っている。精算してないお前の罪はまだまだあるんだぞ」
「でももう過去に戻れないだろ」

 閻魔ちゃんが文句ありげに僕を見るが、もう罪を帳消しにできない以上、ぼくは問答無用で地獄行きだ。それに、転生先は人外だというおまけつき。それを理解した上でも、なぜだか気分は晴れやかだった。ただ、一つだけ気がかりなこともある。

「なあ今回の件で、未来って変わったわけだろ?」
「まあ、そうだな」
「じゃあ、大助が小説家になったかもしれないってことだろ?みんながどうなったかとか、冥土の土産に教えてくれねーの?」
「本人が知らない未来の情報は与えられない」

 閻魔ちゃんは、お決まりのセリフを言う。

「またそれかよ……。どうせ地獄行き決定なんだからさあ。少しは融通を効かせてくれよ」
「さて、それはどうかな?」

 なぜか閻魔ちゃんはにやりと笑った。

「実は裁判において、隠していたルールがまだある」「またかよ!」
「またじゃないわ!前は言い忘れてたり、めんどくさかったから省いたけど、今回のはあえて隠してたんだ!」
「はっ。ものは言いようだな」

 吠える閻魔ちゃんを、ぼくは鼻で笑い飛ばした。

 どうせ、言い忘れたけど誤魔化すために適当な理由をでっち上げただけだろうが。

「おまえ、まったく信じてないな……。本当だ!本当なんだぞ!そうだろう青鬼!」
「残念ながら本当なんですよ。春風さん。でも、残念なことばかりじゃないですよ」

 青鬼さんは隠してたことを申し訳なさそうに謝ったあとで、嬉しそうにそう言った。

「佐藤敬太よ。善意メーターを見よ!」

 言われて、ほとんどが空になっているはずのその筒の中に目を向ける。そこにはちゃぽちゃぽと、横に人間と書かれたメモリを裕に超した白く輝く液体が揺れていた。

 最初に過去に戻る前、善意メーターを初めて見たときよりも量が多い。

「どういう、ことなんだ……?」
「このメーターは、おまえがこれまでに行ってきた善行を加算したものだと説明したはずだ」

 閻魔ちゃんが答えるが、ぼくが聞きたいのはそんなことじゃない。

「それは、わかってるって。ぼくが聴いてるのは、なんで増えてるのかってことだよ」

 本来なら、あの中身はもうほとんど空のはずだ。

「加算されるのは死ぬ前だけではなく、やり直し中の善行も含むというシステムになっているのだ。そして一つ罪を精算するまで、担当する人間にそのシステムを伝えてはいけないというのがルールでな。一応最初にヒントは出していたんだぞ?情けは人の為ならずと言ってあっただろう?」

 ああ、たしかに最初、そんな似合わないことを言いやがってと思った記憶がある。けど、普通気づくかよ、そんなシステム。

「それでこんなに貯まるのか?だって最初に見たときよりより多いくらいだぞ」

 これじゃあぼくの生前の善行より、やり直しでの善行の方が割合が大きいってことになるじゃないか。そんなの、なんだかおかしい気がする。

「普通、こうは貯まらない」

 閻魔ちゃんがメーターを見て答えた。

「自分が地獄に堕ちないためにとした行動は、たとえそれが結果的にどんなに人のためになろうと善行とは見なされない。だからこれはな、おまえが心の底から友のために、誰かのために動いたという証明に他ならないのだ」

 ぼくはそう聞いても、まだ納得がいかなかった。確かにぼくは、途中から地獄行きを回避することを諦めた。でもそれは誰かのためじゃなく、自分が後悔しない道を選ぶためだ。ぼくは結局最後まで、自分のことしか考えてなかった。それを善行と評されるのは罪悪感があった。

「自分でも信じられないか?だが、システムに誤審はない。素直に受け入れるのだな。なんのことはない。自分の性根が土壇場では案外善人だったというそれだけの話だ。悪ぶりたい願望がないなら、そう悪いことでもないだろう」

 ……そうだ。理由なんてなんだっていい。善行メーターが増えたことが意味するのは……

「つまり……」「まだ、罪の精算は始まったばかりということだな。だからもっと喜んだ顔をしたらどうなんだ。私の裁判がまだ受けられるのだぞ!」

 閻魔ちゃんがなにやらキーキーと言うのが、なんだかすごく遠く聞こえた。まだみんなとまた一緒に居られるかもしれないということに、なんだか実感が湧かなくて。ぼくは震える自分の手をぼんやりと見つめた。

「おめでとうございます、佐藤さん」

 いつのまにかぼくの目の前まで近づいてきた青鬼さんが、そう言ってペコリと頭を下げた。

「えっと、ありがとうございます?」
「なぜ疑問形なんですか?」
「なんというか、頭ではわかってるんですけど、まだ終わりじゃないってことに、実感が湧かなくて。喜ぶべきなんでしょうけど……」

 きっと、夢見心地というのは、今みたいなときに使うのだろう。

 青鬼さんが「佐藤さん」と、夢から引き戻すようにぼくの名前を呼んだ。

「西宮大助が小説家になれたのか、春風渚は親の理解を得て声優になれたのか。七瀬ぼたんは?小川雪は?……佐藤さんが知りたいと願った未来の情報は、これから佐藤さん自身の目で、直接確かめてはいかがですか?」

「佐藤さんには、それができるのですから」そう言って、青鬼さんは微笑んだ。

 その言葉を聞いて、ぼくはようやく、またみんなと会えるのかもしれないという実感が湧いてきた。

「そうですね。人から聴くよりも、自分の目で見たほうがずっといい」

 自然と笑みがこぼれ出す。

「まったく。今回の一件で、説明不足やら言動の悪さやらで、私の閻魔代理としての評価が結構やばいことになってるんだぞ。また再研修にでもなったらどうしてくれるんだ。私はここから評価を挽回するんだよ!こんなあっけなく終わられてたまるか!」

 そう叫ぶ閻魔ちゃんを見て、青鬼さんはこめかみを押さえてため息をつく。多分、言動の悪さはそういうとこだと思うけど。

 なるほど。青鬼さんの報告により、閻魔ちゃんは着実に評価が落ちているらしい。ざまあ見ろとしか言う他ない。

「それにな。善行メーターが死後も増やすことができる。それは過去に戻れる回数が増えるというだけではないぞ」
「どういうことだよ」
「それはまだ教えられんな」

 閻魔ちゃんがそう言って、くふふふと意味深に笑った。

「なら気になるような言い方するなよな……」
「そうだな。ならこう言っておこう。善行メーターを満タンまで貯めれば、なにか良いことがあるかもしれないぞ」

 だから結局気になる言い方のままなんだよ。それ。

「その良いことってのがわかんないんだろ……。なんだ?神になれるとか?」
「教えませーん。例えおまえの当てずっぽうが当たっていたとしても答えませーん」

 閻魔ちゃんは、べろべろべーと舌を出した。

 つくづくムカつくやつだ。まあいいだろう。頭の隅に置いておくぐらいにとどめておこう。いざ頑張って貯めて、良いことというのが閻魔ちゃんに褒めてもらえるとかだったら発狂するし。

「では、次のやり直しの準備はいいか?ちなみに準備ができてなくても関係なく過去に送り込むぞ」
「なら聴くなよ……」
「なんだ、会いたがっていたみんなと会えるのが早まったのだ。もっと喜んだらどうなんだまったく」
「そうなんだけどさ……」

 なんというか、一息つくというか、心の準備というか、色々あるんだよこっちも。

「では次に精算する罪は……」

 ……まあ、なんにせよ。閻魔ちゃん達と行うぼくの罪の精算は、まだまだ続くようだ。次は一体、いつに戻るのだろうか。地獄行きがかかっているというのに、ぼくは不思議とワクワクしていた。
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