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王都へ 2

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翌日、シロアム村に着くと、
「こんな少人数で、よく生きて、この村に辿り着いたな。グレイランドールには出会わなかったのか?」
と、村の入口で門番に聞かれた。
「ああ、出会ったぞ。手強かった」と、ハリトラム砦の冒険者ギルドで、ハリトラムの刻印を刻んでもらった金属プレートを見せる。
門番は、金属プレートをチラッと見てから、
「逃げおおせたのか?」と重ねて聞いてくるので、
「いや、苦戦したが、なんとか倒した」と答えると
「この少人数で、グレイランドールを倒したのか?」と驚かれた。
シロアム村に入ると、体格のいい男や大男が目に付く。砦にも冒険者は多かったが、このシロアム村では、全員が冒険者ではないかと思うほど、ほとんどの人間が武装している上に、強者の雰囲気を漂わせている。
とりあえず宿を探し、2人部屋と3人部屋を取る。

夕食のときに、宿屋の親父に全員が武装をしている理由を聞くと
「そりゃ、この村が、護衛で食ってるからだ。柔な奴は、物心ついたらこの村を出ていく。替わりに、冒険者や流れ者が流れ込んで来くるけど、その中でも弱い奴はまた出ていく。で、最後には、強い奴だけが残って今みたいになってるってことだ」
「何で、弱い奴は出ていくんだ?」
「そりゃ、弱い奴には仕事が回ってこないからだ」
「仕事?」
「このシロアム村と王都の距離は、馬車で2日だ。たった2日と思うだろうが、この2日が曲者だ。必ず盗賊が出る。しかも何組も出る。数組が連携して襲って来ることもあれば、連続して襲ってくることもある。この村と王都の行き来は、とんでもなく危険でな、アンデオン方面からこの村に辿り着いた商人達は、ここで護衛を増やしてから王都に向かうんだ」
と説明してくれた。
「あんたらも王都に行くなら、ここで護衛を増やした方がいいぜ。ハリトラム砦からこの村までに出る魔物と違って、盗賊は厄介だからな」
「盗賊は、グレイランドールよりも強いのか?」と聞くと、
「1体1ならグレイランドールに勝てる盗賊は、あまりいないだろうな」
「盗賊でもグレイランドールに勝てる奴がいるのかよ」
「それよりも、魔物には知恵がないだろ。しかし人間には知恵がある。罠を仕掛けたり、陽動を仕掛けたり、タイミングを計ったり、連携したりするからな」
「なるほど、盗賊どもはずる賢いということか?」
「ああ、人数が居ないと対応できないぞ」
「対策を考えておくよ」

俺が考えた対策は、弓と水だった。弓術スキルは熟練度が1なので、スキルが無いに等しいが、アンシオンに着く前に盗賊に追われたときに、風魔法で矢の飛んで行く先を補正すれば、かなり命中度が上がることが分かった。
だから、アンシオンの砦に入って直ぐに、強い弓と多くの矢を買い込んでいる。
風魔法の効果範囲は30メートル圏内では強く、70メートルも離れるとほぼ効果が無くなるので、遠方の敵には弓矢に頼らなくてはならない。
そこで、アンシオンの砦で、強化された弓で、矢の飛距離が300メートルを超えるものを買った。その分、弓の全長が長く、矢も長くて取り扱いは難しいが、夜の見張りの間中、矢をつがえる練習をしてきたので、今ではかなり扱えるようになっている。
そして、水は樽を多めに買って、水を満タンにして、各馬車に6個ずつ載せている。これは馬車に火を点けられたときの消火用だ。今の水魔法の熟練度は4だが、まだ、水魔法で大量の水を生み出す自信がない。生み出す替わりに、水を用意しておこうと思ったのだ。
それぞれの砦で予備の食料や武器も買い込んでいるので、最後の宿泊地であるシロアム村では、最低限の補給をして、翌朝、村の門を出た。
シロアム村を出て半日程で、さっそく盗賊が出た。
街道の前の方で待ち伏せし、左右から近寄って来るのが気配察知とソナー魔法で丸分かりだった。このとき、グレートスネークからドレインした熱感知の有用性が分かった。気配察知やソナー魔法と違って、精神を集中しないでも、熱源を感じることが出来るからだ。樹の後ろに隠れてしまえば分からないが、体の一部でも視界が通る場所に出ていれば直ぐに分かる。
俺は、手を上げて合図をしてから馬車を止め、右に左にと弓を打ちまくった。150メートル以上離れているところから矢を撃ち込まれて、敵は慌てていたが、すぐに声を上げて左右から突撃して来た。
馬車の左右には、樹の陰に隠れるようにしてアレックスとバートを待機させている。盗賊達は懸命に走ってくるが、森の中なので足元が悪く、スピードが出ない。そこを狙って、右側、次に左側と方向を変えながら矢を撃ち込んでいく。熱感知で場所が分かっているので、振り返って、目で相手の位置を確認する必要がない。
半分ほど来るまでに5人倒した。50メートル程までに近寄って来たので、エアカッターを乱射した後、アレックスとバートを突撃させる。
前方で待機していた盗賊達が、剣戟の音や怒鳴り声で、待ち伏せに失敗したことを知って駆け付けて来た。今度は、前方の敵に向かって矢を放つ。敵は馬鹿みたいに真正面から突っ込んで来るので、ことごとく矢の餌食になる。50メートル程に近づいたので、エアカーカッターを乱射しつつ、時折、三半規管を狂わす超音波魔法も放つ。他の盗賊に情報が漏れるかも知れないので、手の内を隠しながら戦う。
何人かが前のめりに倒れ、後続が、それに躓いてこける。
もう少しで馬車に届くところにまで来た敵を、馬車から飛び降りて剣で迎え撃つ。無双、鎧袖一触、強打、強襲、瞬動、回避を発動させながら斬り倒していく。
俺を抜けたり、アレックスやバートを抜けて馬車に近づいた盗賊は、クレラインとオーリアの弓で仕留められている。
30分ほどの戦いで、盗賊は全滅した。俺は、まだ息のある奴等からスキルをドレインして、酒豪1をドレインした。
その後は、盗賊の懐から金目の物を漁り、目ぼしい武器を奪って、死体は土魔法で穴を掘って埋めた。これで、この辺りから30人程盗賊が減ったことになる。

その後、馬車を進めて夕方になった。その間、盗賊が出なかったが、噂通りなら、この夜に出るはずだ。
さて、盗賊の夜襲をどう防ぐか作戦会議をした。
「間違いなく、馬車は燃やされるだろうね」とオーリア。
「1台は守りたい」と俺。
「パティとアルミを窯のなかに隠そう。その窯をアレックスが護る。バートは遊撃隊だ。今回は、盗賊が攻めてきたらクレラインとオーリアも馬車を降りて戦ってくれ。まずは、飯を食おう。それから、オーリア達は眠ってくれ」
俺達は、馬車を離して停め、窯のある方に食糧や水や予備の武器などを運び込み、馬車の右側を俺、左側をバートといつもの布陣を敷き、残りは全員、窯を積んだ馬車に乗った。
馬車の中では、窯の蓋をあけて、まずパティが、続いてアルミが潜り込んだ。
「夜襲があったら、蓋を閉めるからね。私達が声を掛けるまで、絶対に蓋をあけてはいけないよ」とクレラインの声に、
「うん」とアルミが頷いている。

そして、夜が深まった頃、再び、盗賊が襲ってきた。
今度は多い。気配察知やソナーや熱感知でも60人以上いるようだ。
まずは矢を放つ。熱感知があるから、遠くの敵まで丸分かりだ。俺達にこっそり近づこうとして距離を詰める間に、次々と数を削っていく。
10人程倒したところで、敵が駆け出した。さらに矢を放ち、敵までの距離が50メートルを切ったところで、敵の密集したところに向かって衝撃波魔法を立て続けに放つ。
ドーン、ドーン、ドーンと爆発音が響き、俺の正面の敵が吹っ飛び、動揺する。
この音を合図に、バートが敵に突っ込み、クレラインとオーリアも馬車から飛び降りて、矢を放つ。ほぼ、30人は倒した頃、離しておいた馬車に火が付いた。そちらは、元から捨て駒だ。もう一つの馬車にも火矢が刺さり、火魔法がぶつかるが、こちらの馬車はあらかじめ樽の水を、たっぷりかけておいたので、なかなか火が付かない。何人かが馬車に飛び乗ったが、アレックスに跳ね飛ばされて、幌を突き破って馬車から落ちてくる。
とうとう、こちらの馬車も燃え始めたので、俺はウォータートルネードの魔法を使って火を消した。その頃には、盗賊達は10人程になっており、主だった奴らが、バートやアレックスと切り結んでいたが、アレックスの頭巾が斬り裂かれてオークの顔が見えてしまった。
「オークだ」と誰かが叫ぶ。
「オークだと?」
盗賊の間に動揺が走る。この瞬間に、俺は無敵を発動させて、生き残った連中をゼネラルソードで撫で斬りにした。
逃げようとした奴も、クレラインとオーリアに殺され、60人からいた盗賊は全滅した。しかし、こちらにも被害はあった。馬車が1台焼き尽くされ、アレックスはかなり斬られているので送還した。金属の鎧を着ているバートは比較的ましだが、無傷というわけにはいかなかった。クレラインもオーリアも、体のあちこちに切り傷を負っている。急いで薬酒を飲ませて休ませると、窯の蓋を開けてパテとアルミの安全を確認する。
「大丈夫かと?」と声を掛けると、
「私達は無事よ」とパティの声が返って来た。
朝になると、離していたディアスが戻ってきたが、もう1頭は戻ってこなかった。盗賊に捕まったか、殺されたかしたのだろう。バートを人に見られても困るのでバートも送還する。
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