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アンテローヌの負傷
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アンテローヌを両手に抱えて尾根を越えると、敵味方関係なしに、走って逃げていく兵士達が見えた。
俺も、その兵士達を追いかけて走った。
暫く走ると、そこはもう安全なのか、そこかしこに、兵士達が仰向けに寝転がって休んでいる。鎧の色から、敵味方が入り混じっているのが分かる。皆、何が起きたのか分かっていて逃げ出したようだ。
ここまで来れば安全なのだろうと、俺も足を止めてアンテローヌの様子を見ると、顔色が白くなっている。
そのとき、早めに戦闘から離脱していたオーリア達が、俺の姿を見つけて駆け寄って来た。
「お姫さんがやられたのかい」とオーリア。
「無事だったか?」と確認すると、
「ちょっと早めに逃げ出したからね。あんたがサインを出してくれたお陰だよ」とルビー。
アンテローヌを地面に降ろして、クレラインが差し出してくれた薬酒を受け取り、アンテローヌに口移しで飲ませる。
「何回見たかね、それ」とオーリアに冷やかされる。
薬酒を飲ませると、アンテローヌの顔色が少しよくなった。
「何処をやられたのよ?」とクレライン。
「腰だ」と俺。
「傷を確かめなくちゃ」と、クレラインとオーリアが俺を脇に退かせて、アンテローヌの鎧を脱がし、鎧下を捲り上げて、傷を確かめる。
腰の後ろに大きな刺し傷があった。今度は俺がオーリア達を押し退けて、ブラッドスライムを追加で傷口に押し込んでから、掌を当てて癒しスキルを使った。
何度もスキルを掛けると、アンテローヌの呼吸が穏やかになったので、やっと手を離した。
そして、立ったまま、俺を取り囲んでいるオーリア達を見上げて、
「あのアンデッドは何だ?」と聞いた。
「たぶん、アンデッドの原だよ」
「何だ、それは?何故、皆が戦争を放り出して、逃げ出したんだ?」
「これも、知らないのかい」と、オーリアが呆れながら説明を始めた。
「戦場で人が死に過ぎると、死んだ奴らがアンデッドになることがあるんだ。それをアンデッドの原と呼ぶんだよ。そこで死ぬと自分もアンデッドになってしまうという話だよ」
「子供の頃にさんざん聞かされるから、誰でも知ってる話なのよ」とクレライン。
「この前起きたのは、確か70年ぐらい前だったと思う」とルビー。
「だから皆、逃げ出したのか。ここまで来れば、アンデッドは追って来ないのか?」
倒れ込んで地面に大の字になっている多くの兵士を見ながら俺が聞くと、
「あの尾根を越えたら大丈夫のようだね」とルビーが尾根を振り返りながら答えた。
「姉上~、ダブリン殿~、姉上を知りませんか~?」
俺の姿を見つけて遠くから叫びながら、こちらに駆け寄って来るのは、ランズリード侯爵家のディフォーヌだった。その後ろから、数人の近衛兵が続いている。いずれも馬を失くして徒歩だった。
「アンテローヌなら、保護した。ここに居るぞ」と、叫び返すと、歓声が上がって、脚を速めてこちらに駆けて来た。
「姉上はご無事ですか?」とディフォーヌ。
「腰を刺されたようだ。応急手当てをしたが、誰か治療が出来る者はいないか?」と聞いたが、ディフォーヌはそれに答えず、地面に膝を着いて、横向きに寝かせたアンテローヌの腰の傷を見て、逆に、
「助かるでしょうか?」と聞いて来る。
「薬酒を飲ませたから、助かるだろうが、ちゃんと治療した方がいい」と言うと、
「ディラウス砦まで運べば、手当てが出来る医師がいるはずですが、動かしても大丈夫でしょうか?」
「馬車が要る。それとも担架を作って、手で運ぶかだな」と俺が答える。
「この先に輜重隊の荷車がいるはずですから、1台徴発してきましょう」
そう申し出たのは、近衛隊の分隊長らしい中年の男で、数名の部下を引き連れて、その場から駆け去った。
そのとき、アンテローヌが目を覚まして、
「ここは?私は?」と聞くので、
「大怪我をしている。寝ていろ」と言うと、
「旦那様、面目ございません」と、か細い声で謝ってきた。
「気にせずに、安静にしていろ」と言ったが、ディフォーヌの姿を見ると、少し上半身を起こし、
「ディフォーヌ、何をしておる。戦を続けるのじゃ」と指示をして、また気を失った。
「はい。殿下」
ディフォーヌは跳び上がるように背筋を伸ばして答え、侯爵軍に向かって
「皆の者、アンテローヌ殿下は御無事じゃ。さっさと立ち上がって、傍にいる伯爵家の兵を捕らえよ」と号令をかけた。
侯爵軍の兵士達は直ぐに立ち上がって伯爵軍の兵士を見たが、彼らはもう戦意を失くしており、抵抗する者は居なかった。
その間に、先程の近衛兵が、空の荷車を引いて戻って来た。荷車には、穀物を入れていた麻袋がいくつも積んであり、それを並べて寝床にして、その上にアンテローヌを寝かせた。
尾根を越えて逃げ延びたランズリード侯爵軍は、およそ600。トラディション伯爵軍の兵士は800を超えており、伯爵軍は数で有利だったが、戦意を失くしていたために無抵抗で、侯爵軍の指示に従った。伯爵軍が抵抗しなかったので、ディフォーヌは彼らを一か所に集め、武装を解除した。
現場の指揮はディフォーヌが執り、散り散りになったランズリード家の兄弟姉妹や近衛兵も集まって来て、ランズリード軍は陣容を取り戻しつつあった。
俺達は一足先に、アンテローヌを乗せた荷車を引いて、ディラウス砦に向かうことにした。これには、俺たち以外に、荷車を徴発してきた近衛兵3名が付き従った。
俺も、その兵士達を追いかけて走った。
暫く走ると、そこはもう安全なのか、そこかしこに、兵士達が仰向けに寝転がって休んでいる。鎧の色から、敵味方が入り混じっているのが分かる。皆、何が起きたのか分かっていて逃げ出したようだ。
ここまで来れば安全なのだろうと、俺も足を止めてアンテローヌの様子を見ると、顔色が白くなっている。
そのとき、早めに戦闘から離脱していたオーリア達が、俺の姿を見つけて駆け寄って来た。
「お姫さんがやられたのかい」とオーリア。
「無事だったか?」と確認すると、
「ちょっと早めに逃げ出したからね。あんたがサインを出してくれたお陰だよ」とルビー。
アンテローヌを地面に降ろして、クレラインが差し出してくれた薬酒を受け取り、アンテローヌに口移しで飲ませる。
「何回見たかね、それ」とオーリアに冷やかされる。
薬酒を飲ませると、アンテローヌの顔色が少しよくなった。
「何処をやられたのよ?」とクレライン。
「腰だ」と俺。
「傷を確かめなくちゃ」と、クレラインとオーリアが俺を脇に退かせて、アンテローヌの鎧を脱がし、鎧下を捲り上げて、傷を確かめる。
腰の後ろに大きな刺し傷があった。今度は俺がオーリア達を押し退けて、ブラッドスライムを追加で傷口に押し込んでから、掌を当てて癒しスキルを使った。
何度もスキルを掛けると、アンテローヌの呼吸が穏やかになったので、やっと手を離した。
そして、立ったまま、俺を取り囲んでいるオーリア達を見上げて、
「あのアンデッドは何だ?」と聞いた。
「たぶん、アンデッドの原だよ」
「何だ、それは?何故、皆が戦争を放り出して、逃げ出したんだ?」
「これも、知らないのかい」と、オーリアが呆れながら説明を始めた。
「戦場で人が死に過ぎると、死んだ奴らがアンデッドになることがあるんだ。それをアンデッドの原と呼ぶんだよ。そこで死ぬと自分もアンデッドになってしまうという話だよ」
「子供の頃にさんざん聞かされるから、誰でも知ってる話なのよ」とクレライン。
「この前起きたのは、確か70年ぐらい前だったと思う」とルビー。
「だから皆、逃げ出したのか。ここまで来れば、アンデッドは追って来ないのか?」
倒れ込んで地面に大の字になっている多くの兵士を見ながら俺が聞くと、
「あの尾根を越えたら大丈夫のようだね」とルビーが尾根を振り返りながら答えた。
「姉上~、ダブリン殿~、姉上を知りませんか~?」
俺の姿を見つけて遠くから叫びながら、こちらに駆け寄って来るのは、ランズリード侯爵家のディフォーヌだった。その後ろから、数人の近衛兵が続いている。いずれも馬を失くして徒歩だった。
「アンテローヌなら、保護した。ここに居るぞ」と、叫び返すと、歓声が上がって、脚を速めてこちらに駆けて来た。
「姉上はご無事ですか?」とディフォーヌ。
「腰を刺されたようだ。応急手当てをしたが、誰か治療が出来る者はいないか?」と聞いたが、ディフォーヌはそれに答えず、地面に膝を着いて、横向きに寝かせたアンテローヌの腰の傷を見て、逆に、
「助かるでしょうか?」と聞いて来る。
「薬酒を飲ませたから、助かるだろうが、ちゃんと治療した方がいい」と言うと、
「ディラウス砦まで運べば、手当てが出来る医師がいるはずですが、動かしても大丈夫でしょうか?」
「馬車が要る。それとも担架を作って、手で運ぶかだな」と俺が答える。
「この先に輜重隊の荷車がいるはずですから、1台徴発してきましょう」
そう申し出たのは、近衛隊の分隊長らしい中年の男で、数名の部下を引き連れて、その場から駆け去った。
そのとき、アンテローヌが目を覚まして、
「ここは?私は?」と聞くので、
「大怪我をしている。寝ていろ」と言うと、
「旦那様、面目ございません」と、か細い声で謝ってきた。
「気にせずに、安静にしていろ」と言ったが、ディフォーヌの姿を見ると、少し上半身を起こし、
「ディフォーヌ、何をしておる。戦を続けるのじゃ」と指示をして、また気を失った。
「はい。殿下」
ディフォーヌは跳び上がるように背筋を伸ばして答え、侯爵軍に向かって
「皆の者、アンテローヌ殿下は御無事じゃ。さっさと立ち上がって、傍にいる伯爵家の兵を捕らえよ」と号令をかけた。
侯爵軍の兵士達は直ぐに立ち上がって伯爵軍の兵士を見たが、彼らはもう戦意を失くしており、抵抗する者は居なかった。
その間に、先程の近衛兵が、空の荷車を引いて戻って来た。荷車には、穀物を入れていた麻袋がいくつも積んであり、それを並べて寝床にして、その上にアンテローヌを寝かせた。
尾根を越えて逃げ延びたランズリード侯爵軍は、およそ600。トラディション伯爵軍の兵士は800を超えており、伯爵軍は数で有利だったが、戦意を失くしていたために無抵抗で、侯爵軍の指示に従った。伯爵軍が抵抗しなかったので、ディフォーヌは彼らを一か所に集め、武装を解除した。
現場の指揮はディフォーヌが執り、散り散りになったランズリード家の兄弟姉妹や近衛兵も集まって来て、ランズリード軍は陣容を取り戻しつつあった。
俺達は一足先に、アンテローヌを乗せた荷車を引いて、ディラウス砦に向かうことにした。これには、俺たち以外に、荷車を徴発してきた近衛兵3名が付き従った。
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