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5.「私達を白濁に染めて」

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 ユーツーは頬を伝ってくる精液を指で拭い取り、玩具のスライムを遊ぶかのようにしてニオイを嗅いだりする。酔いが回りすぎたようだ。

「スゥ、スンスン。変なニオイなのになんで……?」

 これほどまでにメスの心が惹かれるのはなぜか、ユーツーは呆然としながらつぶやくのだった。

 その間にクビナの顔をキレイにし終わり、ユーツーにティッシュを渡そうとしたときのこと。

 ピーンポーン。

「っ!」

「!?」

「アワワッ!」

 家のインターホンが鳴らされ、3人は肩もしくは頭を震わせた。

 こんな時間にたずねてくるのはアパートの住人だろうか。

「は、はいはい!」

 タカヒロは慌ててムスコをズボンの中にしまって、玄関に向かいながら客に在宅を知らせた。そして、客の方から入ってくる様子がないのでソッと扉を開くのだった。

「おぉぉっ!?」

 そこにあったものを見てタカヒロは驚いた。

「どうかしましたか?」

「驚くようなお客さん?」

 ユーツーとクビナがコソコソと玄関を覗きに来たが、言葉を失うことになる。

 なにせ、ファンタジーで見るような箱型馬車を連れた馬がまず目の前にくる。それが兜に包まれた赤髪の女性の頭部を咥えていればなおさら驚く。

「夜分に失礼する。我が名はメリー=アントワネットと申し上げる」

 疲れているようだが、凛々しい顔立ちの女性の頭部は名乗りを上げた。

「は、はぁ? 大家の古市 タカヒロです……」

 思わずタカヒロも名乗った。初対面なのは確定であり、住人でもなければ最近引っ越してきたということもない。

「『霊外アパート』と噂に聞き参ったのだが。あぁ、恥ずかしながら体の方に反旗を翻されてしまい、みっともない姿を晒している」

 入居希望という様子だが、名に恥じない例外であった。メリーの恥を忍んだ説明を聞いて、タカヒロも同情してしまう。

「まぁ、それは災難で。見たとこ人間では」

「あぁ、種族はデュラハンだ」

 当たり前だが人外であることを確認しようとするタカヒロに、メリーは隠しても仕方ないと考えてかあっさり暴露した。

 はるばる外国からやってきてくれたようで、流石に無下なあつかいもできない。

「まぁ、納得な姿かな。その格好だとくつろげないでしょ」

 タカヒロは、髪の毛を咥えられて吊り下げられるメリーをもてなそうとする。口周りを守るバイザーをつけた鉄兜ごと手に取ったのである。

「かたじけない」

 ずっしりと重いが、楽になったようで良かった。

「このようななりだが、私にできることがあれば何でもしよう。あいにく、財は体の方に奪われてしまったものでな……。あ、我が愛馬は健脚だぞ。ブリテンからここまであっという間だ」

「いや、これは現代日本だと目立つ」

 などと足役をそれとなく申し出たメリー。しかし、タカヒロは普段遣いできそうにない名馬は断った。

 もっと興味深い言葉があったから。

「何でもか/ね/ですね」

 部屋の中にいた三人が同じような反応をする。
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