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実験EX.小噺:ビュリダンのモフ
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理科室に集まる二人の少女にとって、少し夢のある話が舞い込んだ。
これまで想像上の形を予想するだけだったブラックホールを、画像に撮影することができたのである。もちろん彼女達がやったのではなく、世の偉い科学者の皆さんが頑張ったからだ。
黒い空間を赤色の光が輪を作っている。見えなかったものが見えるようになるというのは、言ってしまうと幽霊などの証明も可能になるということである。
「これから先、ブラックホールみたいな不可視のものを可視化する手段が見つかっていくんだろうね」
感心して言うのは、熱心に科学雑誌を読んでいたポニーテールの少女だ。
「そうね。流石に被験体君の幽霊は見たくないけど」
感心があるのかどうなのか、長毛のモルモットを愛でながら答えたのはセミロングの少女の方。
「ロマンが無いね。七宝は。現実主義者とか、目に見たものしか信じないタイプではないと思っていたんだけれど?」
ポニーテール少女、方形 五花は冷静にからかって来ているように見えて少し顔が青ざめていた。
「五花。それは違うわよ。私は合理主義なだけよ」
「ほう。合理主義?」
「ぁによ?」
二人の間に、謎の緊張感が走った。青菜に塩と言わんばかりに天啓を得たのであろう五花の表情に、七宝は不穏なものを感じたのだろう。
モルモットの被験体君を抱き寄せ、セミロングヘアを逆立てフシャッシャーと猫の如く威嚇する。
「シャーッ! 悪いこと企んでんでしょ!」
「ハハハッ。流石に今から何かするつもりはないよ」
警戒をとこうとはしているものの、これまでのことを考えると油断はできなかった。
「君は合理主義といったね。じゃあ、一つ質問だ」
「へぁ?」
確認を取ってくる五花の怪しい笑みに、更に不安が高まり光の巨人みたいな声が出た。彼女の質問とやらが、今まで楽に解答できた覚えがなかった。
そして、大抵は解答を失敗して嫌な目に合うのである。
「まぁまぁ、そう警戒せず」
「警戒するわよ」
「被験体君と全く同じ、白毛で長毛のモルモットがいるとしよう」
七宝のことなどお構いなしに話し始めた。
曰く、触り心地や重量なども変わることはない。そんなモルモットこと『被験体君二号』が居ると仮定する。その二匹が、七宝から同じ距離を置いて五花の実験の餌食になろうとしている。
ちなみに、「湖で溺れている」を改変してお送りしております。
「さて、どちらを助ける?」
その問で一旦言葉を閉めた。
「当然、両方助けるなんて答えはないわよね?」
「当然」
「棒を倒して、向いた方とか」
「ない」
互いに打てば響くというのか、尋ねれば想定した通りの答えが返ってくる。
「そうなると。あー……えーと。でも、これはそれで。あれは、あれで……?」
しかし、この問いは予想以上に難問だった。
なにせ判断基準がどこにもないのだ。合理的にどちらかを選択することが出来ないため、溺れる《実験に使われる》モフモフを助けるに至らない。
「……ポッ」
「もうギブアップのようだね」
頭から煙を噴いて思考停止に陥った七宝を見て、五花はやれやれと頭《かぶり》を振るのだった。なぜ、少女漫画みたいに顔を紅潮させたのかは知らないが。
友人の心情は捨て置き、こちらの詳細について話していく。
「これは『ビュリダンのモフ』と言ってね。平たく言えば、合理主義も過ぎればバカバカしいって話しだよ。……って、聞いてないね」
完全にオーバーヒートした七宝は、五花の言葉を全く聞いていなかった。
ため息をついて、、意識を飛ばした同輩の頬を指で突っつく。それを被験体君は静かに見守る。
「ヂュヂュッ!」
「そうだね。君のご主人はもう少し周りにも目を向けるべきだ」
通じもしないはずの会話を交わし、飽きもせず七宝を見つめていた。
うわ言まで口にするので飽きない。少なくとも五花はそう思っている。ときには聞けんなことも口にすることがあるが。
「あかしけ、やなげ、緋色の鳥よ、くさはみねはみ、けをのばせ」
「止め給え」
これまで想像上の形を予想するだけだったブラックホールを、画像に撮影することができたのである。もちろん彼女達がやったのではなく、世の偉い科学者の皆さんが頑張ったからだ。
黒い空間を赤色の光が輪を作っている。見えなかったものが見えるようになるというのは、言ってしまうと幽霊などの証明も可能になるということである。
「これから先、ブラックホールみたいな不可視のものを可視化する手段が見つかっていくんだろうね」
感心して言うのは、熱心に科学雑誌を読んでいたポニーテールの少女だ。
「そうね。流石に被験体君の幽霊は見たくないけど」
感心があるのかどうなのか、長毛のモルモットを愛でながら答えたのはセミロングの少女の方。
「ロマンが無いね。七宝は。現実主義者とか、目に見たものしか信じないタイプではないと思っていたんだけれど?」
ポニーテール少女、方形 五花は冷静にからかって来ているように見えて少し顔が青ざめていた。
「五花。それは違うわよ。私は合理主義なだけよ」
「ほう。合理主義?」
「ぁによ?」
二人の間に、謎の緊張感が走った。青菜に塩と言わんばかりに天啓を得たのであろう五花の表情に、七宝は不穏なものを感じたのだろう。
モルモットの被験体君を抱き寄せ、セミロングヘアを逆立てフシャッシャーと猫の如く威嚇する。
「シャーッ! 悪いこと企んでんでしょ!」
「ハハハッ。流石に今から何かするつもりはないよ」
警戒をとこうとはしているものの、これまでのことを考えると油断はできなかった。
「君は合理主義といったね。じゃあ、一つ質問だ」
「へぁ?」
確認を取ってくる五花の怪しい笑みに、更に不安が高まり光の巨人みたいな声が出た。彼女の質問とやらが、今まで楽に解答できた覚えがなかった。
そして、大抵は解答を失敗して嫌な目に合うのである。
「まぁまぁ、そう警戒せず」
「警戒するわよ」
「被験体君と全く同じ、白毛で長毛のモルモットがいるとしよう」
七宝のことなどお構いなしに話し始めた。
曰く、触り心地や重量なども変わることはない。そんなモルモットこと『被験体君二号』が居ると仮定する。その二匹が、七宝から同じ距離を置いて五花の実験の餌食になろうとしている。
ちなみに、「湖で溺れている」を改変してお送りしております。
「さて、どちらを助ける?」
その問で一旦言葉を閉めた。
「当然、両方助けるなんて答えはないわよね?」
「当然」
「棒を倒して、向いた方とか」
「ない」
互いに打てば響くというのか、尋ねれば想定した通りの答えが返ってくる。
「そうなると。あー……えーと。でも、これはそれで。あれは、あれで……?」
しかし、この問いは予想以上に難問だった。
なにせ判断基準がどこにもないのだ。合理的にどちらかを選択することが出来ないため、溺れる《実験に使われる》モフモフを助けるに至らない。
「……ポッ」
「もうギブアップのようだね」
頭から煙を噴いて思考停止に陥った七宝を見て、五花はやれやれと頭《かぶり》を振るのだった。なぜ、少女漫画みたいに顔を紅潮させたのかは知らないが。
友人の心情は捨て置き、こちらの詳細について話していく。
「これは『ビュリダンのモフ』と言ってね。平たく言えば、合理主義も過ぎればバカバカしいって話しだよ。……って、聞いてないね」
完全にオーバーヒートした七宝は、五花の言葉を全く聞いていなかった。
ため息をついて、、意識を飛ばした同輩の頬を指で突っつく。それを被験体君は静かに見守る。
「ヂュヂュッ!」
「そうだね。君のご主人はもう少し周りにも目を向けるべきだ」
通じもしないはずの会話を交わし、飽きもせず七宝を見つめていた。
うわ言まで口にするので飽きない。少なくとも五花はそう思っている。ときには聞けんなことも口にすることがあるが。
「あかしけ、やなげ、緋色の鳥よ、くさはみねはみ、けをのばせ」
「止め給え」
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