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Menue4-6
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「くそッ」
思考だけが明瞭なことが恨めしく、エポナは悪態をついた。
それからまもなくして、野次馬達の情報伝達によって状況が整理され始める。
「おい、聞いたかトーリオ一家のカポネって奴の、警察との大立ち回りの話」
「あぁ、タイプライターでパトカー数台を穴だらけにしたんだってな」
「ありゃすごかったな。ちょっとした映画だったぜ」
「でもよ、確かカポネ側にも死人が出たんだっけ? 捕まった奴もいたって」
まとめると、妨害しすぎたがために多くの警官が導入されることとなった。選挙管理委員を監禁したり、銃まで持ち出してきたら当然だ。
そこでカポネ達率いるマフィアと警官隊100人以上が銃撃戦になり、結果、フランクが亡くなりフシェッティが捕まった。他にも死傷者や逮捕者も出ており、トーリオ一家としては今の所痛み分けだろうか。
これからのことを考えると、お釣りが出るという意見もチラホラと聞く。
「おい、アル」
しかし、エポナにはそんな損得など計算外の話だ。家族を失い傷心しているカポネに、エポナはいつかの顔を殴りつけたときのように詰め寄っていった。
流石に死者の運び込まれた病院で怪我人を出すつもりはないが、それでも言ってやらねばならない。
「……ッ」
茫然自失としているカポネの襟首を掴んで、細腕では椅子から立ち上がらせることもできないが怒鳴りつける。
「オブライエン……」
「まただ! また、お前は!」
周りで見ていたトーリオ他、何人かが止めに入ろうとするも言葉を続けた。
「大事なところでやり方を間違える! その結果がこれだ!」
「お前には……」
「あぁ、関係ないだろうな。ほとんど迷惑にもなっていない」
カポネが反論できそうなことなど、エポナを巻き込んではいないというぐらいのものだ。だから良いなどと誰が言えるだろう。
「家族よりも苦しくはないかもしれない。だがな、知り合いを失う辛さはお前一人のものじゃないんだ!」
エポナは訴えた。可能な限り涙声を殺し、怒りでもない言葉をカポネに投げつかけた。
自分もこれだけ苦しいなら、カポネはもっと苦しいに決まっている。だから強く言っても余計に互いの傷を広げるだけだなのだ。それでも今、ここで打たねばまた同じ過ちを繰り返すだろう。
「もう、これ以上は、間違えないでくれ……」
悲しみを抑えても、エポナの口から漏れ出た。
「……」
カポネは無感情な瞳を向けるだけで、響いているのかどうなのかもわからなかった。
そこからは周囲の皆に引き剥がされて終わり、呆然としているカポネにトーリオが指揮を取り始める。
「お前らは良くやった。後は休んでろ」
その言葉がエポナにも向けられているものだとわかり、彼女も大人しく引き下がらざるを得なかった。
この混乱の中、部下達をまとめつつも警察からの追求をのらりくらりと躱し、うまい具合に
また、その数日後のことである。カポネが別にアジトにしているお店へ入り浸っているものだから、気にしたトーリオから呼び止められる。
「お前さん達ケンカでもしてんのか?」
「え、えっとぉ」
なかなかにプライベートなことを尋ねられ、エポナとて言い淀んでしまうのだった。
しかし、カポネの上司にして一家の長に尋ねられて答えないわけにもいかず、控えめにうなずくに留めるのである。ただ、問題はそれがトーリオにとって何か気にかける必要があるのかというもの。
「アルがなにか……?」
「いやな。仕事はしてるしちゃんと生きてはいるんだが、組織としての張り合いというか空気というかよ」
「あぁ、そういう」
エポナが問うとトーリオが難しい顔で答えてくれ、得心いくのだった。
本来ならば家族を失ったことで絶望するか、奪われた怒りで爆発するかのどちらかだ。そのどちらにも振れず負の感情を溜め込んでいるがために、周りの者達は色々な反応をしてしまう。
人によっては腑抜けたカポネに対して様々な感情を抱き、トーリオや察しの良い者だといつ火山が噴火するかを待つ心境は戦々恐々としたものだろう。
ストレスを解消するための手段として、カポネが酒に溺れたりしないのがなおさら暴発の危険性を高めている。
「だからって、どうするんです? 私は、ただの料理人ですよ?」
エポナは、そうしたところを理解しつつも尋ねた。
これはエポナが自身を過小評価してのことで、奇妙な笑顔が示す通りトーリオは策ありと思っている様子。
「料理人だから良いんだろーが。まぁ、ちょいと聞きな」
「はぁ?」
エポナは自分がどれだけ重要な位置にいるのかわからないため、彼女は良い予感はしないもののうなずくしかなかった。そもそも、自分に害が及ぶ可能性もゼロではないとさえ思っていた。
トーリオの話す内容は、次の通りである。
というのは横に置き、この会話から数日後、5月にも入ってしまったある日。エポナは全くトーリオ一家と関係のないレストランの厨房に立っていた。
どうしてそんなことになったのかをエポナは自問する。
「なんでだ……?」
思考だけが明瞭なことが恨めしく、エポナは悪態をついた。
それからまもなくして、野次馬達の情報伝達によって状況が整理され始める。
「おい、聞いたかトーリオ一家のカポネって奴の、警察との大立ち回りの話」
「あぁ、タイプライターでパトカー数台を穴だらけにしたんだってな」
「ありゃすごかったな。ちょっとした映画だったぜ」
「でもよ、確かカポネ側にも死人が出たんだっけ? 捕まった奴もいたって」
まとめると、妨害しすぎたがために多くの警官が導入されることとなった。選挙管理委員を監禁したり、銃まで持ち出してきたら当然だ。
そこでカポネ達率いるマフィアと警官隊100人以上が銃撃戦になり、結果、フランクが亡くなりフシェッティが捕まった。他にも死傷者や逮捕者も出ており、トーリオ一家としては今の所痛み分けだろうか。
これからのことを考えると、お釣りが出るという意見もチラホラと聞く。
「おい、アル」
しかし、エポナにはそんな損得など計算外の話だ。家族を失い傷心しているカポネに、エポナはいつかの顔を殴りつけたときのように詰め寄っていった。
流石に死者の運び込まれた病院で怪我人を出すつもりはないが、それでも言ってやらねばならない。
「……ッ」
茫然自失としているカポネの襟首を掴んで、細腕では椅子から立ち上がらせることもできないが怒鳴りつける。
「オブライエン……」
「まただ! また、お前は!」
周りで見ていたトーリオ他、何人かが止めに入ろうとするも言葉を続けた。
「大事なところでやり方を間違える! その結果がこれだ!」
「お前には……」
「あぁ、関係ないだろうな。ほとんど迷惑にもなっていない」
カポネが反論できそうなことなど、エポナを巻き込んではいないというぐらいのものだ。だから良いなどと誰が言えるだろう。
「家族よりも苦しくはないかもしれない。だがな、知り合いを失う辛さはお前一人のものじゃないんだ!」
エポナは訴えた。可能な限り涙声を殺し、怒りでもない言葉をカポネに投げつかけた。
自分もこれだけ苦しいなら、カポネはもっと苦しいに決まっている。だから強く言っても余計に互いの傷を広げるだけだなのだ。それでも今、ここで打たねばまた同じ過ちを繰り返すだろう。
「もう、これ以上は、間違えないでくれ……」
悲しみを抑えても、エポナの口から漏れ出た。
「……」
カポネは無感情な瞳を向けるだけで、響いているのかどうなのかもわからなかった。
そこからは周囲の皆に引き剥がされて終わり、呆然としているカポネにトーリオが指揮を取り始める。
「お前らは良くやった。後は休んでろ」
その言葉がエポナにも向けられているものだとわかり、彼女も大人しく引き下がらざるを得なかった。
この混乱の中、部下達をまとめつつも警察からの追求をのらりくらりと躱し、うまい具合に
また、その数日後のことである。カポネが別にアジトにしているお店へ入り浸っているものだから、気にしたトーリオから呼び止められる。
「お前さん達ケンカでもしてんのか?」
「え、えっとぉ」
なかなかにプライベートなことを尋ねられ、エポナとて言い淀んでしまうのだった。
しかし、カポネの上司にして一家の長に尋ねられて答えないわけにもいかず、控えめにうなずくに留めるのである。ただ、問題はそれがトーリオにとって何か気にかける必要があるのかというもの。
「アルがなにか……?」
「いやな。仕事はしてるしちゃんと生きてはいるんだが、組織としての張り合いというか空気というかよ」
「あぁ、そういう」
エポナが問うとトーリオが難しい顔で答えてくれ、得心いくのだった。
本来ならば家族を失ったことで絶望するか、奪われた怒りで爆発するかのどちらかだ。そのどちらにも振れず負の感情を溜め込んでいるがために、周りの者達は色々な反応をしてしまう。
人によっては腑抜けたカポネに対して様々な感情を抱き、トーリオや察しの良い者だといつ火山が噴火するかを待つ心境は戦々恐々としたものだろう。
ストレスを解消するための手段として、カポネが酒に溺れたりしないのがなおさら暴発の危険性を高めている。
「だからって、どうするんです? 私は、ただの料理人ですよ?」
エポナは、そうしたところを理解しつつも尋ねた。
これはエポナが自身を過小評価してのことで、奇妙な笑顔が示す通りトーリオは策ありと思っている様子。
「料理人だから良いんだろーが。まぁ、ちょいと聞きな」
「はぁ?」
エポナは自分がどれだけ重要な位置にいるのかわからないため、彼女は良い予感はしないもののうなずくしかなかった。そもそも、自分に害が及ぶ可能性もゼロではないとさえ思っていた。
トーリオの話す内容は、次の通りである。
というのは横に置き、この会話から数日後、5月にも入ってしまったある日。エポナは全くトーリオ一家と関係のないレストランの厨房に立っていた。
どうしてそんなことになったのかをエポナは自問する。
「なんでだ……?」
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