ホラー短編集【キグルミ】

AAKI

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4篇目タイトル【蘇生の回廊】

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「遅かったですが、なにかなさっていたのですか?」
「えっと」

 逆に聞き返され、淳平は答えるべきかどうか悩んだ。奈々の手にはなぜか包丁。
 ジッと見据える目はウソを許さない威圧感があり、ほとんど涼しくなった台所で冷や汗が流れる。部屋に千春を送り届けた際よりも緊張している。

「いえ、河内さんがおぼつかない感じだったので、部屋まで見守っていたら」
「そうですか。思ったよりも酔っていたんですね」

 真吾に答えたように一部をボカしながらも説明した。奈々も納得してくれたようだ。

「なんともありませんでしたか」
「え、あぁ、中まではわからないけど、たぶん?」
「少しあの部屋、怖いのです。赤いシミが」
「え?」

 何気ない風を装って二人とも話し続けるが、唐突におかしなことを言い出す彼女。思い返してみれば、確かに部屋の壁にうっすらと赤いシミがあった。3箇所くらいに、離れて。

「壁の。ちょっと、血みたいで怖いですよね」

 淳平はついつい反応を示してしまった。

「なぜ壁のシミだとわかったのでしょう?」
「あ……」

 このような単純な誘導に引っかかるほどに、彼女の威圧感が恐ろしかったのだ。ウソをついたことについて彼女はいったいどう反応するのか、淳平の脳裏に嫌な予感がぎる。
 スッと包丁を掲げる。彼を見据える彼女の表情は怒っているようでいて無表情だ。

「岸さアッ」

 彼女に向き直ろうとしたその時だ。持っていた金網が彼の手から滑り落ちた。

「わざわざウソをつかなくても……」

 次に起こる惨劇は予想から外れた。奈々は包丁を戸棚の上へと仕舞いつつ小さな声音で言った。

「いや、えっと」
「ちょっと絡みがうっとうしいところがあったかもしれませんが、まぁ理解しているつもりです」

 どう説明したものかと考えたところで、彼女は淳平の悩みを察してかそう言ってくれた。

「そのぉ」

 彼はまだ本音のところに気づかず、どう取り繕ったものかと思案を巡らせるのだ。間をつなぐためか落とした金網を拾ったりもする。

「河内さんのこと、お好きなんですね」
「えぇっと、バレて、た?」

 またしても急に図星を突かれて彼は言葉に詰まった。
 確かにそれほど隠していたつもりもないが、真吾を除く皆の前では単なる陰キャの反応をしていた気がしている。

「少なくとも私は気づいていたわけですが」

 奈々の言い様からして、歴史研究サークルの中で主体的に持ち上がる話題ではないようだ。淳平、真吾、千春を除いた3人がわざわざ話すような内容でもないとも言える。
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