16 / 32
4篇目タイトル【蘇生の回廊】
13
しおりを挟む
「遅かったですが、なにかなさっていたのですか?」
「えっと」
逆に聞き返され、淳平は答えるべきかどうか悩んだ。奈々の手にはなぜか包丁。
ジッと見据える目はウソを許さない威圧感があり、ほとんど涼しくなった台所で冷や汗が流れる。部屋に千春を送り届けた際よりも緊張している。
「いえ、河内さんがおぼつかない感じだったので、部屋まで見守っていたら」
「そうですか。思ったよりも酔っていたんですね」
真吾に答えたように一部をボカしながらも説明した。奈々も納得してくれたようだ。
「なんともありませんでしたか」
「え、あぁ、中まではわからないけど、たぶん?」
「少しあの部屋、怖いのです。赤いシミが」
「え?」
何気ない風を装って二人とも話し続けるが、唐突におかしなことを言い出す彼女。思い返してみれば、確かに部屋の壁にうっすらと赤いシミがあった。3箇所くらいに、離れて。
「壁の。ちょっと、血みたいで怖いですよね」
淳平はついつい反応を示してしまった。
「なぜ壁のシミだとわかったのでしょう?」
「あ……」
このような単純な誘導に引っかかるほどに、彼女の威圧感が恐ろしかったのだ。ウソをついたことについて彼女はいったいどう反応するのか、淳平の脳裏に嫌な予感が過ぎる。
スッと包丁を掲げる。彼を見据える彼女の表情は怒っているようでいて無表情だ。
「岸さアッ」
彼女に向き直ろうとしたその時だ。持っていた金網が彼の手から滑り落ちた。
「わざわざウソをつかなくても……」
次に起こる惨劇は予想から外れた。奈々は包丁を戸棚の上へと仕舞いつつ小さな声音で言った。
「いや、えっと」
「ちょっと絡みがうっとうしいところがあったかもしれませんが、まぁ理解しているつもりです」
どう説明したものかと考えたところで、彼女は淳平の悩みを察してかそう言ってくれた。
「そのぉ」
彼はまだ本音のところに気づかず、どう取り繕ったものかと思案を巡らせるのだ。間をつなぐためか落とした金網を拾ったりもする。
「河内さんのこと、お好きなんですね」
「えぇっと、バレて、た?」
またしても急に図星を突かれて彼は言葉に詰まった。
確かにそれほど隠していたつもりもないが、真吾を除く皆の前では単なる陰キャの反応をしていた気がしている。
「少なくとも私は気づいていたわけですが」
奈々の言い様からして、歴史研究サークルの中で主体的に持ち上がる話題ではないようだ。淳平、真吾、千春を除いた3人がわざわざ話すような内容でもないとも言える。
「えっと」
逆に聞き返され、淳平は答えるべきかどうか悩んだ。奈々の手にはなぜか包丁。
ジッと見据える目はウソを許さない威圧感があり、ほとんど涼しくなった台所で冷や汗が流れる。部屋に千春を送り届けた際よりも緊張している。
「いえ、河内さんがおぼつかない感じだったので、部屋まで見守っていたら」
「そうですか。思ったよりも酔っていたんですね」
真吾に答えたように一部をボカしながらも説明した。奈々も納得してくれたようだ。
「なんともありませんでしたか」
「え、あぁ、中まではわからないけど、たぶん?」
「少しあの部屋、怖いのです。赤いシミが」
「え?」
何気ない風を装って二人とも話し続けるが、唐突におかしなことを言い出す彼女。思い返してみれば、確かに部屋の壁にうっすらと赤いシミがあった。3箇所くらいに、離れて。
「壁の。ちょっと、血みたいで怖いですよね」
淳平はついつい反応を示してしまった。
「なぜ壁のシミだとわかったのでしょう?」
「あ……」
このような単純な誘導に引っかかるほどに、彼女の威圧感が恐ろしかったのだ。ウソをついたことについて彼女はいったいどう反応するのか、淳平の脳裏に嫌な予感が過ぎる。
スッと包丁を掲げる。彼を見据える彼女の表情は怒っているようでいて無表情だ。
「岸さアッ」
彼女に向き直ろうとしたその時だ。持っていた金網が彼の手から滑り落ちた。
「わざわざウソをつかなくても……」
次に起こる惨劇は予想から外れた。奈々は包丁を戸棚の上へと仕舞いつつ小さな声音で言った。
「いや、えっと」
「ちょっと絡みがうっとうしいところがあったかもしれませんが、まぁ理解しているつもりです」
どう説明したものかと考えたところで、彼女は淳平の悩みを察してかそう言ってくれた。
「そのぉ」
彼はまだ本音のところに気づかず、どう取り繕ったものかと思案を巡らせるのだ。間をつなぐためか落とした金網を拾ったりもする。
「河内さんのこと、お好きなんですね」
「えぇっと、バレて、た?」
またしても急に図星を突かれて彼は言葉に詰まった。
確かにそれほど隠していたつもりもないが、真吾を除く皆の前では単なる陰キャの反応をしていた気がしている。
「少なくとも私は気づいていたわけですが」
奈々の言い様からして、歴史研究サークルの中で主体的に持ち上がる話題ではないようだ。淳平、真吾、千春を除いた3人がわざわざ話すような内容でもないとも言える。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
洒落にならない怖い話【短編集】
鍵谷端哉
ホラー
その「ゾワッ」は、あなたのすぐ隣にある。
意味が分かると凍りつく話から、理不尽に追い詰められる怪異まで。
隙間時間に読める短編ながら、読後の静寂が怖くなる。 洒落にならない実話風・創作ホラー短編集。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる