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37P・再会と再開

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「ギャァァァァァアァァッ!!」
 ポールの悲鳴が戦場に響き渡った。だが、それも長くは続かず直ぐにリナルドに鋭い視線が向けられた。
 近衛騎士は長髪をなびかせて着地すると、細剣に刺さった球体と血を振り払う。
 それが更にポールを逆上させる。
「く、くそがッ! 殺す! 殺してやる!」
 落馬しつつも気丈に振る舞い、激しく罵声と殺意を放った。

 それを涼しげに受け流し、リナルドは再びポールに切っ先を向ける。立ち上がり大剣を構えるまで待ち、騎士としてのあり方を守る。
 そんな格好つけた態度がさらにポールの神経を逆撫でする。
「者共、かかれ! 負ければ打首だけでは済まんぞ!」
 ここで無様にも仲間に助けを求めたが、そのような物言いでついてくる者などいるのだろうか。いや、あのイータット国王の軍勢であれば聞くだろう。

 虫唾の走るようなことを思い出すも、今はやるべきことをするため来る敵の群れに備える。
 しかし、いっこうにその軍団が襲ってくる気配がない。その原因も直ぐにわかるのだが、リナルドしか見ていないポールは数分ほど気づかずにいた。
「どうした? なぜ戦わない?」
 ぽっかりと空いた眼を自らの軍勢に向け、漸くその理由を理解する。
 その片目には、地に倒れ伏すか武器を捨てて投降している兵士達の姿。もう片目には、何も映らなかった。

「もう終わりだ。大人しく降伏すれば命までは取らない」
 リナルドはポールの首筋に刃を当てて諭した。
 既に思考できるかは定かではなかったが、力なく武器を取り落すのだった。
「これからは一蓮托生といったところか」
 諦めてくれて安堵し、リナルドは剣を鞘に収めた。が、それも束の間のことだった。

「このまま負けてなるものか!」
 そう声を荒げると駆け出し、ジャンフランソワの亡骸が手にしていた弓を拾い上げた。
 素早く弓を番えると、射線をパスクに向けたのである。
「なんてことを!」
 リナルドは焦りを浮かべて言った。

 陛下の命を見す見す狙わせてしまったことに慌てたのではなく、次に起こることを予想したからだ。
 放たれた矢は、火急にも関わらず吸い寄せられるようにパスクへと向かう。
「ふんっ」
 それを容易く、槍で弾き落とした後のことだ。赤毛の男はただ馬をポールへよせていき、何をするわけでもなく見下ろした。

「うあ、あぁ……お、お助け……」
 ただそれだけのことで、大の大人が弓を取り落して恥も外聞もなく怯えたのである。
 以前にも勅使を威圧感のみで黙らせたことがあったが、それの延長であろう。戦王としての真価は戦場で発揮され、多くの者を畏怖へと叩き落とす。
 一度でも敗北を覚えれば、そこから立ち上がることなどできなくなるというもの。二度目からともなれば、もはや諦めであった。

 ならばケリュラはというと、それこそ特殊と言わざるを得ない。そのお姫様は、まだこの場に居ないことを気づかれていなようだ。
 さておき、こうしてポールも大人しく降伏し、イータット軍4000を拿捕することができた。勝利を勝ち取ったのである。
「……陛下」
 まだ戦場ではあるものの、リナルドは心中を抑え込むようにして傅いた。久しく顔を見ることができた上に、獄中でも酷い目にあった。
 今にも抱きついてしまいたいほどに歓喜している。

 しかし同時に、不安もあった。
此度こたびは、長らく命令より離脱して申し訳ございません。この責は如何様にも償わせていただきます」
 果たしてどんな罰を受けるだろうかと、冷や汗を堪えながら頭を下げた。
 なにせ、敵に捕まっていたとは言え国王を戦場へ駆り出してしまったわけである。また、情報を与えたと思われても仕方のないこと。
 パスクの顔を見るのが怖かった。

「顔を上げろよ。な」
 馬上からかかった言葉は、予想していなかったものの中で最も嬉しいものだった。
「パスクアーレ陛下。ご寛大なお言葉ですが、兵達の前です」
「あぁ。まぁ、無事戻ってこれたのだから、これから償えるだけ頑張れば良い」
 マキシに言葉遣いを注意され、咳払いからいつもの王に変わる。とはいえ、とんでもなくありがたい言葉であった。

「ありがたきお言葉……。今後とも、これまで以上の働きをして見せましょう!」
 リナルドは顔を上げ、微笑むパスクの顔を見ながら答えた。
 あぁ……やはり、一生ついていける方はこの方しかいない!
 何度目になるかわからない忠誠を誓うのだった。

 もっと何ということもない会話をしていたかったが、そうもいかないのが現状である。
「平和なころのように談笑の1つもしたいところですが、今は時間も惜しいでしょう」
 リナルドは、立ち上がると北を見つめて言った。
 空を灰色の天蓋で染めているのは、四方に柱の如くそびえた突風の竜。嵐がやってくることを表していたが、それ以上の意味がパスク達にはある。
 兵や敵の捕虜をフィルツェ砦へ収容する必要もあり、これからは慌ただしく動くことになった。

 嵐ならば逃げれば良いと思うだろうが、そうもいかないのだ。
「参謀殿、どうなさいましょう?」
 兵達が砦へ向かって列を作っている中、リナルドはマキシに問いかけた。
「あれを迎え撃とうというのはなかなか骨が折れますなぁ」
 参謀は竜巻をしげしげと眺めて答えた。
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