『鬼滅の刃』は面白かったのか

AAKI

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 言わずとも本題は、近年に人気を博したわに先生こと吾峠呼世晴・著の『鬼滅の刃』についてである。2020年10月16日に劇場版の『無限列車編』が公開され、興行収入100億円を超えたことでその地位を不動のものに、知名度を不滅のものした。

 『週刊少年ジャンプ』(集英社)にて2016年11号から2020年24号まで連載され、TVアニメの続編も期待される。

 そのような名実ともに名作と呼べる作品に評を表すと、端的に言えば「面白いから人気になったのではない」である。

 こんなことを書くとファンの皆さんから総スカンを食らうかもしれないが、まず落ち着いて話を聞いて欲しい。いや、既にページを閉じてしまった人もいるかもしれないが……仕方ない。

 作者が言いたいのは、世界で一番売れているハンバーガーやコーラが最も美味しいのか、という疑問を考えるものである。そして、何が『鬼滅の刃』をファーストフードへと押し上げたのは何だったのか。

 まず、20年10月2日にコミックス22巻が発売されシリーズ累計発行部数1億部(電子版含む)を突破した本作だが、少し売上部数の推移を見てみよう。

 16年6月に第一巻が発売され、17年5月に100万部突破。同年8月に150万部、12月には200万部を突破した。18年6月にはTVアニメの発表がありコミックス累計250万部突破を達成した。

 やや開いて18年11月にコミックスの進捗と重版で300万部となる。19年2月350万部、3月450万部、4月6日アニメ放送開始により同月には500万部、5月600万部となった。

 ここから加速して9月末(TVアニメ終了時)に1200万部、飛んで20年現在という流れになっているのがわかった。

 某海賊漫画が2010年3月にコミックス第57巻で1億部を突破したことから、恐るべき人気だということが伺える。これで「面白いから売れたわけではない」などとのたまう作者はいったい何様なのか?

 しかし大半の人はミーハーなもので、なんだか売れているから一部の人が勧めるから、といった理由で購入することもある。それだけでは説明できない発行部数ではあるものの、面白さという本質とはまた別問題であろう。

 また、人気に反してその評価を自己の目で確かめたいといういわゆるアンチが品評するつもりで買うなど、裏表だってある。TVアニメ放送前後の伸びは、それこそ漫画しか見ない人とアニメぐらいしか観ない人、その両者の両面を取り込んだぐらいの割合だろう。

 ここまで言ってなんだが、作品としての質を否定しているわけではない。

 読者を引きつける魅力はあり、それらは多くのレビュアー達が語り尽くしてくれているのでざっくり流そう。

 まず、本誌『少年ジャンプ』の歴々の掲載作品と同質であり異質であるという点。

 まず、少年漫画の復権を懸けたかのようなストーリーや設定に対し、ライトとは言えない死生観だ。

 更に、単純な物語ではあるもののプロットは重たくならない程度に練り込まれている。またまた、個性的なキャラクターを揃えつつもそれぞれにクローズアップした話は一度ずつぐらいしかなく尖りすぎない。

 加えてシリアスとコミカルをそこそこケレン味なく混在させている。など、あらゆる部分が絶妙なバランスで構成されているのだ。さっぱりと読むことも深く考察することもできる。キャラを愛でたければ好きにして、ただアクセントと見るのもご自由に。

 これほど要素を挙げて、「面白いから売れたわけではない」とのたまう作者はいったい何様なのか(大事なことなので)。

 ただ、これがファーストフードに見られる【売れる要素】であるとも言える。

 決して手を抜いているわけではない中で、各要素が美味しすぎず不味すぎず、目移りしない程度に好きな味をピックアップできる。

 一方で絵が下手とか画力が低いと言った批判がある。が、ファーストフードに美しさを求める客がいるだろうかという話。

 逆に、見た目バエるハンバーガーとかを作りたければ自分で作るというもの。味にしてもアレンジが利く。そうした手を加えることが比較的手軽な食べ物であるから、リメイクが容易な絵柄であるから、SNS状での拡散力が高かったといえる。

 これは、アニメーションの作画が人気の一躍を助けたことで証明されている。

 過去に打ち切りの憂き目があったという噂もあるが、今や噂にしか過ぎない。しかし、この浮き沈みもファーストフードチェーンの始まりのようでもある。

 メディア戦略などが手伝っている点も類似として挙げられるだろうか。

 TVアニメに限らず『○mazonプライムビデオ』や『Hu○u』といった動画配信サイトへ広範囲に展開し、小説化であったり映画化を程よいタイミングで行う。これもまたファーストフードチェーンで新商品やサービスが断続的に生まれるのとおなじだろう。

 それっぽいこじつけはさておき、ここまで褒めちぎったのであれば抽象的にでも「面白い」としてしまっても良いのではないだろうか。

 なおも「面白いから売れたわけではない」とのたまう作者は(以下省略)。

 このままでは、ある意味での火付け役を担ったいわゆる鬼滅キ○ズなる人達に叩かれてしまう。というのは冗談とするが、ただ人気の一役となったのは事実であろう。

 SNS上で言われる炎上にも近い形で、多方面にケンカを売ったことも新規層の獲得につながったと言えよう。かくいう作者も、一連の騒ぎから興味を持った口だ。

 さて、ツラツラと話してきたがそろそろ締めといこう。

 過去に私達を楽しませてくれた数々の少年コミックに、この先に生まれる作品に、感謝を表そう。

 そして、かの御仁の言葉に吾峠呼世晴先生の思いが詰められていると思うので、それにて最後を飾らせて貰う。

 ――俺に才能なんてもんがあるように見えるか? 俺程度でそう見えるならテメェの人生幸せだな――
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