幻想球 ~ユニーク・スキルは一国守護の要です~

AAKI

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レイド・ダンジョン編

2-8

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「ヌシをめないづ済んで分、ここまぢくるのは楽ぢして」

「なるほど。なんとかここまでは無事抜けてこれたが、あと一歩のところで密林のヌシに見つかったわけだな」

 フェーリーは方向の違う疑問に答え、グレイザさんがそれをわかるようにフォローした。

 私達はヌシを倒しつつ進まないと、咆哮自体が収まらないと。山のヌシとやらを倒すだけで終わらないのかしらね。

「一緒に連れて行って大丈夫かしら?」

 私が勝手に悩んでいる間に、銃手が質問して話を進めた。

「わてしいないつ山に入れない」

「なるほど納得なるほどう」

「やめろ。色々とヤバいから」

 また私の古い冗談にグレイザさんからツッコミが入った。

 とてもシンプルな理由で、フェーリーの案内がなければキラヴェア山に入場できないわけである。元から共和国は少数民族が集まって出来た国。ならば、初めてみる種族がいようと、排他的であろうと不思議ではない。

「しかし、そうなると要人警護だね」

 話を戻したセルシュさんのセリフの通り、ここからは単なる行軍ではなくフェーリーを護衛する仕事だ。

 まったくもって面倒なことを押し付けるわね……。警備会社で働いてはいたけど、事務方の私に要人警護の経験などない。

「私を見られても……。知識は少しぐらい研修でありますが、実践経験はないですからね?」

「だろうな。期待はしてないさ」

 相変わらず横柄な態度で切り替えされ、私はムッと片方の頬を膨らませた。

 何れにせよ、護衛の依頼ならば金品の輸送とそれほど変わらない。運ぶものが自分で動き回ったり、場合によってはワガママを言うぐらいのこと。

 多分、その場の誰もが問題ないと割り切った。

「グダグダと喋っていても他のグループに追いつかれるだけだ。いくぜ」

 グレイザさんの号令で動き出し、フェーリーを囲うようにする。手慣れたものだ。

 いつの間に見えていたのか、木々の向こうに海岸線があった。ちょっとだけ切り立った岩場のある横には浜辺も添えられていて、こじんまりとした穴場な海水浴場って感じである。

 私は、可能な限り海の方を眺めてそれ以上は何も見聞きしないことにする。

 そりゃ、海岸や磯にもウジャウジャといますとも。フナムシが、磯蟹が、イソギンチャクが、海星ヒトデがぁ……!

 とは言え、フナムシを除くと素早くこっちへ近づいてくるってこともない。砂浜の方にいれば岩場から出てこないし、皆が追い払ってくれている間は意識は大丈夫。

「海に出たは良いけど、ここから進めそうな様子は……あぁ」

「うりゃっ! 歩いて!」「はぁッ! 行ける場所がないなら」「フッ! もう一箇所しか」

「邪魔! ないね」

 セルシュさんのセリフを基点に、戦士、拳闘士、銃手の意見が合致した。

 要は、海を泳ぐか海中を進むかのどちらかである。水平線の向こうに島の一つでも見えるはずだけど、それがないということは海底散歩がおすすめなんでしょうね。

「なるほど。そんじゃ」「今回は別行動だよ」

「えっと、あの……」

 行き先を理解したグレイザさんも、モンスターを蹴散らしながら言いかけた。

 しかし、セルシュさんはそれを遮って私を側に引き寄せた。

 待って待って! それって、私が潜るのは確定ってこと!?

「目に入るモンスターの数は海中の方が少ないはずだよ」

 やっぱりそーだー!

 セルシュさんがそう判断するのは、ゲーム運営のバランス感覚を信じてのことかしら。特定のアイテムや魔法スキルを使うことで水中での活動を楽にできるのだけど、複数の条件を揃えるのは大変なのよ。

 水中で呼吸ができる、泳ぎが上手くなる、水底を自由に歩ける、とその他もいろいろある。全部を揃えて地上と同じぐらい戦えるようにするのに手間がどれほどかかるか。

 それに対してモンスターが強いと、プレイヤー側は大きく不利になる。

「……仕方ねぇな。俺達は上で壁役か」

 グレイザさんもお互いの考え方は良くわかっていた。このゲーム、スフィファンを好きだからこそわかることもある。

 状況判断も的確だ。今でさえ海岸のモンスターが私達を追ってくるというのだから、海中で挟み撃ちにされてはかなわない。

「チーム分けは僕とメリー、それから」

「前衛に立候補だぁ」

「では俺も前衛で」

「メリーさん観測係は私かなっ」

「後は、必要な可能性もあるからフェーリーもだろうね」

 戦士と拳闘士はわかる。けど、さりげに銃手の意地悪を聞き流すの止めて! 虫に怯える私の痴態など見られとうない!

 セルシュさんの目だけでも精一杯なんだから……。

「はい、これ"マーメイドジュース"」

 銃手が水中で呼吸が出来て、少し泳ぎが早くなるアイテムを配ってくれた。

 それを受け取った私は、抵抗を諦めてため息まじりに準備運動を始める。

「おいっちにー、さんしー」

「無理を言ってごめん」

「へ? にーにー、さんしー」

 いきなりそんな謝り方をしてくるから変な返事をしてしまった。

「いや、お兄さんに預けておくとまた無茶振りをするんじゃないかと思ってね」

 気遣ったつもりが、逆に私を強引にどざえ……ドラなえもんみたいな便利キャラ扱いしたんじゃないかってこと? そんなことないと否定したかった。
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