「阿藤零士の心霊事件ファイル ~名探偵は美少女助手と除霊を頑張る~」

AAKI

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FILE1.痴漢幽霊騒動

その4-7

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 ためらいなく飛び降りて逃げたとでもいうのだろうか。それともこの人混みをすり抜けたか。いずれとも無理がありそうだと零士は考える。

「窓も……しまってるしな……?」

 あちらこちらを探ってみるも、やはり抜け道など思い当たらない。そんな様子に双葉が呆れた。

「零士君、あんなの見た後で良く普通にしてられますね……」
「おっと、確かに警察への通報と現場保存をしないとな」
「それも大事ですけど……」

 通報は明可がしてくれていたのでさておき、零士の思考が少し検討違いだと指摘する。

「幽霊ですよ! ゆ、う、れ、い!」
「密室から犯人が消失したのを幽霊え片付けるつもりかよ? 世の推理小説に謝ろうぜ」
「私は常識人ですからね」
「いや、幽霊を信じる常識ってなんだよ……」

 概念の矛盾に哲学を感じる名探偵。そうしていられるのも、明可が新たな異変を伝えるまでだった。

「あの……」
「ん? どうかしましたか、九十九さん?」
「警察は?」
「その、電話が……つながらないんです……」

 不可解な自称だとばかりに双葉に答える。確かに明可の携帯電話はひたすらコール音を反復しているが、いつまで経ってもセンターが応答する様子などない。

「アタシのもダメ」

 続いて無央も一向につながらないスマホをちらつかせて言った。零士達もためいたが結果は同じ。

「こりゃ直接交番にでも駆け込むしかねぇな。一番近いのは駅前だったか」

 通報が混み合っているのだろう程度に思っている様子だ。聖雄の遺体に手を合わせ、適当な布を被せると皆で教職員用出入り口へ向かう。零士達が入ってきた場所だ。

「あ、れ?」

 明可が扉を開けようとするもまたビクともせず震えるような声を出した。
 誰かが施錠したわけではなく、サッシ上下のロックは開放されてある。

「まさか……!」

 双葉が何かを察すると、廊下に並ぶ窓に縋る。しかしどれも開かない。

「ウソ……。と、閉じ込められた……?」

 誰が言っただろうか。その場の誰もが並々ならぬ事態を理解する。

「ここまでやるなんてただの殺人犯じゃねぇな……」
「ど、どうするんです!? 私達まで呪われちゃいましたよ!」

「落ち着け双葉ちゃん。呪いなんて思い込みからくる心身の不調だ。殺人犯によるトリックでそちらの方なら人として対処できるだけ気が楽だろ?」

 焦る双葉をなだめる。殴ったら消えるのだからと、得意分野わんりょくが使えることも。

―――――――――――――――
読者の皆さんは驚かれるかもしれないし、作者がこうして話を割り込ませるのも著者としてためらわれることだ。
しかし、『呪い』というものについて個人的な見解を記していきたい。ご清聴ならびにこのような暴挙を許されたい。
さて、ファンタジーや(もし存在するのなら)ガチのモノを除けば、精神的なものだという話。
呪術として最もメジャーな丑の刻参りなど、「他人に現場を見られてはいけない」など服装といったものがある程度決められている。
見られてはいけないのに割りと目立つ見た目。これは明らかに目撃されなければならないことの示唆である。誰がやっているかは知られないようにしなければならないが、呪っているという事実や噂は表出しなければならない。
この誰かが呪っているという流言こそが『呪い』の正体なのだ。現代だとしても同様で、誰かに悪意や殺意を抱かれていると思い詰めてしまうと精神から肉体を患う。
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