「阿藤零士の心霊事件ファイル ~名探偵は美少女助手と除霊を頑張る~」

AAKI

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FILE2.真夜中のゾンビ

その1-1

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「――と、これがウワサの『深夜に現れるゾンビ』です」

 そう話を締めくくったのは日本人離れした容姿の女性――どちらかと言えば美少女。

「そうか。なんとも言えない話だな」

 聞くに専念していたのは、一目だと威圧感のある大柄な黒髪の男だ。そして訪れるチャンスに対して返せた言葉は、ホラーとして怖いでもなければウワサとしての不可解さでもない。
 怖い話をするには初秋の夕刻前は似つかわしくなく、雑談として都市伝説を語るにしても少女が雰囲気を出してきたものだから反応し辛い。

「……もっとこう怖がったりしないんですか? 零士れいじ君ってばほんっとこういうの鈍いですよね」
「いや、そんなこと言われてもな、双葉ふたばちゃんよ。酔っ払いの戯言が広まっただけだろ?」

 彼女――双葉・エルサリーヌに零士と呼ばれた男が反論を始める。期待しているリアクションを取ってくれないことに不満を感じているのだろうが、だからといって黙るほど彼、阿藤あとう 零士れいじは賢くはない。
 反面で無駄に高い推理力でちょっとした疑問にフォーカスを当てると、都市伝説などというものは平坦なものとなる。

「まず、残暑が厳しいとはいえ夕涼みをするには時期外れも良いところだろ。それは百歩譲ったとして、誰がそのウワサを広めたんだ? 話の中じゃ目撃者はそのゾンビ? の犠牲になってるわけだから、そこで終わりだろ。そもそも、人食いの怪物なんざ街を歩き回ってたら騒ぎになってるしな。もしかしたらコソコソと動き回る知能があるのかもしれないけど、そんでも惨殺死体が見つかったなんて話も聞かない」

 そう、零士は淡々と疑問点をあげつらっていく。
 こっぴどくやり込められた双葉なる美少女は、癇癪を起こした子供のように亜麻色のポニーテールを振って感情的に反論してくる。

「トイレに落ちてるクソ拭く紙にもならないチラシの落書きみたいな都市伝説に現実的な指摘なんてマジレス乙ですよ~だ!」
「女の子がクソとか言っちゃいけません……。そんなネットスラングが出てくるあたり、その都市伝説とやらもネットから拾ってきたんだろ」

 零士は二十歳前後の彼女が年齢相応だというところに内心では感心しつつ、それでもウワサに振り回されていることを注意する。

「名探偵とまで言われた探偵なんですから、ちょっと調べてくれても良いじゃないですか!」

 双葉は、探偵業の閑古鳥の美声や自分達だけの声しかしない事務所の静けさが聞こえていないようだ。

「事務所のオーナーの娘兼副所長の双葉ちゃんが、内の財政の厳しさを知らないわけないでしょ。そんなことに時間と費用を使ってる暇はございません」
「むむむ……。知ってる公園の名前だと推測できたから、追求してみたいんですよぅ……」

 近所でのウワサだからと気にするのもわからなくはないが、野次馬根性であるなら止めるのが親心というもの。
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