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13話・『スズ視点』・妖の悩み1
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「アハハハハッ! そりゃニシセンも災難だったなぁ!」
リンリンちゃんの笑い声が、クラスメイトもまばらになった教室に響き渡りました。
周囲の視線が一瞬だけこちらを向きますが、昼休みでは珍しくもないいつもの光景だとわかると霧散します。
「笑いごとではないです……」
私はやや困り、頬を膨らませてしまいました。
何の話をしていたのかというと、先日のことです。えっと、ですから、女性用下着を持ち帰ってきた件です。
ラーン姉さんに呼び出されたときは何事かと思いましたが、蓋を開いて見ればなんてことはありませんでした。恥ずかしくはありますが。
オチとしては、下着は私とは関係なく完全に悪戯に引っ掛けられていたという……。
ラーン姉さんの言う証拠物件は、私がマーホンさんに押し返したので解決しました。一応、二度と東先生をからかわないように注意もしたので、大丈夫でしょう。
「ヒッヒヒッ。やぁ、ニシセンの顔が歪むのを見てみたかったぜ」
リンリンちゃんは他人事だと思って、笑いをこらえるでもなく楽しんでいます。話さなかった方が良かったでしょうか……。
しかし、ここで言葉を挟むのはベルちゃんです。
「そうね。妖のことで他を笑えるほどの立場ではないわね」
「な、なんだよぉ」
リンリンちゃんの扱いに慣れているらしいベルちゃんは、何やら弱点を握っているようでした。リンリンちゃんが、こんなに戸惑っているのを見るのは始めてです。
数年の付き合いにはなりますが、私の知らないことがまだまだあるのでしょう。
「沖縄の『外国人特区』は、県に住む妖としては耳に痛い話でしょ」
「うぐぅ……」
ベルちゃんのセリフに、リンリンちゃんはついに言葉を失いました。私も、少しずつ何について話しているのかわかってきました。
『外国人特区』というのは、沖縄にできた外国人用の居住地です。平たく言い過ぎると何が問題なのかまったくわかりませんね。
「ウチナーの妖が全員、独立を叫んでるわけじゃねぇって」
「それは知ってるけど、やっぱり本土との板挟みは嫌なのも確かでしょ?」
「まぁな。でも、別に仲違いしたいわけでもないからさ」
リンリンちゃんはお弁当の空箱が入った巾着をベッドにして、ふてくされたように言いました。スズちゃんの指摘は最もで、またリンリンちゃんの思いも間違いではないのでしょう。
どれも『外国人特区』の話につながっていて、外国人と日本人との間に挟まれ沖縄の肩身は非常に狭くなっています。
大戦になりそうなところに沖縄の妖が現れたことで、日本は危ないところを脱することができました。その代わりに融和政策として、海外の人達が沖縄のいくつかの地域に移住したのが『外国人特区』の始まりです。
「私らの親は、単にのんびりとした暮らしを守りたかっただけなのになぁ」
「素手でも当時の銃と対等に戦える妖が相手じゃねぇ」
「結果、外国の方々を沖縄に住まわせることで和平に持ち込んだと。ここまでは理解できるんですが……」
リンリンちゃんがぼやく通り、先の人々は新たな争いの火種が生まれるなどと思っていなかったでしょう。
両者に甚大な被害が出る可能性を考えての判断としては、『外国人特区』の存在は間違いではないと思います。ただ、それによって招き入れた人々が沖縄や本土にとって利益となるかはわかりません。
「今やアイツら、私達を監視する立場だと思ってる!」
リンリンちゃんは、私の言葉を引き継ぐように声を荒げました。また周囲の視線が向くものの、ベルちゃんが慰めるので長くは持ちません。
「抑えて、抑えて」
「外国の人達を追い出せばそれはそれで不味いですし、だからといって本土に移住するのも無理がありますもんね」
「小さい私らキジムナーは良いけど、皆が皆そうじゃねぇし。やっぱり好き好きもあるし……」
様々な思惑が絡み合って答えの導き出せない問題を考えて、リンリンちゃんは頭がオーバーヒートしたのか珍しくネガティブなことを言い放ちました。
後に続く問題としては、先も言った通り沖縄の妖達が県を日本からも外国からも独立させようという考えがある。という話です。
これには大戦前のいざこざで日本に恨みを持ったままの人達や、はたまた妖の力を欲しがっている人達が裏で一枚噛んでいるという噂もありますが。まぁ、そこまでは子供の私達が考えても仕方ありません。
「沖縄も大変だわね」
横から口を挟んでくるのは、褐色の雪女さんのアメちゃんでした。
確かアメちゃんは、沖縄とは対極にある北海道の出身でしたか。北の方も問題があるようです。
一部で北端の島に『外国人特区』が出来ているという話は知っていますが、沖縄ほどの混乱があるとは聞き覚えがありません。
「ん~? アメんとこの北海道って、何かあったっけか?」
「ゲットーの外国人とはケンカしてないけど、国がとんでもない勘違いをしてくれてたんだわね」
「あ、もしかして」
アメちゃんがリンリンちゃんに愚痴を始めると、わずかな情報だけでベルちゃんは理解を示しました。
リンリンちゃんの笑い声が、クラスメイトもまばらになった教室に響き渡りました。
周囲の視線が一瞬だけこちらを向きますが、昼休みでは珍しくもないいつもの光景だとわかると霧散します。
「笑いごとではないです……」
私はやや困り、頬を膨らませてしまいました。
何の話をしていたのかというと、先日のことです。えっと、ですから、女性用下着を持ち帰ってきた件です。
ラーン姉さんに呼び出されたときは何事かと思いましたが、蓋を開いて見ればなんてことはありませんでした。恥ずかしくはありますが。
オチとしては、下着は私とは関係なく完全に悪戯に引っ掛けられていたという……。
ラーン姉さんの言う証拠物件は、私がマーホンさんに押し返したので解決しました。一応、二度と東先生をからかわないように注意もしたので、大丈夫でしょう。
「ヒッヒヒッ。やぁ、ニシセンの顔が歪むのを見てみたかったぜ」
リンリンちゃんは他人事だと思って、笑いをこらえるでもなく楽しんでいます。話さなかった方が良かったでしょうか……。
しかし、ここで言葉を挟むのはベルちゃんです。
「そうね。妖のことで他を笑えるほどの立場ではないわね」
「な、なんだよぉ」
リンリンちゃんの扱いに慣れているらしいベルちゃんは、何やら弱点を握っているようでした。リンリンちゃんが、こんなに戸惑っているのを見るのは始めてです。
数年の付き合いにはなりますが、私の知らないことがまだまだあるのでしょう。
「沖縄の『外国人特区』は、県に住む妖としては耳に痛い話でしょ」
「うぐぅ……」
ベルちゃんのセリフに、リンリンちゃんはついに言葉を失いました。私も、少しずつ何について話しているのかわかってきました。
『外国人特区』というのは、沖縄にできた外国人用の居住地です。平たく言い過ぎると何が問題なのかまったくわかりませんね。
「ウチナーの妖が全員、独立を叫んでるわけじゃねぇって」
「それは知ってるけど、やっぱり本土との板挟みは嫌なのも確かでしょ?」
「まぁな。でも、別に仲違いしたいわけでもないからさ」
リンリンちゃんはお弁当の空箱が入った巾着をベッドにして、ふてくされたように言いました。スズちゃんの指摘は最もで、またリンリンちゃんの思いも間違いではないのでしょう。
どれも『外国人特区』の話につながっていて、外国人と日本人との間に挟まれ沖縄の肩身は非常に狭くなっています。
大戦になりそうなところに沖縄の妖が現れたことで、日本は危ないところを脱することができました。その代わりに融和政策として、海外の人達が沖縄のいくつかの地域に移住したのが『外国人特区』の始まりです。
「私らの親は、単にのんびりとした暮らしを守りたかっただけなのになぁ」
「素手でも当時の銃と対等に戦える妖が相手じゃねぇ」
「結果、外国の方々を沖縄に住まわせることで和平に持ち込んだと。ここまでは理解できるんですが……」
リンリンちゃんがぼやく通り、先の人々は新たな争いの火種が生まれるなどと思っていなかったでしょう。
両者に甚大な被害が出る可能性を考えての判断としては、『外国人特区』の存在は間違いではないと思います。ただ、それによって招き入れた人々が沖縄や本土にとって利益となるかはわかりません。
「今やアイツら、私達を監視する立場だと思ってる!」
リンリンちゃんは、私の言葉を引き継ぐように声を荒げました。また周囲の視線が向くものの、ベルちゃんが慰めるので長くは持ちません。
「抑えて、抑えて」
「外国の人達を追い出せばそれはそれで不味いですし、だからといって本土に移住するのも無理がありますもんね」
「小さい私らキジムナーは良いけど、皆が皆そうじゃねぇし。やっぱり好き好きもあるし……」
様々な思惑が絡み合って答えの導き出せない問題を考えて、リンリンちゃんは頭がオーバーヒートしたのか珍しくネガティブなことを言い放ちました。
後に続く問題としては、先も言った通り沖縄の妖達が県を日本からも外国からも独立させようという考えがある。という話です。
これには大戦前のいざこざで日本に恨みを持ったままの人達や、はたまた妖の力を欲しがっている人達が裏で一枚噛んでいるという噂もありますが。まぁ、そこまでは子供の私達が考えても仕方ありません。
「沖縄も大変だわね」
横から口を挟んでくるのは、褐色の雪女さんのアメちゃんでした。
確かアメちゃんは、沖縄とは対極にある北海道の出身でしたか。北の方も問題があるようです。
一部で北端の島に『外国人特区』が出来ているという話は知っていますが、沖縄ほどの混乱があるとは聞き覚えがありません。
「ん~? アメんとこの北海道って、何かあったっけか?」
「ゲットーの外国人とはケンカしてないけど、国がとんでもない勘違いをしてくれてたんだわね」
「あ、もしかして」
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