サトリ妖怪ちゃんは悟らない。これは恋ですか?いいえ、余計なお世話です。

AAKI

文字の大きさ
14 / 21

13話・『スズ視点』・妖の悩み1

しおりを挟む
「アハハハハッ! そりゃニシセンも災難だったなぁ!」

 リンリンちゃんの笑い声が、クラスメイトもまばらになった教室に響き渡りました。

 周囲の視線が一瞬だけこちらを向きますが、昼休みでは珍しくもないいつもの光景だとわかると霧散します。

「笑いごとではないです……」

 私はやや困り、頬を膨らませてしまいました。

 何の話をしていたのかというと、先日のことです。えっと、ですから、女性用下着を持ち帰ってきた件です。

 ラーン姉さんに呼び出されたときは何事かと思いましたが、蓋を開いて見ればなんてことはありませんでした。恥ずかしくはありますが。

 オチとしては、下着は私とは関係なく完全に悪戯に引っ掛けられていたという……。

 ラーン姉さんの言う証拠物件は、私がマーホンさんに押し返したので解決しました。一応、二度と東先生をからかわないように注意もしたので、大丈夫でしょう。

「ヒッヒヒッ。やぁ、ニシセンの顔が歪むのを見てみたかったぜ」

 リンリンちゃんは他人事だと思って、笑いをこらえるでもなく楽しんでいます。話さなかった方が良かったでしょうか……。

 しかし、ここで言葉を挟むのはベルちゃんです。

「そうね。妖のことで他を笑えるほどの立場ではないわね」

「な、なんだよぉ」

 リンリンちゃんの扱いに慣れているらしいベルちゃんは、何やら弱点を握っているようでした。リンリンちゃんが、こんなに戸惑っているのを見るのは始めてです。

 数年の付き合いにはなりますが、私の知らないことがまだまだあるのでしょう。

「沖縄の『外国人特区』は、県に住む妖としては耳に痛い話でしょ」

「うぐぅ……」

 ベルちゃんのセリフに、リンリンちゃんはついに言葉を失いました。私も、少しずつ何について話しているのかわかってきました。

 『外国人特区』というのは、沖縄にできた外国人用の居住地です。平たく言い過ぎると何が問題なのかまったくわかりませんね。

「ウチナーの妖が全員、独立を叫んでるわけじゃねぇって」

「それは知ってるけど、やっぱり本土との板挟みは嫌なのも確かでしょ?」

「まぁな。でも、別に仲違いしたいわけでもないからさ」

 リンリンちゃんはお弁当の空箱が入った巾着をベッドにして、ふてくされたように言いました。スズちゃんの指摘は最もで、またリンリンちゃんの思いも間違いではないのでしょう。

 どれも『外国人特区』の話につながっていて、外国人と日本人との間に挟まれ沖縄の肩身は非常に狭くなっています。

 大戦になりそうなところに沖縄の妖が現れたことで、日本は危ないところを脱することができました。その代わりに融和政策として、海外の人達が沖縄のいくつかの地域に移住したのが『外国人特区』の始まりです。

「私らの親は、単にのんびりとした暮らしを守りたかっただけなのになぁ」

「素手でも当時の銃と対等に戦える妖が相手じゃねぇ」

「結果、外国の方々を沖縄に住まわせることで和平に持ち込んだと。ここまでは理解できるんですが……」

 リンリンちゃんがぼやく通り、先の人々は新たな争いの火種が生まれるなどと思っていなかったでしょう。

 両者に甚大な被害が出る可能性を考えての判断としては、『外国人特区』の存在は間違いではないと思います。ただ、それによって招き入れた人々が沖縄や本土にとって利益となるかはわかりません。

「今やアイツら、私達を監視する立場だと思ってる!」

 リンリンちゃんは、私の言葉を引き継ぐように声を荒げました。また周囲の視線が向くものの、ベルちゃんが慰めるので長くは持ちません。

「抑えて、抑えて」

「外国の人達を追い出せばそれはそれで不味いですし、だからといって本土に移住するのも無理がありますもんね」

「小さい私らキジムナーは良いけど、皆が皆そうじゃねぇし。やっぱり好き好きもあるし……」

 様々な思惑が絡み合って答えの導き出せない問題を考えて、リンリンちゃんは頭がオーバーヒートしたのか珍しくネガティブなことを言い放ちました。

 後に続く問題としては、先も言った通り沖縄の妖達が県を日本からも外国からも独立させようという考えがある。という話です。

 これには大戦前のいざこざで日本に恨みを持ったままの人達や、はたまた妖の力を欲しがっている人達が裏で一枚噛んでいるという噂もありますが。まぁ、そこまでは子供の私達が考えても仕方ありません。

「沖縄も大変だわね」

 横から口を挟んでくるのは、褐色の雪女さんのアメちゃんでした。

 確かアメちゃんは、沖縄とは対極にある北海道の出身でしたか。北の方も問題があるようです。

 一部で北端の島に『外国人特区』が出来ているという話は知っていますが、沖縄ほどの混乱があるとは聞き覚えがありません。

「ん~? アメんとこの北海道って、何かあったっけか?」

「ゲットーの外国人とはケンカしてないけど、国がとんでもない勘違いをしてくれてたんだわね」

「あ、もしかして」

 アメちゃんがリンリンちゃんに愚痴を始めると、わずかな情報だけでベルちゃんは理解を示しました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

【1話完結】あなたの恋人は毎夜わたしのベッドで寝てますよ。

ariya
ファンタジー
ソフィア・ラテットは、婚約者アレックスから疎まれていた。 彼の傍らには、いつも愛らしい恋人リリアンヌ。 婚約者の立場として注意しても、アレックスは聞く耳を持たない。 そして迎えた学園卒業パーティー。 ソフィアは公衆の面前で婚約破棄を言い渡される。 ガッツポーズを決めるリリアンヌ。 そのままアレックスに飛び込むかと思いきや―― 彼女が抱きついた先は、ソフィアだった。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

処理中です...