腐男子♥異世界転生

よしの と こひな

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55話 悩み相談(後編)

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「なら、自分の気持ちを素直に伝えて、教えてあげるしかないんじゃないか。……俺もルクレールも男相手は経験がないが、騎士の中には多くて……その辺の“知識”だけは、嫌でも耳に入って来るんだ。とりあえず、騎士団の連中が使っている香油アッターを用意しよう。ジュールに渡すから受け取ってくれ。もちろん、中身は分からないようにしておく」
「……なんか……、そこまでしてもらうの、申し訳なさ過ぎる気がする」

 しかし、有難い。正直、この世界でローション香油の入手方法なんて、原作を読み込んでいた俺でも知らなかった。

「なに言ってんだ。セレスのおかげで、俺も前を向いて歩いていいんだって思える。好きな相手と幸せになってもいいんだって、ようやく考えられるようになった。俺と弟を救ってくれた人への、ささやかな礼だと思っておけ。……香油アッターが礼ってのも、妙な話だけどな」
 小さく笑いながら互いの視線が自然に重なる。気恥ずかしさと安堵が入り混じった空気が、ふわりと俺たちを包む。
「ロジェ、好きな人いるんですね」
 ふと口をついて出た問いに、彼は少しだけ目を伏た。
「……ああ、まあな。……いや違う。つい最近、気が付いてしまった。……ずっと、そういう感情に蓋をして生きてきたから、鈍くなってたんだろうな。ただ“愛らしい”って思っていたつもりが、“愛しい”って気持ちだったなんて思いもよらなかったんだ。でも、そのときにはもう失恋していた。ちゃんと隣に、幸せそうに笑う相手がいて、誰かのものだった」
「既婚者……ですか……」
 彼は短く息を吐くと、否定も肯定もせずに俺を見ていた。

 中庭の向こうで、ニコラの笑い声が上がる。フォンテーヌおきなが、少年の視線の高さに合わせるようにしゃがみこんでいた。いつの間に仲良くなっていたんだろう。まるで祖父と孫のような穏やかであたたかな光景だった。
 ロジェはその様子を一瞬だけ見やり、すぐにこちらへ顔を戻した。

「下世話な話になるが、俺も男だからそういう欲がないわけじゃない。例の奴ほど頻繁にではないけれど、娼館には行く。ただな、気持ちの伴った行為ってのは、したことがないんだ。……好きな相手を求めて、相手からも求められて一つになれるなんて、きっとかけがえのないことなんだろう。まあ、怖いことも、分からないことも、全部ひっくるめてだな……、“一緒に”覚えていけばいい。お前と、アルチュール君で」
 その言葉は、静かに胸の奥に沈んだ。
「ありがとう、ロジェ」
 頭を下げると、彼は俺の肩をぽんと叩いた。
「礼を言うのは、俺のほうだ。あと、先日の丁寧な手紙もありがとう」
「焼き菓子、美味しかったです。一瞬で無くなりました」
「それは嬉しいな。じゃあ、また差し入れするよ」
「楽しみにしてます」
 薔薇の香りがふわりと漂う。そのとき、ふとロジェが「ああ、そうだ」と思い出したように声を上げた。
「ニコラがセレスをお嫁さんにするって言ってたよ」
「……はあ?」
「今日は全然、セレスに近付かないし、下を向いて目も合わさないだろ? あれ、恥ずかしがっているんだ。会えるのは楽しみにしていたけど、中身はまだ八歳の子供のままだから。キス=結婚って思っているらしい」
「えっ……?」

 確かに。あのとき、口移しでポーションを飲ませたのは八歳の少年には刺激が強すぎたかもしれない。純粋な子供の心には、きっとあれが“特別な誓い”に映ってしまったのだろう。

「セレスとアルチュール君がキスした場面は、俺で見えてなかったようだからな」
「いや、そういう問題じゃなくて……」
 思わず言葉を詰まらせる俺に、ロジェは堪えきれず吹き出した。
「ニコラの嫁になってくれたら、俺が本当にお兄ちゃんになれるんだが……」
「それは……、とてつもなく魅力的な提案ですね」
 気付けば、本気で前向きに考え込んでいた。ロジェが肩を揺らしながら笑い、軽く手を振る。
「おいおい、アルチュール君が泣くぞ」

 まさにそのとき、低い声が背後から聞こえた。
「……こんなところにいたのか」
 振り向けば、アルチュールが立っていた。
 どうやら、席を外した俺を心配して探しに来てくれたようだ。

 さっきから何人かに俺がちょっかいをかけられているのを見ていて、しかめっ面してたもんな。

 ホッとしたように肩の力を抜くアルチュールを前に、ロジェが小さく笑う。
「噂をすれば……、だな」
 そう言って立ち上がると、ロジェは軽く手を振った。俺もつられるように腰を上げる。
「じゃあ、俺はニコラの様子を見てくる。――ああ、例のブツは明日には届くように手配しておくから」
 そう言い残し、彼は薔薇の茂みを抜けて中庭の方へ歩いていった。

 なんか、危険な取引の密約でも交わしたみたいだ。

 言葉の響きが妙に物騒で、思わず小さく苦笑する。
「なんの話だ?」
 アルチュールが、わずかに眉をひそめて尋ねてきた。

 ローション香油を入手してから、“最後”の意味もきっちりと話そうと思っていたけれど、この様子じゃ、今夜、俺が口を開くまで引き下がってくれそうにない。
「帰ったら、部屋に行くから。そのとき、教える」
 そう言うと、アルチュールはまだ納得しきれない顔のまま、それでもどこか安心したように俺の隣を歩き出した。
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