腐男子♥異世界転生

よしの と こひな

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60話 デート -2-

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 ひと息ついたところで、俺はネージュに目を向けた。
「そういえば、最近は先輩伝書使クーリエたちと一緒に街の上を飛んでるんだろ?」
 ネージュは胸を張り、得意げに尾羽を揺らす。
「うん。でもね、パパとママと一緒にお出かけして見る街の風景は、やっぱり格別だよ」
「おいこらっ、今度、ママって言ったら、焼き鳥にすんぞっ!」
 ネージュは慌てた声で叫び、アルチュールの胸に飛び込んだ。
「パパ―、ママが怖いよー」
 アルチュールは優しく手を伸ばし、ネージュを抱きとめながら微笑む。
「よしよし、今日はパパが街で果物を買ってあげよう」
「こらっ、アルチュール。ネージュの冗談に乗せられるな!」
 シエルが小さく笑い声をあげ、肩の上でちょこんと跳ねる。
 馬車はゆっくりと揺れながら通りを進んだ。

 実は、昨日ニコラにイヤーカフを貰ったときから考えていた。
 俺も何か贈りたい、と。
 ネージュとシエルには銀の足環を。同じものをマルスとオグマにも。
 殿下には髪紐のお返しを。
 ナタンには、先日の働きをたたえる意味で、ささやかな贈り物を。
 ロジェとニコラにも、あらためてきちんと礼を示したい。
 そして、アルチュールには……、彼に似合って彼が身につけてくれるような、特別なものを。

 そんなことを考えている間に、馬車は街の中央広場に到着した。御者が扉を開けると、水音と人々のざわめきが一気に流れ込んでくる。
 広場の中心には『レダの泉』と呼ばれる大きな噴水があり、白い石で象られた美しい女性と白鳥の像が陽光を受けてきらめいていた。人の往来が多く、工芸店や露店、飲食店が環状に連なり、街で一番賑わう場所だ。

「迎えは日暮れ前、五時の鐘が鳴るときに、ここでよろしいですね?」
 御者の問いに、アルチュールが丁寧に頷く。
「お願いします」
 俺たちは視線を交わし、噴水を背に歩き出した。

 最初に目に入ったのは、大きな文具店だった。
 ガラス越しに見える棚には、革張りの手帳やインク壺、ペン先や封蝋の印章がきれいに並んでいる。
「……ナタン、こういうの全部、喜びそうだな」
 隣でアルチュールがぽつりと言った。俺も自然と頷いてしまう。
 気づけば、まるで合図されたかのように、俺たちは同時に文具店の入り口へと足を向けていた。

 店に入ると、紙とインクの匂いがふわりと鼻をくすぐる。中ほどの棚に、小さめのノートがずらりと並ぶ。
 俺は背表紙を撫でながら、一冊のノートを手に取った。
 深い紺色の表紙に、薄く魔法陣のような模様が型押しされている。ページの端には、さりげなく小さな星が散っていた。
「これ、いいな……。魔法陣を描き込むと、淡く浮かび上がるタイプか。図を拡大して見るのにも良さそうだ」
 ナタンが、寝る前に静かにペンを走らせている姿が目に浮かぶ。
「これ、ください」

 会計を済ませると、どこか気品を帯びた中年の店主が丁寧に紙袋へと収めて手渡してくれた。俺はそれを手で提げ、軽く揺れる重みを確かめながら店を出た。
 文具店の次は、通り沿いの工芸店へ。
 中へ足を踏み入れると、まず目に飛び込んできたのは、細い鎖と小さな輪。
 ショーケースの一角には、伝書使クーリエ専用の足環や軽量のチャームが、他の装飾品とは区分されて整然と並んでいる。
 俺がアルチュールと覗き込んでいると、肩の上のネージュが、ふいに「お?」と声を漏らし一つの足環を見つめた。
「気に入ったか?」
 アルチュールが聞くと、ネージュは、「セレスがロジェからもらったイヤーカフに似ているな」と俺の耳に視線を移してそう言った。

 その足環は、繊細な銀細工でつくられたものだった。
 細い輪の片側に、小さなバラが一輪だけ添えられている。花弁は薄く延ばした銀板を重ねて象り、中心には極小の真珠の粒が控えめに光っていた。
 茎や葉は影のように抽象化され、全体は驚くほど軽い。そのくせ、角度によって花弁の縁が淡くきらめき、銀の冷たさの中にひとしずくの温かみを忍ばせている。

「……確かに似てるな」
 俺がそう言うと、アルチュールが横で静かに頷く。
「セレスは銀髪だし、白いバラのイメージがある。これは、ネージュやシエル、オグマにマルスにもよく似合うと思う」
「拙者もこれが良いと思うでござる!」
 軽快で妙に粋がった声が横から飛んだ。シエルだった。

 ……ちょっと待って。今、なんて言った、シエル……?

 俺は固まった。
 アルチュールが眉間に皺を寄せ、困惑というより“どうしてこうなった”という顔で俺を見る。
「なあ、セレス。最近、うちのシエルが妙な喋り方をするんだが……」
「……すみませんっ。全部それ、うちの子のせいです」
 気づけば俺は、幼稚園児が他所の家の子に悪影響を与えたと聞かされて平謝りする母親みたいな姿勢になっていた。原因に心当たりがありすぎる。いや、ありすぎて逆に泣ける。無理。
「パパ! これは、ヤシマの古典剣士劇ごっこだよ。俺たち四羽の中で今、流行ってるんだ」
 ネージュが胸を張って言う。
 アルチュールは理由を聞いて、少しだけ肩の力を抜いた。そして、なぜか優しく俺の方を見る。
「そうなのか……理由が分かって少しホッとした。セレスは色んな本を読んでいるから、それでネージュも知識が豊富なんだな」

 違う。
 それ、日本の時代劇だ。うまくごまかしやがったな、このオッサン鳥。
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