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115話 帰還 -5-
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じゃあ、誰が最初に縛られるか……という話になった瞬間、ルクレールは言った。
「四人……、丁度いい。決めるか、モーラで」
この世界の指の数当て勝負。二人ずつに分かれ、同時に指を出し合計数を当てるだけの古くから続く簡易的な遊びだが――結果は一瞬だった。
「負けた……最下位だ……」
俺は、虚しく自分の手を見下ろした。
「セレス、弱すぎないか?」
アルチュールが、半ば呆れたように言う。
「うん……」
……知ってる。
こういう勝負ごと、俺は昔から本当に弱い。
じゃんけん、くじ引き、あみだくじ……。なぜかいつも負ける。どう足掻いても負ける。
最後に残ったおやつは、だいたい綾ちゃんに取られて終わり。「はいはい、また負けたね」って笑われるところまでが様式美だ。
まさか、セレスタンになった今でも、この体質を引きずるとは。
「いいこと知ったな……」
アルチュールが、ぼそりと呟いた。
……ん?
顎に手を当て考え込むアルチュールの横顔は、やけに真剣だ。
表情は完璧。涼しくて、理知的で、隙がない。
しかも厄介なのは、その顔に、えっちぃ成分が一ミリも浮かばないこと。
が、分かる。分かってしまう。
これ、絶対、ろくでもないことを考えている。
とんでもなく不埒な使い道を思いついているのが、逆にもう確信できてしまう。
三回戦、やるかやらないか、モーラで決めようって言って来るやつだ!
「縛るのは勝ち抜けのナタンだな」
リシャールが淡々と告げた。
「でも、私がセレスさまを縛るだなんて……」
ナタンが縄を手に、罪悪感に満ちた顔で呟いた。
「気にするな。今、お前は俺の侍従じゃないし、一応、これ勉強だから」
そう言って、俺は軽く肩をすくめる。
「いえ……」
ナタンは一拍置き、なぜか背筋を正す。
そして、真顔のまま続けた。
「私が、セレスさまに縛られたいんです! できれば、そのまま乱暴に床に転がされ、踏んで欲しい!」
空気が一気に別の方向へ曲がった気がする。ほぼ直角ターンだよ。戻ってこいよ。
で? なぜ「踏んでほしい」まで一息で付け足した?
ソファーの上でダンサーが、目に見えて硬直してるじゃないか。嘴は半開き、首は思いきり引け、目はガン開きだ。まるで、「未知の生物に遭遇した」みたいな感じで見られてるぞ、おい。
……駄目だ。
俺は無言でナタンの手から縄を奪い取り、そのまま隣にいたアルチュールへ押し付けた。
「アルチュール。縛ってくれ」
「……了解」
そして、縄を受け取った彼は、なぜか目を閉じた。深く息を吸い、吐く。
「……落ち着け、俺……」
「なにやってんの?」
即座に突っ込む。
「邪念を振り払っている」
真剣な顔で返された。
ヘンタイしかいねぇ……。
「もういい」
俺はため息をつき、アルチュールからも縄を奪い、自分で足首にそれを回した。
手早く、だが雑に結び床に腰を下ろす。
「これでいい?」
「ああ」
ルクレールが一歩前に出る。
俺の足元に視線を落とし、短く詠唱。
「クラウストゥム・ネクサ」
空気が、きし、と鳴った。縄に淡い赤銅色の魔力線が走り、絡み合い、固定される。
ただ縛られているだけではない。結び目そのものが、魔力の節点として“生きて”いる感覚。
ルクレールは一歩下がり、腕を組む。
「最初だから、ヒントをやる。今の術式で、拘束点は十二。全部均等じゃない」一瞬、口角が上がる。「最初に解くべき箇所を探せ。魔力の流れを読め」
俺は目を閉じた。
足首に触れる縄の感触、その奥を流れる魔力。締め付けは均一ではない。どこかに、核がある。
知恵の輪。絡まり合った輪を、力任せに引けば、余計に締まる。正解は、必ず一つ。
……なるほど。これは確かに、“遊び”だ。
「四人……、丁度いい。決めるか、モーラで」
この世界の指の数当て勝負。二人ずつに分かれ、同時に指を出し合計数を当てるだけの古くから続く簡易的な遊びだが――結果は一瞬だった。
「負けた……最下位だ……」
俺は、虚しく自分の手を見下ろした。
「セレス、弱すぎないか?」
アルチュールが、半ば呆れたように言う。
「うん……」
……知ってる。
こういう勝負ごと、俺は昔から本当に弱い。
じゃんけん、くじ引き、あみだくじ……。なぜかいつも負ける。どう足掻いても負ける。
最後に残ったおやつは、だいたい綾ちゃんに取られて終わり。「はいはい、また負けたね」って笑われるところまでが様式美だ。
まさか、セレスタンになった今でも、この体質を引きずるとは。
「いいこと知ったな……」
アルチュールが、ぼそりと呟いた。
……ん?
顎に手を当て考え込むアルチュールの横顔は、やけに真剣だ。
表情は完璧。涼しくて、理知的で、隙がない。
しかも厄介なのは、その顔に、えっちぃ成分が一ミリも浮かばないこと。
が、分かる。分かってしまう。
これ、絶対、ろくでもないことを考えている。
とんでもなく不埒な使い道を思いついているのが、逆にもう確信できてしまう。
三回戦、やるかやらないか、モーラで決めようって言って来るやつだ!
「縛るのは勝ち抜けのナタンだな」
リシャールが淡々と告げた。
「でも、私がセレスさまを縛るだなんて……」
ナタンが縄を手に、罪悪感に満ちた顔で呟いた。
「気にするな。今、お前は俺の侍従じゃないし、一応、これ勉強だから」
そう言って、俺は軽く肩をすくめる。
「いえ……」
ナタンは一拍置き、なぜか背筋を正す。
そして、真顔のまま続けた。
「私が、セレスさまに縛られたいんです! できれば、そのまま乱暴に床に転がされ、踏んで欲しい!」
空気が一気に別の方向へ曲がった気がする。ほぼ直角ターンだよ。戻ってこいよ。
で? なぜ「踏んでほしい」まで一息で付け足した?
ソファーの上でダンサーが、目に見えて硬直してるじゃないか。嘴は半開き、首は思いきり引け、目はガン開きだ。まるで、「未知の生物に遭遇した」みたいな感じで見られてるぞ、おい。
……駄目だ。
俺は無言でナタンの手から縄を奪い取り、そのまま隣にいたアルチュールへ押し付けた。
「アルチュール。縛ってくれ」
「……了解」
そして、縄を受け取った彼は、なぜか目を閉じた。深く息を吸い、吐く。
「……落ち着け、俺……」
「なにやってんの?」
即座に突っ込む。
「邪念を振り払っている」
真剣な顔で返された。
ヘンタイしかいねぇ……。
「もういい」
俺はため息をつき、アルチュールからも縄を奪い、自分で足首にそれを回した。
手早く、だが雑に結び床に腰を下ろす。
「これでいい?」
「ああ」
ルクレールが一歩前に出る。
俺の足元に視線を落とし、短く詠唱。
「クラウストゥム・ネクサ」
空気が、きし、と鳴った。縄に淡い赤銅色の魔力線が走り、絡み合い、固定される。
ただ縛られているだけではない。結び目そのものが、魔力の節点として“生きて”いる感覚。
ルクレールは一歩下がり、腕を組む。
「最初だから、ヒントをやる。今の術式で、拘束点は十二。全部均等じゃない」一瞬、口角が上がる。「最初に解くべき箇所を探せ。魔力の流れを読め」
俺は目を閉じた。
足首に触れる縄の感触、その奥を流れる魔力。締め付けは均一ではない。どこかに、核がある。
知恵の輪。絡まり合った輪を、力任せに引けば、余計に締まる。正解は、必ず一つ。
……なるほど。これは確かに、“遊び”だ。
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