「怪」談巷説

藍玉

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報仇雪恨

9話 試煉:えいた

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久々にカナとのショッピング。
あれやこれや、色々な店に連れまわされる。あぁ、小遣いが飛んでいく...でもいいか。高校生の娘を持つ連中の話では、口も聞いてくれないのが普通らしい。オレは恵まれている方なのだろう。

「パパ!これ、似合うかな?どう?」
ノースリットワンピース?とかいうらしい。

「あぁ。可愛いよ」

「なにそれ。ちゃんと見てないでしょ」
ふん!っと、そっぽを向く。

「いやいや、似合ってるよ。ほんと」

ベーっと舌を出すカナ。
突然、可愛い顔が歪む。
続いて体が、店内が、世界が、グニャグニャと歪んでいく。やがて視界が狭まり...

気がつくとベットに横たわっていた。
すぐに起き上がり周りを見渡す。
自分がいるベットと、机が一つだけ置かれた殺風景な部屋。窓一つない。まるで牢獄だ。しばらく呆然としていた。

ふと見ると、足元にレトロなテープレコーダーが置かれている。カセットがセットされている。なんとなく、再生ボタンを押してみた。ガチャっと音がしてゆっくりテープが回り出す。

「...おはようございます、◯◯えいたさん」
この声、あの無表情オールバックだ。

「カナさんの居場所は机の地図に書いてあります。この部屋のカギとカナさんのいる部屋のカギは、あなたの中」

は?

「わかりやすい様に、バッテンを書いておきました。お腹あたりです」

ワイシャツのボタンを外す。確かに二ヶ所、バッテンが書かれている。

「机を確認してください。早くしないと、カナさんは出血多量で亡くなってしまいますよ」

机を見ると何か置かれている。
飛び起きて机に向かう。
そこには地図と、デカイ包丁?と、小さな箱が置かれている。
地図に赤印がある。
あのさびれた郊外の廃墟か。

箱を開けて息が止まった。

人の手だった。左手。
カナのものだとすぐにわかった。
親指と人差し指の間、手の甲に特徴的なホクロがあるからだ。

「では、またお会いしましょう」
ガチャっとテープが止まる。

震える手で包丁を握る。

なんでだ。
なんでこんなことになるんだ。

カナ、遅くなってすまない。
もう少し待ってろ。
すぐ助けに行く。
なにがなんでもお前は死なせない。
そして、この包丁でアイツを殺す。
カナを傷つけたアイツをオレが殺す。

一つ目のバッテンへ向けて、
包丁を突き立てた。


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