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エルタンを操るコツ
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王太子殿下の婚約を祝すために開かれる舞踏会まで、残り数日となった午後。殿下に大事な相談があると手紙を頂いた私は、殿下の居室を訪れていた。
「失礼いたします。お茶のお代わりを――っ! 申し訳ございません」
「ご、誤解だっ!!」
「もぅ、なんで邪魔するの~?」
お茶のお代わりを持ってきてくれたらしい殿下付きの侍従が、私たち二人の恰好を見て慌てて謝罪する。それに慌てて苦言を呈する私と頬を膨らませ、不満をあらわにする殿下。
どちらかが正しいかと言われれば、間違いなく私である!
こんな状況になった発端は、殿下の相談事――舞踏会に出席するための服の色を悩んでいると言うものだった。
そこまでは非常にまともであり、可愛らしい側面だと思う。
だが、その後が問題だ。
少なからず殿下は高貴なる身分におわすお方であり、私よりも上位に当たる。そんな御方があろうことか、私の前で服を脱ぎ棄て着替えをしようとしたのだ。
当然ならが、私は殿下を止める。けれど、口では言う事を聞いてもらえず、殿下を止めようと立ち上がり近づいたその時、殿下が脱ぎ捨てた服に躓いてしまう。私と殿下がもつれる形でソファー倒れ、たまたまそこにお茶を持った侍従が来てしまった。と、言うのが事のあらましである。
「エルタン!」
ブスくれる殿下の名前を強めに呼ぶ。
「だってぇ~」
「だってじゃないだろ? 私の事を好きだといったあの心は嘘だったのか? 私は自分の婚約者が、人目に付く場所で肌を晒すなんて破廉恥な事をするのは許容できないんだが?」
「うっ」と言ってつまる殿下を見つめたまま、彼の腕を引きソファーに座り直す。
「はぁ~。今回は許します。でも、今後はこういう事は人前でしてはダメだ。私の婚約者たる自覚があるのであれば、結婚するまでその体を清く保って欲しい!」
「うん。約束するぅ~」
正直、血反吐を吐く思いだ。
男の私が男の殿下に、身体を清く保てなどと言わなければならないのか……。だが、殿下に振り回されないためにも必要な事だと思いなおす。
実はこの一週間とほんの少しの時間で、毎日のように殿下と接していた私は殿下を上手く操るコツというものをみつけた。それはある意味で、殿下の好意を利用しているようだが致し方ないと思い諦めている。どうせ、最終的には妻に迎える事になるのだから……。
殿下は、何故か理由はわからないが私を好いてくれている。そのため”私の婚約者”として扱われる事を非常に喜んでくれる。だからこそ、私はその言葉を強調して、彼の暴走を止めるようになった。
赤みのさした頬から延びる首筋は、男ながらに細く。肌きめ細やで白い。流石に、このまま直視する事はできず視線を逸らして、近くにあったシャツを肩にかける。
「ほら、服を着て! 体調を崩してはどんなに楽しみにしていようと舞踏会には出れなくなるぞ? いいのか?」
「や、やだぁ~!」
子供のような殿下の声に、クスクスと笑い服を着るのを手伝った。そして、落ち着いたところで侍従に紅茶を入れて貰う。
流石王城内の紅茶と言うべきか、ほんのりとベリーの香り漂う紅茶は薫り高く美味だ。
紅茶を飲んで一息ついた私と殿下は、再び舞踏会の服について話し合う。
そうして、相談を繰り返し漸く服が決まるかと思われたその時――何の前触れもなく、殿下の私室の扉が開かれ一人のご令嬢が現れた。赤い髪に、桃色の瞳の彼女は潤んだ瞳で、殿下を見つめている。
後ろでオロオロとしている衛兵は、どうやら役に立たないらしい。
冷静に状況を判断しながら、どこかで見たことあるような? と記憶を辿れば、最近学園である意味有名なローダンセム男爵家のご令嬢メリシア嬢だと判明する。
「エルタルト様ぁ~」と媚びる声音で殿下に走り寄るメリシア。そんなメリシアを前に目を白黒させ「誰?」と零した殿下は、私に助けを求めるべく視線を向ける。
「お知り合いではないのですか?」
「知らないよぅ~。だって、僕、学園に行くの来期からだもん~。それに、僕。女の子に興味ないも~ん」
そう言えば、そうだった。
殿下はセクシュアルと言う特異体質なため、男にしか興味がない。その上、彼自身の婚約者が、決定するまで王命により学園に通えないと以前言っていた。
と言う訳で、ひとまず駆け寄るメリシア嬢から、殿下を守るように身体を間に滑り込ませ背に庇う。
「なっ、邪魔ですわ! おどきになって!」
「それは出来ません」
「良いからどきなさい! わたくしを誰だと思っているの? わたくしは――」
「メリシア・ローダンセム男爵令嬢だろう? 何故貴方がここにいるのか答えて頂けますか?」
怒気を露わにするメリシアに、彼女の名を告げれば目を見開き驚いたようだが、すぐに訝し気に眉を顰めを探るような視線を向けた。
それを気にせず、再び彼女に対し「何故、ここにいるのですか?」と問いかける。が、彼女はそれに答えようとしない。これ以上何を聞いても答える気はないのだろうと判断した私は、後の事をプロに投げた。
「衛兵。何をしている! 殿下の許し無く殿下の私室に入った愚か者を捕えよ!」
「「はっ」」
「ちょ、待って、やだ。何するの? やめてっ!! エルタルト殿下。わたくしです。覚えておいでではありませんか? 殿下と幼き頃共に遊んだ、メリシアですわ!」
衛兵に両腕を掴まれたまま引き摺られるメリシアが、殿下に視線を向け必死に叫ぶ。その様子を見ていた殿下は首を傾げ、考える素振りを見せたかと思うと「やっぱり、しらないよ~」と首を振った。
メリシアが去り、私と殿下は再びソファーに腰を下ろす。
隣に座るのが当然となってしまったなぁ~と思いながら、殿下の方を見れば難しい顔をして何かを考え込んでいるようだった。
「エルタン? 何か思い当たる事でもあったのか?」
「…………」
「エルタン?」
「……ん? 何?」
「メリシア嬢の件で、何か思い当たることがあったのか? と聞いたんだ」
「あー。うーん。あの子の事はやっぱり知らない。って言うか覚えてないって言うのが正しいかなぁ~?」
「どういうことだ?」
「実はね~。僕、半年前までの記憶がないのぉ~」
「…………は?」
殿下の突然のカミングアウトに私の思考は固まった――。
「失礼いたします。お茶のお代わりを――っ! 申し訳ございません」
「ご、誤解だっ!!」
「もぅ、なんで邪魔するの~?」
お茶のお代わりを持ってきてくれたらしい殿下付きの侍従が、私たち二人の恰好を見て慌てて謝罪する。それに慌てて苦言を呈する私と頬を膨らませ、不満をあらわにする殿下。
どちらかが正しいかと言われれば、間違いなく私である!
こんな状況になった発端は、殿下の相談事――舞踏会に出席するための服の色を悩んでいると言うものだった。
そこまでは非常にまともであり、可愛らしい側面だと思う。
だが、その後が問題だ。
少なからず殿下は高貴なる身分におわすお方であり、私よりも上位に当たる。そんな御方があろうことか、私の前で服を脱ぎ棄て着替えをしようとしたのだ。
当然ならが、私は殿下を止める。けれど、口では言う事を聞いてもらえず、殿下を止めようと立ち上がり近づいたその時、殿下が脱ぎ捨てた服に躓いてしまう。私と殿下がもつれる形でソファー倒れ、たまたまそこにお茶を持った侍従が来てしまった。と、言うのが事のあらましである。
「エルタン!」
ブスくれる殿下の名前を強めに呼ぶ。
「だってぇ~」
「だってじゃないだろ? 私の事を好きだといったあの心は嘘だったのか? 私は自分の婚約者が、人目に付く場所で肌を晒すなんて破廉恥な事をするのは許容できないんだが?」
「うっ」と言ってつまる殿下を見つめたまま、彼の腕を引きソファーに座り直す。
「はぁ~。今回は許します。でも、今後はこういう事は人前でしてはダメだ。私の婚約者たる自覚があるのであれば、結婚するまでその体を清く保って欲しい!」
「うん。約束するぅ~」
正直、血反吐を吐く思いだ。
男の私が男の殿下に、身体を清く保てなどと言わなければならないのか……。だが、殿下に振り回されないためにも必要な事だと思いなおす。
実はこの一週間とほんの少しの時間で、毎日のように殿下と接していた私は殿下を上手く操るコツというものをみつけた。それはある意味で、殿下の好意を利用しているようだが致し方ないと思い諦めている。どうせ、最終的には妻に迎える事になるのだから……。
殿下は、何故か理由はわからないが私を好いてくれている。そのため”私の婚約者”として扱われる事を非常に喜んでくれる。だからこそ、私はその言葉を強調して、彼の暴走を止めるようになった。
赤みのさした頬から延びる首筋は、男ながらに細く。肌きめ細やで白い。流石に、このまま直視する事はできず視線を逸らして、近くにあったシャツを肩にかける。
「ほら、服を着て! 体調を崩してはどんなに楽しみにしていようと舞踏会には出れなくなるぞ? いいのか?」
「や、やだぁ~!」
子供のような殿下の声に、クスクスと笑い服を着るのを手伝った。そして、落ち着いたところで侍従に紅茶を入れて貰う。
流石王城内の紅茶と言うべきか、ほんのりとベリーの香り漂う紅茶は薫り高く美味だ。
紅茶を飲んで一息ついた私と殿下は、再び舞踏会の服について話し合う。
そうして、相談を繰り返し漸く服が決まるかと思われたその時――何の前触れもなく、殿下の私室の扉が開かれ一人のご令嬢が現れた。赤い髪に、桃色の瞳の彼女は潤んだ瞳で、殿下を見つめている。
後ろでオロオロとしている衛兵は、どうやら役に立たないらしい。
冷静に状況を判断しながら、どこかで見たことあるような? と記憶を辿れば、最近学園である意味有名なローダンセム男爵家のご令嬢メリシア嬢だと判明する。
「エルタルト様ぁ~」と媚びる声音で殿下に走り寄るメリシア。そんなメリシアを前に目を白黒させ「誰?」と零した殿下は、私に助けを求めるべく視線を向ける。
「お知り合いではないのですか?」
「知らないよぅ~。だって、僕、学園に行くの来期からだもん~。それに、僕。女の子に興味ないも~ん」
そう言えば、そうだった。
殿下はセクシュアルと言う特異体質なため、男にしか興味がない。その上、彼自身の婚約者が、決定するまで王命により学園に通えないと以前言っていた。
と言う訳で、ひとまず駆け寄るメリシア嬢から、殿下を守るように身体を間に滑り込ませ背に庇う。
「なっ、邪魔ですわ! おどきになって!」
「それは出来ません」
「良いからどきなさい! わたくしを誰だと思っているの? わたくしは――」
「メリシア・ローダンセム男爵令嬢だろう? 何故貴方がここにいるのか答えて頂けますか?」
怒気を露わにするメリシアに、彼女の名を告げれば目を見開き驚いたようだが、すぐに訝し気に眉を顰めを探るような視線を向けた。
それを気にせず、再び彼女に対し「何故、ここにいるのですか?」と問いかける。が、彼女はそれに答えようとしない。これ以上何を聞いても答える気はないのだろうと判断した私は、後の事をプロに投げた。
「衛兵。何をしている! 殿下の許し無く殿下の私室に入った愚か者を捕えよ!」
「「はっ」」
「ちょ、待って、やだ。何するの? やめてっ!! エルタルト殿下。わたくしです。覚えておいでではありませんか? 殿下と幼き頃共に遊んだ、メリシアですわ!」
衛兵に両腕を掴まれたまま引き摺られるメリシアが、殿下に視線を向け必死に叫ぶ。その様子を見ていた殿下は首を傾げ、考える素振りを見せたかと思うと「やっぱり、しらないよ~」と首を振った。
メリシアが去り、私と殿下は再びソファーに腰を下ろす。
隣に座るのが当然となってしまったなぁ~と思いながら、殿下の方を見れば難しい顔をして何かを考え込んでいるようだった。
「エルタン? 何か思い当たる事でもあったのか?」
「…………」
「エルタン?」
「……ん? 何?」
「メリシア嬢の件で、何か思い当たることがあったのか? と聞いたんだ」
「あー。うーん。あの子の事はやっぱり知らない。って言うか覚えてないって言うのが正しいかなぁ~?」
「どういうことだ?」
「実はね~。僕、半年前までの記憶がないのぉ~」
「…………は?」
殿下の突然のカミングアウトに私の思考は固まった――。
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