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ビル
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もやもやと1人で考えていると、時間はあっという間に過ぎていった。
終礼が終わると、花南が直ぐさま大きなぬいぐるみのキーホルダーを付けたスクールバックを抱えて私の傍まで来て小さく跳ねている。実鈴も少し遅れて。
「さてさてー、お楽しみの時間だよー!」
「そうだねぇ」
「じゃあ、案内するね」
「よろしくぅ」
「花南隊員、実鈴隊長について行きますー」
意気揚々と教室を出て、実鈴と花南と並んでついて行く。
学校を出て十数分歩いた所に、そのビルはあった。3人ともビルを前にして固まる。
1階の古本屋は道に面したガラスを全てブラインダーで隠しており、出入り口の扉には『カワグチ古本』と書かれている。
その古本屋の隣に上に上がるための階段があり、階段前の壁面にはシックな字体で『喫茶CLOCK』の看板。
ぱっと見3階建てに見えるのだが、3階にはベランダがあり服を取り込む人の姿が見えるので、おそらく3階は居住スペースになっているのだろう。
「………で、どこにあるんだろうなぁ」
「え?ここのビルで合ってるよね?間違えてる?」
「合ってると思うけど、このビルのエレベーター見当たらないよね」
「た、確かに」
「とりあえず上まで上ってみようよー」
困った表情の実鈴の腕を花南は引っ張りながらビシッとビルの上を指差す。
そのまま実鈴を引きずってビルの中に入ろうとするので、慌てて引き留めた。
「待て待て、三階は明らかに人ん家じゃん。店内にエレベーターあるかもしれないから古本屋さんに入ってみようよ」
花南は動きを止め、斜め上に目を泳がせた。
「あぁー可能性はあるーねー。じゃあ先にこっちー」
目標を古本屋に切り替えた花南が実鈴を引きずって店内に入っていく。実鈴もされるがままだ。
私も後に続いて入ると既に花南の姿は無く、実鈴がぽつんと立っていた。花南が1人で店内を彷徨いているんだろう。
レジには若い女性が立っているだけで、店内はとても静かだ。
「本のにおいがするねぇ」
「うん、落ち着く。私掘り出し物あるか見てくるね」
「私も見てこよぉ」
「たまに来るんだけど、飽きないのよね。実はエレベーターよりここが目的だったりするの」
「だろうと思った。でも知らなかったよ、ここに古本屋さんがあるなんてさぁ、教えてくれてもいいのに」
「知ってると思ってたのよ」
私も実鈴も、漫画やライトノベル、アニメが好き。勿論文学小説も読むが、世間でオタクと呼ばれる者の1人だと思う。
実鈴と花南とは小学生からの付き合いで、元々三人とも漫画は好きで夕方やゴールデンタイムのアニメも観て会話に花を咲かせていたのだが、後に私はそれに加えてゲームと深夜アニメ。実鈴はBLと、私と同じく深夜アニメが加わった。それはもうどっぷりと。
花南は私達ほど浸ってはいないが、最近動画サイトで実況が云々と熱く語っていた。
私達三人にとって実はエレベーターよりもこの古本屋の方が目標なのでは、とは途中から思っていた。三人とも口にはしていないが。
私と実鈴は別々に自分の好みのジャンルの棚に移動してサッと目を通していく。一応エレベーター探しに来ているので、また別の日に時間を取って来ようと思ったからだ。
少ししてから実鈴と合流し、立ち読みする花南を捕まえてレジに向かう。
立って本を読んでいる若い女性に私が話しかける。
「あのぉ、すみません。このビルにエレベーターってありますか?」
「いらっしゃいませ。いいえ、ここのビルはエレベーターはありませんよ」
「そうですか、ありがとうございます」
後ろを見ると2人はやっぱりという表情。私も店内を回ってみたが、それらしいものは見当たらなかった。
店内を出て、2階の喫茶店に入り一息つく。
「はぁ、エレベーター無かったねぇ」
「そもそもエレベーターの情報少ないんだよー、ビルのエレベーターはビルの中しか行けないんじゃないー?」
言われてみると確かに。
「メモ見せて。もっかい確認してみようよ」
実鈴の提案で、メモを3人で確認する。
「『転移エレベーター』は1回しか使えないんだよねぇ。誰か使っちゃったのかなぁ」
「元々あるエレベーターに『転移機能』がつくとか?」
私と実鈴が首を傾げながら意見交換。オタク故か想像力は豊かだ。
と、注文したリンゴジュースを飲みながら花南がぽつりと呟いた。
「『出現』するって書かれてるからー、漫画とかでよくある空間の裂け目みたいなそんな感じなんじゃ無いー?」
「なるほど!それはあり得るねぇ」
「でも古本屋さんにそんなのあった?」
無かった。そんな変なもの見つけたらすぐわかると思う。
この喫茶店にもそれらしいものは無く、あれば店員さんや他のお客さんが気づくはずだ。3階の家には流石にお邪魔するわけにはいかないし、そこまでするほどのものでもない。
わくわく感は冷め、雰囲気はいつも通りに戻ってきている。
「やっぱり夢は夢かぁ」
「ふふ、でも楽しかったよ。想像するのは」
「私も掘り出し物見つけちゃったし、楽しかったよー」
「少しお茶して帰ろうか」
「あー、私の夢で振り回しちゃってごめんねぇ」
「いいよいいよ、楽しかったから全て良しだよー!」
メモは私のカバンにしまい、後はもうただの雑談が始まった。最近の漫画やアニメについて話したり、1人の熱い語りに2人が耳を傾けたり、学校の恋愛沙汰の噂話をしたり。
話は尽きる様子が無く、ひと段落ついたのは町で流れる5時のチャイムが鳴ってからだった。
終礼が終わると、花南が直ぐさま大きなぬいぐるみのキーホルダーを付けたスクールバックを抱えて私の傍まで来て小さく跳ねている。実鈴も少し遅れて。
「さてさてー、お楽しみの時間だよー!」
「そうだねぇ」
「じゃあ、案内するね」
「よろしくぅ」
「花南隊員、実鈴隊長について行きますー」
意気揚々と教室を出て、実鈴と花南と並んでついて行く。
学校を出て十数分歩いた所に、そのビルはあった。3人ともビルを前にして固まる。
1階の古本屋は道に面したガラスを全てブラインダーで隠しており、出入り口の扉には『カワグチ古本』と書かれている。
その古本屋の隣に上に上がるための階段があり、階段前の壁面にはシックな字体で『喫茶CLOCK』の看板。
ぱっと見3階建てに見えるのだが、3階にはベランダがあり服を取り込む人の姿が見えるので、おそらく3階は居住スペースになっているのだろう。
「………で、どこにあるんだろうなぁ」
「え?ここのビルで合ってるよね?間違えてる?」
「合ってると思うけど、このビルのエレベーター見当たらないよね」
「た、確かに」
「とりあえず上まで上ってみようよー」
困った表情の実鈴の腕を花南は引っ張りながらビシッとビルの上を指差す。
そのまま実鈴を引きずってビルの中に入ろうとするので、慌てて引き留めた。
「待て待て、三階は明らかに人ん家じゃん。店内にエレベーターあるかもしれないから古本屋さんに入ってみようよ」
花南は動きを止め、斜め上に目を泳がせた。
「あぁー可能性はあるーねー。じゃあ先にこっちー」
目標を古本屋に切り替えた花南が実鈴を引きずって店内に入っていく。実鈴もされるがままだ。
私も後に続いて入ると既に花南の姿は無く、実鈴がぽつんと立っていた。花南が1人で店内を彷徨いているんだろう。
レジには若い女性が立っているだけで、店内はとても静かだ。
「本のにおいがするねぇ」
「うん、落ち着く。私掘り出し物あるか見てくるね」
「私も見てこよぉ」
「たまに来るんだけど、飽きないのよね。実はエレベーターよりここが目的だったりするの」
「だろうと思った。でも知らなかったよ、ここに古本屋さんがあるなんてさぁ、教えてくれてもいいのに」
「知ってると思ってたのよ」
私も実鈴も、漫画やライトノベル、アニメが好き。勿論文学小説も読むが、世間でオタクと呼ばれる者の1人だと思う。
実鈴と花南とは小学生からの付き合いで、元々三人とも漫画は好きで夕方やゴールデンタイムのアニメも観て会話に花を咲かせていたのだが、後に私はそれに加えてゲームと深夜アニメ。実鈴はBLと、私と同じく深夜アニメが加わった。それはもうどっぷりと。
花南は私達ほど浸ってはいないが、最近動画サイトで実況が云々と熱く語っていた。
私達三人にとって実はエレベーターよりもこの古本屋の方が目標なのでは、とは途中から思っていた。三人とも口にはしていないが。
私と実鈴は別々に自分の好みのジャンルの棚に移動してサッと目を通していく。一応エレベーター探しに来ているので、また別の日に時間を取って来ようと思ったからだ。
少ししてから実鈴と合流し、立ち読みする花南を捕まえてレジに向かう。
立って本を読んでいる若い女性に私が話しかける。
「あのぉ、すみません。このビルにエレベーターってありますか?」
「いらっしゃいませ。いいえ、ここのビルはエレベーターはありませんよ」
「そうですか、ありがとうございます」
後ろを見ると2人はやっぱりという表情。私も店内を回ってみたが、それらしいものは見当たらなかった。
店内を出て、2階の喫茶店に入り一息つく。
「はぁ、エレベーター無かったねぇ」
「そもそもエレベーターの情報少ないんだよー、ビルのエレベーターはビルの中しか行けないんじゃないー?」
言われてみると確かに。
「メモ見せて。もっかい確認してみようよ」
実鈴の提案で、メモを3人で確認する。
「『転移エレベーター』は1回しか使えないんだよねぇ。誰か使っちゃったのかなぁ」
「元々あるエレベーターに『転移機能』がつくとか?」
私と実鈴が首を傾げながら意見交換。オタク故か想像力は豊かだ。
と、注文したリンゴジュースを飲みながら花南がぽつりと呟いた。
「『出現』するって書かれてるからー、漫画とかでよくある空間の裂け目みたいなそんな感じなんじゃ無いー?」
「なるほど!それはあり得るねぇ」
「でも古本屋さんにそんなのあった?」
無かった。そんな変なもの見つけたらすぐわかると思う。
この喫茶店にもそれらしいものは無く、あれば店員さんや他のお客さんが気づくはずだ。3階の家には流石にお邪魔するわけにはいかないし、そこまでするほどのものでもない。
わくわく感は冷め、雰囲気はいつも通りに戻ってきている。
「やっぱり夢は夢かぁ」
「ふふ、でも楽しかったよ。想像するのは」
「私も掘り出し物見つけちゃったし、楽しかったよー」
「少しお茶して帰ろうか」
「あー、私の夢で振り回しちゃってごめんねぇ」
「いいよいいよ、楽しかったから全て良しだよー!」
メモは私のカバンにしまい、後はもうただの雑談が始まった。最近の漫画やアニメについて話したり、1人の熱い語りに2人が耳を傾けたり、学校の恋愛沙汰の噂話をしたり。
話は尽きる様子が無く、ひと段落ついたのは町で流れる5時のチャイムが鳴ってからだった。
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