8 / 15
確認
しおりを挟む
帰り道、あえてエレベーターの話はしなかった。
いつもは一緒に歩いて帰るところを花南の提案でバスに乗って帰り、日がすっかり沈んで暗くなった頃に家に着いた。
ただいまと玄関で言うと、リビングからお母さんのおかえりが帰ってきて、さっきのことは夢なのかなと思う。
リビングに向かうとお母さんは台所でオーブンにグラタン皿を入れようとしていた。
「今日はグラタンよ。紫の好きなミートグラタン」
「嬉しい。夏場は暑くて食べられないよねぇ」
「どうせクーラーつけるから涼しいんだけど、なかなかね」
「卵入り?」
「ちゃあんと卵も入れたわよ。半熟にしたいなら加減見なさいね」
「はぁい」
返事を返しながら自分の部屋に行く。
部屋に入ると緊張の糸が切れたのか、どっと疲れが来た。それと動悸。あの瞬間がフラッシュバックする。
在った。在った。本当に在った。
ベッドに身を投げ、深呼吸を繰り返す。
落ち着け、落ち着け、大丈夫。
頭の中が整理できていない。夢と現実の区別が曖昧になっている。
何かで落ち着かなければ。心臓がずっとバクバクと暴れている。
そうだ、漫画を読もう。漫画。そうしよう。
私はお気に入りの漫画を手に取り、お気に入りの話を読む。黙々と。本を読み、その世界に入ることだけを考える。
「………………」
どれくらいの時間本を読んでいたのか。気付けば数冊の本の山が出来ており、お母さんの声が聞こえて没頭していたことに気づいた。
「ご飯よー何してるのー」
「はぁい!」
落ち着いた、効果覿面。
急いで部屋着に着替えてリビングへ行くと、お父さんもいつの間にか帰ってきていた。
家族揃って、いただきます。お父さんの会社の面白い話を聞いたり、私の学校の話をしたり、テレビの内容の話をしたり。久しぶりのグラタンはとても美味しく、家族の話にも参加でき、もう大丈夫だと確信できた。
私は、エレベーターの話はしなかった。
片付けの手伝いをして、また部屋に戻る。
「………確認、しよう」
鞄からルールを書いたメモを取り出し、机に広げてスマホを開く。実鈴と花南から連絡が届いていた。
花南からは
「とてもびっくりした。本当にあるなんて!明日また学校で話し合おうね」
実鈴からは
「びっくりしたね!本当にあったんだ!私、後でもっかい見てくる」
と。
実鈴には
「そうだね、また話し合お」
と直ぐに返したが。さて、花南はどうしたものか。まさかまた見に行くとは思わなかった。大丈夫だろうか。
花南と別れてから2時間ほど経った。もう、見に行ったのか電話しようかしまいか。
「………」
少し悩んで、考えるのをやめた。返事は
「そうなんだ!じゃあまた明日話そう」
と。
花南はいつも突拍子もないことをするから、暫く放置しておく方が良いと学んでいる。付き合い長いから。
今は自分ひとりで考えて、ひとつずつ確認していこう。
スマホの画像フォルダを開き、さっき撮った写真を見る。
ちゃんと映っている。あの入り口が。
実鈴と花南も見てるから、チケット所持者以外にもあの扉は見えるんだ。
それに、店の裏口のようだったから、店員があれに気づかないわけがない。つまり所持者が50メートル以内に近付いたときに出現するっていうのも合ってるんだと思う。
後のことは確認できてない。というか、確認できない。
たぶん、私が乗ったら起動する。中に入ってないからスイッチがあるとかは見れなかった。
今日わかったことをメモに追加しておく。エレベーターについて書けることはもう無い。
メモを鞄に戻し、スマホの画面をじっと見る。エレベーターの中は少し光沢のある濃紺色であることだけしかわからない。
ため息。
エレベーターは在った。じゃあ、世界崩壊も在るのか。
こんなおかしなことを私ひとりで考えられるわけがない。こんなことをひとりで抱えられるほど私は大人じゃ無いし強くない。
でも、お父さんお母さんには話さなかった。信じて貰えないと思ったから。
それと。
肉親は連れてはいけないと書かれていたから。
話してはいけないとなんとなく思ったから。
頭の中がぐるぐるして、あまりにも追いつかなくてまとまらなくて、少しだけ泣いた。
泣いて落ち着いてから、考えるのは一旦やめてお風呂に入って直ぐに眠った。
できるだけエレベーターの事は考えないように、漫画やアニメのことだけ、こういうときに没頭できる趣味があってよかったなんて馬鹿なことを考えて。
いつもは一緒に歩いて帰るところを花南の提案でバスに乗って帰り、日がすっかり沈んで暗くなった頃に家に着いた。
ただいまと玄関で言うと、リビングからお母さんのおかえりが帰ってきて、さっきのことは夢なのかなと思う。
リビングに向かうとお母さんは台所でオーブンにグラタン皿を入れようとしていた。
「今日はグラタンよ。紫の好きなミートグラタン」
「嬉しい。夏場は暑くて食べられないよねぇ」
「どうせクーラーつけるから涼しいんだけど、なかなかね」
「卵入り?」
「ちゃあんと卵も入れたわよ。半熟にしたいなら加減見なさいね」
「はぁい」
返事を返しながら自分の部屋に行く。
部屋に入ると緊張の糸が切れたのか、どっと疲れが来た。それと動悸。あの瞬間がフラッシュバックする。
在った。在った。本当に在った。
ベッドに身を投げ、深呼吸を繰り返す。
落ち着け、落ち着け、大丈夫。
頭の中が整理できていない。夢と現実の区別が曖昧になっている。
何かで落ち着かなければ。心臓がずっとバクバクと暴れている。
そうだ、漫画を読もう。漫画。そうしよう。
私はお気に入りの漫画を手に取り、お気に入りの話を読む。黙々と。本を読み、その世界に入ることだけを考える。
「………………」
どれくらいの時間本を読んでいたのか。気付けば数冊の本の山が出来ており、お母さんの声が聞こえて没頭していたことに気づいた。
「ご飯よー何してるのー」
「はぁい!」
落ち着いた、効果覿面。
急いで部屋着に着替えてリビングへ行くと、お父さんもいつの間にか帰ってきていた。
家族揃って、いただきます。お父さんの会社の面白い話を聞いたり、私の学校の話をしたり、テレビの内容の話をしたり。久しぶりのグラタンはとても美味しく、家族の話にも参加でき、もう大丈夫だと確信できた。
私は、エレベーターの話はしなかった。
片付けの手伝いをして、また部屋に戻る。
「………確認、しよう」
鞄からルールを書いたメモを取り出し、机に広げてスマホを開く。実鈴と花南から連絡が届いていた。
花南からは
「とてもびっくりした。本当にあるなんて!明日また学校で話し合おうね」
実鈴からは
「びっくりしたね!本当にあったんだ!私、後でもっかい見てくる」
と。
実鈴には
「そうだね、また話し合お」
と直ぐに返したが。さて、花南はどうしたものか。まさかまた見に行くとは思わなかった。大丈夫だろうか。
花南と別れてから2時間ほど経った。もう、見に行ったのか電話しようかしまいか。
「………」
少し悩んで、考えるのをやめた。返事は
「そうなんだ!じゃあまた明日話そう」
と。
花南はいつも突拍子もないことをするから、暫く放置しておく方が良いと学んでいる。付き合い長いから。
今は自分ひとりで考えて、ひとつずつ確認していこう。
スマホの画像フォルダを開き、さっき撮った写真を見る。
ちゃんと映っている。あの入り口が。
実鈴と花南も見てるから、チケット所持者以外にもあの扉は見えるんだ。
それに、店の裏口のようだったから、店員があれに気づかないわけがない。つまり所持者が50メートル以内に近付いたときに出現するっていうのも合ってるんだと思う。
後のことは確認できてない。というか、確認できない。
たぶん、私が乗ったら起動する。中に入ってないからスイッチがあるとかは見れなかった。
今日わかったことをメモに追加しておく。エレベーターについて書けることはもう無い。
メモを鞄に戻し、スマホの画面をじっと見る。エレベーターの中は少し光沢のある濃紺色であることだけしかわからない。
ため息。
エレベーターは在った。じゃあ、世界崩壊も在るのか。
こんなおかしなことを私ひとりで考えられるわけがない。こんなことをひとりで抱えられるほど私は大人じゃ無いし強くない。
でも、お父さんお母さんには話さなかった。信じて貰えないと思ったから。
それと。
肉親は連れてはいけないと書かれていたから。
話してはいけないとなんとなく思ったから。
頭の中がぐるぐるして、あまりにも追いつかなくてまとまらなくて、少しだけ泣いた。
泣いて落ち着いてから、考えるのは一旦やめてお風呂に入って直ぐに眠った。
できるだけエレベーターの事は考えないように、漫画やアニメのことだけ、こういうときに没頭できる趣味があってよかったなんて馬鹿なことを考えて。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる