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未練禍々しいのは嫌いなんです♪

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「桜花ー! 彩珠ー! ディアンー!」
「おい、ちゃんと襖の前で待ってろって言ったろっ、ちょっ…わ、悪ぃ黄瀬川! 止めたんだが…」
「ふふっ、本当に元気だね。智ちゃん! 御伽流紋長は今県道のお稽古中で、ディアン君はお茶いれてるの。少し待ってね」
 部活終わり、三人がいつも使っている、部長副部長室前の襖をスパンと開ける。そんな月島つきしまを、なみは叱った。
 そんな二人をほのぼのしそうに見ているのは、真波の恋人であり、月島の幼馴染み兼親友、黄瀬きせかわは、優しく微笑んだ。ふわふわとした髪が、半年前より伸び、軽く縛っているところを見ると、部活が終わってすぐのようだ。
「わぁ! 彩珠可愛いっ!」
「そ、そうかな? ありがとう、智ちゃん」
 桃色の生地に白い花が散りばめられた文様は、黄がかった彼女の髪によく会い、とてもいとおしさを感じさせるものだった。
「でも智ちゃん。何で流紋長や、ディアンくんに? 今日、なんか約束あったっけ。いつもなら校門集合なのに…」
「今日は、作戦会議だからだよ? この部の乗っ取りを未遂にさせるための、ね?」
 厠お借りしまーす! と言い、月島は襖の向こうに消えた。

「で? 盗み聞きなんて、随分とつまらないことをするね。たしか…ディアンに気がある子だっけ?」
「ふぅん、気付いてたの? 凄いわね」
 出て来たのは、先日ディアンに絡んでいた、ピンク髪の女だった。
「残念だね、ディアンは桜花に気があって」
「はっ、そんな事? 私は、西園寺くんに特別好意を抱いてるわけじゃないの。ただ、和道流紋はイケメン多いじゃない? 私は、美しい私に似合う、イケメンを侍らせたいだけ」
 自身げにいう女に、月島口を引くつかせた。
 ───お前の顔で、ディアンが侍るかよ
 と、思いながら。
「へぇ、随分強気だね」
「当たり前でしょ? 私は生まれつき、色んなものに恵まれてるの。お金、地位、親、学力から体力まで、全部私は恵まれてきたの! 顔もそうよ! なのにっ…ここの奴らは、御伽、御伽! おかしいじゃない! 私がいるのよ!?」
 ───うん、彼等は間違ってないよ
 月島はその言葉を飲み込んだ。そして、女を再度見る。
 顔立ちはまあまあ、と言うべきだろう。月島とおなじくらいか、それいかくらいだ。
 すると、女は月島を見てこういった。
「アンタ、嫌われクラッシュしたんでしょ? 川井の奴もマヌケよね。来てスグやるなんて、ほんとバカ。でも私はそんなことしない。
 ─ねぇ、私と組みましょ? 私ならあなたのその目、有意義に使ってあげる」
「はい?」
 月島は、自身のポケットに入れた手が強く握られていることに気づいた。
「貴方の周り、幼なじみは自身の所属する委員会の会長と恋人。友人は部活の人気者…一人ぼっちじゃない」
 その言葉に、月島は目を開いた。
「でも私と一緒に来たら、貴方にもイケメンを分けてあげる。男なんて、ひょいひょい寄ってくるわ。
 ねぇ、月島さん、私得みましょ? いいえ、組みなさい?」
 先ほどの、目を開いた事で手応えあり、と感じたようだ。
 最後は命令形で言葉を紡ぐ。
 女は月島を見ると、月島は顔を俯かせている。──よし、いける──女がそう感じた瞬間─
「ふふっ、あはは……あはははははははっ! ひぃ、お腹いたぁい! 笑っちゃう!」
 月島は涙を浮かべ、狂ったように笑った。
「な、なんで…」
「あははははっ! あなた、川井さんのことバカって言ってたけどさぁ……
 貴方こそバァカァ? なぁんで私がわざわざ、友達の部、乗っ取りを手伝わなきゃいけないわけぇ? あ~! おっかしー☆」
 月島はひとしきり笑うと、クスッ、と笑い女を見た。
「ほんと馬鹿だねぇ…? あのねぇ、私は別に、周りがどう変わろうが知ったことじゃないんだよ?」
 月島は言葉を紡ぐ。
「別に、誰がどう変わろうが知ったことじゃない。彩珠が真波と付き合って、私になんの影響があるのぉ? 別に、私は真波に恋心を抱いていたわけじゃないし、桜花が万人から好かれても、私の知ったことじゃない。私は愛に飢えてるわけじゃない。友達を欲してるわけじゃない・・・・・・・・・・・・・
 そう言うと月島は静かに踵を返した。
 そして、口を、ニタァ、と不気味に挙げ、
「もし、桜花や彩珠、真波たちに何かしてがしてみな? 君、ただじゃおかないよ?」
 女が息を呑む音が聞こえた。
 月島は、上機嫌でその場をさった。

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