銀の旋律

福澤賢二郎

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《僕》
弾き終わると拍手が湧き起こっていた。
始めは数人の拍手だったのが、会場全体に広がった。
あんなにミスしたのに、皆は僕をたたえてくれている。
(翔平の音楽が皆に伝わったんだ)
「葵、僕は予選が突破出来なくても出場して良かったよ」
葵も涙ぐんでいるようだ。
もう一度、礼をしてステージを後にした。

控え室の前で鈴野京太と永野七菜が待っていた。
僕を睨み、通り過ぎる。
僕の横を浮かぶ葵を見た。
「鈴野くんも永野さんも僕を睨んでいた。何か悪い事したかな」
(そうだね。インパクトを与えたかもしれない)
「インパクト?」
(そう。前半がぐだぐだったのに、後半から一気に変わった。それも人の気持ちを揺さぶる音楽。嫉妬に近い感情かな)
「そうか」
僕は座り、かすかに聞こえて来るピアノを聞いた。

《レオンハルト》
佐野川翔平の演奏を聞いた後では全てが退屈に感じた。
残りは鈴野京太、永野七菜の二人だ。
隣の田仲修司が話しかけてきた。
「レオンハルト、退屈か?」
「そだね。面白くない。ただ、上手なだけ」
「実は俺もなんだ」
「田仲さんは佐野川翔平をどのように採点した?僕はもう一度聞きたい」
「秘密だ」
鈴野京太の演奏が始まった。
会場の張りつめた空気に変わり、静寂になる。その途端、音楽が噴き出してくる。
凄い熱量。
ラインハルトは思わずニヤついてしまった。
「さすが、京太だよ」
激しい中に丁寧さがある。

永野も会場を自分の支配下に起き、申し分ない演奏をした。
この二人は問答無用で予選を突破するだろう。
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