白い獣

福澤賢二郎

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VS 生田3

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《僕》
第十ラウンド目のゴングが鳴る。
(さあ、そろそろ仕上げと行こうか)
「何を言っているんだ。ポイントは圧倒的に負けているし、勝目ないだろ」
(そうかな)
生田が目の色を替えて襲いかかってくる。
「何故、立ち上がる。てめぇを殺す」
「出来るもんか」
『人間ゴトキが生意気なんだ』
生田の声が変わった。
(悪魔が出てきた。もう少しだ)
僕は生田のパンチをガードしながらアシュリンの声を聞いた。
『死ね死ね死ね死ね』
生田のパンチが重くなり打たれる度に体が軋む。
『人間ごときが悪魔の俺様に逆らうなんてありえん』
腕が折れそうなぐらいに衝撃がある。
「悪魔なんかに負けるもんか」
生田の顔が悪魔の形相になりつつある。
怒り怨みで睨んでいる。
僕は一歩踏み込み、生田の左脇に渾身の一撃を加える。
手応えあり。
生田の顔を見る。
ニヤリと笑った。
『馬鹿な奴だー』
生田が振り下ろした拳が思いっきり顎に入った。
もうダメだ。
フラフラとふらつく。
体を支えられない。
(まだだ。倒れる事は許さん。踏ん張るんだ)
「なんで」
右足でふんばり立つ。
『オラオラオラオラオラオラ』
直ぐに生田のラッシュが始まる。
クソ、やりたい放題やりやがって!
情けない。何も出来ない。
このまま、倒れるのか。
残り一分。

(良くやった。生田は良い感じで悪魔が出てきている。後は私が倒そう。意識を寄越せ)
「わかった。頼むよ」
アシュリンが僕の体を支配した。

僕が速い鋭いジャブを放つ。
いや、アシュリンだ。
生田の鼻にヒットした。
驚いた生田は一旦、距離をとる。
奴を睨む。
「私がお前を倒す」
『貴様、誰だ?』
「白魔術師アシュリンだ」
『な~んだ、白か。余裕だな』

僕の体を支配したアシュリンが軽くステップを踏み始めた。
生田が殴りかかってくる。
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