OKUDAIRA

福澤賢二郎

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美濃

16.稲葉良通 (一鉄)

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《俺》
翌朝、騒がしくて目が覚めた。
華が起こしに来た。
「将直、外に来て」
俺は隣に眠る彦左衛門を起こして外に出た。

屋敷の門辺りに竹中重治をはじめ、多くの人が武装して集まってきていた。
重治が俺に気づいて笑顔で軽く手を上げた。
「よっ、将直くん、お早う」
「えっ、お早うございます。どうしました?」
そんの雰囲気では無いはず。
「いやー、稲葉良通がさ、突然、攻めてきて屋敷を取り囲んでいるんだよね」
いや、違うだろ。もう、予測していたから武装して準備が出来ていたんだろ。
華が俺の隣に来る。もう、弓を持って準備が出来てる。
俺と彦左衛門だけが朝起きた分という間抜けな格好だ。
「将直、彦左衛門、なんて格好してるの?」
「いや、いや、何も知らないし」と不満の彦左衛門。
「昨日の流れからこうなる事は予測出来ていたでしょ」
「酒飲んでただけだろ」と今度は俺。
「竹中さんは襲撃されている時に私達が都合良く現れたから、疑っていたの。だから、酒の飲み方や言動を見て探っていたの」
「そう、竹中さんが言ったのか?」
「言わなくてもわかるよ、普通」
「いや、いや、わからんだろ」
「そうだ。将直の言う通り」
「二人ともそうなると思って、あそこに服と武器は用意しといてもらった」
俺は指差す方を見た。
華は天才なのか。
「行くぞ、彦左衛門!」
俺は急ぎで着替えて、大長巻きを担いだ。

竹中重治が手を上げた。
「開門」
門の向こうには無数の騎馬兵がいた。
正面の先頭にいる騎馬に乗った男が甲を取る。
チョビヒゲ面で厳つい顔をしている。
ニヤリと笑った。
「おい、竹中重治よ、よくも俺の部下を殺したな」
普通はびびるけど、治重は一人で前にでた。
コイツも笑っている。
いかれてる。
「稲葉良通ともあろうお方が安藤にいい良いにやられるとはね」
「そうだ。俺の部下は安藤にそそのさかされて、お前を襲った」
「私だけでは、ないだろう。おそらくは殿も殺されたのであろう」
「全てを知っているのだな」
「そうだ。外道な奴ら」
「もう戻れん。龍興様を支えてゆかねばならん」
「西美濃三人衆で?」
「そのやるつもりだ」
「じゃあ、早く戦へ行け。間に合わなくなるぞ」
「その前に部下の落とし前をつけとかないとな」
「織田信長との戦は始まっている。お互い多くの犠牲は出せない。という事は」
「一騎討でケリをつけよう」
「稲葉殿にしては察しが良い」
「生意気な奴だ」
稲葉良通は甲を部下に渡して馬から跳び降りた。
竹中重治に向かって歩きながら、刀を抜く。
重治は隣にいる老人に手を差し出すと木刀を渡された。
「稲葉は貴重な戦力ですから」
「爺や、わかっているよ」
重治は木刀をクルクルと回しながら、歩く。
稲葉良通が刀を振り降ろす。それを木刀で受ける竹中重治。
良通の攻撃は凄まじく、それを受ける度に重治はふらついている。
「ヤバい、重治殿が殺られてしまう」
華は余裕で微笑んでいた。
「将直、竹中様は大丈夫」
彦左衛門が前に身を乗り出す。
「どうしてさ、どう見ても竹中殿が押されているだろ」
華はニコニコしてる。
稲葉が吠える。
「重治よ。お前は軽い、軽すぎるぞ!」
「う、うるさい」
肩を上下に揺らし、息があがっている。
「もう終わり」
稲葉が大きく振り上げた。
次の瞬間、稲葉良通がぶっ飛んでいた。
予備動作が無かった。あれはかわせない。
でも、どうやったんだ。
重治は素早く距離を詰めて、木刀を良通の喉元に当てていた。
「油断大敵ですね」
「う、うるせぇ」
竹中重治は木刀を捨てて振り向く。
稲葉良通は土を払い、立ち上がった。
「行くぞ、森部へ」
「ご武運を」
「ふん、早く来なければ終わってしまうぞ」
「良い意味でそうなれば」
二人の一騎討ちの決着と共に稲葉軍は去った。
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