SENGOKU-2

福澤賢二郎

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拾弐 正体

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《荒木七海》
七海は武田軍の処置を村重と菅沼義郎に任せて白狐軍を追いかけた。
どうしても、白狐軍を率いる武将の名前が知りたかった。
そして、森に入ると直ぐに白狐軍が待機していた。
七海は馬から降りて脇道の藪に身を隠しながら前に進んだ。

白狐軍から少し離れた所で二人の武将が話をしているのを見つけた。
一人は酒井忠次、もう一人の顔が見えない。
でも、知ってる感じがする。
酒井忠次が白狐軍の男に命じた。

「私の名前を騙ったらしいな。仮面を外せ」

「お前、直次か?」

「父上、申し訳ありません」

「何故、正体を隠したり、ロクデナシのフリをするのだ?」

「家次派から身を守る為です。私がロクデナシであれば目もくれず危険視されないからです。それに、家次にはつまらん家督争いなんかさせたくない。だから、私が身を引くのです」

「わかった。これからも直次としてはロクデナシを演じ、白狐軍では忠次を演じよ」

「ありがとうございます」

「行け!」

七海は泣いていた。
直次はロクデナシでは無かった。
誰よりも優しい。
嬉しかった。

そして、直次の嘘に付き合おうと決めた。

《酒井直次》
石巻山の麓にある屋敷に着くと奥山佐吉が待っていた。

「みんな、ご苦労様!料理を用意してるから」

「佐吉、ありがとう」

「直兄、こちらこそありがとう。オイラも義賊になって戦えている」

「立派な義賊だ」

俺は直ぐに着替えて屋敷を出ようとした。
玄関で飛燕が待っていた。

「飛燕、お疲れ。みんなと料理を食べて来い」

「直次様も一緒に」

「ごめん。七海が戻ってくる前に城に戻らないといけないからな」

「そうですよね」

「明日、また、来る」

「はい、待っています」

俺は二連木城へ駆けた。
七海の為に料理を用意しなくてはいけない。
鶏の胡椒焼きは決まりだな。
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