SENGOKU-2

福澤賢二郎

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弐拾肆 宇津山城

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《酒井直次》
宇津山城より益田団右衛門が兵を率いて討って出てきた。これは少し予想外ではあった。
宇津山城は山城だ。であれば地形を生かした防御線を張り、撃退すると思っていた。
仮面を付けて戦闘態勢をとる。敵は弓矢隊を前衛にゆっくりと進んでくる。
俺は白狐軍の先頭に立ち、ゆっくりと駆けはじめた。

「横一列に展開せよ」

俺を中心に横に広がる。
「種子島 準備」

白狐軍の全員が馬上で筒に玉を込めて発射準備をする。

「構え!」

一呼吸を入れる。

「撃て」

銃声が鳴り響くと同時に敵兵の前衛がバタバタと倒れていく。
白狐軍の前進は止まらない。直ぐ様、次を準備する。
その間に自軍から矢が放たれて俺達を飛び越えて敵へ降り注いだ。
白狐軍は再び種子島を構える。

「撃て」

白狐軍の種子島が放たれて敵が倒れていく。

「鏃」

号令と共に白狐軍は縦二列に隊列を変えて、駆ける速度を上げた。敵に激突する前に種子島をしまい、槍に持ち変えた。
屈むように身を低くして、馬を駆けさせる。
敵の前衛は種子島と矢の攻撃でかなりの数が減り、恐怖で統制がとれていない。
その時、大きな声が敵陣に轟く。

「ここが正念場ぞ。全軍。敵の突撃を跳ね返せ」

奥に旗が立つ。益田の旗だ。
俺はそのまま突っ込んだ。敵兵四千を百騎が切り裂いていく。
誰も俺達を止められない。益田軍の本陣に向けて突き進んだ。

「百騎を飲み込め!」

敵も俺達を止めるのに必死だ。
先頭で大槍を振るう。一振りで五、六人の上半身が舞い、道が出来る。
また、そこに俺達を止めようとする兵が入り込んでくるが、直ぐに真っ赤かな道が出来た。
そのうちに敵兵は逃げはじめて自然と道が出来ていき、益田団右衛門まで道が通じた。
益田も覚悟を決めたのか馬に乗り、槍を振り回して駆けてくる。

「憎き、酒井忠次。お前だけは生かしておけん」

奴は父親の酒井忠次と俺を勘違いしているようだ。愛馬春兎を駆けて益田団右衛門に向かう。
脇に槍を抱えて、すれ違い様に突きを放つ。
益田団右衛門の甲冑を貫き、胴体を貫き、槍を両手で掴んでいる。
そのまま、俺は槍に益田団右衛門を付けたまま、戦場を駆けた。
益田団右衛門は苦痛の形相で槍を抜こうとするが抜けない。
俺は益田団右衛門を貫通している槍を上に掲げる。
これ以上、奥に入らない様に必死に槍を掴み、足をばたつかせる益田団右衛門。
人を串刺しにした槍を片手で持ちあげた。
人の成せる技では無いと逃げて行く。
残虐。
敵軍は戦意を喪失していく。
後詰めの松野と内藤が率いる六千が崩れに崩れた益田団右衛門の軍に雪崩れ込んだ。
圧倒的な勝利。

俺はそのままの勢いで宇津山城を駆け上がった。
途中にいた伏兵達も槍にぶら下がる益田団右衛門を見て驚愕してしまい、攻撃を忘れている。
宇津山城に着いた頃には益田団右衛門は動かなくなっていた。

「役目、ご苦労」

俺は槍を横に振り、益田団右衛門を道の脇に放った。
城門を突き破り、中に入る。
そこには誰もいない。
逃げただと。

小原鎮実は益田団右衛門に攻めさせている間に城を脱出して逃げたのだ。
その時、爆音と共に館の一部がぶっ飛び、火が上がる。

後で知ったのだが、小原は浜名湖へ逃げたらしい。
次はそうはいかない。

《土屋昌続》
馬の手綱を握る手が震えていた。
それは小山田信茂も同じだ。

「信じられない戦だ。先頭の騎馬隊は何なんだ。強すぎるだろ」

「昌続、それだけじゃないぞ。種子島も扱う騎馬隊だ。それにあの動きはよく調練されている」

「あれなら山県様が破れたのも頷ける」

「でも、あんな軍ばかりでは無いはず。差があればそこが弱点にも成りえる」

「今日の戦でも、あの騎馬軍を数に任せて飲み込む事が出来れば、勝敗は逆だったはず」

「なあ、俺さ、さっきの騎馬軍を率いていた奴に挨拶してくるわ」

「やめろ。危険過ぎるだろうが」

信茂が言い終わらないうちに昌続は愛馬の浜風を駆けさせていた。
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